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「日系グローバル企業は、グループ内コミュニケーションを多言語化すべき!」ブランディングアドバイザーの提言

「GLOBALIZED インナーブランディング」に、IC コンサルタント・ブランディングアドバイザー 山下和行氏が登壇。海外事業におけるインナーブランディングとインターナルコミュニケーションの役割について解説した。

本記事のポイント

  • 企業目的を追求し、社員とエンゲージできれば経営目標は達成できる
  • 本社と現地拠点の情報格差をなくすことは経営課題。社内コミュニケーションを多言語化すべき
  • インターナルコミュニケーションは中長期的に戦略性を持って行うための人財投資

Wovn Technologies株式会社は、2023年10月13日に「GLOBALIZED インナーブランディング」を開催し、「急速な海外展開に対応するためのインナーブランディング ~言語の壁を越える社内コミュニケーションとは~」をテーマにセッションをお届けしました。

基調講演では、IC コンサルタント・ブランディングアドバイザー(※)である山下 和行氏を迎え、「海外展開におけるインナーブランディングと IC の役割 グローバル企業の実践事例から、そのエッセンスを学ぶ」と題して、グローバル企業におけるインナーブランディングとインターナルコミュニケーションの事例と取り組むべきことについてお話を伺いました。本レポートではその内容をご紹介します。

※IC:インターナルコミュニケーション

Wovn Technologiesの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら →https://mx.wovn.io/blog/0107

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【登壇者】
山下 和行 氏
IC コンサルタント・ブランディングアドバイザー(プロボノワーカー)

1990年、輸送機器メーカーに入社。海外事業に20年間携わり、中国と米国に通算12年駐在。海外拠点では、セールス&マーケティング、ブランディング、事業企画部門の責任者を歴任。
帰国後2013年より本社にて、グループ全体5万名対象のインナーブランディング、インターナルコミュニケーションのリーダーとして業務改革を推進。自らプロデュースしたツールやコンテンツで社外からの受賞も多数経験。海外勤務中の原体験からグローバル企業のブランディングとインターナルコミュニケーションを研究し、知見の社会還元を目的に社外での講演やセミナー講師を務めている。

インナーブランディングやインターナルコミュニケーションは、短期的に売上利益の拡大に貢献する活動ではありませんが、中長期で企業価値を上げ持続して成長するためには不可欠な活動であり、経営層の積極的な関与が必須です。現場で実務を担当されているみなさんが「当社もやりましょう!」と経営層を説得する材料として使えるように、本日の話しを進めていきます。

社員と向き合い意識変革と行動変容を促す

まずはじめに、僕がインナーブランディングとインターナルコミュニケーションに興味を持つきっかけとなった、海外駐在中の原体験を2つお話します。

僕は、グローバルに事業展開する輸送機器メーカーに勤務し、中国に通算10年ほど駐在しました。中国には、パートナーが違う3つの合弁会社があり、それぞれ製造と販売の機能を持ち事業を行なっていましたが、ある時期に販売機能だけを集約して、新たに一つの販売会社を設立するという仕事に携わりました。その後はアメリカに2年駐在し、赤字事業の立て直しを担当しました。

中国の新会社は販売拠点なので、販売台数を増やし売上を伸ばすことが最優先ですが、社内は、同じ中国内でも出身地や方言の違う社員が集まり、仕事に対する目的意識や方向感はバラバラな状態で、立ち上げ当初は一体感やお互いに助け合う気持ちが欠けていました。

そのような状態では、費用を掛けた販売施策も上手くいきません。そこで、仕事の原点に立ち返り、日本本社の企業目的やブランドなどについて、現地社員に語りかける活動を始めました。具体的には、月次や四半期毎に開催する営業会議などを利用したブランド研修と社内の対話会です。

ブランド研修では、我々はお客様にとってどのような存在でありたいか、また会社の歴史、創業者の思い、理念や哲学、ブランドの体系や提供価値などを現地社員や取引先である代理店とディーラーに向けて手作りの資料で説明していきました。また、新会社をスタートさせて暫くしてから、現地社員が中心となり社員同士のコミュニケーションを活性化させるために社内報の発行も始めました。当時、明確に意識はしていませんでしたが、初歩的なインナーブランディングとインターナルコミュニケーションに取り組んだのです。そして、その活動を通じて、次のことに気づきました。

「企業目的を追求すれば経営目標は達成できる」

中国では、元々自社ブランドのシェアが低く、販売会社が策定した挑戦的な経営計画に対して、本社内では達成が難しいという見方が大勢でした。しかし、現地社員だけでなく取引先までも巻き込んだ地道なインナーブランディングやインターナルコミュニケーションを続けながら、ブランドを軸としたマーケティング施策を積み重ねた結果、設立から4年目には、販売台数は4倍、売上は3倍に伸長しました。また、その前年の設立3年目には計画通り黒字化を達成しました。

製品ラインナップを整えながら、販路数を設立当初の3倍に拡大したことが成長の大きな要因でしたが、販路拡充に当たっては、代理店とディーラー向けのブランド研修と、専売店政策を浸透させるために月次でディーラー会議を開催するという、中国では前例の無い活動が特に大きな役割を果たしました。

その後赴任したアメリカでは、販売会社の副社長として赤字事業の立て直しがミッションでした。その拠点では、社員全員が、日々製品の不具合に起因するお客様からのクレームに加えて代理店やディーラーとのトラブル対応に忙殺されていました。また、そのことが製造工場や日本本社とのコミュニケーションにも悪影響を及ぼし、お互いに不信感を募らせている状態でした。

そこで、アメリカでも原点に立ち返り、ブランド研修を始めました。また、社内では実務担当者とお客様への向き合い方について対話を重ねることで、製品クレーム対応への責任感を醸成していきました。その結果、製造工場だけでなく代理店やディーラーと協働して過去最大規模のメンテナンスプロジェクトを立ち上げ、2年半の時間を掛けて顧客クレームを一掃したところ、活動2年目には単年度の事業黒字化を達成することができたのです。

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中国でもアメリカでも、短期的に経営計画、特に利益計画を達成するための施策や選択肢は他にもありました。しかし、短期的な視点や低い視座から、現地社員が担うオペレーションの改善や改革に口を挟み、また同じ目線で議論していたら社内はもっと混乱していたでしょう。その時に僕たちが目指したのは、特に現地社員が、日本本社の企業目的とブランドの下に、自社らしさを理解してお客様と真摯に向き合い、自律的に最善の行動を取れるようになることでした。

中国人社員だけでなくアメリカ人社員も、ブランド研修や社内対話を始めた際は「目の前の販売業務に直接関係無いことを、何故やるんだ?」と幹部含めて懐疑的な反応が大半でした。しかし、企業目的やブランドを深く理解することで自分たちのアイデンティティを学び、それが競合との差別化を意識することに繋がり、結果的に販売会社内には、時間がかかっても目指す目的を達成するという強い意志、つまり「志」を生むことができました。

末端の事業会社は、バックオフィスの人数や予算などリソースは十分ではありませんが、手作りのレベルでもインナーブランディングやインターナルコミュニケーションを積み重ねることで、中国人社員は代理店やディーラーとの関係性を「家属(家族)」と呼び、同様にアメリカ人社員は「Family」と呼ぶようになったのです。そして、社員だけではなく取引先も含めて一体感が生まれたことは大きな変化であり、意識と行動の変化が業績改善に結びつきました。

海外グローバル企業のインターナルコミュニケーション基本原則

海外に目を向けると、ブランディングやインターナルコミュニケーションの取り組みでは、欧米のグローバル企業が日系企業よりもかなり先行しています。特に、拠点を世界中に持つ社員が数万人規模の企業は、20年前くらいからインターナルコミュニケーションに力を入れています。

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欧米グローバル企業のインターナルコミュニケーションには、基本原則があります。例えば、情報の伝達に関して透明性を重視する、伝達のタイミングを考慮する、情報が明確であり役に立つといったことです。そしてプロセスが独立していること。僕自身がイントラネットや社内報のコンテンツを作る際に社内関係者からの干渉を受けたことがあるので、これには非常に納得しました。部署間や役職者間のパワーバランスなどに影響されないよう、プロセスを独立させることは非常に重要です。

そして、担当者の資質についても明確に定義しています。まずオープンな情報交換ができること、そして正直であること、2 way コミュニケーションを重視すること。最後は、担当者は組織代表であると同時に一社員でもあるので、バランスを取りながら社内の対話を形成していく役割があります。

20年ほど前に、当時、一橋大学の副学長をされていた伊藤邦雄教授が、企業が保有する3つのキャピタルとして「Business Capital」「Intellectual Capital」「Emotional Capital」を挙げ、コーポレートブランドを育み一体感を醸成するために「Emotional Capital」を高めていくことを提唱されました。

「Emotional Capital」については、コカ・コーラの社長だった Steve Heyer 氏は、自社のブランドに対する顧客の感情やパーセプションの価値は大事であると、顧客サイドの「External Emotional Capital」を提唱しています。

それに対して「Internal Emotional Capital」は、社員の情緒的な価値も大事という考え方です。インターナルコミュニケーションには「Internal Emotional Capital」を高める役割があり、欧米グローバル企業は情緒的な価値を重視しています。

中長期的に戦略性を持って行うための人財投資

インターナルコミュニケーションは、比較的新しい言葉で、日本では2014年頃から企業実務者の間で使われるようになりましたが、現時点で日本語の確立された定義はまだありません。英語の Wikipedia には長文の説明があり冒頭には「効果的なインターナルコミュニケーションは従業員エンゲージメントを高める」と、その役割が定義されています。

そこに記載されたインターナルコミュニケーションの要件を整理して要約すると「企業が保有する無形価値(強みの源泉)に基づき展開される、所属員の態度行動変容を促すための、組織内部の情報発信および対話や会話」と表せます。

よって、インターナルコミュニケーションは従来の社内広報とは視座と戦略性が大きく違います。社内広報は、社内報などの情報ツールを使い社員間の情報共有や経営メッセージなどの社内浸透を目的として、短期的に成果を上げるために活動します。しかし、インターナルコミュニケーションは、中長期的な戦略や計画に基づいて、社員の意識変革と行動変容の実現を目的に、必要な仕事の仕組みをつくり PDCA を積み重ねていきます。そして、手法には社員との直接的な対話なども含みます。

また、それらの観点から、投下する費用にも違いがあります。社内広報は、毎年ほぼ一定額を使う経費ですが、インターナルコミュニケーションはエンゲージメントを高めるための戦略性を持つ人財投資です。

では、エンゲージメントを高めるための人財投資として、適正な費用規模とはどのくらいなのでしょうか。それを考えるために、今日は二つの軸をご紹介します。この内容は、これまでに様々な企業実務者の方々と交流した経験と、自分自身の実務体験を踏まえて整理したものです。

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軸の一つは、「毎月、社員一人へどのくらいの費用をかけるか」です。個人的には、連結ベースで、社員一人あたり月額300〜500円の範囲が目安になると考えています。

もう一つの軸は、インターナルコミュニケーション担当者が、所属組織で設定した KPI や KGI の達成に向けて、各自が責任を持って施策の PDCA を回していく際の適正規模です。それは、年間の活動費用を所属員数で割った数値を使い、一人当たりの活動費用が1,500〜2,500万円が目安になります。

企業活動では、費用規模が大きければ沢山の施策を実行することができるので、成果も上がると考えられますが、実際には、過重な負荷のせいで外部の制作会社へ仕事自体を丸投げすることも起きやすく、そうなると社内報制作や動画コンテンツ制作などの手段が目的になりますので、担当者の負荷や仕事量のバランスを保つことも必要です。

よって、この二つの軸を基にすると、例えばグループ社員が5万人の場合、毎月1人500円使うと3億円の予算になります。また、担当者一人につき2,500万円が適正な活動予算とすると、12人で活動するのが良いのではないかと考えられます。

インターナルコミュニケーションのやり方は、業種や業態によって様々なので、全ての企業にこれが当てはまるとはいえませんが、このような考え方を基にすると、自社に相応しい費用規模を掴んでいただけると思います。

本社主導で多言語コミュニケーションを推進する

次に、インターナルコミュニケーションをグローバルに展開する際の課題についてお話します。
日本でグローバルに事業を展開する本社の社員は、海外拠点の従業員も日本本社のことはある程度知っていると考えますが、実際はそうではありません。現地社員の多くは自分が働いている拠点のことしか知りませんし、そもそも本社のことを知るための機会も稀で、オフィシャルサイトなどがあっても積極的に接触する人は、それほど多くはありません。

よって、本社の企業理念や歴史、またブランドに関わる情報が、海外拠点の末端の従業員までしっかりと浸透している企業は非常に少ないのが現状です。背景には、日本人特有のハイコンテクスト文化の影響があります。言わなくてもなんとなく忖度して気を遣い、わかってくれるだろうという文化で育っているので、外国籍の従業員にも同じことを求めます。

これは経営レベルの課題であり、これから海外に進出する、またはある程度事業基盤ができていて、今後さらに成長を目指していく企業にとっても、「グループ内で情報格差を無くすこと」は中長期で課題解決に取り組むべきです。

よって、今後まず始めることは、社内コミュニケーションの多言語化です。特に、本社から海外拠点に対して発信していく際には、多言語化、つまり対象となる拠点の現地の言語に合わせて発信することが必須です。

日系で海外進出している企業は製造業が多く、非英語圏の製造拠点では英語でコミュニケーション可能な従業員は、基本的にマネージャー層以上であり、連結ベースで考えても全体の10〜15%の割合です。つまり製造現場のオペレーションに携わっている社員は、現地語しか話せない場合が多いのです。特に、日系企業の強みを発揮する製造現場では、その拠点の現地語で情報共有することで、目指す品質やモノづくりを効率的に実現することができます。

一般的に、社内コミュニケーションをグローバル化することを、英語での情報発信と解釈することがありますが、実際には多言語化することが重要です。多言語化というと、英語以外の言語に翻訳するアナログ作業が増え、仕事の負荷が上がることをイメージしますが、現在はWOVN のように、AIを使った多言語ソリューションサービスがありますので、このようなデジタル技術をどんどん活用して欲しいと思います。また、このような取り組みは、グローバル視点からリソースを確保し易い本社が主導すべきです。

成長に必要な組織風土を醸成し社員エンゲージメントを高める

インターナルコミュニケーションの役割は社員エンゲージメントを高めることですが、最近よく見かける光景は、エンゲージメントスコアを高めること自体を目的として短期的に様々な施策を打っていく様子です。

エンゲージメントスコアは、人間の情緒を数値化するものなので、勤め先や仕事への満足度だけではなく、日々の職場での人間関係の変化にも影響されます。
例えば、多少仕事が上手く行っていなくても、職場に失敗を許容する雰囲気や、タテヨコなど周囲との関係性が良ければ、働くことへのモチベーションは維持できます。

つまり、職場の雰囲気に魅力があれば社員のエンゲージメントは高まりますので、エンゲージメントを高めるのは会社の持つ組織風土そのものです。そして、組織風土の土台をつくり醸成するのは、企業の持つ理念やブランド、また歴史などの無形の資産ですので、それらと社員個人との間に、特別な心のつながりが生まれることが理想的にエンゲージメントされた状態だと考えています。

では、社員が魅力を感じる組織風土をどのようにつくるかですが、今日は三つのアプローチを挙げます。

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一つは「心理的安全性」を確保することです。職場で社員同士がフラットな関係を築き、お互いに話し易かったり、必要な時に助け合ったりできることです。

二つ目は「ダイバーシティ」を実現することです。人事制度として、年齢や能力に関わらず、誰もがいつでも学び成長できる仕組みや機会が職場に整備されていることです。

そして、三つ目は「One on Oneコミュニケーション」を実行することです。所属職場内のタテ、ヨコ、ナナメの関係だけでなく、部門を超えて関係性を築き、それぞれで対話共感型のコミュニケーションができれば、所属組織だけでなく会社そのものとのキズナを生むことができます。

そして、インターナルコミュニケーションには、このような魅力ある組織風土を構築するために、企業目的や価値観(経営理念、経営方針、ブランド、行動指針、行動規範)などを組織末端の社員まで浸透共有し、土台をつくるという役割があるのです。

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最後に、インナーブランディングやインターナルコミュニケーションの仕事の現場では、担当者の熱量が鍵です。経営者が本気にならないからやらない、というのは順序が違います。みなさんが本気で社員と向き合うことで、経営者を本気にさせるのです。

日系企業のインナーブランディングとインターナルコミュニケーションは、まだまだ進化発展中の仕事です。みなさんそれぞれが熱い志と少しの勇気を持って、まずは一歩踏み出してみてください。そうすれば、社内の風景や見え方が変わってくるはずです。これから一緒に頑張りましょう!

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