企業ホームページ運営の心得

そば屋の出前はなぜ「いま、でました」というのか?

嘘も方便、期待を持たせることで社会が円滑にまわります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の467

絶滅危惧種の出前

Jupiterimages/PHOTOS.com/Thinkstock

「そば屋の出前」には、適当な返事をするという意味があります。出前が遅いとそば屋に催促の電話をすると、「いま、でました」や「やっています」という回答が返ってくるものの、まだ調理すらしていないことも珍しくなかったことが転じて使われるようになりました。

宅配バイクの移動状況をリアルタイムにWeb上で確認できるドミノピザ「GPS DRIVER TRACKER」なら、「いま、でました」は通用しませんが、そば屋の出前に隠れた本来の意味とは「嘘も方便」です。

先日、我が家の冷蔵庫が壊れた際、メーカー窓口の機械的な態度と、現場のサービスマン(技術者)の対応の違いから「そば屋の出前」の大切さを再確認します。

修理は6日後

冷蔵庫が冷えていないことに気がついたのは7月16日(土)の朝8時でした。家電量販店独自の保証に入っていたので、量販店が開店する10時を待って電話をかけます。「保証番号」を告げると、量販店は顧客台帳(取引履歴)から契約内容を確認し、追ってメーカーから連絡が入ると回答。実際の修理は、各家電メーカーが担当するとのことです。

メーカーから連絡がきたのは10時30分。迅速な対応にニンマリしたのも束の間、担当者は「それでは(伺うのは)21日になります」と言い放ちます。当日から数えて6日後、冷蔵庫と冷凍庫にある食材は溶けるどころか腐っていることでしょう。

正直という冷酷

口頭で状況を確認し、しばしの間も置かずに訪問日時を提示したのは、修理を手がけるサービスマンのスケジュールをチェックしてのこと。もっと早くならないのかと食い下がるも、のらりくらりと言葉を左右にし、日程を調整する気配すら見せません。

さらには「21日が無理ならその先になります」と、こちらの責任で訪問が遅くなるかのような言い方。あまりにも機械的で冷淡な対応に罵声は控えましたが、怒声を漏らしたことを否定しません。

窓口業務としては、マニュアルに沿った正直な対応だといえるのかもしれません。

自分の仕事はサービスマンの手配。21日しか空いていないので、そのまま伝えたに過ぎない。できない約束はできない

それはその通り。しかし、正直に伝えることは、必ずしもお客に満足を与えるものではありません。では、どう対応するのがベストだったかを論ずる前に、そば屋の「でました」を検証します。

「でました」の裏側を検証する

立て続けに何軒もの出前の注文が入った直後に、団体客が来店することもあれば、配達順路が緊急工事で通行止めになっていることだってあります。どれだけ注意しても、出前を待たせることは回避できません。これはネット通販の担当者はもちろん、顧客のクレーム対応、社内トラブルなどにも通じます。予期できないからクレームやトラブルが発生するのであり、予期したうえでの未対応はただの怠慢です。

催促の電話をかけてくるお客は、空腹から冬眠前のヒグマのような攻撃性を抱えています。どんなに懇切丁寧な説明も、言い訳や屁理屈に受け取られかねません。そこで「でました」。そばが自分のもとに向かってきているという希望を与えます。人は「希望」があれば、窮乏にも耐えられるもの。という経験則から生まれた言葉が「でました」です。

学生時代、いくつかの飲食店でバイトをしていましたが、お客からの催促に「いまやっています」と答えると、8割方はもうしばらくの猶予を与えてくれたものです。

嘘のすすめ

ハッキリ言えば「嘘」ですが、それを方便とすることで社会が円滑にまわることも事実です。だから顧客対応において、とりわけクレーム対応では「嘘」を推奨しています。悪意を持ってお客を騙す「嘘」ではなく、お客に希望を与える「嘘のすすめ」です。ほぼすべての業種、事例で使え、電話でもメールでも、いまならTwitterやLINEでも同じです。特に根本的な解決策がその場になく、あるいはその権限が自分にない状況で「嘘」は使えます。

まず、少し時間を貰えるように提案します。今回の私のケースでは、訪問日時に不満があるわけですから、スケジュールを調整する時間がほしいと願い出るのです。電話応対なら一端切って、折り返しを約束するのもいいでしょう。電話なら3~5分後、メールなら10分以内が理想的です。ポイントは必ず短時間に返事をするところにあります。

約束のギリギリ

なぜなら「掛け合ってみましたが、早くできませんでした。ご期待に添えず申し訳ありません」との現状維持の回答でOKだから。「嘘も方便」ですから、スケジュール調整などしなくても、お客は「自分のために動いてくれている味方」と錯覚してくれます。

また、少し時間をあけることによって、お客が冷静さを取り戻すことも期待できます。本当にスケジュール調整に挑戦すれば尚良しですが、現場からの回答が遅れる場合は、その状況をこまめに連絡してください。

お客に希望を与えつつ、瞬間的に猶予を作り出すための「嘘も方便」であり、だますことが目的では決してありません。構造は、そば屋の出前の「いま、でました」とまったく同じです。

さて、サポートの提案をしぶしぶ受け入れた21日にわかったのは、その日、冷蔵庫は治らないということ。コンプレッサーの初期不良で、溶接機を要する大工事が必要だが、人員が不足しているといいます。最大の課題はやはりスケジュール確保、サービスマンは可能な限りこちらの要求を実現しようと、自らの作業予定を調整するように、目の前でスマホを使い会社と何度も交渉して見せます。

メーカー窓口と違う「現場の心得」なのでしょう。仮にそれが自作自演の「嘘も方便」であっても、「ご苦労様」と感謝を述べたくなるのが人情です。

今回のポイント

嘘も方便は真実

正直で誠意のない機械的対応

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