企業ホームページ運営の心得

選挙期間中のサイト企画運営はNG? 政治家も迷走するネット選挙のグレーゾーン

IT企業のネット選挙事業進出が急増していますが、実務にはグレーゾーンが潜んでいます
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の316

最後の規制選挙

本稿執筆時は東京都議会議員選挙のまっただなかです。7月の参院議員選挙の前哨戦であり、最後の「ネット規制選挙」です。兵庫県尼崎市議選で、候補者の息子がTwitterで「オトンに投票してや」と呼びかけ、市選挙管理委員会から注意を受けた事例も、間もなく合法となります。法律のシュールな側面です。明日からは合法でも、今日までは違法。その反対もしかりです。

昨年の政権再交替より、ネット選挙解禁は既定路線となりました。昨年末の本稿で選挙や政治を、Web担の新たなマーケットになるとあおりました。事実、ソーシャルメディア運営やSEO業者をはじめ、Web業界は政治に急速に近づきつつあります。そして「地元業者」の利用を推奨しました。小回りがきき、票につながるかもしれないという下心も込めたものですが、重要なポイントが原稿から漏れていたことに気がついたのは、2週にわたってお届けした拙著の校正過程です。

端的に言えば、「逮捕されない」ためのネット選挙補足号です。

改正法のあらまし

改正公職選挙法によって、投票日前日までサイトの更新やTwitterの投稿ができるようになります。さらに従来は制限されていた、「有権者による選挙運動及び落選運動の解禁」もされ、ネット上でユーザーが選挙運動を行えるようになります。前述の尼崎市議選で投票を呼びかけた息子は、犯罪予備軍から孝行息子へ肩書きが変わります。しかし、注意が必要。

  • ●●さんに投票なう
  • ××党に投票してはいけない

とTwitterで呼びかけるのは合法ですが、同じ内容を「ニコニコ動画」に投稿すると違法になるかもしれないのです。

選挙運動用ウェブサイト等には電子メールアドレス等を表示することが義務づけられます(改正公職選挙法第142条の3第3項。改正法のあらましから引用)

返信用フォームのURL、Twitterのユーザー名は電子メールと同じ扱いになるのですが、ニコニコ動画に表示されるのはメッセージだけで、こちらの義務に抵触する可能性があるからです。

グレーゾーンに政治家も迷走中

改正法の策定にかかわった自民党の橋本岳、平井卓也両衆院議員もネット番組のなかでニコニコ動画への投稿をグレーゾーンと言葉を濁します。電子メールなど連絡先の表示義務は、本人確認はもちろん、内容に問題があった際に訂正や修正を求めるための窓口を確保するためのものです。

ですが語弊を恐れずに言えば、ニコニコ動画のコメントの醍醐味は、誹謗中傷や憶測が混ざり合った妄想の拡散にあります。積極的にニコニコ動画を利用するネット系議員にとっては本音と建て前に挟まれ、グレーゾーンのまま放置したのかもしれません。というわけで選挙期間中のニコニコ動画へのコメント投稿はリスクがともないます。

しつこく自己宣伝を繰り返してきた拙著は、電子書籍版と同時に「紙出版」も進めていました。ネックになったのは「グレーゾーン」です。改正法は曖昧な部分が多く、自己責任と明記しても、出版社として責任がとれないというのです。

政治の都合で

たとえば「メール」による選挙活動は、許可したアドレスにだけ送信できるいわゆる「オプトイン」でしたが、最終的に「政治活動用電子メールを継続的に受信している者」へも拡大されます。政治活動はグレーゾーンの代名詞で、“継続的に受信している者”の継続がどれだけの期間を指すのか明記されていません。これについて拙著では抜け穴と批判しつつ、リストを購入する方法を紹介していますが、もちろん「グレーゾーン」。

ただし、荒唐無稽でないのは、すでに某政党の発行するメルマガでは、同意確認で「選挙用のメールを受けとりたくない場合はクリック」と、断らないから許可したと解釈する「消極的オプトイン」を採用しているからです。その他にも誹謗中傷やなりすまし、さらには対立候補から失言を引き出す方法までを記せば、出版社が躊躇するのも当然です(笑)。

そしてWeb担当者が最も注意しなければならないグレーゾーンが「実務」です。選挙期間中の更新作業は、法律に触れる可能性が高いのです。ネット選挙は解禁されました。しかし、金銭授受が発生する更新作業は、公選法が禁じる「買収」に当たるという解釈があるからです。

手弁当で手伝う

日経新聞の記事を引用します。

選挙期間中にIT企業にネットの運営を委託する場合は、誹謗(ひぼう)中傷の監視は単純作業だが、サイトの企画運営は買収罪に当たる恐れがある。

選挙期間中に、日当を支払うことができる職種と人数、金額は限られています。単純作業は「労務者」、選挙用の街宣車から呼びかけるウグイス嬢や、手話通訳者には支払うことができます。記事が指す「誹謗中傷の監視」とは、検索やSNSを巡回するだけの単純作業に当たるため「労務者」です。

ところが「企画運営」まで踏み込むと、日当の支払いができない「選挙運動員」にあたるという解釈です。候補者の指示通りブログやツイッターを更新することは「単純作業」だとしても、HTMLコードを書き、専用ソフトを操作することが、作業においての主導的立場にあったと解釈される可能性があるのです。

判例を持って答えとするしかない「グレーゾーン」、改正法のずるいところです。選挙費用の枠内に入れてしまうと、Webにお金がかけられなくなります。一方、「政治活動」に振り分ければ、選挙期間外の支出として処理でき、政治活動に要する費用は青天井です。

ネット選挙は解禁されましたが、単純作業の域を越えた有料の手伝いは「買収」となる可能性があります。しかし、政治活動の受注に関しては「無罪」。これが現場のノウハウでありヒントですが、くれぐれも遵法精神をお忘れなきよう。

今回のポイント

ネット選挙改正は実状に追いついていない

金銭の授受、そのタイミングに要注意

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