【レポート】Web担当者Forumミーティング 2011 Spring

Web担当者からWeb「マスター」へ ~Web業界の仙人が語る~

キヤノンMJ増井氏の基調講演「Web担当者からWeb『マスター』へ ~Web業界の仙人が語る~」レポート
【レポート】Web担当者Forumミーティング 2011 Spring

この記事では、2011年5月31日に開催されたセミナーイベント「Web担当者Forumミーティング 2011 Spring」の講演をレポートする。他のレポートをご覧になりたい方はこちら

オープニング基調講演レポート
Web担当者からWeb「マスター」へ ~Web業界の仙人が語る~

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「Web担当者Forumミーティング 2011 Spring」の最初のセッションとなる基調講演は、Web黎明期から企業Webサイトの構築に深く携わり、業界の仙人と呼ばれるキヤノンマーケティングジャパン株式会社 コミュニケーション本部 ウェブマネジメントセンター センター所長の増井達巳氏が登壇し、満員の観衆からの期待と注目を集めた。

Webマスターは消費者と企業Webの橋渡しをする調整役

増井 達巳氏
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
コミュニケーション本部 ウェブマネジメントセンター
センター所長
増井 達巳氏

増井氏は冒頭、Webの発達により生活者に情報発信(収集)能力が生まれたことで、以前のように企業がマスメディア(ペイドメディア)を使って一方的に発信した情報だけではなく、自社メディア(オウンドメディア)とソーシャルメディア(アーンドメディア)をあわせた3つのメディアを、生活者が自由に組み合わせてサイクリックに回遊している点を指摘した。なかでも企業が直接正しい情報を提供できる自社サイトの重要性を強調した。

さらに増井氏は、「企業にとってWebメディアには更新の容易さ、他メディアと比較しての開発・運営コストの低さというメリットはあるものの、その裏返しとしてガバナンス(組織の戦略・目的)が見えにくい。誰が更新(管理)しているのかわからず、掲載内容のチェックが不十分、ひどい場合は更新されていないなど、消費者との間のギャップが生じる」と指摘し、「それを解消し、案内・誘導する調整役ともいえるのがWebマスターの仕事」と定義した。

Webマネジメント組織を機能させる7つの要素

続いて増井氏は、Web戦略のポイントについて「WebというとデザインやUIなど目に見える部分の話になりがちだが、そのようなサイト利用者が閲覧・利用する部分は氷山の一角であり、その下に隠れているコンテンツやITのガバナンス、社内ネゴシエーションといった海面下の整備も重要」と語った。その上で、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)において、機器やネットワークなどのIT管理、デザインなどのコンテンツ管理、社内外へ向けてのeビジネスのコンサルティングを柱として2001年1月に設立したWebガバナンスの専任組織「WMC(Web Management Center)」の概念図を示した。

WMCには、Webの利用者ごとに最適な価値提供を行うための要素が組み込まれている。さらに、増井氏はWMCを組織的に機能させるための要素として、WMS(Web Management System)という菱形に並んだ7つ(ミッション、組織、役割/責任、プロセス、メジャーメント、ポリシー、コンテンツモデル)を抽出し、それぞれの調和が取れ、バランスよくマネジメントされていることがWeb戦略成功の鍵を握っているとした。

WMS(Web Management System)7つの要素と関連性
WMS(Web Management System)7つの要素と関連性

WMS構築にあたっては、Webサイトのミッションと、それを実現する組織を明確化し、経営陣の承認を得ることを最初のステップとした。続いて、各種ポリシーの設定、運用プロセスの再構築、コンテンツモデルの設定、メジャメントポリシーの設定とオペレーションといった手順でWMSは構築されていったという。

また、Webの乱立による顧客の混乱や非効率な投資といった過去の反省から、集中的な管理体制の重要性を感じたという増井氏は、まず統制機能の確立と処理の集中化を行ったという。ただし、必ずしも最初から大きな専任組織を作る必要はなく、まずは草の根運動的に始め、徐々に成長していくことを踏まえた中期・長期的計画を立てておくのがよいと指摘。「どうすればガバナンスがスムーズかつ確実で継続的に行われるのか考えて組織をデザインすることが重要」との意見を示した。

Webガバナンスを実現するキヤノン流「Web」マスター

増井氏の話すWebマスターの業務分野では、単なる調整役ではなく統括役の知見とプランが求められる。1つのコンテンツを見るだけでなく、すべての業務を把握してバランスを取り、どのアクションをどのタイミングで実施するのか起案・コンサルティングする能力が必要となる点が、Web担当者とは大きく異なる。

さらに、企業、制作スタッフ、ユーザーの三者間のハブ的な役割をして束ねていくことも求められており、サイトの規模が大きくなっていくとWebマスターの下にそれぞれ、プロデューサーやプロジェクトマネージャー(対企業)、Webディレクターやコンテンツプランナー(対制作スタッフ)、ユーザーマスターやサポートセンター(対ユーザー)が必要となることを指摘した。

だが、これらすべてを統括するWebマスターを1人の人間で兼ねることは困難であるため、キヤノンMJではWebコミュニケーションマスター、Webコンテンツマスター、Webシステムマスターの3つのマスターを任命し、組織としてWebマスターを機能させているという。また、増井氏は会社組織として機能させるために、「人事と交渉し、3つのWebマスターを人事上の職種名としてつけてもらいました」と話した。たとえば、Webシステムマスターは人事上ではSE職として扱われており、このような組織構造を設けることで、専門分野でのプロ意識、キャリアパスの構築、人材スキルセットの明確化が可能になるという。

業務プロセスのルーティン化とインフラ作り

次に増井氏は、業務プロセスにおけるルーティン化の重要性について大リーグのイチローを例に挙げて説明した。「イチローが成功したポイントとしてルーティンを大事に守っていることは有名だ。日々の行動を徹底してルーティン化することにより、調子の悪いところ、直さなければいけない課題が見えてくるからです」

加えてルーティン化には作業効率を上げたり、ミスの発生率を抑えたりする効果もあるという。キヤノンMJでは、業務プロセスのルーティン化を行うための施策の1つとしてCMSの導入が行われた。ただし、増井氏は「CMSを入れたからといってワークフローが固まるわけではないので導入前にしっかり構築する必要がある。魔法のように業務のプロセスを改善するわけではない」と釘を刺した。

さらに「掲載申請のプロセス明確化」「コンテンツ制作パターンの明確化」「PMBOK/RACIチャートを活用した役割責任の明確化」「掲載申請プロセスのシステム化」など、作業のパターンごとにワークフローすべてを洗い出してパターンを作成し、インフラの作成を行った。

ガイドラインやルールは担当者が1人でも必須

業務プロセスができたら次はルール作りだ。ガイドラインやルールといったものには現場からの抵抗も多いが、必要不可欠だと増井氏は強調する。「ガイドラインは、たとえスタッフが1人だけだったとしても絶対に必要。なぜなら退職あるいは転職する場合に企業の基幹を正しく引き継ぎすることが重要だからです。また、制作会社に頼むとしても、ガイドラインがなければサイトを作ることは難しい。公共のルールがないとコミュニケーションを取るのが難しく、そこに時間を費やしてしまう」

こうしたルールについて増井氏は、サイト制作の前提条件、レイアウトや文書構造で絶対に守るべき要素、遵守すべきガイドラインの3段階で考えていったという。

  1. ポリシー(規範)
    スタンダードの前提であり、ブランドポリシーや広報ポリシーなどサイト制作の前提条件
  2. スタンダード(標準)
    ページレイアウトや文書構造など絶対守る必要がある
  3. ガイドライン
    トーン&マナーなど厳守ほどではないが遵守すべき事項

これらはPDFやHTMLでドキュメント化され、制作パートナーを含むそれぞれの部門で共有されコンセンサスを取るコミュニケーションツールとして使われており、誰が作っても一定の品質を確保できる体制を整えている。また、チーム間でのコミュニケーションロスによるムダの発生を防ぎ、キーパーソンが抜けても比較的スムーズに穴埋めできるため、社内にノウハウを残すことができるなど、様々なメリットがあるという。

サイト評価は予算管理とともに行う

メジャーメント(解析作業)に関しては社外ではなく自社でアナリストを育成し、PV数やユーザー分布などの全体分析はもちろん、訪問者がどのページでどのようなアクションをしているかといったユーザーの行動分析も行っている。これらの分析結果はWebの様々な問題を改善するために活用されている。

また、予算の管理も重要だという。「Webにいくら使っているのか」と経理に聞かれることを想定して全体を把握し、そこにどんな価値があるのかを説明するため、サイトの広告換算費を計算して理解してもらうようにしているのだ。「WMCを設立したころは、Webの予算が広告宣伝費や営業販促費などにばらけてわからない状況だったため、Webに関する5つの関連費目を経理に新設してもらいました」と増井氏は話した。

初期は「広告宣伝費」や「営業販促費」から捻出していたWebの予算も、今では「Web制作/管理費」として5つのWeb関連費目を新設し、Web全体の予算を管理しているという。Webの予算を獲得するためには、まずWeb全体でどれだけの予算が使われているのかを把握することが肝心だ。その上で、投資した予算に対する費用対効果を算出していくことになる。

Web関連費目を新設し、広告宣伝費、営業販促費から独立
  1. インフラ構築費
  2. ホームページ制作費
  3. コンテンツ制作費
  4. Web販促費
  5. Web運用管理費

増井氏は、この他にもグローバルナビゲーションの統一や複数あったドメインの完全統合、品質基準の明確化や、Web標準化(XMLの対応を進める)、JISの適用などについても簡単な説明を行ったあと、「Webマネジメントシステムの7つの要素を覚え、自身の会社でオリジナルのWMSを作成し実践してください。そうすることで、Web担当者からWebマスターへなれると思います」と語り、Web業界の仙人による濃密な基調講演は終了した。

オープニング基調講演レポートWeb担当者からWeb「マスター」へ ~Web業界の仙人が語る~

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