参加者満足度の高いセミナーにするには? 最優秀コンテンツ受賞のSATORIに聞く最強セミナー企画法
Web担当者Forumでは、年4回実施するイベントで集客・聴講者からの満足度が高いスポンサー企業の講演セミナーを「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」として表彰している。2023年11月に開催されたセミナー「Web担当者Forum ミーティング 2023 秋」で受賞したのはマーケティングオートメーション(以下、MA)ツール「SATORI」を提供するSATORI株式会社の代表取締役 植山浩介氏。
受賞を記念して植山氏とセミナー企画を担当するデマンドジェネレーションG 関静香氏に、今回の講演や同社のセミナーの取り組みについてお話をうかがった。
9回目の挑戦で、MAツール「SATORI」が形になる
SATORI株式会社の代表の植山氏は、大学時代にコンピュータサイエンスを専攻しており、インターネット関連会社でアルバイトを始めたという。作ったサービスが人に使われていく様子を目の当たりにし、この業界で働きたいと思った。まだ確固たる業界として確立していなかった時代だったが、作られているものに魅了され、働いている人たちに憧れて、インターネットの世界に足を踏み入れた。
18歳から45歳になる現在までの27年間、インターネットに関わる仕事をしています。自分にとっては、ずっとインターネットに恋をしているようなもの。その雰囲気が好きなので、親や周囲が何を言っても聞かず、好きな人のためにがんばっている、そんな感じなんです(植山氏)
現在、SATORIは創業9年目を迎える。それまで、まだ世の中にないサービスを広めたいと考え、いろいろな事業を立ち上げてきたが、どれも実を結ばなかった。「SATORI」は9作品目の事業であり、野球で言えば9回裏に臨むような気持ちだった。
「SATORI」はMAツールとして販売しているが、もともとMAを作りたかったわけではないという。おもしろい技術があって、それをどう活かすかと考えた時に、それがMAという形になった。「まだまだ技術力の1%しか使っていない」と植山氏はSATORIのポテンシャルを匂わせた。
講演をするなら、自分たちにしか伝えられない内容を。失敗も隠さずに伝えた講演が好評
今回「スポンサー部門最優秀コンテンツ賞」を受賞した講演では、9年間のSATORIの取り組みについて、失敗を包み隠さず赤裸々に聴衆に伝えた。
私は特定の領域の専門家ではありませんし、今は開発からもコンサルからも離れているので現場のことや各社の取り組みについては詳しくありません。そこで、私が見えている視点からの会社の変遷やキャリアなら話せるなと考えました(植山氏)
登壇が決まって、関氏は講演のテーマ案を3案提案し、植山氏が最終的に選定した。スライド作成、スクリプト作成は、資料作りも得意な植山氏が登壇の直前までブラッシュアップを担当した。講演でこれまでの失敗を隠さずに伝えた理由について次のように述べる。
シンプルに社会貢献。具体的には人材の育成です。一般的な会社組織においては、上長と部下では情報の非対称性があり、知っているかどうかで優劣や立場が変わり、「上に聞かなきゃわからない」という上意下達の文化になりやすい。
しかし、成長する組織、人材が育つ組織は、立場によって得られる情報に差はつけない。そういう組織は情報を受け取れる人が伸びていく。講演においてもこれまでの苦労も含めて可能な限りの情報提供をしたいと考えました(植山氏)
参加者の満足度が高かった理由については「わからない」というが、講演のテーマは「自分たちにしか伝えられないこと」を考えて決めたという。ゼロから会社を立ち上げ、9年の間に社員が100人を超える成長をする中で、経験したことや起きた課題、その乗り越え方を赤裸々に話したことが評価されたのではないかと考えている。
Web担当者Forum ミーティングのような協賛系のイベントでは、時に自社の営業活動の場として、講演内容を組み立ててしまう会社もある。営業色が強いと視聴者の満足度は下がりがちだ。植山氏は、社会のあるべき姿を伝えることが、結果的に営業にもなると捉えて講演内容を決めた。
マーケティングが必要だと思ってもらうことは、私のミッションであり、ライフワーク。まだMAにチャレンジしたことがない人に、講演を通してMAを使うとどういうことが起きるかを知ってもらおうと思いました(植山氏)
協賛セミナーは、潜在層との出会いの場。参加者の立場にあわせて講演内容を合わせる
SATORIにおいて、協賛セミナーはどういう位置づけなのか。普段、セミナーの企画や運営を担当している関氏は、協賛セミナーは「展示会に近い」と話す。多くの人と接触し、MAやSATORIを知らない潜在層に知ってもらう機会という位置づけだ。
SATORIでは3ヶ月から半年に1回程度協賛セミナーで講演をする。協賛型の場合、参加者がマーケティング部門が多いのか、営業部門が多いのかで打ち出し方を変えている。
たとえば営業部門向けならば「商談を増やす」「売上を上げる」という表現をし、マーケティング部門向けならば「コンバージョンを上げる」という言葉を使う。内容についても、営業向けであれば営業に関するレポートを入れるというように、ターゲットに合わせて資料や講演タイトルも調整している。
協賛の場合は、SATORIありきの講演内容にしないようにしている。タイトルと中身がずれるのも顧客の満足度を下げる。営業色が強すぎる場合は、講演者に修正を依頼することもある。
当社CMOの高橋が単独で登壇した自社開催セミナーでは『CMOがMAを語る』という立て付けで、マーケティング部門でかつ決裁者を対象にしました。当社は、MAと共に大きく成長してきたということをマーケティングの責任者が話すことで、同じような立場の方に向けて説得力がある説明ができたと考えています(関氏)
なお、今回4年ぶりにオフラインで開催されたWeb担当者Forumミーティング。植山氏が登壇した理由の一つにリアル開催だったことを挙げる。創業者でありツールの生みの親である植山氏が登壇することで、どういう人が「SATORI」を作っているのか、直接参加者に伝えられるだろうと期待した。
協賛セミナーの参加を決めるのは、そのセミナーで集客できる層がマッチしているかどうかが一つ。また、2回目以降の協賛であれば、前回からそのメディアに登録している会員数が増加しているかもチェックしているという。
Web担当者Forum ミーティングの場合、SATORIがすでに持っている既存リードと視聴者の重複率は高い傾向にあるが、今回は、以前登壇してから時間が空いたので、会員層の入れ替わりがあると期待して参加を決めたとのこと。
顕在層には自社セミナー。オンデマンド配信とライブ配信を組み合わせて、みっちり凝縮した内容を届ける
顕在層である既存リードに向けては、自社セミナーを開催しており、オンデマンド配信と、月に1回単独、または共催で開催するものがあるという。
コロナ禍前は、顕在層に向けて自社セミナーを週に2回開催しており、1回の開催で7−10人ほどに来社してもらっていた。コロナ禍以降は、オンデマンド配信に切り替え、疑似ライブ配信なども取り入れながら、効率的に配信するようにしている。
開催数は減りましたが、ユーザーが視聴する選択肢は増えています。コロナ禍を経て、ユーザーは見たい時にいつでも見られることを期待しているので、オンデマンド配信を重視しています(関氏)
なおオンデマンド配信やウェビナーは、90分では長すぎて飽きられてしまうため、最長60分としている。「SATORI」の機能、マーケティング活動での使い方、KPIの設定、SATORIでの活用事例、画面操作のデモまでみっちりと伝えている。対面のセミナーで90分で実施したものを60分に凝縮しているイメージだ。
ウェビナーを開催する場合は、コアタイムに収めるようにしています。マーケティングに携わる人は、時間の融通がききやすい13−15時に設定します。
営業やインサイドセールスの場合は、13時以降が架電や商談の時間になるので12ー13時に設定しています。現場の声を元に、開催する時間を決めています(関氏)
なお、リアルとオンラインでは異なる点が多く、リアルで反応が良いセミナーをオンラインでやっても失敗することもあるし、その逆もしかりだ。リアルの場合は、ユーザーの労力がかかるぶん、本気度が高く、多くの情報が伝わる構成にしないと足を運んでもらえないという。
来年度は、15分で見られるショート動画の制作にも挑戦する予定だ。何かをしながらでも見られるような形式も検討しており、選択肢を増やす取り組みをしている。
セミナーにおいても顧客理解が重要。参加者が求めている情報を提供できるように準備する
KPIと指標は、次のように設定している:
- 協賛セミナー:獲得リード総数、うち新規リードの割合、リード獲得単価、商談数、商談率、商談単価、受注数、受注率
- 自社セミナー:申込数、視聴数、商談数、商談率、商談単価、受注数、受注率
セミナー開催の最終的な目標は、受注につなげることです。各KPIを比較しながら、何が良くて何が悪いのか振り返りをしています。申込数が少なければ、集客導線が悪くて集客ができていないのか、集客できてもコンバージョン率が低いのかなど原因を分析します。コンバージョン率が悪ければ、メルマガの開封率やクリック率をあわせてみて、タイトルを見直したり、外部の人から意見をもらったりすることもあります(関氏)
セミナーの企画については、フォーマットが用意されており、そこに情報を埋めれば企画案ができるようにしている。LP制作、メルマガライティングなどもその情報を参考にして動く。このテンプレートは以下よりダウンロード可能だ。
企画から本番までの時間は、協賛型であれば、1ヶ月から1ヶ月半程度だという。一方、ウェビナーは集客期間を含めて2−3ヶ月前から着手することもある。
内容については、一方的な情報発信ではなく、参加者が求めているものを返すようにしている。顕在層であれば、自社の情報を押し出してもいいが、その分デモ画面を見せるなど、参加者への特典が必要だ。
セミナーのアンケート、展示会での会話、既存顧客が参加できるユーザー会でのヒアリング、事例取材などを通して、顧客の声に耳を傾け、何が求められているのかを聞いてセミナー内容に反映させている。
顧客理解は、SATORIの重要なキーワードです。マーケティングでは、直接の接点がなければ、デジタルデータを読み解き、分析してユーザーの気持ちを理解していきます。マーケティング部門以外のエンジニアも含めて、全社で顧客理解をテーマにしており、それはセミナーでも同様です(植山氏)
セミナーの振り返りでは、ウェビナーで離脱ポイントがあれば、それを特定して理由を考える。他のメンバーに録画を見せてフィードバックをもらうこともある。
MAの期待値が下がっているからこそ、継続することの意義を訴えていきたい
最後に今後の展望についてうかがった。
マーケティングの観点では、これまで顧客理解のために徹底的にデータ活用をしてきたというわけではありません。MAが進化してデータテーブルの機能なども使えるようになったので、私たちもお客様の状態やビジネスを理解するためにもっとデータを読み解く必要があると感じています。マーケティングは最初の接点であり、商談、受注、さらにその先まで含めて、データ活用をしていきたいです(関氏)
MAの認知が広がり、使ってみたことで簡単には成果が出ないことに気づき、あきらめる会社もあるなど、MAの期待値が下がってきています。しかし、10年単位で継続する計画を持つ会社もありますし、20年30年の長いスパンでみればセールス&マーケティングのデジタル化が必須であることは理解されています。
期待値が下がっているところを支えるような活動をしながら、長期で見たら絶対に必要なんだというところを伝えていきたいですね。継続できている会社が勝つので、ここであきらめるな!ここが踏ん張りどころだぞ!と励ましたいです(植山氏)
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