『クリエイターのための権利の本』(全6回)

有名なキャッチコピー・キャッチフレーズには「著作権」がないから、勝手に使っていいの?

有名キャッチコピーやキャッチフレーズ、名言 、格言、 有名なセリフなどの「言葉」にかけられる権利について、トラブルにならないために使用上の注意や著作物の基準を確認しておきましょう。俳句、短歌、標語、造語といった個人が創造した文章はどうなのか? 流行語大賞のあのフレーズは?

書籍『クリエイターのための権利の本』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開。

CHAPTER 3 文章・コピー
SECTION 01 キャッチコピーには著作権がないから拝借してもいい?

Q. 「いつやるの? 今でしょ!」とか、「すぐおいしい、すごくおいしい」とか、「そうだ 京都、いこう。」とか、有名なキャッチコピー・キャッチフレーズを、堂々とお店の看板やチラシに使っている人がいるけど大丈夫?

キャッチコピー・キャッチフレーズは著作物に該当しないことが多い

結論をいうと、一般的にキャッチコピーやキャッチフレーズのような短い文章は著作物とはならないとされます。

著作物というための要件の一つに「創作性」があります。

キャッチコピーのような短い言葉は世間にありふれています。例えば、「今でしょ!」という言葉は、使うタイミングや場面によっては斬新な表現になるかもしれませんが、その言葉自体に創作性があるとはいえません。そのため「著作物」とはいえず、著作権も存在しないのです。「すぐおいしい、すごくおいしい」や、「そうだ 京都、いこう。」などでも同じで、日常的に使用する、特に目新しさのない短い言葉の羅列なので著作物とは認められない場合が多いのです。

コピーライターや著者が一生懸命考えたフレーズに著作権が発生しないのは釈然としないかもしれません。ですが残念ながら、現行の著作権法ではこのようになっています。多くのキャッチフレーズが、覚えやすく印象に残らせるために、商品やサービスの特徴を短く表現しようとしています。結果として使用している表現に著作物といえるほどの「創作性」が認められづらくなってしまうのです。

Memo

もし自分が創作したキャッチコピーを勝手に使われないようにしたいのなら、特定の商品やサービスとの関連で「商標」を取得するとよいでしょう。商標についてはP080で解説します。

「文章が短い=著作物ではない」とは限らない

しかしながら、「文章が短い=著作物ではない」とは限りません。俳句は五・七・五の17字で、短歌は五・七・五・七・七の31字で構成されますが、著作物に該当する場合が多いです。その違いは創作性があるかどうかになります。

どこまでがありふれた表現であり、どこから創作性が認められるのかは個別に判断されるもので、明確な基準はありません。ただ、有名なコピーの拝借を続けてしまうと、周囲から「創造性に乏しい人」という評価を下されてしまうかもしれません。クリエイターとしては、この方が致命的といえるでしょう。安易に模倣することは避け、自分自身で誇れるようなコピーを考えましょう。

キャッチフレーズの著作権侵害を争ったケース

キャッチフレーズの著作権を巡って裁判になった事例もあります。以下に「創作性が認められなかったケース」と「創作性が認められたケース」それぞれについて紹介します。

キャッチフレーズに関する判例(創作性が認められなかったケース)

創作性が認められなかったケースとして有名な裁判例に「スピードラーニング事件」があります。被告の提供する英会話教材のキャッチフレーズが、原告の商品である英会話教材「スピードラーニング」のキャッチフレーズに酷似していると主張し、差止めと損害賠償を求めて訴えた事件です。

●原告(控訴人)キャッチフレーズ

①音楽を聞くように英語を聞き流すだけ
 英語がどんどん好きになる
②ある日突然、英語が口から飛び出した!
③ある日突然、英語が口から飛び出した

●被告(被控訴人)キャッチフレーズ

①音楽を聞くように英語を流して聞くだけ
 英語がどんどん好きになる
②音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達
 英語がどんどん好きになる
③ある日突然、英語が口から飛び出した!
④ある日、突然、口から英語が飛び出す!

知財高裁は、「広告におけるキャッチフレーズのように、商品や業務等を的確に宣伝することが大前提となる上、紙面、画面の制約等から簡潔な表現が求められ、必然的に字数制限を伴う場合は、そのような大前提や制限がない場合と比較すると、一般的に、個性の表れと評価できる部分の分量は少なくなるし、その表現の幅は小さなものとならざるを得ない。さらに、その具体的な字数制限が、控訴人キャッチフレーズ②のように、20字前後であれば、その表現の幅はかなり小さなものとなる。そして、アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると、他の表現の選択肢が残されているからといって、常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち、キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては、個性の有無を問題にするとしても、他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が表れる余地が小さい場合には、創作性が否定される場合があるというべきである。」と判示して、スピードラーニングのいずれのキャッチフレーズについても創作性を否定しました。

ここまで酷似していても、キャッチフレーズが著作物だと認められなかったため、裁判は第一審、控訴審ともに原告の敗訴となりました。

Memo

  • 知財高判平成27 年11月10日( 平成27 年(ネ)第10049 号)
    裁判所ウェブサイト〔スピードラーニング事件控訴審〕
  • 東京地判平成27年3月20日(平成26 年(ワ)第21237 号)
    裁判所ウェブサイト〔スピードラーニング事件第一審〕

キャッチフレーズに関する判例(創作性が認められたケース)

もう一点、今度は逆にキャッチフレーズの創作性が認められた判例があります。これは交通標語事件と呼ばれ、チャイルドシートの普及キャンペーンに使われた標語についての裁判です。

●原告(控訴人)スローガン

ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート

●被告(被控訴人)スローガン

ママの胸より チャイルドシート

東京地裁は、「原告は、親が助手席で、幼児を抱いたり、膝の上に乗せたりして走行している光景を数多く見かけた経験から、幼児を重大な事故から守るには、母親が膝の上に乗せたり抱いたりするよりも、チャイルドシートを着用させた方が安全であるという考えを多くの人に理解してもらい、チャイルドシートの着用習慣を普及させたいと願って、「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という標語を作成したことが認められる。そして、原告スローガンは、3句構成からなる5・7・5調(正確な字数は6字、7字、8字)調を用いて、リズミカルに表現されていること、「ボク安心」という語が冒頭に配置され、幼児の視点から見て安心できるとの印象、雰囲気が表現されていること、「ボク」や「ママ」という語が、対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば、筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。」と認定して原告スローガンの著作物性を認めました。しかし、被告スローガンとの類似性までは認めず、著作権侵害は否定しています。

控訴審でも、「原告スローガンに著作権法 によって保護される創作性が認められるとすれば、それは、「ボク安心」との表現部分と「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との表現部分とを組み合わせた、全体としてのまとまりをもった5・7・5調の表現のみにおいてであって、それ以外には認められない」として、被告(被控訴人)スローガンとの類似性を否定しました。

こちらの裁判では、第一審では交通標語が俳句のような著作物として認められた事例になります。ただし、類似と認められる範囲は非常に狭いことが判示されています。

Memo

  • 東京高判平成13 年10月30日判時1773 号127 頁〔交通標語事件控訴審〕
  • 東京地判平成13 年5月30日判時1752 号141 頁〔交通標語事件第一審〕

流行語大賞のフレーズであっても著作物ではない

「インスタ映え」「爆買い」「ダメよダメダメ」「ありのままで」などなど、流行語大賞で表彰されるフレーズがあります。実はこれらも著作物には該当しません。

文化庁の「著作権なるほど質問箱」の中でも、流行語大賞になるような「ごく短い言葉」や「単語」は一般的に著作物に該当しないと説明されています。

Memo

文化庁「著作権なるほど質問箱」
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000094

まとめ
  • キャッチコピーやキャッチフレーズのような短い文章は著作物に該当しないことが
  • 多い。
  • 俳句や短歌のような文章には創作性が認められるケースもある。
  • 創作性が認められた場合でも、類似と認められる範囲は非常に狭い。

※Web担特別転載では掲載のないページの注釈も原文のまま掲載しています。指定のページやChapterご覧になりたい方は、書籍でご確認ください。

クリエイターのための権利の本
  • 著者:大串肇、北村崇、染谷昌利、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳
  • 発行:ボーンデジタル
  • ISBN:978-4-86246-414-9
  • 価格:2,400円+税

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