ウェブ制作あるある――サイト運用アウトソーシングで陥りがちな4つの“あるある”とその対策
この記事では、「サイト運用アウトソーシングあるある」として企業Webサイト運用におけるアウトソーシングの失敗4つを紹介します。そのうえで、トラブルを避けスムーズなアウトソースを実現する秘訣を解説します。
また、記事の後半では、あなたの企業サイト運用アウトソーシングにどのような課題があるかを見極めるチェックシートを紹介します。ぜひダウンロードしてご活用ください。
事業の進行に呼応して増え続けるページ数、日々新しくなるテクノロジーやプロモーション手法への対応など、サイト運用はいつでも人手不足、人材不足です。しかし、そうはいっても社内リソースには限界があります。そこで重要になるのがサイト運用アウトソーシングです。
ただし、サイト運用業務とひとことで言ってもその内容は千差万別。企業によって求められるスキルや体制はまったく異なり、ぴったりフィットしたアウトソーシングサービスを受けるのは困難です。ここでは、アウトソーシングが必要となる典型的なケースと、それぞれにありがちな落とし穴を紹介します。
「なんとなく人が足りない~その1」業務量が多いために増員したいケース
社内リソースだけでは回しきれない! しかし、業務量が多すぎてアウトソースの見積りが莫大に……。
「なんとなく人が足りない~その2」できる人がいないために増員したいケース
あれもできて、これもできて、それもできる人求む! しかし、アウトソース企業から軒並み断られる……。
「なんとなくコストが高い~その1」細かいことを考えず、まるっと1社に依頼しているケース
1社に丸投げで担当者は楽ちん。しかし、上長からコスト圧縮のお達しが……。
「なんとなくコストが高い~その2」継ぎ足し継ぎ足しで複数のベンダーに依頼しているケース
コンテンツ追加のたびに増えるサイト運用委託先。何となく無駄な作業が多い気がする……。
あるあるケース①社内リソースだけでは回しきれない! しかし、業務量が多すぎてアウトソースの見積りが莫大に……。
「なんとなく人が足りない~その1」業務量が多いために増員したいケース
スギハラさんは中堅食品メーカーの広報部門でサイト運用に従事している。部内にはサイト担当者がオペレーターを含めて5名おり、スギハラさんは運用作業の責任者だ。サイト運用はほぼルーチン化されており、これまで大きなトラブルなく運営されてきた。
しかし、1年ほど前からの新製品の増加やそれに伴うキャンペーン実施頻度増加のため、このところいつも人手不足となっており、スギハラさんも含め残業が多くなってしまっている。スギハラさんは上長に相談し、ひとまずは常駐型のアウトソースを検討することになった。
今日はアウトソース先候補の制作会社Pとの打ち合わせだ。スギハラさんは、事前にまとめてあった運用フローと作業内容をP社の担当者オオシマさんにひと通り説明した。
この作業内容を合算すると月に約480時間、3人月分ですね。
はい。そうなんです。私たちもそう思っているのですが、3人常駐してもらうのはちょっと予算的に難しいのです……。
スギハラさんは困り顔で予算事情を話した。スギハラさんがまとめた業務フロー図に視線を落としていたオオシマさんがスギハラさんに向き直って言った。
ちょっと待ってください。この業務フロー、かなり詳細にまとめていただいているのですが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
はい。どんなことでしょう?
たとえば、このアクセスログのレポーティングですが、営業部向けとマーケティング部向けとお客様相談室向けに、毎週3種類それぞれ別々の担当者が作成してますよね?
はい、それぞれの観点が微妙に異なりますので。
これ、1人の担当者にまとめたほうが効率が良いと思います。重複する部分も少なくないでしょうから。そうすると、いままでそれぞれに週に2時間、合計6時間かかっていたものが3分の1になりますよ。月にすれば24時間、3人日かかっていたものが1人日になりますから見過ごせませんね。
そういえばそうですね。私の前任者のときに徐々にレポーティングが増えてそのままルーチン化していたんです。毎週こなしていたのであまり気にしたことがなかったです。
ほかにも削減できる部分がありそうですね。ちょっと持ち帰って試算させていただいてもよろしいでしょうか? 工数や常駐する人数を減らせるかもしれません。
それはありがたいです。ぜひお願いします!
その後、スギハラさんは電話とメールで業務フローの細かい部分についてオオシマさんからいくつか質問を受けた。そのたびにスギハラさんは、ルーチンとして日々こなしているのとは異なる視点で業務内容を見直す余地があると感じたのだった。スギハラさんはオオシマさんからの正式な提案を楽しみに待つことにした。
あるあるケース②あれもできて、これもできて、それもできる人求む! しかし、アウトソース企業から軒並み断られる……。
「なんとなく人が足りない~その2」できる人がいないために増員したいケース
ヤマザキさんは途方に暮れていた。部下であるタケダさんが産休に入る期日が迫っているにもかかわらず、代わりの要員が見つからないからだ。過去に同じような課題を克服した情報システム部のミズノさんに相談してみることにした。
もう、ぜんぜん見つからないんですよ。アウトソーシング会社や派遣会社から軒並み断られて困っています……。
で、どういう人材が必要なの? タスク内容と必要なスキルセットを教えてくれる?
えーっと、まずちょっとしたデザインとHTMLコーディングができること。
それは必要だね。アドビ系のグラフィックソフトも使えないとね。
それから広報部内向けと経営企画部とマーケティング部むけの週次レポートを作れること。
それをやるってことは、アクセスログを見ることができてエクセルとパワポを使える必要があるね。
あと、各事業部から情報を吸い上げたり、掲載前の確認をとったりしなければならないからコミュニケーションスキルが高くないと。ウチの事業部、それぞれが本当にわがままですから……。
それはそうだね(笑)。
あと、広告の出稿管理のアシスタントもしてもらわなきゃ。それから……。
え?! まだあるの?
海外拠点のサイト更新もあるから、英語でコミュニケーションできること。
それは一気にハードルが上がるね。ていうか、私が聞いてもそんなスーパーマン滅多にいないと思うわ! デザインができてコーディングができてレポーティングができて広告管理ができて英語ができる人なんて!
あ、コミュニケーションスキルが抜けてます!
前任のタケダさんはそんなにスーパーウーマンだったのだろうか? タケダさんは新卒で入社してからずっとこの仕事を担当していたので、この範囲の仕事に特化した人材だったのだ。英文科出身なので英語も得意だった。新卒から育てない限り、同じような人はどこを探しても存在しない。
ミズノさんは半ば呆れていたが、ヤマザキさんはまた頭を抱えてしまった。タケダさんの産休突入は刻一刻と迫っている。後輩の幸せはヤマザキさんにとってこの上なく喜ばしいことだが、業務を滞らせることはできない。いったいどうすればいいのだろうか?
あるあるケース③1社に丸投げで担当者は楽ちん! しかし、上長からコスト圧縮のお達しが……。
「なんとなくコストが高い~その1」細かいことを考えず、まるっと1社に依頼しているケース
カネダさんは中堅メーカーの総務部で、他の業務とともにウェブサイトの管理も兼任している。カネダさんの会社はBtoB企業なのでサイトの規模はそれほど大きくはないが、顧客向けの会員サイトなどもあり、運営にかかる手間は小さくない。そういった経緯でサイト運営の実務はカネダさんの指揮下で制作会社Q社に一括してアウトソースしている。
そんなある日、上長であるアンドウ部長から、サイト運営にかかるコストを見直すことができないか相談があった。
カネダさん、今は前回サイトリニューアルしてもらったQ社に運営実務を発注しているんだよね?
はい。そうです。構築してもらった企業なので、サイトの中身もウチの事業内容や社内事情もよく理解してもらってますし。これまでもスムーズに運営してもらってます。
なるほど。で、具体的にはどんな業務をやってもらってるんだっけ?
えーっとですね。あれとこれと……次のことをお願いしています。
- 新製品のページ制作(4半期に1回)
- 製品の細かい仕様変更の反映(毎週)
- アクセスログのレポーティング(毎週)
- 各事業部からの要望のキャッチアップ(随時)
- 会員サイトの保守・運営(随時)
- ニュースリリースの掲載(随時)
で、カネダさんとしては、コストを圧縮できそうな要因はないですか?
えーっと、ちょっと難しいと思います。それぞれの単価は適正だと思われます。
なるほど。この「各事業部からの要望のキャッチアップ」って具体的にどんなことをしているの?
えーっとですね。それは各事業部と直接やりとりしてもらってます。
なるほど。じゃあ、詳細はカネダさんにはわからないということ? じゃあ、「会員サイトの保守・運営」は?
それはですね、新しい情報があるときはQ社さんに渡してそれ以外はお任せしちゃってます。
うーん、今ひとつ実情がよくわからないな。1社に一括して依頼するのは、社内の手間やコストの効率化やスムーズな運営につながるから決して悪いことではないけどね。仮に「現状うまくいっていて、コストを削減する余地がない」のだとしても、それを会社に説明するために詳細は把握しておかなくてはね。
はい。仰るとおりだと思います。もう少し詳細に把握してご報告します。
カネダさんはQ社にお任せ状態だった点があったことに反省した。確かに、アンドウ部長の指摘のように業務がブラックボックス化している部分があることは否めない。Q社については全幅の信頼をもっているが、しっかり調べてみる必要があると感じた。
あるあるケース④コンテンツ追加のたびに増えるサイト運用委託先。何となく無駄な作業が多い気がする……。
「なんとなくコストが高い~その2」継ぎ足し継ぎ足しで複数のベンダーに依頼しているケース
オノさんは、オチアイさんとイシノさんたちのリーダーとして、中堅機械メーカーR社の広報部でウェブサイトの運用を担当としている。R社はさまざまな企業向け製品と個人向け製品を扱っており、さらにグローバル展開している。
これらのサイトはそれぞれ別のブランドとしてサイトを立ち上げており、制作会社も異なるためオノさんたち3人がそれぞれのサイトを分担して運用している。最近は3人ともいつも忙しいのだが、なんとなく無駄な作業に時間をとられている気がしている。
あれ? オチアイさん、その指示書ってもしかしてT社に出すの? ほとんど同じ内容を私もS社に出したんだけど。
え? そうなんですか? ああ、そういえばこの製品、企業向けも個人向けも製品仕様はまったく同じですもんね。
あら、そういうオノさんが今作っている指示書、ほとんど同じ内容のものをU社向けに作りましたけど。
あ! そうだ。この製品、北米向けが先行発売だったんだ。
じゃあ、私たちわざわざまったく別に指示書を作る必要はないですよね。
ていうことは、制作会社3社も別々にデータを作る必要ないってことですよね。
いや、そう簡単な話ではないのよ。3つのサイトはそれぞれ微妙に仕様が違うから。サイトを立ち上げた時期がバラバラだったし、構築した制作会社も別々なのでちょっとずつ違うのよ。
ほとんど同じものを3つの外注先に依頼して作ってもらうのはちょっともったいない気がしますね。納品されてきたものをチェックする手間もそれだけかかりますし、制作途中で変更が入った場合の指示も3か所に出さなきゃいけません。
これまではさほど問題になっていなかったけど、そろそろ全体を見直す必要があるかもしれませんね。重複している作業を積み上げると、外注コストはもちろん、私たちの工数やサイト運営にかかる時間も見過ごせないものになりそう……。
サイト運営のリーダーであるオノさんは、自分たちの工数はむろん、サイト更新のレスポンスやコストも気にかけている。なんとなく無駄があると思っていたが、さらに効率の良いサイト運営のためにきちんと見直すべき時期に来ていると感じた。
サイト運用アウトソーシング成功のカギは「なんとなく」の見える化
効率の良いサイト運用を成功させる4つのポイント
成功のカギ①「忙しすぎて、人が足りない!」ケース
実務にかかわっていない人に客観的に業務内容を見てもらう
あるあるケース①は、ルーチン化されたサイト運用に散見される問題です。日常業務化しているがゆえに蓄積された無駄な工数や、定常化されスムーズに運営されているがゆえに効率化できる工数を見逃しているケースといえるでしょう。これらは、業務内容を精査し見える化することにより省略・簡略化できる工数を見極めたうえで、どうしても発生するタスクをアウトソースすることで解決できます。
ここで重要となるのは、客観的な視点で業務内容を精査することです。ルーチン化している業務がスムーズであればあるほど、実際に関わっている人にとっては改善ポイントがわかりづらいものです。「業務フローに滞りがなく大きな問題はないが、なんとなく無駄な作業をしている気がする……。」そのように感じるのなら要注意です。
スギハラさんのケースでは、制作会社Pのオオシマさんに客観的に見てもらうことで解決しそうです。このように、信頼できるアウトソーシングのプロに業務調査を依頼するのもひとつの方策です。
成功のカギ②「あれもこれもできて……そんな人いない!」ケース
タスクを分解して複数のアウトソース要員を検討する
あるあるケース②は、企業の特殊事情による属人化によって招かれたケースです。たとえば「関連部署と英語でコミュニケーションをとり、HTMLも多少使えて、広告運用も一人でこなす」といった人材は、その企業での業務に特化したプロパー社員としてならば長期間かけて育成することはできるでしょう。しかし、このような業務をそのままアウトソースするとなると極めて困難。ミズノさんが言うように、スーパーマンを探すようなものです。
こうしたケースも、業務内容を精査・見える化することにより、社内の既存人材でこなすべき業務とその他の業務を切り分け、タスクをさらに分解することにより業務効率・コスト効率の良いアウトソースとして解決することが可能となります。
あるいは、1人のアウトソース要員にすべての業務を依頼するのではなく、英語でのコミュニケーションとレポーティングに1人、デザインとコーディングにもう1人というように、業務を切り分けた上で複数のアウトソース要員を依頼することも検討すべきです。1人のスーパーマンに依頼するよりも、むしろ低コストでアウトソースできることもあるでしょう。もとの業務を1人でこなしていたからといって、アウトソースもすべて1人に依頼する必要は必ずしもないのです。
成功のカギ③「すべて丸投げでお任せしている」ケース
一括で任せるなら、社内説明のためにもいっそう業務の見える化が大切
あるあるケース③は、制作会社や広告代理店などへの安易な丸投げで起こる問題です。確かに、このようなやり方は担当者にとっては手間が少なく効率がよいように見えます。しかし、丸投げですべてお任せにしてしまうと、いざコスト削減しようとしても業務のブラックボックス化などの弊害が現れることがあります。
特定のベンダーに一括発注すること自体にはなんら問題はありません。むしろ、これによるメリットも大きいというのが事実です。ただし、この場合はきちんと業務を見える化しておくことが重要です。
成功のカギ④「個別に発注しすぎていて無駄がある?」ケース
指示・確認フローを軸として総体として無駄がないか見える化する
あるあるケース④は、③とは真逆のケースといえます。サイトやコンテンツの継ぎ足しなどで個別に複数のベンダーに対して運用を依頼したところ、重複業務ややりとりの複雑化による非効率化が問題となるケースです。
前述のあるあるケース③のように、発注先を1本化することで業務フローがブラックボックス化しては本末転倒ですが、やはり複数ベンダーに分割発注することによる非効率化は高い頻度で起こり得ます。ここでは発注先の絞り込み、一本化の可能性も含めた業務の見える化が重要です。
具体的には、サイトやコンテンツの構築を依頼したベンダーにそのまま運用も依頼するのではなく、掲載する内容やあなたの社内における指示・確認フローを軸として、いつ、何が(どんな発注が)行われているかに関する、全サイトを横断した見える化を行うべきです。
ここまで述べてきたように、サイト運用アウトソーシングを円滑に、効率よく行うカギは、業務内容の見える化に他なりません。重要なのは、どのような軸で、いかに客観的に見える化を行うか、ということに尽きるでしょう。「なんとなく効率が悪い」「なんとなく無駄な作業をしているような気がする」「なんとなくコストが高い気がする」と感じたら要注意。すぐにでも見える化に取り組むべきです。
さて、ここまでで「見える化」がいかに重要かがご理解いただけたと思います。最後に、あなたの会社のサイト運用が、どのような軸で見える化を行うべきかがズバリわかる「サイト運用見える化チェック表」をご紹介します。こちらを活用して見える化の手がかりとしてみてはいかがでしょうか?
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