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インクルーシブデザイン:ニューノーマルに対応したCX設計【電通デジタルコラム】

インクルージョン(多様性の受け入れ)を念頭に置くことで、より幅広いユーザーのエクスペリエンスが向上します。
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2020年、コロナウイルス感染症の影響が世界中に広がり、企業やブランドは顧客の安全を守るため、前例のない対応を講じました。コロナ禍以前とは劇的な変化が生じ、対面でのインタラクションが急激に減り、デジタルを通じてエクスぺリエンスとサービスを提供するという、これまでになく創造的な方法が生み出されました。これらの方法は、顧客のタッチポイントを設計する際のニューノーマルとして広まっています。非接触型決済からAR(拡張現実)による商品展示、eコマースが統合されたVRストアフロントに至るまで、CX(顧客体験)を重視し、企業やブランドはこれまでにないスピードでより多くの顧客にリーチできるようになっています。

ソーシャルディスタンスを確保し、外出自粛を求める対策が講じられ、世界中の消費者は、以前は当たり前だった製品やサービス、多くの商品へのアクセスを大幅に減らさなければならない現実に直面し、それがいまや標準となり、多くの制限を経験しています。その結果、以前と同様の「普通の生活」をすることができないという、かつて経験したことのない喪失感が生まれました。新型コロナの世界的な大流行により、企業はできるだけ多くの人々が享受できるエクスペリエンスの再設計に取り組み、パンデミック前の当たり前だと想定していたCXを必要としないタッチポイントに作り替え、プロセスの実行を急ぐことを余儀なくされています。

皮肉なことに、現在の顧客体験設計の手法では、理想のカスタマージャーニーを描くために、特殊な状況やニーズについて配慮できないこともあります。このパンデミックにより、以前は個人でできていた一定の事ができなくなる、あるいは、消費者の製品やサービスに対する「欲求」と「真に迫られていること」が食い違うという状況に直面しています。例えば、「映画館に行きたい、ショッピングがしたい」と思っても、感染防止を考慮して我慢せざるを得ない、などです。物理的・社会的・経済的現状から新たに苦しい状況が発生していることから、これまで以上に多くの人々を救う手立てとなるようなアプローチでのCX設計へと引き上げなければならないことは明らかです。そのひとつに、インクルージョン(多様性の受け入れ)を念頭に置いた設計があります。


企業が新たな大海原で溺れずに泳ぎきれるかどうかという事態に際し、沈まずに浮かび続けるためには、私たち自身の人間性をもっとよく理解することが役に立つのではないでしょうか。
消費者がブランドに何を求め、何を必要としているかに関し、当然わかっていると思っていたことを、パンデミックは根底から覆しました。至るところで利益が落ち込む中、ブランドは、自分たちの価値を再検討し、何が消費者のロイヤルティを高めるのかを改めて考えています。その結果、倫理的・社会的責任をますます重視するようになりました。社会的・環境的パフォーマンスの価値に重点を置く企業を認定する米国の組織B Labによると、先の金融危機時のデータ(事業規模は同程度)と比べ、認定企業の63%が今回の危機を乗り切る準備がより整っていたようであるとしています。B Labは、より回復力に優れた企業は、自社の従業員、顧客、およびサプライチェーンとの強固な関係を通じて実行力を示すことができると考えています。これは、パンデミックを乗り切るにあたって、検討に値する教訓です。
「インクルーシブデザイン」とは、人を第一に考えることです。永続的、一時的、状況的、あるいは千変万化する困難に直面している人々、つまり私たち全員のニーズに合わせて設計することです。カスタマージャーニーにおけるフリクション(障壁)を減らし、利便性を向上させるCX設計に加え、インクルーシブデザインの原則も考慮することで、より幅広いペルソナにとってのエクスペリエンスを設計でき、その結果、より幅広いユーザーのエクスペリエンスが向上します。ここでインクルーシブデザインの原則のポイントをご紹介します。

1. 同等の体験を提供する

どんな状況にあっても顧客のエクスペリエンスが損なわれないよう、顧客のペルソナがどれほど多様であるかを認識することが重要です。エクスペリエンスは可能な限り多くの人にとっての解決策となるべきで、アクセスに関する状況が異なるというだけで、エクスペリエンスの品質や効率が損なわれるべきではありません。
電話会議アプリケーションのZoomは、クローズドキャプション、キーボードショートカット、ソフトウェアの画面なしサポートなどの一連のユーザー補助機能を実装し、できるだけ多くの人々に同じ品質のサービスを提供しています。また、スワイプして「タップして話す」を押すだけで使えるという特別な設計の「安全運転モード」インターフェースの開発が時間をかけて行われ、より多くの人々が自動車を運転中に安全に電話に出ることができるようになっています。

2. 状況を考慮する

顧客はさまざまな方法でブランドのエクスペリエンスにアクセスしています。どんな環境下でアクセスしているかに関わらず、同じ価値を提供し行動を促進するため、フリクションのないタッチポイントにする必要があります。たとえば、顧客がコンピューターにすぐにアクセスできない場合でも、モバイル経由で同じ機能と利便性にアクセス可能にするなどです。家族が以前より多くの時間を一緒に過ごし、家事、育児、仕事を以前にも増して同時にこなさなければならない現代では、とりわけ大事なことです。
ライブコマースでは、消費者はリアルタイムで柔軟に買い物ができます。アリババのライブ配信プラットフォームTaoBao(淘宝網) Liveは、携帯電話とインターネットアクセスだけで事足りるコマースプラットフォームですが、中国のインフルエンサーViyaがニュージーランドの製品を自身のライブストリームで販売した際、4時間半かからずに3,000万ドル(約32億7000万円)近くを売り上げた※ことは、その成功例です。
※1円=109円で換算

3. 一貫性を保つ

顧客がすでに使い慣れているインターフェースを最大限に活用し、さまざまなタッチポイントに適用することで、一貫性と使いやすさが構築されます。一部のインターフェースではさまざまなユーザー応答が必要になる場合がありますが、従来のパターン(カラーコーディング、記号、アクション、シンボルなど)と一致していると、ユーザーは既に使い慣れているものを使用してタッチポイントをナビゲートできます。これらはブランディングに組み込んだり、何よりも、識別しやすいため、ブランドのエクスペリエンスに一貫性が保てます。
AppleのFitness+ プログラムはこの好例です。2020年末に提供を開始したこのプログラムは、フィジカルコンディションに合わせ、様々なワークアウトが可能です。また、Appleがすでに提供しているワークアウトアプリの機能をすべてまとめて、Apple Watch上でオンスクリーン表示や操作ができます。人種や年齢など、多様なバックグラウンドを持つトレーナーたちによって開発されており、エクスペリエンスに没入しやすく、リアルタイムの測定により、その人に合わせて直感的な操作が可能です。これにより、ユーザーはモチベーションを高め、エクスペリエンスのすべてを飽きることなく楽しむことができます。

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Copyright: Apple

4. 利用者に制御させる

顧客は自分が望む方法でコンテンツにアクセスし、楽しむ傾向にあるので、柔軟にエクスペリエンスを楽しむための機能(フォントサイズ、向き、突然の色の変化など)が低下すると、フリクションが生じ、意図的に誘導されない限り、意図したアクションからそれてしまうことに繋がります 。
ビデオの再生方法が制御可能であったり、製品に簡単にズームイン可能であったり、アクションを有効にさせるために必須のサインアップやダウンロードを回避したりすることなどが、モチベーションを左右します。Facebookは公式ブログの最近の投稿で、ユーザーが表示できるコンテンツをより制御可能にし、ユーザーの好みや個性に合ったニュースフィードを提供する取り組みを発表しました。これにより、よりカスタマイズされたプラットフォームの使用を実現します。

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Copyright: Facebook

5. 選択肢を提供する

目的を達成する方法としては、時には複雑または一般的ではないなど、異なったアプローチの提供の検討も必要です。消費者がどのようなジャーニーでブランドに接するのかは様々であり、また同様に、最終コンバージョンに向けても様々な方法があるでしょう。製品を簡単に視覚化する方法や、ARの試着やメイクアップなど、商品エクスペリエンスが容易に想像できる代替手段があると、利用してくれるユーザーはどんどん増えていきます。
電通インターナショナルのブランドFirstbornが最近立ち上げたTempoの事例を紹介します。これは米国のオーディオ機器メーカーBeatsの従業員に最先端の製品について学習させるデジタルツールで、一段上のリッチでインタラクティブなストーリーテリングができるようになることで、営業チームを強化するものです。Tempoには様々なトレーニングツールが20以上の言語で用意されており、自分が理解できる言語で、自分の好きなコースを、自分に合った学習方法で受講できます。Beatsはこのツールを使用し、世界中で60万人以上の従業員にトレーニングを行いました。同社の従業員は驚くようなスピードで製品のエキスパートとなり、結果的に予約購入チャネルの売り上げは2.13倍に増加しました。Tempoは、2020年に英国の広告賞D&ADでグラファイト・ペンシル(銀賞に相当)とウッド・ペンシル(銅賞に相当)を獲得しています。

6. コンテンツの優先順位を付ける

CX設計において、コンテンツを顧客にとってわかりやすい位置付けにすることが重要です。コンテンツの各部の目的や機能に基づいて、必要に応じて明確に情報を提供し、関連するコンテンツの提案をするなど、ジャーニーをより充実させます。
ニュースサイトは、コンテンツの優先順位付けの代表的な例です。記事を閲覧している読者は、興味のある見出しをクリックして、新しいレイアウト上でその記事全文を読みます。ビデオニュースのキュレーションサイトBrutは、要約やオーディオ・ビデオの抜粋を提示している代表例で、読者の時間を節約し、すぐに関心を呼ぶことができます。顧客が何を好むか意識することは、最適なコンテンツを優先し、最も快適なCXへ導くために必要なインサイトとなるでしょう。

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Copyright: Brut media

7. 価値を付加する

顧客をエンゲージするだけでなく、ちょっとした付加価値をつけることで、CXは素晴らしいものになります。社会問題への意識を高めることであれ、自己表現を促すことであれ、有用性を拡大することであれ、インクルーシブデザインの原理は以前より少しでもより良く、より簡単に、より正しくするということなのです。巨額の投資をする必要はありません。エクスペリエンスの価値を高めるため、より新しくより良い方法を発見するのに、クリエイティビティがブランドを導く羅針盤の役目を果たします。
特定の知識が必要な場合は、他の組織との提携により、企業のビジョンの明確化と実現が可能になります。この例として、LEGO Braille Bricksを紹介しましょう。財団法人LEGO Foundationが世界中の組織と協力して立ち上げたイニシアチブで、ブロックを使って視覚障害のある子供たちに点字を教えるのを目的としています。これは既存の製品を土台にしているもので、ブロックに学習ツールを組み込むことで、ブロックは本来の「おもちゃ」という機能を超え、そこから子供たちは貴重なスキルを学ぶことができるようになりました。


Copyright: LEGO

ビジネスとブランドへの影響

Forresterの最近のレポートでは、2021年、ブランドの25%がCX品質は重大な進歩を遂げると予測しています。これは、優れたエクスペリエンスを設計する重要性について、ブランドが認識し動き始めているということを示唆しています。インクルージョンに配慮した、パーソナライズされたエクスペリエンスでブランドに対する信頼を得ることが益々重要になっています。

2020年の調査によると、日本の消費者の51%が、ブランドへの信頼が以前よりも高くなったと回答しました。ただし、これは調査対象の世界12か国の中で最も低い割合です。パンデミックにより、今まで以上に自分が購入しているブランドの施策が自分の大義に最も近いところにあると、顧客に信用してもらう必要が出てきました。インクルーシブなCX設計は、消費者が必要としている信頼感を構築するにあたって重要な役割を果たします。顧客やコミュニティが考える「社会的大義」という視点から、ブランドの製品やサービスが自分たちの立場に寄り添ってくれていると感じるからです。
アーティストのリアーナがLVMHの援助を受けて創設したコスメブランドFenty Beautyは、あらゆる肌の色に合わせてファンデーションを40色展開しており、必ず自分に合ったものを見つけることができます。白人の肌に合わせて商品が展開されていた欧州のコスメ業界において、無視されがちだった黒人やアジア系の女性たちの感情に寄り添い、信頼を得ることができたブランドといえるでしょう。

CXにおいてインクルージョンに配慮することは、現在、AdobeMicrosoftSalesforce、などの企業では当たり前となっています。こうした企業は、人事面からだけでなく、人道的な面も考慮し、設計プロセスの重要な要素に、インクルージョンを取り入れています。また、UberLyftもこうした動きに積極的で、パンデミック時に顧客のニーズを認識して行動し、車を所有していない人が予防接種施設に行く支援や無料配車を行っています。パンデミックにより市場の状況が変化していますが、企業はこの機を捉え、今こそ未来に目を向け、ブランド力を強化するために考慮すべき事項としてインクルージョンを取り入れ、CX設計に最大限に活用する方法を検討すべきではないでしょうか。

CX戦略にインクルーシブデザインを組み込むことは、将来に向けて大きな可能性を作ることになります。コロナ以前の市場では見られなかった真に多様なペルソナを構築し、顧客との間に真の信頼をもたらします。テクノロジーを駆使し、より多様でインクルーシブな顧客ペルソナを大切にすることで、より多くの人々に解決策を提供し、摩擦が少ないエクスペリエンスを生み出すことができるのです。

カーダー ジェネッサ Jenessa Carder

CXストラテジー本部付 シニアエグゼクティブストラテジープランニングディレクター
電通アイソバーにて、消費者体験(CX)戦略担当バイスプレジデント。美容、CPG、ハイテク、ヘルスケア、フィットネスなど様々な業界の世界中のクライアントに対して、キャンペーン、製品発売、デジタルエクスペリエンス、トランスフォーメーションプロジェクトにおいて10年以上のコンサルティング経験を持つ。

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