デジマの「やる意味ある?」をデータで証明するWACULの研究レポートで上司を説得する5つの方法
デジタルマーケティングで障壁になりやすい「社内調整」。異なる立場、知識ギャップを埋めて合意を取るにはどうすべきか。「Web担当者Forum ミーティング 2024 春」に登壇したWACUL(ワカル)の垣内勇威氏。デジタルマーケティング界隈で言われている一般論や課題を膨大な研究結果から新たな定石を発見し、その研究結果を無償でレポートしている。その数40本以上。その人気レポートからWeb担当者、マーケターの課題と解決法を解説した。
貴重な研究レポートをなぜ無償公開? 「説明の手間が省けるから」
WACUL(ワカル)は2010年8月に設立。デジタルマーケティングに関するコンサルティング業務を長らく手がけており、その成果・ノウハウをマーケティングDXツール化したサービスが、現在の主力事業の1つ「AIアナリスト」だ。2015年にベータ版をリリースし、以後は段階的に機能を拡充。これまで39,000サイトに導入された実績を誇る。
垣内氏によれば、WACULの強みはデータの収集力、分析力。コンサルティング業務を通じて大量のデータを蓄積し、そこからさまざまなノウハウやセオリーを見出す。そうして発見した手法はAIアナリストに反映させ、さらなる顧客満足へとつなげている。
コンサルティング、AIアナリスト、大量データの3要素を1つのサイクルとして捉え、好循環させるために欠かせないのが、WACUL社内に設立された研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」だ。実務家や大学教授らと各種の共同研究を展開しており、その成果は研究レポートとして広く公開されている。一部はWebサイトで直接読めるほか、PDFとしてもダウンロードできる。
これらのレポートの作成には相応の時間と労力がかかっている。1記事の執筆に1か月かかることはザラで、当然コストも発生する。それをなぜ、ほぼ無償に近い形で提供しているのか。研究所を統括する所長という立場でもある垣内氏は、理由をこう説明する。
コンサルタントとしてお客様に説明をする際、経験論的に『これが正しい』『ほぼ間違いない』と思える要素は多くあります。ですが、それをお客様に説明して、理解してもらうのが大変なのです。ならば、確かな原則をあらかじめ世に出して知らしめておけば、説明の手間を省けるのではないかと考えました(垣内氏)
研究所のWebサイトで公開しているレポートの大半は、垣内氏が現場対応する中で感じた課題が「本当に正しいのか、それとも間違っているのか」を証明するという構図になっている。それだけ実践的・実地的な内容ではあるが、これまでの慣行を100%否定するかのような結論も少なくない。垣内氏も「結論だけみると業界にケンカを売っていると思われかねない」と、その過激さに頭をかくほどだ。
ただ、そうした苦労の甲斐もあって内容は大変充実しており、マーケターが社内調整を試みるうえで直接的に役立つものが多いという。気になるものがあれば積極的に使ってほしいと垣内氏は呼びかける。
ランキング上位の人気レポートからわかったWeb担当者&マーケターの困りごと
研究所のWebサイトでは、この5年で40本超のレポートを公開している。その中からランキング上位の記事を具体的にご紹介しよう。
人気レポート①
成果を出す人がGoogle アナリティクスで使う機能は10個だけ
レポート人気ランキング歴代1位を記録したのが『成果を出す人がGoogle アナリティクスで使う機能は10個だけ。アクセス解析の実態調査』である。定番のアクセス解析ツールであるGoogle アナリティクス(以下、GA)の使いこなしに悩むマーケター向けのレポートだ。
GAは多機能で知られ、その全機能を使い切れないという声は業界でもよく聞く。だが垣内氏にしてみれば、全機能を使いこなす必要など、そもそもない。なぜ「使い切れない」などという不満が出るのか? そんな実態をアンケート結果から解明した。
調査から浮かび上がってきたのは、GAをビジネス貢献に活用できている人ほど、利用機能が限定的であることだった。
経験豊富なマーケターがCVR(コンバージョン率)改善に使っているのは、集客(流入元)と閲覧ページ、その中間にある“CVの関所”のデータくらいです。逆にGAの経験が浅い人は、細かな経路やリアルタイム客まで見ていました。このレポートの結果を見れば、『なんだ、私はもうGAを使えてる』と思って頂けるはずです(垣内氏)
人気レポート②
「メール送りすぎ?」 という遠慮は不要
歴代ランキング2位は、『「メール送りすぎ?」 という遠慮は不要。メールマーケティングの実態調査』。マーケティングメールの送信数・頻度に関する研究レポートだ。
垣内氏は「メルマガは毎週送って当然。なんなら毎日でもいい。送れば送っただけ成果が出る」と断言する。コンサルタントの立場として、これは絶対の真実だという。
しかしコンサルティングを受ける顧客側からは「たくさんメールを送ると顧客からクレームがくる。工数もかかるからムリ」との声が多数を占める。こうした意見を説き伏せるために書かれたのがこのレポートだ。
レポートの主旨は「送り手がメールの中身にこだわっても、受け手はそれほど見ていない。見ていないのだから頻度を上げていい」と明快だ。数あるメールの中で、たまたま受け手が興味と合致したら開く。それが実態なのだから、メールの山に埋もれないよう、送信数を増やすべきと結論付ける。
調査からは、配信頻度を上げれば解除数は増えるが、解除率は上がらないことが判明した。また「送信頻度が上がると鬱陶しいと思われ開封率やクリック率が落ちる」という心配も杞憂だという。確かにメール送信回数が週0.5回と週14回を比較すると、週14回の方が落ちる傾向はあったが、差はわずか。ならば遠慮なく送った方が効果的だというロジックだ。
ちなみに、メール本文のテキスト量の多少、画像の有無による反応率(クリック/開封)に大きな差異はなかった。ただし500文字以下のメールは反応率が高く、コンパクトな文面で速やかにクリックを促すことが効果的だという。
人気レポート③
採用サイトは「面接直前」しか読まれない
企業が人材募集の一環として、専門のWebサイト、いわゆる“採用サイト”を開設する例は多い。その効果を究明しようというレポート『採用サイトは「面接直前」しか読まれない。採用サイトのあるべき姿を徹底調査』だ。
採用サイトは、コストをかけた豪華な仕様になっていることが珍しくない。だが、それだけの投資対効果があるのかといえば、「ない」と垣内氏は断じる。これも、約300名の求職者に対してアンケートをして得た結果だ。
たとえば、就職や転職活動を始めようとする人がいたとして、ある会社を認知するきっかけは、「テレビCM」「実際にその会社のサービスを利用したことがある」「インターンシップ」「家族や知人の紹介が大多数」だった。
さらに、求人情報の発見に用いられているのは、求人情報サイトや合同説明会が圧倒的。つまり、採用サイトは求職前段階の認知拡大に効果がなく、求人情報の発見場所としても機能していないことになる。
求職者は採用サイトをいきなり見るようなことはしません。求人情報サイトを覗いて、求人中の会社を見つけ、条件がよかったらとりあえずエントリー、さらに別の会社にエントリーという作業を繰り返します。そこで面接が決まったら、採用サイトを初めて見るのです。認知拡大ではなく面接の準備にしか採用サイトが使われないことを踏まえて、サイト制作の投資判断をすべきです(垣内氏)
この研究結果を受けて、垣内氏は「採用サイトを作るより本来の情報発信をそのままやったほうがいい」と助言している。
人気レポート④
「ながら見」が7割。BtoBオンラインイベントの実態調査
コロナ禍などをきっかけに、商品情報発信のためのイベントやオンラインセミナーが、映像で配信される例は増えた。だが、その多くの視聴者は、なんらかの作業を並行させつつ、“ながら見”しているという前提のもとで、各種企画を立てるべきという論点の記事が『「ながら見」が7割。BtoBオンラインイベントの実態調査』だ。
オンラインセミナーに参加する目的の大半は「ノウハウを知るため」であって、具体的に導入する商品・サービスの検討のためというケースは少数派だ。垣内氏は「このセミナーでAIアナリストの話を1時間したら、おそらく皆寝てしまうでしょう」と苦笑しつつも、それが実態だと率直に語る。
調査によれば、68.5%はオンラインイベントを“ながら見”している。しかし、内容がおもしろければ、画面を見る人の数が4倍になる。そして満足度が高ければ、商品・サービスの導入意欲が1.51倍にまで高まることもわかった。
顧客リストさえ作れればセミナーの中身は重要ではない、という意見も見聞きしますが、調査結果からは“セミナーがつまらなかったら売れなくなる”ことがわかります(垣内氏)
人気レポート⑤
55%が第一想起した商品を導入。BtoBにおける純粋想起の実態調査
「スマホと言えば○○」「工作機械と言えば○○」というように、あるジャンルにおいて最初に思い浮かぶ商品は、買われたり利用されたりする可能性が高い。これは「第一想起」と呼ばれるが、その効果がどれほどなのかを調べたレポートが『55%が第一想起した商品を導入。BtoBにおける純粋想起の実態調査』だ。
社内で『第一想起をとるため、認知のために予算を使いたい』と提案しても、『それよりリスティング広告をうつ方がいい』という話になりがちです。そんな中でどれだけ第一想起や認知が重要かを訴えるために作ったレポートです(垣内氏)
研究では、BtoB領域であっても第一想起された商品が導入される確率は55.3%にも上ることがわかった。
生成AI時代における、人間にしかできない仕事・求められる能力
研究所のWebサイトでは、広告運用やEC関連のレポートも広く取り上げている。即効性の高いレポートを揃える一方で、Web担当者やマーケターのキャリア形成につながるような、長期的視野に立った情報発信も行っている。毎年初頭に公開している「デジタルマーケティングの論点」と題した文書がそれだ。2024年1月公開の記事では、生成AIの台頭を大きなテーマとして扱った。
生成AIは人々の仕事をフォローしてくれる。では、それでも人間でなければできない仕事は何か。垣内氏が例示するのは「データが手に入らない仕事」だ。生成AIの予測はすべてデータを出発点としているので、過去から予想できない判断は不可能だ。
異なるA社とB社がそれぞれ単独で売り上げデータをAI分析できても、両社の社外秘データを完全に統合した上で判断できるかといえば、それは企業統治上、困難だ。同様に、営業日報があっても、システムに登録されなければそれはデータではない。こうした事情を酌んで、人間が分析する状況は続くというのが垣内氏のビジョンだ。他にも、クレーム対応、人材マネジメント、社会の“空気感”を意識した施策決定など、「個人によりそう仕事」もAIでは完全な代替が難しいという。
こうした時代、マーケターに必要な能力とは何か。筆頭に挙げたのが「社内調整力」だ。
社内調整が本当に苦手という人は多くいます。でも弊社の研究レポートからもわかるように、マーケターが本来やるべき仕事はもうわかりきっていて、情報はどこにでも落ちています。それを他人に説明したり、やりきったりすることはAIでは到底できません(垣内氏)
2つ目は「広域専門性」。ある特定分野について圧倒的に詳しいというのは1つの才能だが、現状ではChatGPTに質問すれば、かなり高度な情報もすぐに得られてしまう。何かに特化するのではなく、周辺を含めた全体感について“浅く広く”知見を広げ、つなぎ合わせられることが重要だと垣内氏は説く。さらに3つ目として、経営者などが掲げる目標をしっかりと理解し、正しく他者に伝えられるだけの「ビジョン共感性」も重要という。
こうした提言も含め、研究所のWebサイトではWeb担当者やマーケターに役立つ記事の提供を続けている。最後に垣内氏は「どの研究レポートもかなり頑張って作っているので、役立つレポートがあれば、社内調整のための引用元としてぜひ活用していただきたい」と語り、セッションを締めくくった。
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