「語り」で読み解くコロナ以降の行動変化(全4回)

コロナの顧客理解を施策に落とし込むには? 「価値成立プロセス」で設計する

新型コロナの影響で購買行動が変化した顧客の「語り」を分析し、商品の新たな強みを発見した前回。今回はその発見を具体的な施策に落とし込む、便利な「型」を解説します。コレクシア・村山氏の集中連載。(第3回)
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新型コロナの影響で購買行動が変化した顧客の「語り」を分析し、商品の新たな強みを発見した前回。今回はその発見を具体的な施策に落とし込む、便利な「型」を解説します。コレクシア・村山氏の集中連載。(第3回)

顧客理解を「顧客体験」の設計につなげるカギ

前回、在宅勤務期間中に缶コーヒーからレギュラーコーヒーに切り替えた顧客のナラティブ(語り)をデータとして収集し、ナラティブの内容を分析しました。その結果、レギュラーコーヒーは「在宅で仕事をしている人が、自宅にいながらにして“休憩スイッチ”を入れて休息モードに切り替えられる」という価値があったことで、新たに受け入れられたと読み解きました。

とはいえ、ここまでに行ってきた分析自体は、従来の市場調査、インサイト発見、エスノグラフィー等、さまざまな顧客理解の手法でも導けるものです。しかし、従来の顧客理解の手法はあくまでも顧客を理解することに注力したもので、その後に具体的な顧客体験を設計することをあまり念頭に置いていません。

市場調査をした経験があるマーケターであれば、「調査結果で顧客は理解したけれど、具体的にどう攻めればいいか見えない」とか、「市場調査の結果が出てから、実際に施策に落とし込むところでひどく苦労した」といった経験に心当たりがあるのではないでしょうか。

顧客を理解するための調査・分析手法は非常に多くの方法がありますが、顧客理解の結果を具体的な顧客体験に落とし込むための方法は多くありません。「顧客理解」を「顧客体験」に変える部分は、マーケターの属人的な発想に委ねられているのが現状です。

そこで今回の第3回では、前回までに行ったナラティブ分析の結果を用いて、実際に顧客体験ストーリーを作ってみようと思います。顧客理解を顧客体験の設計につなげるカギとなるのは、「価値成立プロセス」という構造です。

顧客体験ストーリーの型となる「価値成立プロセス」

広告クリエイティブや顧客体験設計の可能性は無限にあり、そのクリエイティビティを一定の形に押し込めてしまうべきではありません。しかし、あらゆる施策はマーケティングの一端であり、どのような顧客体験であっても「ブランドを生活者に受け入れてもらう」という目的を持っていることに違いはありません。「価値成立プロセス」とは、筆者が延べ5,000件以上のカスタマージャーニーを作成する中で、「ブランドが生活者に受け入れられるプロセス」を一般化した構造であり、ナラティブを観察して得られた情報を組み立て、再構成するために使える“型”です。

【価値成立プロセス】

  1. 所与の現状認識(当たり前認識)
    顧客は現状の体験を「当たり前」と思っている。特に問題意識があるわけでもなく、価値を感じているわけでもない。この現状体験に対する新しい視点や捉え方が、広告などを通して提案される。

  2. 課題感の発生
    当たり前と思ってきたことが当たり前ではなくなることで、現状の体験に課題感が発生、もしくは現状の体験の価値を再認識する。

  3. 価値受容
    発生した課題もしくは、再認識された価値とブランドの便益が整合することで、顧客にとっての価値が成立する。

  4. 生活変化
    購買後の生活が顧客の理想や規範に近い体験へと変化することで、「この体験が得られるのはこのブランドだけ」という体験とブランドの同一化が起きる。

例として、実際の広告施策をこの「価値成立プロセス」で解説していきましょう。次の図では、YouTubeで閲覧できる芳香剤のCM動画について、筆者が価値成立プロセスに沿って解釈して分析したものです(実際にどのような狙いで広告が設計されたかについて、筆者は知りません)。

芳香剤ブランドの価値成立プロセス。以下の動画をもとに、筆者作成

①所与の現状認識

このCM動画ではまず、家族で出かけようと車に乗ろうとした子供が、社内のニオイが気になると発言し、そこにお母さんが「芳香剤つけるから」と話をしています。ここまでの描写が「①所与の現状認識」に該当します。「車のニオイには芳香剤で対応すれば大丈夫という“当たり前”」を持つ生活者を描いています。

②課題感の発生

次に、お父さんがアップになり心の声で「芳香剤の匂いもキツイ~」と話します。これは先ほどの「①所与の現状認識」と対立し、生活者に「芳香剤があっても芳香剤の匂いがキツイこともある」という課題感に気付かせている描写です。これを「②課題感の発生」と呼びます。

③受容価値

その後に商品が登場し「無臭化」という価値を提示します。これが「③受容価値」です。商品の便益を押し出そうとすると、どうしてもこの③を中心とした描写を描きがちですが、①や②のように、「どのような生活者の、どのような課題感に対して、ブランドは解決策を提示するものなのか」という構造があることで、③の価値提案が活きるというわけです。

④生活変化

そして最後に、家族で快適にドライブしている様子が描かれます。これが「④生活変化」です。「③受容価値」ですでに商品の便益を伝えていますが、その先に生活者にとってどのような生活の喜ばしい変化がもたらされるのか、を描いています。この生活変化までを描くことで、この消臭剤ブランドが単なる「においを消してくれるもの」ではなく、「家族のドライブを快適にしてくれるブランド」として生活者に受け入れられることを狙っているわけです。

今回はCM動画で解説しましたが、価値成立プロセスは「ブランドが生活者に受け入れられるプロセス」であるため、さまざまな顧客体験設計の基礎として応用可能です。ではいよいよ、この価値成立プロセスを使って前回、ナラティブ分析した「レギュラーコーヒー」のナラティブを顧客体験に組み替えていきましょう。

「レギュラーコーヒー」の例を価値成立プロセスに当てはめる

前回のナラティブ分析では、「缶コーヒーを都度自動販売機に買いに行っていた人」は、「在宅勤務中に仕事モードから休憩モードに切り替えたい」と考えていたため、現在は「ドリップコーヒーを自分で都度淹れて飲んでいる」ということが整理されていました。以上のナラティブ分析結果を価値成立プロセスに当てはめてみましょう。

レギュラーコーヒーの価値成立プロセス

「①所与の現状認識」では、この人にとっての“当たり前”、つまり「仕事中は好きなタイミングでコーヒーを飲んでいる」というナラティブが当てはまります。

次に「②課題感の発生」では、仕事中でもリフレッシュしたくなるタイミングで、コーヒーを飲みたくなる、という課題感を描写しています。

そして「③受容価値」では、①②を経て「外出せずにコーヒー飲んでリフレッシュしたい」という課題感を抱いた生活者に、「淹れる時間があるから、家にいながらにしてリフレッシュできるドリップコーヒー」という価値を提示します。

その結果、「④生活変化」では、リフレッシュした後に再び仕事に集中できるようになり、良い仕事ができるようになる、という生活変化が描かれます。

以上のように、前回行ったナラティブ分析の結果を「価値成立プロセス」に当てはめてみました。では最後に、この価値成立プロセスから具体的な顧客体験ストーリーを描いてみましょう。

「レギュラーコーヒー」の顧客体験ストーリーを描く

価値成立プロセスに基づいた、「レギュラーコーヒー」の顧客体験ストーリー

価値成立プロセスを使って、実際にCM動画を制作することを想定して顧客体験ストーリーを描写してみました。今回は新型コロナの影響で在宅勤務になったエンジニアを主人公とし、仕事に行き詰ったときにレギュラーコーヒーを淹れることで、「淹れる時間」自体がリラックスをもたらし、その後自分の仕事もはかどった、というストーリーとしています。

つまりこのストーリーは、「決して快適ではない在宅勤務をしている人」の「外に出ずにリフレッシュしたい」という課題感に対して、レギュラーコーヒーの「家にいながらにして休憩スイッチを入れられる」という価値を示すことで、「その後の仕事もはかどる」という生活変化をもたらすブランドである、という内容になっています。

実際にこのストーリーを描写として描く際には、価値成立プロセスに書かれている内容を描写としてどう「強調」すべきかを掘り下げています。たとえば①所与の現状認識で「仕事をしている最中」という内容がありますが、ストーリー全体を踏まえると優雅にキレイな書斎で仕事がはかどっている人よりも、「汚い部屋」「散らかった中で在宅勤務中」というような、決して在宅勤務がはかどるような状況ではないほうが、その後の「レギュラーコーヒーでのリフレッシュ」が活きると言えます。このような強調を加えて描写することで、より鮮明な顧客体験を設計していけます。

今回はCM動画として完成させていますが、同様にWeb上での顧客体験や、リアルイベントでの体験など、さまざまなコンタクトポイントを踏まえた顧客体験についても、「価値成立プロセス」を基に設計していくことが可能です。このようにナラティブデータを用いれば、顧客に対しどのようにブランドの価値を受け入れてもらうべきか、というストーリーが描けます。

次回は、「仕事の隙間時間市場」の変化についてのまとめと、今後マーケターが変化に対応するために、どのように“顧客の仮説”を更新していくべきかについて解説します。

本連載の事例を無料ウェビナーにて解説

「実践!変化を捉えたマーケティングプランニング」

調査概要

  • 【調査対象】日本全国 20~69歳 男女
  • 【調査方法】Webアンケート調査
  • 【調査期間】2020年5月29日
  • 【有効回答数】233人(この中から1件のナラティブを抜粋して分析)

本連載で解説している分析手法が書籍として発売決定!

「天才でなくても売れる商品は作れる」。本連載で解説している「ナラティブ分析」の手法などに基づきながら、顧客体験を軸にしたマーケティングを実践するための書籍が発売されます。

100以上のブランドで5,000件以上のカスタマージャーニーを分析してきた著者が、顧客理解を具体的な施策や企画につなげる仕組みを伝授します。村山幹朗『顧客体験マーケティング 顧客の変化を読み解いて「売れる」を再現する(Web担選書)』2020年8月24日発売予定。

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