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人間よ「世を捨てよ、クマを狩ろう.」落合陽一が語る超AI時代の生き方

落合陽一氏が「超AI時代における、企業のあり方」を論じる。
――落合
「AIとは関係ないんだけど、これ、俺のなかの結論だからこの話1分だけさせてください。」

と、AIと関係ないと言いつつ話してくれた「世を捨てよ、クマを狩ろう.」という落合氏からのメッセージ。一体どのような意味なのでしょうか。

「未来ではなく、今のAIを語ろう。」というコンセプトで開催した『The AI 2nd』。

基調講演では、身体性の多様化やアートなど、計算機科学をベースとして、視聴覚装置やロボティクス、デジタルファブリケーションのソフトウェア開発などさまざまなプロジェクトに取り組む落合陽一氏を招き、『超AI時代における、企業のあり方』というテーマで語っていただきました。

『THE AI』
株式会社レッジが「未来ではなく、今のAIを話そう。」というテーマで主催する、大型のAIビジネスカンファレンス。具体的すぎたり抽象的すぎる話ではなく、ビジネスにおいてどの程度のコストで、どこまで活用可能か? という視点で、AIのスペシャリストたちが語ります。
THE AI 2ndの詳細はこちら
落合 陽一
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役
デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 基盤長
筑波大学 図書館情報メディア系 准教授
1987年生まれ、2015年東京大学大学院学際情報学府博士課程早期修了、博士 (学際情報学)。
その後、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社創業、フェーズドアレイ技術やデジタルファブリケーション技術の開発に関わる。
2015年より筑波大学図書館情報メディア系助教 デジタルネイチャー研究室主宰。
2017年よりピクシーダストテクノロジーズ株式会社と筑波大学の特別共同研究事業「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」准教授。機械知能と人間知能の連携について波動工学やデジタルファブリケーション技術を用いて探求。2015年より、一般社団法人未踏 理事、一般社団法人バーチャルリアリティコンソーシアム理事。2017年より筑波大学 学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授。
受賞歴として、IPA認定スーパークリエータ・天才プログラマー (2010年)、ワールドテクノロジーアワード (2015年)、プリアルスエレクトロニカHonorary Mention (2016年)、グッドデザイン賞 (2014年、2015年)、経済産業省Innovative Technologies賞 (2014年、2015年、2016年)、ザンガレンシンポジウム 明日のリーダー200人、ベストナレッジプール40人に選出 (2017年)、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品:アート部門/エンターテイメント部門 (2017年) など。

AIで属人的な作業から人間を解放する

はじめに落合氏は、自身が現在おこなっている取り組みについて語りました。

――落合
「我々の社会が抱えている社会課題とAIがどうリンクするのか、というのをよく考えていて。特に属人的な課題をどうやってコンピュータを使って解決していくかは重要です。

たとえば工場での検品をおこなうプロジェクトにおいて、10,000個に1個の不良品を検出することができる作業員と、99%(100個に1個)の検出精度を持つAIがあるとして、もしその工場が10,000個に1個くらい不良品があってもダメな場合は、この作業員をパイプラインから外すことは出来ないですよね。でも作業員の負担を軽減することはできます。

そうなったとき、作業員がどれくらい疲れるのか?作業員の認知負荷がどれくらいで、どこまでAIがサポートすべきか、ということが重要になります。」

落合氏が意味する「疲れ」とは、肉体的なものだけでなく、業務をこなす際の精神的なストレスも意味します。人間がタスクをこなすときの「疲れ」を軽減することもAIができることのひとつです。

介護のように誰かが誰かを支えなくてはいけない仕事をAIやロボットでサポートし、一対一でしか対応できなかった業務から解放できると語る落合氏。ほかにも、

  • 車椅子同士の連携動作や障害物検知で介護士をサポート
  • 身体に取り付けた電極パッドに電気信号を流し筋肉を動かし音楽の演奏をサポート
  • オーケストラ演奏を聴覚障害者に振動で伝えるサポート

をおこなう研究にも取り組んでいるそう。

「AIやロボットが人間をサポートする」とはよくいわれますが、その意味するところは、AIが作業の効率化だけでなく、音楽やスポーツ、芸術を楽しむことも可能にするということ。落合氏の言葉はそれを感じさせてくれます。

個々人の身体機能に合わせたAIの最適化には、データを“拡張”する必要がある

落合氏は、今後は、より人々の身体性が多様化していくとも語ります。

――落合
「個々人の身体性というものが多様化したときに、個々人に合わせた多様なAIを作っていく必要があって。そのためには個々人から収集した少ないデータセットで対応しなければいけません。」

社会が全体最適から個別最適へと移り変わることによって、個々の身体のちがいが顕在化してきたことで、ひとりひとりの身体に合わせた最適化をおこなう必要が出てきました。一方で、それをおこなう際にはデータが足りません。そこで重要になるのが、少ないデータをどう「拡張」するか。

――落合
「少ないデータを拡張する方法として、例えば具体的事例として、
  • GAN(敵対的生成ネットワーク)でデータセット作成
  • 3Dモデルから2次元画像を作成しデータセットを拡充
  • 低コストで現場から新たにデータの収集を行い続けるためのシステム

などがあります。我々はAIを必要とするユーザーとその場でチューニング(最終調整)をするようにしています。ただそうすると人手が足りないので、早く自分がAIになりたいですね(笑)」

データを収集するうえで、実際に現場で使用するユーザーが使いやすく、またユーザー自らもチューニングできるように設計することが、データセットが少ない状況では必要です。落合氏は、サポートする人たちとユーザーとの全体のコミュニティをつくることで、データの取得からチューニングまでを円滑に進められるといいます。

単に操作のしやすさだけでなく、周りとのコミュニケーションから生じる「気持ちよく使える」という意味での使いやすさを追求する。コミュニティという視点からのユーザビリティの追求は、今後考えていかなければいけない視点ですね。

「光が見えない」人たちの問題を理解するためにAIが必要

――落合
「僕がなんで身体の多様性をやっているかというと、そもそも『光が見えない』盲目の人たちに対してどうやってアプローチするのかが難しいんですよね。

我々が目という生得的カメラを使って問題を解決すること、それ自体のソリューションはシンプルだけど、僕らのように光が見える人たちにとっては『光が見えない』という問題自体がそもそもわからないですから。」

社会には、私たちが普段意識していないことが障壁となっている人たちがいる。その人たちの問題を理解するアプローチこそが重要で、かつ難しい。

個々の身体性が多様化する社会では、可視化されていないが理解すべき問題が増えていきます。落合氏はこの問題を、下記の図を使って説明しました。

※落合氏のスライドをもとに編集部が作成
――落合
「イノベーションの観点で我々が解決できるのがどの部分かというと、

“Find a Worthy Probrem”

の領域が一番大きいと思います。つまり、“ソリューション”がわかっているけど“問題”がわからないことです。

“ソリューション”が明らかだけど”問題”がわかっていないときは問題を探すこと。“ソリューション”も”問題”も明らかだけど、何を使えばいいのかわからないときには、現場に足を運ぶこと。この2つが重要になってきます。」

――落合
「AIの活用が進んでいないのはこの “Deploy” & “Scale”の領域で「組み合わせによって新しい価値を生み出す」領域と「もっと安くなる」の領域だと思います。」

AIを活用するという意味では、確かにGoogle・Amazon・Microsoftのような企業が提供するクラウドサービスでscale(サービスの拡大)がしやすくなり、彼らの提供するAPIでDeploy(サービス開発)もしやすくなっています。

AIをツールと捉えると、新しいサービスを生み出すハードルは低くなってきていますね。

AIで解決できる問題であれば、重要なのは問題をその見つけること。一方で、環境や背景が違えば各々の抱える問題は異なります。誰にとって問題なのかを明確にすると、見えにくかった問題も見えてくる。

どんなことにも「ここには問題はない」と決めつけずに、常に前のめりで問題を探す姿勢でいたいですね。

「世を捨てよ、クマを狩ろう.」 というメッセージの意味

講演の最後に落合氏は、現代の工業社会を農耕社会、ホワイトカラーを農耕民族と表現し、「世を捨てよ、クマを狩ろう.」という強烈なメッセージを投げかけました。

――落合
「現代の工業社会って農耕民族・農耕社会的なもので。将来得られる賃金に向かって与えられたタスクをひたすらやるってことがいかにストレスフルなのか、というのを示してきたのが近代だと思うんです。

一方で、我々は狩猟民族だった頃の血が抜けてなくて、それを農耕民族的な生き方をさせようとすると戦争を起こしたりする。その農耕民族のストレスの発散の方法は「祭り」でした。『毎日祭りをやるよりは熊を狩ろう』という社会にこれからなっていくと思うんです。」

確かに、我々は現代という「働かざる者食うべからず」な農耕社会で押さえ込んだストレスを、インターネット・SNSなどの「祭り」で発散しています(仮に意識せずとも)。しかし、祭りというストレス発散方法にも数々の問題点があるのは、今のインターネットを見ていても自明。

祭りという短期的なストレス発散ではなく、真にストレスを解決する方法が「クマを狩る」こと。つまりは自分の好きなことや楽しいことで稼ぐことが、狩猟民族の血を持つ我々がもっとも生きやすい道だといいます。

――落合
「限界費用(生産量の増加分に対する費用)がゼロの課題を見つけて、副業なり、好きなことをはじめるなりすればいいと思います。突発的なゴールや目標に向かって突き進むライフスタイルを僕はクマ狩りと呼びたいです。」

――落合
「そしてAIをクマを狩る武器として考えたときに、問題を解決するために、数人のチームでマタギ的な組織を形成していく。

社会のなかでどのように問題を見つけて、どのように解決していくのか、そのための組織をどう作るのかにフォーカスし、AIを利用していくといいんじゃないかなと思います。」

現代に生きる我々は、何らかの形で企業に属することが唯一の道だと思いがちです。

一方で、現代では、特別な知識やお金がなくとも、海外のオンラインコースなど、無料の学習サービスでAIを学ぶことができ、クラウドファンディングを使えば資金調達もできます。起業するのにも昔ほどのお金はかかりません。これらを活用すれば、今までの農耕民族的な働き方にとどまらず、本来の狩猟民族的な働き方にシフトすることが可能になってきます。

そうすると重要になるのは、いかに向き合うべき問題を見つける目を養うか。技術もお金も簡単に調達できてしまう現代、そうした嗅覚が必要になってくるのかもしれません。


山岡 大地
ドイツでの半導体の研究を経て、ディープラーニングの世界へ。ChainerとKerasを駆使して、レッジでは開発案件にも携わっている。研究分野の記事の執筆が得意。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら人間よ「世を捨てよ、クマを狩ろう.」落合陽一が語る超AI時代の生き方

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