社内1000人を育てた「Web担当者の味方を増やす! ベネッセのWeb人財育成ノウハウ」
セミナーイベント「Web担当者Forumミーティング 2013 Spring」(2013年4月24日開催)の講演をレポートする。他のセッションのレポートはこちらから。
企業のWebビジネス活用が進むなか、Web担当者の業務は複雑化しており、担当者の育成は企業にとって重要な課題の1つだ。企業のWeb戦略を担う担当者をどのように育てていけばいいのか、「Web担当者Forumミーティング2013 Spring」の基調講演では、社内1000人のWeb担当者を育ててきたベネッセコーポレーションの松本圭介氏が講演し、ノウハウを共有した。
ベネッセ最古参のWeb担当者が教える「Web担に大切な6つのこと」
ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)の松本氏は1996年に「進研ゼミ」の子ども向けWebサイトを担当して以降、同社のさまざまなサービスで一貫してWeb周りの業務に携わっており、社内でも最古参のWeb担当者だという。
松本氏が勤務するベネッセコーポレーションは、「よく生きる」を企業理念に掲げ、乳幼児から高齢者までを対象に幅広いサービスを展開していることで知られる。Webサイトに期待される役割は各サービスによって異なり、Web担当者が目指すべきゴールも、新規顧客の獲得であったり、既存顧客のロイヤルティ向上であったり、多様化しているという。目的・目標が異なる環境下で、松本氏はどのようにWeb担当者を育て、社内でWeb担当者の味方になってくれる「Web人財」を増やしていったのだろうか。
松本氏はまず、Web担当者に必要なスキル・素養について次のように言及した。
松本氏はこのように話し、「Web担当者に大切なこと」として、次の6つのポイントを示した。
- 愛情
担当するサイトに愛情を注いで地道な改善を続ける。「自分が砦」という責任感を持つ。愛情があれば、なんとかなる。
- 好奇心
新技術、流行への関心を持つ。ただし、会社にもよるが、一歩先ではなく半歩先くらいを見るのがちょうどいい。
- 接客業
「もてなしの心」と「ユーザー視点」を持ち、ユーザーのストレスを下げる努力をする。
- 想像力
ユーザー像をイメージする。「なぜ、そうなるのか」を考える想像力を養う。
- 社内コミュニケーション
だれにでもわかる説明をする。社内事情通になる。事業課題を把握する。キーマンをつかむ(もしくはキーマンになる)。
- 仮説と分析
アクセスログ解析は改善のヒントをつかむために行う。定期健康診断でコレステロールが高いとわかっても、運動をしなければ意味がないのと同じ。
どのようなサイトであっても、Web担当者の業務の本質は「サイトの価値を高めること」にあるだろう。サイトの価値を高めるために松本氏は、次の3つの観点から総合的に施策を考えるようにしているという。
- ユーザー満足
- ユーザーサポート
- マーケティング
このA、B、Cの内容や組み合わせはサイトによって異なるが、どれか1つに偏らないようにすることを心がけているという。また松本氏は、目に見える施策だけでなく、「情報の社内共有」「サイト構築のルール作り」「分析」「外注管理」といった、目に見えない、木の根っこの部分にあたる取り組みも、Web担当者の重要な仕事だと指摘する。
加えて、松本氏はサイトの価値を高めるための仕事を、Web担当者が楽しむことも重要だと話す。新しい技術や専門用語が次々と飛び出してくるWeb業界だけに、新任の担当者は“誰に何を相談すればいいのか”もわからず、孤独になることも少なくない。一方で、Web担当者としての仕事を理解し、成果を上げられるようになれば楽しいものであり、「Webの仕事っておもしろそう」「困ったらあの人に相談すればいい」といった意識を芽生えさせることも重要なのだ。
そして松本氏は次に、Web担当者としてのノウハウや心構えを、どのように社内に浸透させていったかを、自らが関わった業務の例を挙げながら詳しく紹介してくれた。
8年目を迎えるベネッセ流のWeb担当者研修プログラム
10年以上にわたる松本氏の「Web人材育成」の取り組みの中でも、とりわけ手応えを感じたのは、2006年度から自主勉強会の形でスタートしたWeb担当者向けの社内研修だ。翌年からは、「基礎講座」「実践講座」などにメニューを細分化している。
たとえば2012年度には、紙媒体の制作担当者を対象に「デジタル系研修企画」を行った。目的は、Webやスマートフォン、紙媒体など複数のメディアから、最適なメディアを選択・構成できる「メディアディレクター」の育成だ。デジタルメディアの基礎を学ぶ入門研修から、スマホアプリ開発や映像メディアの基礎研修/ワークショップ、HTML5の実践研修まで、分野・レベル別に多彩な研修を開催しており、基礎研修は勤務時間内の無料研修として、ワークショップは業務時間外の有料研修として行っているという。この研修はもともと自主勉強会なので、講師は社内の人間が務め、テーマによっては外部講師を招いている。
こうした研修は、教育事業を手掛ける同社だからこそできると思うかもしれないが、松本氏は研修のたびにブラッシュアップを続けてきたことを話し、自主勉強会ベースの社内研修を行うためのコツを、運営面とプログラム面の2つに分けて紹介してくれた。
社内周知と参加しやすくするための配慮を欠かさない
まず運営面ではまず、「研修をやることを社内に周知し、事前に盛り上げていくこと」が大事だという。部長クラスに事前告知をして、受講すべき人を推進してもらい、人事からのお墨付きも当然得ておく。多くの参加者を集めるために業界を熟知する講師を招いたり、誰のためのどのような内容の研修なのか、ターゲットを明らかしたりすることもポイントになる。
また、日々の業務で忙しい人が参加しやすくするための配慮も必要だ。そのための工夫として、「長くても2時間程度で終わるようにする」「同一内容の研修を複数回実施する」「テレビ会議を使う」「グループウェアで研修時間を『会議依頼』する」といった点が明かされた。
このほか、研修の効果を最大化するために、「睡魔との戦いになりがちな13~15時の開催は避け、どうしてもその時間に行わなければならない場合はグループディスカッションを取り入れる」「ウィキペディアからのコピーでいいのでIT用語集を配る」「質問は紙でも受け付ける」「参加者アンケートを取り、常に改善する」などを行っているそうだ。
Web担当者育成プログラム作成7つのポイント
次に松本氏は、研修のプログラム作成のコツとして、7つのポイントを紹介した。
- Web業務を「現業」や身近なものにたとえたり、比較したりする
たとえば、広告や記事の「インプレッション」「クリック率」「コンバージョン率」といった指標を、ダイレクトメールの「着信数」「開封率」「応答率」など、担当者が理解しやすい内容になぞらえて説明する。
- 基本的な流れ(PDCAサイクル)は「現業」と同じである
Webだからといって特別とは限らず、基本的な仕事の流れは同じであることを説明し、不安を払しょくする。
- でも「現業」と違うところがある
基本的な仕事の流れ(PDCAサイクル)は現業と同じ。ただし、Webサイトでは、集客したり、もてなしたり、効率的にやることが求められることを説明する。
- 豊富な社内実例
「自分には関係ない、できない」と思われないように、自身の経験や社内事例を失敗談も交えながら紹介する。なるほどと思ってもらうための補完として、社外事例を活用することも大切。
- 「席に戻ったらすぐできる」ことに触れる
戦略やマーケティングの話だけでなく、その日のうちに実行できること、即効率化につながる便利ツールの紹介なども交える。すぐに実践できることを知ると嬉しいもの。
- 「自習」する方法を示す
その日の研修だけで身につくものではないので、関連サイトや書籍など自習のための方法を紹介。Webの仕事は自習しやすいことを活用する。
- 受講者同士が仲良くなる時間を取る。
「○×について、隣の人と5分間、話し合ってみてください」など、受講者同士がコミュニケーションする時間を設け、困っているのは自分だけではないと感じてもらう。こうした活動は、他部門の人との接点づくりにもなる。
このようなきめ細やかな指針に基づいて研修を長年続けているのは、Webサイトの競合優位をつくり上げるのは最終的に人であり、リッチなインフラや、高度なデータ分析システムではないという考えが根底にあるからだ。一昔前であれば、「パソコンが得意で若いから」といった理由でWeb担当者に任命していたかもしれないが、Web戦略を担う人の育成に組織的に取り組むことが求められている。
多くのノウハウを明かしてくれた松本氏は、講演の最後に次のように力説した。
僕らのようなネット専業でない会社には、ネットバリバリの人材がたくさん入社してくるわけではありません。だからこそ今いる人材を「Web人財」に育成することが、とてつもなく大事だと思っています。面倒だと思うかもしれませんが、社内外に人脈が広がりますし、自ら講師として話をすれば、自分の考えが整理できるというメリットもあります。
そして何より、社内にWebを理解してくれる人が増えれば、Web担当者自身の仕事がやりやすくなり、成果が上がるようになるのです。ぜひみなさんにも社内研修を取り入れてほしいと思います。
このあとは簡単な質疑応答の時間が設けられた。質疑応答では「ベネッセでは紙媒体の編集者であってもWebにノータッチということはなく、商品開発全体で研修内容を活用できていること」「社内調整では各部門を丁寧に回って説明し、部門のニーズをくみ上げながら研修プログラムを組み立てていること」「2012年度は、映像コンテンツやスマホのアプリ開発のプログラムの人気が高かったこと」といった話が補足的に披露され、講演を締めくくった。
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