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目指すは映像レーベル「北欧、暮らしの道具店」のYouTubeチャンネルが人気の理由とは?―クラシコム代表・青木耕平インタビュー

ECメディア「北欧、暮らしの道具店」が運用するYouTubeチャンネルは、登録者数が28万3000人に上る人気となっており、短編ドラマ『青葉家のテーブル』(主演・西田尚美さん)は、映画化されるという。クラシコム代表取締役社長の青木耕平さんに話を聞いた。

ECメディア「北欧、暮らしの道具店」が運用するYouTubeチャンネルの登録者数が、企業の公式アカウントとしては異例の28万3000人(2020年7月27日現在)に上る人気になっています。

チャンネル内で視聴できる短編ドラマ『青葉家のテーブル』(主演・西田尚美さん)は、映画化されることが決まりました。

なぜ「北欧、暮らしの道具店」のYouTubeチャンネルは多くの視聴者の支持を獲得できたのでしょうか。

今回は「北欧、暮らしの道具店」を運営する株式会社クラシコム代表取締役社長の青木耕平さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、画像:株式会社クラシコム)

初めは思うように伸びなかった視聴回数

――「北欧、暮らしの道具店」のYouTubeチャンネルが、企業の公式アカウントとしては異例の人気を博しています。チャンネル開設は2011年10月となっていますが、そもそもどのようなきっかけでYouTube動画の制作を始められたのか、そしてなぜこんなに多くの人から支持されているとお考えか、その辺から教えてください。

アカウント自体は古くから持っていましたが、2019年頃まではYouTubeに力を入れているという意識はあまりありませんでした。どちらかというと、SNS上に投下する短尺動画を中心に制作していて、YouTubeの公式チャンネルはそうした動画のストレージ的な扱いで考えていました。

北欧、暮らしの道具店のYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/infohokuohkurashi

――本格的にYouTubeに取り組もうと考えたきっかけは何でしょうか。

2018年にYouTubeで視聴できる連続ドラマを公開したのですが、「北欧、暮らしの道具店」のECサイトにはたくさんの読者がいるにもかかわらず、YouTubeでは当初思ったようには再生されなかったんです。

当時から InstagramやLINEなどのSNSでも多くの方にフォローしていただいていましたし、インプレッションを相当数発生させる方法はある程度把握しているつもりだったので、YouTubeで良いコンテンツを作って告知さえすれば、多くの方に動画を視聴していただけると考えていました。

ところが、最初は視聴回数が思うように伸びませんでした。そうなって初めて、YouTubeの動画はあくまでもYouTubeの中で存在感を発揮しないと多くの方に見ていただけないのだと気づいたんです。それまではYouTubeにそれほど意識が向いていなかったため、視聴回数へのこだわりがあまりなかったのですが、本気でコミットをした結果、これは一筋縄ではいかないとわかりました。

――YouTubeの視聴回数を伸ばすためにドラマ制作を始めたということでしょうか。

逆ですね。先にドラマができて、それを多くの方に見ていただくには何をすべきかを考え、視聴回数の向上に本腰を入れ始めたということです。

素晴らしい制作スタッフと出演者が揃い、素敵な作品が完成したわけですから、プロデューサーである私の責任は、より多くの人に見ていただくために最善の努力を払うことです。ドラマが話題になって、制作スタッフや出演者の方々に「頑張って作った甲斐があった」「出演してよかった」と喜んでもらうには、思うように数字が伸びないという現実に向き合う必要がありました。

北欧、暮らしの道具店のECサイト
https://hokuohkurashi.com/

顧客層が3年後に見たくなる動画を意識

――わかりました。では、より多くの方に見てもらうためにどのような工夫をされたのでしょうか。そして、なぜこれほど多くのチャンネル登録者数を獲得できたとお考えですか。

視聴回数を伸ばす方法は複数あると思います。我々が考えたのは主に2つ。1つは、すでに人気になっている動画を研究して同じような手法をトレースすることです。これはYouTubeに限らず、新しいプラットフォームに参入するときによく用いられる方法だと思います。

もう1つは「3年後に必要になるコンテンツは何だろうか」と考え、実際に3年後にそのコンテンツがたくさん揃っている状態を作ることです。つまり、今流行っているコンテンツから学ぶか、将来流行りそうなものを予測してたくさん作っておくかの二択だと思います。

我々がYouTubeに本気で取り組もうと考えたのが2019年5月頃。それまではおそらく登録者数は1万人もいなかったのではないでしょうか。そのときに感じていたのは、「北欧、暮らしの道具店」の主要な顧客層である30代から40代の女性はYouTubeをあまり見ていないということです。みなさん忙しくて見ている時間がないんだと思いました。

そこで、「YouTubeがより広い世代に親しまれるようになったり、YouTubeを見ている若い世代が私たちの主要な顧客層になる数年後に、彼女たちが興味を持てるコンテンツを揃えておこう」と考えました。

30代から40代の女性は忙しくて、1日のうちに自由になれる可処分時間は1時間くらいではないでしょうか。

その1時間をすべての方がテレビの1時間番組に費やしてはいないと思います。でも、ドラマやバラエティ番組を見て、心を動かされる時間が欲しくないかといえば、それも違うはず。笑ったりちょっとウルッとしたりして、自分の心や感情の動きを確認する作業は、忙しいからこそ大切ですし、求める人が多い気がします。そこで、彼女たちが見たいであろうコンテンツを、短めの尺で作っていくことにしました。

とはいえ、どんなコンテンツなら見ていただけるのか、最初からわかるわけではありません。メイクならメイクと何か1つにテーマを絞って展開した結果、仮説が違っていたらチャンネル自体が失敗してしまいます。そのため我々は「スーパーチャンネル戦略」として、1つのチャンネルでいろいろな種類の番組を企画し、このチャンネルに来るとドラマやドキュメンタリー、Vlogなど多様な番組が見られるようにしました。

――スーパーチャンネル戦略ですか。 

はい。ただし、1つのチャンネルの中にいろいろなジャンルの番組を並行して公開していきつつも、トーン&マナーについては一貫性を持たせました。1人の女性でも、バラエティ番組も見ればドラマも見るし、ニュースも見ると思いますが、好みの傾向は同じだと思うからです。

――つまり、それまでは30~40代の女性が忙しさの合間を縫って気軽に視聴できるコンテンツが少なかったところを、「北欧、暮らしの道具店」がそうした女性たちにフィットする番組を提供した、と。その結果、多くの支持を得たということでしょうか。 

基本的にはそういうことだと思います。 

――では、どんな番組なら30~40代の女性に見てもらいやすいと考えたのでしょうか。いろいろな動画を作って試行錯誤しながら見つけていった感じですか。

今アップしているほとんどの動画は、既に「北欧、暮らしの道具店」のWebサイトで記事化されたコンテンツの動画化なんです。記事として一度公開して人気が高かったものを動画化していますから、外れが少ないのはある意味、当然だと思います。つまり、当たったものを動画コンテンツにしているわけで、大ヒットした原作漫画を基にテレビアニメや映画にするのと同じ構図ですね。

青葉家のテーブル第1話:トモダチのつくりかた / 主演・西田尚美「北欧、暮らしの道具店」オリジナル短編ドラマ

『青葉家のテーブル』の映画化と、成功の定義

――わかりました。「北欧、暮らしの道具店」のYouTubeチャンネルで特徴的な点の1つは『青葉家のテーブル』や『ひとりごとエプロン』のような短編ドラマにあると思います。普通、西田尚美さんのような有名女優を起用してドラマを作るところまではなかなか発想が及ばないと思うのですが、結果的にはかなりの話題となって、『青葉家のテーブル』は映画化されることになりました。そもそもなぜドラマを制作しようと考えたのでしょうか。

正直に言うと、「何かいい匂いがしたから」としか答えようがないんですよね。最初は10周年に合わせて、お客さまにお礼を伝えるためのCMを作ろうかなと思って制作会社に遊びに行ったら、そこのスタッフたちと意気投合して「CMではなく、ドラマを撮りませんか?」という提案を受けたのがきっかけです。

そのとき「簡単にドラマと言うけど、どう考えてもエコノミクスが成り立たない」という思いの一方で、「でも何かいい匂いはするな」と感じたんですね。よくわからないけど、何か我々の将来を大きく変えるような、最終的にはエコノミクスの成り立った新しいビジネスの柱が生まれるかもしれない、そのR&Dになるかもしれない、と思いました。これはもう勘としか申し上げようがないです。

ただし、CM制作費として当初考えていた予算は、結果的に7倍になりましたけどね。

――7倍…よく決断をされましたね。

とにかくいい匂いがしたんです。仮に失敗しても事業継続に問題が生じるレベルではないですし、ドラマを作ってプラスの影響が何も生じないのであれば、やめればいい。

お客さまが熱狂してくれるかもしれない取り組みを思いつくことは、数年に1回あるかどうかのレアなことですから、それを逃すわけにはいかないと感じました。お客さまに心から楽しんでいただけるのであれば、収支は後から合わせればいい。お客さまに本当に喜んでもらえると容易に想像できたから、いい匂いがしたんだと思います。

――結果的には『青葉家のテーブル』は視聴回数が非常に多く、映画化もされるということで、ズバリ勘が当たり、成功しました。

「成功」の定義がまた難しいと考えています。『青葉家のテーブル』を広告と捉えた場合、そのコンテンツによって制作費を超える売り上げを底上げできたかというと、計算しようがないのでわかりません。

また、現在は無料で視聴できますので、コンテンツ自体が収益を直接的に生んでいるわけでもありません。そういう状況で、視聴回数が多いから成功と言えるかどうかは微妙だと思います。

今のところ我々がドラマ制作においてマネタイズできているのはタイアップです。『青葉家のテーブル』ではこれまで2社のナショナルクライアントがアナザーストーリーを公開するという形でタイアップしてくださっています。

※『青葉家のテーブル』のタイアップ事例
https://hokuohkurashi.com/note/206296
https://hokuohkurashi.com/note/201689

本当の意味で成功と言えるようになるためには、さらに新たなマネタイズの方法を確立する必要があります。我々はドラマ制作をマーケティングやブランディングの手段ではなく、あくまでも新規事業と位置づけていますので、まだR&Dの段階であり、成功しているとは捉えていません。

『青葉家のテーブル』の撮影風景

様式美に対する徹底したこだわり

――なるほど。では次に、出演者を選ぶ基準のようなものがあれば教えてください。もしくは出演者やスタッフにお願いしていること、避けてほしいと伝えていることはありますか。

我々とお客さまの間では様式美や世界観、トーン&マナーを共有していますので、その範囲から逸脱したキャスティングはしませんし、劇中に出てくる部屋や洋服、ヘアスタイルなどを含む美術的な部分についても様式美の中で善しとされているところに収まらないと期待に応えられません。

これは外部の人からすると、微細な差に見えると思います。「そんなのどっちでも同じでしょ」と。でも、様式美を共有している側からすると、その微細なズレが気になって仕方がないんです。「ドラマを見たけど、何か違う…」とお客さまをがっかりさせるわけにはいきません。これが様式美を共有しているコミュニティに対して気をつけなければいけないポイントです。

そのため、制作の立場である我々は、美術へのこだわりをプロデューサーや監督に丸投げすることなく、信頼できる方に美術監督をお願いしていて、我々のスタッフも積極的に参加します。『青葉家のテーブル』では監督と同じくらい重要な役割として美術監督を位置付けています。それくらい我々にとっては、美術が重要なんです。

――それは特徴的ですね。

そうですね。ですから「ドラマを外部に発注する」という考え方を我々は取りません。我々も企画を出すだけでなく、脚本にも手を入れ、演出、編集、カラー・コレクション(色彩の補正)にも立ち会っています。制作会社に丸投げして、納品されたものに我々の名前を付けて出しているわけではないのです。そこは徹底して意識しています。

――それだけのコストや手間、時間をかけてコンテンツを作った結果、わかったことは何ですか。

テキストと写真だけのメディアでリーチできる範囲と、動画でリーチできる範囲では大きな差があるということです。より多くの人にたくさんの時間を使っていただくことに向いているのは、明らかに動画です。メディアとして考えると、動画の成長可能性には圧倒的な天井の高さを感じます。

――細かいところですが、動画のタイトルの付け方やサムネイルに置く文字の載せ方などはどのあたりまで意識していますか。

もちろん考えてはいます。ただ、それはあくまでも守るべき規範としてのトンマナを逸脱しないことが大前提です。視聴回数が伸びることも大事ですが、そこから得られる広告収入などは我々にとって大きくありません。何でもいいから視聴回数を伸ばしたいわけではなく、トンマナの範囲内で最大限できることを追求しています。特別なことではなく、皆さんが考えているのと同じようなことしかしていないと思います。

――YouTubeのコメント投稿をオフにして、別に投稿フォームを設けているのは、どういう理由からでしょうか。

我々の動画は、我々自身がYouTuberのような立場で視聴者と対峙しているのではなく、出演者の方々が我々の代わりに向き合っています。コメント投稿を自由にできるようにすると、管理されていないいろいろなコメントに直面する負担を出演者がかぶることになります。たとえコメント投稿を開放したほうがYouTubeに評価されて視聴回数が伸びたとしても、そのような精神的負担を出演者の方々に強いることは本意ではありません。

――なるほど、それは良い考えですね。

だから出演者の方々に「あのドラマには出たくない」とは思われにくいのではないでしょうか。「私もああいうドラマに出てみたい」と思っていただける環境づくりに引き続き努めていきたいと思います。

「北欧、暮らしの道具店」のドキュメンタリー「うんともすんとも日和」

映像レーベル立ち上げへの挑戦

――最後の質問ですが、これから作っていきたい動画、ドラマなどはありますでしょうか。

我々は今、映画の買い付けを始めようと考えています。基本的には新しい事業として、配給会社というかコンテンツパブリッシャー、映像レーベルになることを意識しています。仕入れた映画やオリジナルドラマ、ドキュメンタリーを制作してWebや映画館で流したりするほか、場合によってはTikTokで流すような短尺動画を作ったりして、いろいろなチャレンジをしていくつもりです。

なぜ映像レーベルを目指しているのかというと、膨大な量の動画の中からお客さまが自分に向いた作品を容易に選べるようにするためには、作品という概念の上にトンマナを保証する存在があったほうが選びやすいと思うからです。

例えば、ジブリであれば、宮崎駿さんが監督ではない作品であっても、ジブリファンの多くは見るでしょう。音楽でいうと、ブルーノートというレーベルのファンなら、ブルーノートがイチ推しする新人の作品が出てきたら一度聴いてみたいと思うのではないでしょうか。

我々の構想は、「北欧、暮らしの道具店」として統一されたスタイル、トンマナの映像作品だけを出すレーベルを作ることです。ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティ、アニメなどさまざまなジャンルの作品を提供しつつも、「『北欧、暮らしの道具店』の作品なんだから、おそらく自分の好きなスタイルだろう、一度見てみようか」とお客さまに思っていただけるような映像レーベルの確立を考えています。

――すごい構想ですね。いつ頃から考えていたんですか。

『青葉家のテーブル』の第1話を作り終わった頃くらいですね。

――もともと映像ビジネスに興味はあったんですか。

全然ないですよ。ただ、ドラマ作りをする中で、映像業界や一緒に仕事をする人たちがいろいろな課題を抱えていることに気づきました。そのうちに、どうすれば課題解決に貢献できるのだろうかと、だんだん興味が湧いてきたんです。

課題点があるということは、すなわち事業機会を意味します。作る人と使う人の間に立つことが小売という事業ですが、動画という領域でも作る人と見る人の間に立って、我々が貢献できることはあるのではないか。世の中に存在する膨大な量の動画の中から、お客さまに喜んでいただけるコンテンツだけをセレクトショップのようにキュレーションするという立ち位置で、我々が果たせる役割があるのではないか。今はそう考えています。

――素敵ですね。本日はありがとうございました。

Profile
青木 耕平(あおき・こうへい)
株式会社クラシコム代表取締役社長。
1972年、埼玉県生まれ。2006年に妹の佐藤友子さんとクラシコムを創業。2007年ネットショップ「北欧、暮らしの道具店」立ち上げ。「フィットする暮らし、つくろう。」をミッションとして、キッチン用品や生活日用品からインテリア雑貨、ファッション、コスメなど、さまざまな商品を展開。

北欧、暮らしの道具店
https://hokuohkurashi.com/

 

 

 

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちら目指すは映像レーベル。「北欧、暮らしの道具店」のYouTubeチャンネルが人気の理由とは?―株式会社クラシコム代表・青木耕平インタビュー

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