これからのWebサイトはどうなる? 進化するツールを使いこなすために必要なこと

キノトロープの生田 昌弘氏が「これからのWebサイト」をテーマに、Web担の四谷と対談。顧客視点を軸としたコンテンツ制作のあり方について話し合った。

企業のWebサイトが誕生して約30年。多くの企業ではCMS(コンテンツ管理システム)やDXP(デジタル エクスペリエンス プラットフォーム)などのツールを導入し、Webサイトを進化させている。

CMS(コンテンツ管理システム)の開発などを手掛けるハートコアが3年ぶりにリアル開催した「HeartCoreDAY2022」。同イベントに日本企業のWebサイト制作に黎明期から携わってきたキノトロープの生田昌弘氏と、インプレス・Web担当者Forumの四谷 志穂が登壇し、「これからのWebサイト」をテーマに対談した講演内容をお届けする。

株式会社キノトロープ 代表取締役社長 生田 昌弘 氏
株式会社インプレス Web担当者Forum 編集長 四谷 志穂

CMSの多機能化は顧客にメリットがあるのか?

CMSの進化は著しい。生田氏は「現在は多機能なCMSが数多く存在するが、自分がコンテンツ制作を始めた1995年ごろは、大手グローバルITベンダーが提供するツールすら使い物にならなかった」としたうえで、CMSのマーケティング機能について言及した。

そもそもCMSの主な役割は、Webサイトの構築やコンテンツ管理、コンテンツの出し分けだった。そこにマーケティング機能が追加され、既存のマーケティングツールと連携することで機能強化を果たす。しかし、生田氏は「ユーザーは進化し続けるCMSを使いこなせていない」と指摘する。

Webサイトを管理するツール群にはCMSをはじめ、PIM(商品情報管理)やDAM(デジタル アセット管理)、MA(マーケティング オートメーション)などがあり、それぞれの領域で特化した優位性がある。生田氏は「CMSがこれら領域の機能を追加しても、(すでに導入しているツールと)機能が重複して使いにくいものになってしまう。ツールベンダーは多機能化を図るよりも、自社製品の強みを活かすべきだ。一方、ユーザーは自社で実現したいことを明確にして製品を選択しなければならない」と指摘する。

CMSにはほぼ無償で利用できるツール(WordPress)から、数百万円するものまでさまざまだ。生田氏はツール選びを自動車選びになぞらえる。

同じ移動手段だからといって、トラックとスポーツカーで迷う人はいない。実現したいことが明確であれば、正しい選択ができる。CMSでも同じことだ(生田氏)

現在は「ソーシャルサーチの夜明け前」

さらに生田氏は、「ユーザーのライフスタイル変化が、Webサイトに劇的な変化を与えている。企業はそれに対応する必要がある」と説く。

LINEが実施した「2021年下半期インターネット利用環境の定点調査」によると、アクティブなインターネット利用者のうち、全体の52%がスマートフォン(以下、スマホ)のみでインターネットを利用していることが明らかになった。PCのみと回答したのは、わずか1%だったという。

こうした結果を踏まえて生田氏は、「Webサイトの閲覧方法は、PCとスマホとでは大きく異なる。スマホユーザーは(Webサイトの全ページに共通して表示する)グローバルナビゲーションは見ないし、企業のトップページも訪問しない。PCからの閲覧を前提としたWebサイトの構築ではユーザーニーズに応えられない」と指摘した。

スマホユーザーがWebサイトに求めるのは「わかりやすさ」だ。キーワード検索で知りたいことが掲載されているコンテンツに直接ランディングし、必要な情報を素早く正確に入手したいと考えている。こうしたニーズに対して企業は、そのユーザーにとって最適な情報を的確な表現で提供することが求められている。

生田氏は「これまでのWebサイトはユーザーにページを選択させる『ツリー構造』が主流だったが、今後はページを遷移するたびに理解が深まる『リニア構造』にしなければならない」とし、以下のように指摘する。

ユーザーが望んでいるのは『探しやすい』ではなく『探す必要がない』Webサイトだ。『ユーザーに検索させる』という発想自体が間違っている。遷移するたびに知りたい情報やニーズを汲み取ったレコメンドコンテンツが次々に表示されるWebサイトを制作すべきだ(生田氏)

Webサイトの本質はコンテンツ制作にあり

続いて生田氏は、Webサイト全体を統括するWebマスターの役割について言及した。同氏は「Webマスターの仕事は、『集客』『おもてなし』『運用』の基盤を支えること」だと指摘する。

「集客」とはサイトのブランディングやユーザーサポート、SEO施策やネット広告、SNSなどを活用したコミュニケーションのアプローチを指す。一方、「おもてなし」とはユーザビリティの向上や情報を一元管理することで、コンテンツの使い勝手を最適化するマーケティング施策のことだ。これらを適切に運用するためには、CMSなどフロントシステムやインフラの管理、システムのWeb標準化などを実施する必要がある。「Webマスターはこの3つに留意しながら、コンテンツホルダーや各事業関係者と調整を図る必要がある」という。

Web担当者Forum編集長の四谷は「Webマスターと編集長は役割が似ている」と指摘し、編集長の役割を「メディア全体の編集方針を決める責任者である」と説明した。ユーザーニーズを満たせるコンテンツを提供するためには、ユーザーの嗜好性や行動パターンなどを把握しなければならない。そのために不可欠なのが情報収集だ。

実際、Web担当者Forum編集部でも著者やコンテンツ提供者をはじめ、さまざまな人に話を聞いたり、業界のニュース収集やTwitterのチェック、ユーザーアンケートなどを実施したりして情報収集を行っている。

重要なのはこうした施策を継続して実施すること。マラソンのように走り続けながら活動をしていくことだ(四谷)

Webサイトを作ることは、コンテンツを作ることと同意語である。最後に生田氏は「Webサイトのページやデザイン、SEO施策を考える前に、(Webサイトの中で)ユーザーが欲しい情報がきちんと提供できているかを考えることが重要だ」と力説し、セッションを締めくくった。

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