「語り」で読み解くコロナ以降の行動変化(全4回)

コロナ後の「顧客についての仮説」を正しく更新するには? 新たな“当たり前”を読む

新型コロナウイルスによる生活環境の変化によって、「顧客についての仮説」も更新を迫られています。顧客のナラティブ(語り)をどのように読めば、仮説を正しく更新できるのか。そのポイントをコレクシア・村山氏が解説します。(第4回・最終回)
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新型コロナウイルスによる生活環境の変化によって、「顧客についての仮説」も更新を迫られています。顧客のナラティブ(語り)をどのように読めば、仮説を正しく更新できるのか。そのポイントをコレクシア・村山氏が解説します。(第4回・最終回)

現在のマーケターは仮説不足

本連載の第3回までの内容を通じ、「顧客の数値を見る」のではなく、「顧客に直接聞く」という方法、「ナラティブ分析」について解説してきました。筆者がナラティブ分析をマーケターの皆さまにおすすめする最大の理由は、「最も効率的に顧客についての仮説を更新できるから」という点に尽きます。

普段、マーケターの皆さまは、自分たちの顧客がどのような人であり、どういった時にどんな反応をするのか、という「顧客についての仮説」を前提にマーケティングを組み立てていると思います。より「自分ゴト」と思ってくれるように訴求する施策をつくるときや、よりクリックしたくなるコンテンツやクリエイティブをつくるときも、「顧客についての仮説」を前提に考えているでしょう。

特に、売上データやアクセスデータなど、数値のデータを見て「これはこの施策がうまくいったからだろう」といったデータの背景や原因を推測ができるのは、ひとえに「顧客についての仮説」が十分に頭の中にあるからだと言えます。

ところが、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で生活者にとっての「当たり前」は更新されてしまいました。顧客がどのように認識し行動するのかといった、今まで描いていた「顧客についての仮説」は、新型コロナウイルス流行以前のものとは変わってしまっているのです。今もしマーケティングのデータを見て、「原因がわからない」、「理由に確信が持てない」といった悩みを抱いているのであれば、間違いなくあなたに足りないのは「顧客についての仮説」です。

生活者の仮説を更新すべき点を「当たり前」の変化から読む

今回は、今まで紹介してきたデータをあらためて俯瞰し、生活者に対しての仮説を更新すべきポイントを4つ紹介していきます。

顧客についての仮説を更新したいときに便利な方法は、「どんな“当たり前”が崩れたのか」という視点でナラティブを読んでいくことです。生活者が今まで当たり前に行っていたことが、今回の新型コロナの影響でどのように変化し、どのような「新しい“当たり前”」になったのかを読んでいきます。

1. プラットフォームに対する「当たり前」の変化

プラットフォームについての認識が更新されている

まずは、生活者が当たり前に使っていたプラットフォームの変化についての仮説を説明します。普段は「情報を見るのはテレビ」とか、「ゲームを買うのはパッケージで」といった当たり前を抱いていた生活者は多くいると考えられます。

しかし新型コロナの影響によりテレビで得られる情報が、コロナの関連情報に偏ってしまったり、外出を控えつつ自宅で娯楽を楽しむためにオンラインプラットフォームを利用する機会があったりしたことで、「動画サイトの方がテレビよりもためになる」「オンラインでたくさんのコンテンツが楽しめる」といったように、プラットフォームについての「当たり前の認識」が更新されている可能性があると考えられます。

現在、顧客獲得や定着がうまくいっている商品・サービスにおいて、この仮説のようにプラットフォームへの認識の変化が機能している可能性があると言えるでしょう。

2. 普段の最寄り品についての「当たり前」の変化

食品のような「最寄り品」についての認識が更新されている

次に、食品についてのナラティブから、普段は近所の店で買っている最寄り品についての「当たり前」の変化の仮説を紹介します。外出自粛などにより、普段と同様の商品を購入できなくなったという環境の変化が起こりました。

その結果、宅配を利用する機会を得たり、品薄により代替商品を選んだり、といった変化が起き、「普段だったら選ばなかったものをトライアルした」という状況となりました。これらのトライアルした顧客が今後も定着するかは、顧客にとっての「当たり前」が更新されたかに影響されます。

元々持っていたと考えられる「日々の食品(最寄り品)はその日に安いものを買う」という「当たり前」が更新されていないのであれば、顧客は新型コロナの流行が過ぎ去ると同時に戻ると考えられます。しかし、ナラティブにもあるように、この機会に「今まで気づいていなかった価値に気付いた」という経験をした人が多いほど、定着が進むと考えられます。

現在顧客が増え、一時的ではなく定着の傾向が見られる商品・サービスの場合、何らかの「今まで気づかれていなかった価値に気付いた」という顧客の変化が原因にある可能性があると言えます。

3. 移動の変化に伴う「ついで買い」の変化

それまで行っていた「ついで買い」に疑問を持ってしまっている

次は逆に、顧客が変化したことで消費を控える・利用をやめたといったケースのナラティブを読んでみましょう。このナラティブは、移動自粛の影響を受け、移動のついでに寄っていたコンビニの利用をしなくなった結果、「ジュースやお菓子の消費が減った」という内容です。

この生活者はジュースやお菓子などの嗜好品について「無駄遣い」と感じてしまっています。移動を控えコンビニでの購入が一時的に下がっただけではなく、それまで当たり前に行っていた「ついで買い」自体に疑問を持ってしまったということです。今後も「ついで買いは無駄遣いになるので控えるのが当たり前」という考え方が定着してしまった場合、ジュースやお菓子の消費がすぐには元のように戻らない可能性があります。

ジュースや菓子メーカーのマーケティングとして対策を立てるのであれば、それらの商品の「必需品」としての側面を強めたポジショニングをしたり、コンビニなどの「ついで買い」依存が強いチャネルよりも、まとめ買いができるチャネル含めたチャネル戦略自体の見直しをしたりすることが必要でしょう。

4. 「魔法が解けてしまった」顧客の変化

そもそも「服を買う」という当たり前自体が崩れてしまっている

4つ目の最後の例として、アパレルに関するナラティブを紹介します。筆者はさまざまなコロナ前後のナラティブを読んできましたが、アパレル関係は最も深刻な「当たり前」の変化が起こってしまったカテゴリの一つだと捉えています。

ナラティブに語られているように、「買うのが馬鹿らしく感じた」「そんなに服は必要ないとわかった」というように、一時的に外出が少なくなったから需要が落ちているのではなく、そもそも「服を買う」という当たり前自体が崩れつつあるということが読み取れます。

この傾向は商品の価値を「社会的便益」に依存しているものに共通して起こっていると考えられます。社会的便益とは、「他者や世間からよく見られたい(悪く見られたくない)」という動機に応える商品便益を指します。化粧品や装飾品なども社会的便益に依存する傾向は強いと言えます。

しかし化粧品やアパレルすべてが、おしなべて危機的とも言えません。なぜなら商品の便益は一つではなく、複数の側面を持っているからです。たとえば化粧品の中でも、「自分を他人により魅力的に見せる」という良さもあれば「自分自身の肌や体の状態を健康で良い状態にする」という良さもあります。

前者は社会的便益の側面が強いですが、後者は自分自身を整える文脈であり、社会的便益との関係は前者ほど深くありません。このように、アフターコロナで変化した生活者に対応したポジショニングをするには、自社ブランドのどのような側面を変化に対応させるのか、という視点が必要です。

「顧客についての仮説」を更新するためのその他の視点

今回の記事では、顧客にとっての「当たり前」の変化、という視点でナラティブを読むことで、マーケターが「顧客についての仮説」を取り入れる方法について紹介しました。「当たり前」を読み取る他にも、いくつかの「顧客についての仮説」を更新する方法がありますので、最後に3つ紹介したいと思います。

「それでも選んでくれている顧客」の仮説を更新する

マーケターによっては、多くの顧客を失ったケースもあると思います。こういった場合に打開するための仮説は、「それでも選んでくれている顧客」の中にあります。それを単に「ファンだから」という解釈に留めておくのではあまり示唆が得られません。

その顧客はなぜ好きになってくれたのか、そのきっかけは何か、他では代わりがきかないのはなぜか……といったナラティブを得るべきです。失った顧客を見るより、それでも成功している部分から学び、新たな顧客獲得の「勝ちパターン」の仮説を得ていきましょう。

「それでも去っていった顧客」の仮説を更新する

うまくいっているときほど、落とし穴に注意すべきです。全体ではマーケティングが成功していたとしても、顧客が離反する抜け道はふさぐべきと言えます。離反した顧客にナラティブ分析を行えば、自社が競合にどのような点で負けているのかを明らかにできます。

今回の新型コロナの影響では、多くの顧客が自分の選ぶ商品やサービスを変えています。現時点で自社にダメージはなくとも、今後の顧客変化により状況が変わる可能性はあります。離反の仮説についてもこの機会に更新していくことが望ましいでしょう。

「真の競合」の仮説を更新する

「競合」と言えばカテゴリ内の競合を指すことが多いですが、コロナの影響で、カテゴリをまたいだ顧客の移動も多く見られています。前回の記事でも「缶コーヒー」から「レギュラーコーヒー」への移動について解説しました。缶コーヒーブランドの競合は缶コーヒーだ、と決めつけて同じカテゴリだけを見ていては、どこに顧客が流れているのかを見失ってしまいます。

自社を選んだ顧客と、自社から出ていった顧客、それぞれについて「何の代替で自社を選んだ/自社の代替で何に離反した」のナラティブを得て、自分たちが今後競う相手が何であるかを正しく把握することが必要です。

以上、4回にわたって、ナラティブを使って顧客の変化を捉える方法を説明してきました。今回に限らず、市場の顧客認識はさまざまな影響を受けて常に変化しています。革新的な商品の登場であったり、他業界の参入であったり、事件や事故による影響であったりと、生活者の認識に影響を及ぼすイベントは常に起こりえます。マーケター自身の持つ顧客の仮説を更新することは常に必要です。ナラティブ分析を活用して、マーケターが常に的確に顧客を捉え、適切な価値を生活者に届け続けていくことを願っています。

調査概要

  • 【調査対象】男女 20歳~69歳(日本)
  • 【調査方法】Webアンケート調査
  • 【調査期間】2020年4月
  • 【有効回答数】3,023名

※調査データの詳細はコレクシアのサイトよりダウンロード可能
https://marketing-casestudy.com/download/form-20200610/

本連載で解説している分析手法が書籍として発売決定!

「天才でなくても売れる商品は作れる」。本連載で解説している「ナラティブ分析」の手法などに基づきながら、顧客体験を軸にしたマーケティングを実践するための書籍が発売されます。

100以上のブランドで5,000件以上のカスタマージャーニーを分析してきた著者が、顧客理解を具体的な施策や企画につなげる仕組みを伝授します。村山幹朗『顧客体験マーケティング 顧客の変化を読み解いて「売れる」を再現する(Web担選書)』2020年8月24日発売予定。

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