GAFAの次は「BAT=百度・アリババ・テンセント」! 中国最新モバイル&IoT事情
家電の見本市からテクノロジーの総合展示会へ生まれ変わったCES(Consumer Electronics Show)では、AI、IoT、スマートシティなど、これから訪れる未来の最新技術やコンセプトを感じることができる。
月例セミナー第2部は、毎年CESを視察してきた電通の森氏が2018年のトレンドを解説。また、セミナー前日まで訪れていたという中国の深センと上海のモバイルエコシステムやスタートアップの状況を語った。
あらゆる機器がつながりエコシステムを形成
CESは、例年年明けに開催される世界最大規模のテクノロジーカンファレンスで、150カ国から20万人が参加する。かつては、家電の見本市としての意味合いが強かったCESだが、近年はテクノロジー色が濃くなってきている。
2018年のテーマはIoT、5G、AI(機械学習)、音声アシスタント、スマートシティなど。2009年からCESに参加する森氏は、近年のトレンドを次のように話す。
「2013年にモバイルへ大きくシフトし、スマートフォンが中心になった。しかし、2014年にはモバイルではなく、IoT、IoEなどあらゆるものが接続し、データをやり取りする仕組みが注目された。現在は、単独ではなく機器同士がつながりエコシステムを形成していくことがトレンドになっている」(森氏)
CSEの会場では毎年の見所を伝えるセッションが開催されるが、AI、スマートシティ、ヘルステック、リテールテックなどがトレンドだったという。
AIやIoTは、昨年のCESでも話題になっていたが、注目すべき点は、IoTの連携や統合が進んでいくことだという。
「米国、中国、韓国など各国のブランドがIoT製品をリリースしているが、2018年は統合や連携が進みそうだ。IoT機器を活用することでデータが蓄積されているので、そのデータを活用して、生活者の期待や次の行動を予測してフォローするという考え方が重要になる」(森氏)
スマートスピーカー内蔵のロボットがタッチポイントに
スマートスピーカーについては、今年はGoogle アシスタント、Amazon Alexaに加え、中国の百度の完成度の高さが目立ったという。百度は、中国国内でのビジネスを主眼にしているので、欧米や日本市場への影響は少ないが、中国での活用が進みそうだ。
「家庭内のIoTインフラのインターフェースとしてロボットが普及しそうだ。中国のテンセントが出資するユビテックでは、ロボットにAmazon Alexaを導入し、韓国のLGが展開するブランドThinQではロボットにGoogle アシスタントを導入している。IoTの中心にロボットが置かれて、スマートスピーカーのコミュニケーション起点がロボットになりそうで、今後さらに注目が集まりそうだ」(森氏)
一方、米国ではすでに最新の家電や車にはスマートスピーカーが内蔵されているので、スマートスピーカー以外の製品を通して普及が加速していくと森氏は予測する。
IoTの統合管理とスマートシティ
韓国では、サムスンがIoT製品を集中して管理するプラットフォームを公開している。サムスンは、米国のベンチャー企業SmartThingsを2014年に買収しており、SmartThingsのAPIをBtoB向けに開放している。SmartThingsを中心としたエコシステムに、多くの企業が相乗りできるようにしている。
また、サムスンは3年ほど前に「自社製品のすべてをIoT化する」と宣言しているが、2017年時点で7割を達成しているため、新たな目標として「インテリジェントデバイス化」を掲げたという。
「サムスンは、R&Dに140億円を投資し、エンジニアを6万5千人雇っている。2020年には、自社の製品すべてをAIと連動したインテリジェントなIoT製品にすると宣言している」(森氏)
米国フォードがスマートシティに投資する理由
もう1つの注目トピックがスマートシティで、米国では投資が活発になっている。都市人口の増大という課題の解決のために、携帯キャリアや自動車メーカーを筆頭にスマートシティの実験を始めており、市場規模は800兆億ドルと推計されている。
「フォードの基調講演では、自動車の話はしなかった。代わりにスマートシティへの投資の話、何を目指しているかを話していた。シェアリングビジネスが進むなか、個人への車の販売ビジネスよりも、課題の解としてスマートシティに投資するほうが自社のビジネスが成長すると考えていることがうかがえる。
日本でのスマートシティの展開としては、自動運転と電気自動車が街の機能になるというトヨタのe-Paletteの発表があった。2020年までに、Amazonやピザハットと一緒に実証実験を行うと発表しており、評判が良かった」(森氏)
中国のあらゆる生活シーンに入り込むテンセントのアプリ
3年ぶりに中国を訪れたところ、モバイルエコシステムの普及に驚愕したという森氏。なかでも、世界の時価総額ランキングで5位まで成長したIT企業のテンセントが存在感を示していたという。
同社のコミュニケーションアプリであるWeChatをはじめ、決済のWeChat Pay、飲食店レビューアプリ、クーポンアプリなど、生活のあらゆる場面に入り込んでいる。テンセントのアプリは中国のネットユーザーの98%が利用し、モバイル利用時間の6割を占めているということからも、中国での影響力の強さがうかがえる。
「テンセントは、モバイルを中心としたエコシステムを確立するために、関係しそうな会社とアライアンスを結んだり、買収したりして投資を進めている。中国では、車、自転車、バイク、傘のシェアリング、無人のジム、カラオケなどが普及しているが、それを支えるのがテンセントのアプリ。WeChatから行政サービスの手続きをしたり、公共料金の支払いをしたりと、公共サービスにも対応している」(森氏)
アプリのデータは、すべてテンセントが収集し利用している。たとえば、位置情報を取得できるため、いつ・どこに・どれだけの人がいるのかを把握することができる。
実際、2014年の大晦日には、上海、北京などに人が集中することを把握し、行政に注意喚起した。上海では対応が遅れて将棋倒しになる事故が起こったが、北京では警察が対応したため事故は起きなかった。すでに、データから人の行動を予測し、行政と連携した活動までも可能になっている。
オープンなエコシステムが前提、閉じたままでは生き残れない
中国を席巻するIT企業はテンセントだけではない。百度、アリババ、テンセントの3大IT企業はBATと呼ばれ、3社のエコシステムがオンラインからオフラインまで、生活のあらゆるところに関係している。
さらに中国のシリコンバレーと呼ばれる深センでは、新興企業が急成長している。CESでも触れたユビテックの時価総額は5千億円、中国向けの音声エンジンを入れたロボットの普及を目指しており、すでに5千体のロボットが市場に出ているという。
新興企業の成長支援プログラムも充実している。深センとサンフランシスコに拠点をおくHAXは、ベンチャー企業がIoT開発の投資を受けるためのアクセラレータプログラムだ。製品開発とテストを3か月で実施し、シリコンバレーでテスト販売する。これで事業性が担保されれば、その企業は投資を受けられる。
深センのHAXオフィスには、3Dプリンターが20台ほど用意され、工作エリアやプログラマーエリアなどが用意されている。オフィスの地下は秋葉原電気街のようになっているため、足りない機材があればすぐに調達できる。ただ、米国、欧州、韓国企業は入ってくるが日本企業は入っていないとのこと。
こうした新興企業に共通するのは、オープンなエコシステムを形成しようとしていることだ。少なくとも米国と中国には、自社だけの閉じたサービスを開発しようとする企業はほとんどいないという。今後のトレンドとしても、オープン化が重要なキーワードになると、森氏は最後に語る。
「モバイル、AI、IoTの分野で新興勢力が既存の業界を大きく変えそうだ。自社に閉じこもるのではなく、APIのオープン化、プラットフォーム化、エコシステム化して拡大していくのがトレンドだ」(森氏)
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Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「CES 2018と中国最新事情から探る! 世界のモバイルとIoTトレンド」2018年6月29日開催 月例セミナーレポート 第2部(2018/07/30)
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