「Adobe Sensei」って結局なんなの?アドビのテクニカルエバンジェリストに聞いてきた
皆さん、Adobe Senseiってご存知ですか?アドビが提供するさまざまなデジタルツールに使われているAIの基盤らしいのですが、あまりイメージがつきません。
アドビがアメリカで今年前半に開催した Adobe Summit の「Sneaks」という、開発中のプロダクトをチラ見せするセッションでは、業界を激変させてしまいそうなとんでもないプロダクトたちが発表されました。これらにもAdobe Senseiの技術が使われているんだとか。
そこで、いったいAdobe Senseiって何なのか?というところを、アドビのテクニカルエバンジェリスト 安西 敬介さんに伺ってきました。
Sneaksで発表された、マーケターが求めていたサービスの数々
――さっそくですが、Adobe Summitで発表されていたあのスゴイ技術について教えてください。
「分かりました(笑)かいつまんで3つだけご説明しますね。」
そう言って安西さんが説明してくれたのは以下の3つ。
ビジネスゴールを決めると、ユーザー属性ごとに最適なカスタマージャーニーを生成。どのセグメントのどのユーザーに対して、どのような施策を打つべきか、それに使うクリエイティブの種類なども提案してくれる。
ユーザーごとに最適なプロモーションプランを提案。ユーザーセグメントごとに、どのような画像を使ったほうが良いか、どのタイミングでメルマガを打つべきか、などをレコメンドしてくれる。
動画広告のパフォーマンスを最適化する。動画に何が写っているのか認識し、各SNSごとに最適な尺に動画を自動調整。配信前に各SNSごとにどの程度のインプレッションが出るかまで予測してくれる。
改めて、マーケター垂涎のサービスばかり……!
Sneaksは完成度6割くらいの段階でプレゼンをおこなうセッションなので、果たして実用化されるかはわかりませんが、それでもジャーニーの自動生成や広告効果の予測は、MAといった形でマーケターが長らく求めていたもの。
これらの裏側で使われているAdobe Sensei、ますます気になります。
Adobe Senseiは単一のサービスではなく、テクノロジー群の総称
――Adobe Senseiとはズバリ何なのでしょうか?
「Adobe Senseiはアドビのサービスに共通して適用されるAI技術とマシンラーニングを組み合わせたテクノロジーの総称であり、Senseiというサービスがあるわけではないんです。
もともとアドビのすべてのサービスに何らかのAIが入っていて、それにSenseiという名前が付きました」
Adobe Senseiは、Adobeがもつ150兆のトランザクションデータで学習したAI。Senseiが主に目指すのは、
- 隠れた要因を見つけ出す
- 時間がかかっていた作業を高速化
- 意思決定のサポート
の3つなんだそう。たしかにどれもAIが得意としている領域ですよね。ちなみに、Senseiが使われている代表的なアドビのサービスってあるんでしょうか?
「たとえば、Adobe Analyticsにおける異常値の自動検出ですね。過去の傾向データと比較して、数値が異常値であったのかどうかを自己判断し、異常が出た理由までレポートしてくれます」
異常値が出たのは分かっても、その原因究明に時間を取られた経験のあるweb担当者は多いのではないのでしょうか。Adobe Analyticsは、Senseiによって貢献度分析もできるので、ワンクリックで異常値の原因まで探れるといいます。
そのほかにSenseiが使われている代表的な機能は以下のとおり。
フォトショップで被写体を加工する際、変形が自然に見えるように加工できる機能
自動パーソナライゼーション(Adobe Target)
ユーザー行動や保持している様々な情報から、自動的に今その人にあったパーソナライズされた画面を提供できる機能
アセット管理での自動タグ付け
クリエイティブ系サービスで培った画像認識技術とAdobe Stockのタグ付学習を利用した写真の自動タグ付け
テキスト要約
さまざまなデバイスでの閲覧に対応し、指定した文字数に合わせてSenseiが文章を要約
フォトショップなどは編集部でも使っているので、知らぬ間にSenseiの恩恵を受けていたのかも知れません。結構普通にサービスに組み込まれていたんですね……!
「XDM」でデータを構造化して管理。Senseiをもっと賢くする
――ここまでお話をお聞きして、Senseiがすごいというのは分かりました。Senseiの教師データは、やはりアドビのサービス群から集められたデータなのでしょうか?
「おっしゃるとおりです。が、実は今まで顧客体験のデータは、各サービスでバラバラの目的を持って集められ、構造化されていませんでした。
もちろんこれでも学習はできていたのですが、さらに今後についてはXDM(Experience Data Model)という技術を導入し、一定のモデルで構造化してデータを管理するようになっていきます」
XDMとは、データを構造化して管理するために、データに一定の意味をもたせてモデル化した言語。具体的には、
- Who
- When
- Where
- What
の4要素をベースにデータを管理。これによってSenseiが更に学習しやすくなるんだとか。
「各サービス間でXDMという共通言語ができたことになり、同じ目的をもってデータを収集することができます。かつ標準化、オープン化して公開しているので、XDMには誰でも触れることができます」
AIのモデルを学習させる際、構造化されたデータがあるかどうかはひとつの鬼門になります。Senseiというサービスをまたいで使われるAIでは、なおさらデータ収集の統一された基準というのは重要になってくるのでしょう。
APIも提供。クリエイター・マーケターの師匠的な存在になるSensei
――今後の展開として、アドビはどういったところを見据えているのでしょうか?
「弊社では『ワークフロー』というキーワードを重視していて、クリエイター・マーケターがアクションまでいかに最短で到達できるか、そしてその先の顧客体験を最適化できるか、というミッションがあるので、ここはぶれないですね。
これまでは製品の機能の裏側にAdobe Senseiがいるという形で、私たちはこれをSensei Experienceとして提供をしてきました。これまで以上に様々な機能を提供していく予定です。
そして、さらにAdobe Senseiのレイヤーを分け、APIなどを直接開発者が利用できるような、Sensei Servicesやデータサイエンティストの方がモデルを直接できるようなSensei Framework & Toolsといった機能を追加していきます」
その一環として、Senseiの機能の一部を既にAPIとしても提供しているとか。APIはこちらのページに公開されています。興味のある方はぜひ使ってみてはいかがでしょうか。
ちなみに、Senseiの名前の由来は、師匠やマスターといったイメージからつけられたそうです。Senseiがクリエイター・マーケターにとっての師匠のような存在になる日が、今から楽しみです。
「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら「Adobe Sensei」って結局なんなの?アドビのテクニカルエバンジェリストに聞いてきた2018/10/19
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