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MAツールを社内で活用するには? 営業担当者の意識を変えるためにやったコト

日立製作所、LINE Pay、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの3人が、社内でデジタルマーケティングの組織づくりをすすめるために必要なコトをウェビナーで語った。

マーケティングの組織づくりは、小さな成功体験を積み重ねていくこと―――。2020年5月13日に開催されたオンラインセミナー「2019 Marketo Champion 座談会」の登壇者たちは、そうまとめた。約1時間半のウェビナーを通じて、組織にマーケティングを根付かせた経験やノウハウを語った。

左から、日立製作所の佐藤正樹氏、LINE Payの齋藤仁氏、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの谷風公一氏。
3社は2019年のMarketo Champion : Marketing Team of the Yearに選ばれた

ウェビナーはマーケティングオートメーション(MA)ツール「Marketo Engage」のユーザーに向けた内容だ。同ツールは米Adobeが2018年10月に買収した米Marketoが開発した。顧客の属性ごとに設定した販促メールを自動送信、メールの開封や資料請求などのユーザー行動から関心の高さをスコア化など、より良い顧客体験の設計を通じて、収益プロセスの加速に貢献することが可能だ。

登壇したのは、Marketo Engageを使って課題解決に取り組んだ「Marketo Champion 2019(マルケトチャンピオン)」に選ばれ3社の担当者たちだ。3社は、マーケティング組織作りや活性化に特に尽力した「Marketing Team of the Year」を受賞している。

MA導入後、成果を生むには、まず営業からの信頼を得る

今でこそMarketo Engageを使って課題解決に取り組み、2019年のMarketo Championとして表彰されるほどMAツールを活用している3人の担当者だが、最初から企業の中でMA導入がうまくいっていたわけではない。

MA導入当時は、MAツールの価値をわかってくれる仲間が少なかったという。登壇者の一人、日立製作所の佐藤氏は、デジタルマーケティングの活動を始めた当初を振り返って次のように話す。

最初は手探りで、「こんな情報がある」と営業に声をかけるようなことをやっていました。でも、「そんなデータは要らない」「営業の方が顧客のことを知っている」と言われてしまいました(日立製作所・佐藤氏)

活動を始めた当初は「営業のことをわかっていない」などとあしらわれたが、「ではどんなデータが欲しいのか」と地道にヒヤリングを重ね、少しずつ営業担当者からの信頼を勝ち得ていったという。MAツール導入のきっかけは、段々と増えていったデータ集計が手一杯で、データ分析や施策実施に手が回らなくなってきたからだという。

メルマガ・Webのアクセス状況を手動で集計することに手が回らなくなってきた

LINE Payの齋藤氏も、営業担当者への歩み寄りからデジタルマーケティングを組織に広げていった。

元々はスマートフォンゲーム開発などをしていたという齋藤氏。経験や知識はなかったというが、「LINE Pay」の加盟店を増やすためのマーケティング施策を任されることになったという。最初に協業が広がり始めた成功体験は、電話で営業活動をするインサイドセールス部隊との連携だった。

「メール送信の自動化」からMAツール導入が始まり、実績を重ねて徐々に社内協業の範囲を広がっていった

インサイドセールスでは、電話での営業活動後に、資料をメールで送る作業があった。その作業自体は時間がかかるものではないが、1日に何件もメールを送るので担当者にとって面倒な作業であった。そこで齋藤氏は、メール送信の自動化からMAツールを社内に広げていった。

仮に1通のメール送信に5分かかるとしたら、自動化することで100通なら、500分も節約できます。手動で送るより送信先を誤るといった事務リスクも減らせますよね、といったように話していきました(LINE Pay・齋藤氏)

マーケティングの効果はほとんどない業務の効率化としての導入ではあるが、MAツールと齋藤氏が営業の役に立ったという最初の成功体験だった。

その後もセミナー申し込みに関わるメール配信を自動化したり、申込み用のフォームを作ったりと、齋藤氏は少しずつツールの導入範囲を広げていった。MAツールに顧客の情報が集まりだすと、集まった情報を整理して電話営業のリードへと連携の範囲を広げていった。管理するデータが増えてくると、少しずつだが加盟店契約という、本来のMAツールとしての成果が現れ始めたという。

成果が出てくると、客先に出向いて商談するフィールドセールスの担当者からも関心が集まりだした。フィールドセールスの担当者が電話営業からリード顧客の情報をもらって訪問するなどの連携も始まったという。

既存業務の自動化に留まらない

LINE Payがデジタルマーケティングを組織に展開できたポイントとして、業務プロセスも含めてマーケティングを導入していったことも重要だったかもしれない。もともと営業チームやセミナーチームなどは、既存の業務プロセスを持っていたが、齋藤氏がMAツールを使って業務を巻き取れるように手順から見直していった。

その結果、営業チームやセミナーチームなど各チームでツールの使い方やプロセスが標準化され、効率化しやすくなった。

同じツールをそれぞれのチームが連携して使うので、表示される数字や用語も共通になってきました。それでチーム間のコミュニケーションもスムーズになりました(LINE Pay・齋藤氏)

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズも、既存の業務プロセスに縛られすぎずにMA導入を進めたという。同社の谷風氏は、リードライフサイクルを定義した当時を振り返って次のように話した。

業務を変える時には、どうしても「今、自分はできない」「このチームはそう動いていない」といったように現状から否定しがちです。しかし、一旦現状は忘れて、こうあるべきという将来像を皆で建てるのが大切です(ケンブリッジ・谷風氏)

日立製作所の場合もLINE Payの場合も、少しずつ連携を広めながら年単位の時間を書けて営業やセミナーなどの担当者などを巻き込んでいった。これに対してケンブリッジの場合は「コンサルらしいやりかた」(谷風氏)で一気に導入を進めた。関係者を集めて本質的な議論をし、約1か月でリードライフサイクルの定義や業務プロセスの変更を進めていったという。社員数が150人程度と少なく、事業がコンサルティングサービスのみというわかりやすさも早期展開に寄与したかもしれない。

谷風氏は、集めた関係者に主体的に議論してもらうため、まずは課題を共有するところから関係者に説明をした。以前のケンブリッジは、セミナー開催や営業活動はしていても、どのようにして顧客のリードライフサイクルが回っているかそれぞれ把握できていなかったという。来た問い合わせに応える、いわばリード任せの状況に近かった。

単価が高く商談化までに時間がかかるコンサルティングサービスは、景気の影響を受けやすい。リーマンショックの時のトラウマもあり、谷風氏の状況説明に関係者の間で「ヤバい」という感覚を共有できたという。

谷風氏は、併せてリードライフサイクルの重要性と他社の取り組みを関係者に共有した。こうして、営業やセミナーの担当者、コンサルタントなどと、マーケティングに対する意識を共有でき、本質的な議論ができたという。「売っているのは『コンサルティング』ではなく、『プロジェクトの成功』である」という合意も、ここで得られた。

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズが定義したリードライフサイクル。赤い部分が新たにアプローチが必要だとわかったリード顧客の状態。リード獲得から案件につながるまで、長い場合で5年間かかる

成果は早速現れた。施策としてMarketo Engageを導入すると、2週間ほどで関心の高さを示すスコアが1000を超すリードが見つかったのだ。ケンブリッジではスコア50を超えたらインサイドセールスが連絡するルールとしていたので、まさに桁違いのスコアだ。

このリードの情報は、あるグループ子会社の社長として記録されていた。決裁権は大きくなく、地方の会社ということもあって従来の体制であれば放置されがちなリードだった。しかし、インサイドセールスの担当者が連絡してみると、親会社の執行役員へと異動になっていたという。ちょうど本社でプロジェクトを進めようと、ケンブリッジへの相談を検討していたのだ。従来であれば気づかなかった顧客の発見で、MA導入の確かな手応えになった。

谷風氏は、マーケティングを組織に広げる心構えとして、次のように語った。

高すぎる目標は息切れしてしまう。高スコアの顧客発見のように身近な手応えを積み重ねていくことが重要です(ケンブリッジ・谷風氏)

ウェビナーでは、たびたび「ぼっちマーケター」という言葉が使われた。既存の組織にデジタルマーケティングを根付かせるため、担当者どうしても少人数から始まるからだ。既存の業務プロセスもあり、担当者は大勢に対して少しずつ働きかける忍耐力が求められる。谷風氏が言うように、一気に成果を求めるだけでなく、少しずつ手応えを積み重ねる意識が肝要なのかもしれない。

ウェビナーを見に来た参加者は、Marketo Engageを使い始めたばかり(シングルチャネル単発のコミュニケーション、37.1%)、シングルチャネルの施策が回り始めた(継続的な施策、41.4%)担当者が多かったようだ。3社のチーム作りに関する対談には、匿名のチャット機能を通じて共感の声が集まった。

視聴参加者から、「なかなかエクセル依存から抜けられない」といった声が投稿されると、登壇者たちは「ツール導入が進んでも、エクセルは無くなりはしない」と回答。臨機応変な対応が必要になることも多いマーケティングの現場では、表計算ソフトを全く使わなくなるといったことにはならないようだ。ツールにこだわりすぎると、かえって柔軟な施策が取りづらくなるかもしれない。

視聴参加者からの声で特に多かったのは、「営業担当がデータ入力に協力してくれない」といった内容だ。各社の取り組みでも、しばしば「営業とマーケティングとの壁」といった言葉が登場していた。

デジタルマーケティングでは、ツールで自動収集できるデータだけでなく、営業担当者に入力してもらう顧客のデータが欠かせない。しかし、営業担当者本人の業務に活かされると実感しづらいためか、データ入力に協力してもらえずデータ収集に苦労している担当者も多いようだ。

日立製作所の佐藤氏などは、こうした視聴参加者の声に大きくうなずいた。同氏も営業担当者に主体的に協力してもらうため、努力を重ねている最中だからだろう。

最初に産業・流通ビジネスユニットと取り組みを進め、その成果を別のビジネスユニットにも展開していきました。社内表彰やマルケトチャンピオン受賞の記事などが、社内で横展開をする上で理解を得るきっかけになりました(日立製作所・佐藤氏)

データ入力など営業担当者に協力を促すには、マーケティングに関心を持ってもらうためのアプローチが必要だ。マーケティングの成果を出すだけでなく、それを社内外に広めることが営業担当者などの主体的な協力を得るために必要なのかもしれない。

デジタルマーケティングを組織に広めるには、担当者が自分の業務の枠から少し超えて社内の理解を広げる。営業やセミナー担当者、開発といった他のメンバーもマーケティングに協力するように少し業務の枠を超える。そんな相互の歩み寄りによって、チーム間の連携が醸成されていくという。

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