ライバルが本当に儲かっているのかを知る定点観測
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の280
ライバルを他人の話と割り切れるか
この春、映画「テルマエ・ロマエ」で古代ローマ人を演じた阿部寛さんがかつて主演したテレビドラマ、「結婚できない男」の主人公である建築士は、高知東生さん演じるライバルのブログをこまめにチェックし、密かに優劣を競っていました。
孤独な作業という点で、建築士はWeb担当者に通じます。どちらもチームで事案に当たることもありますが、それぞれの仕事においては個人作業で、何か(だれか)と比較しないと己の仕事に自信を持ちきれないところがあるからです。
と割り切れる方に本稿は不要です。しかし、ライバルや同業者の「本当」のところを知りたい人にはお役に立つはず。また、覗き見趣味と矮小化せず、実務に役立てる方法が「定点観測」です。
ぶれない心をつくるため
まず同じサービス、同じ地域、同規模、同じ技術レベルといった、商売上の「競合」から「ターゲット(観測対象)」を抽出します。メモとして「記録」するか、サイトのダウンロード、あるいは「キャプチャ」で「保存」し、数か月おきに再訪し、差分をチェックします。
後に述べますが、公開情報のすべてを信頼することはできないので、できれば複数のターゲットを押さえておくといいでしょう。面識の有無は問いませんが、間接的な知り合いを1人以上いれておくと、より多面的に観測できます。
ターゲットを毎日チェックする必要はありません。どうしても気になるのなら週1回、できれば月1回、季節ごとでも十分です。むしろ、毎日チェックすると正しい観測結果を得られなくなります。適度に間隔を開けて「定点観測」するのは、ターゲットを「俯瞰」するためです。
たとえば、毎日のエントリーに「忙しい」と書く人が「少し頭が痛い」と書いているのを見て、働き過ぎだと心配するのは人として自然な優しい感情です。しかし、毎日見ていなければ「風邪」を疑うでしょうし、以前のエントリーで酒席の乱痴気騒ぎを知っていれば「飲み過ぎ」と判断することでしょう。そもそもそれほど「忙しい」毎日で、「頭が痛い」と体調不良状態にもかかわらず、ブログやSNSをきっちり更新できている事実こそ疑うべきです。
景気の良い話が出る理由
詐欺師に騙されるのはいつもそばにいる人です。接触頻度が信頼に転化し、整合性のないストーリーを脳が補完するため、矛盾を補正してしまうからです。これはブログやSNSの長所である「親近感」の仕業で、観測においてはデメリットとなります。そこで一定の間隔を開ける「定点観測」なのです。
他の業界と比較すれば景気の良い、Web業界のブログやSNSには明るい話が躍りますが。しかし廃業の噂も後を絶ちません。それは当然の話です。自社の弱みは他社の旨味です。必然的に「景気の良い話」がSNSに躍りますが、真贋は不明です。これに振り回されない、ぶれない心を養成するためにも「定点観測」なのです。
数か月ぶりに訪れたTwitterで、同じ言葉を繰り返しているWeb業界人は……掃いて捨てるほどいますから。
早すぎるキャッチアップは
定点観測は「市場動向調査」としても使えます。Web業界においての最新情報は、本サイトを筆頭にネットに溢れています。しかし、専門分野の最新情報とは必ずしも市場需要と連動せず、むしろ乖離していることもあります。そこで「定点観測」の出番です。経験則でいえば、同業者のブログなどで、特定のネットサービスや技術がやたらと目立つようになった1年後ぐらいが、一般人(非IT系)が興味を持ち始めるタイミングだからです。
これは最新情報をキャッチアップし過ぎた、あるWeb業界人の話です。
今から6年ほど前「これからはSNS!」とパッケージ販売を開始しましたが受注につながらず、それより先行して始めた「地域無料SNS」は昨年の冬にサービスを停止していました。他にも新潮流を見つけるといち早く「サービスイン」していますが、どれも鳴かず飛ばずです。
Web言論界ではいち早く大騒ぎしたもの勝ちといった風潮がありますが、実際のビジネスシーンでは「半歩」ぐらいがベストなのです。早すぎるとだれにも相手にされません。
成功する会社の特徴
かれこれ定点観測を10年ほど続けて見つけた1つの法則です。成長した企業、大きくなった会社、あるいは生き残っている(広義の)Web屋の大半が、1つのサービスや商品を提供し続けています。ホームページ作成ならそれだけを、ショッピングカートならカート、SEOがSEMになったとしても主力商品は変わっていないのです。
ラインナップは広げても「軸」がぶれていないのです。反対にあれもこれもと手を出している企業は、どれだけ景気の良い言葉がサイト上に躍っていても、しばらくすると姿を消しているということは少なくありません。
そこから「定点観測」は「安心できるWeb屋」の選別法としても使えます。事業継続性は業者を選定するうえでの重要な材料ですが、これまでの経験からWeb屋は廃業率が高く、突然、事業を停止するリスクを抱えています。実際、発注から6か月後の公開直前に、Web屋が「夜逃げ」し、私のところに泣きついてきたクライアントもいます。
あまりに頻繁に「新サービス」を打ち出す企業には注意が必要です。
成功話が多い理由
今すぐ定点観測を行うなら「インターネットアーカイブ」を使います。サイトを時系列で保存しているサービスで、1年単位で追いかけると変遷が手に取るようにわかります。社長がブログを公開している企業なら、「最初」をチェックするのも効果的です。Web屋に限らず、始めたばかりのブログでは「事業目標」や「営業目標」を宣言(それもかなり高めの)していることが多く、それが実現できているかを「確認」できます。
最新情報のキャッチアップで紹介した、あるWeb業界人のブログを覗くと、毎週のようにシンポジウムに参加しています。業界人のホームパーティーで交流を深め、週末は話題のスポットを散策し、Facebookにグルメ写真を投稿し、ネット上での交流も忘れない。さらに、クラブを借り切ってイベントを主催し、業界紙で取り上げられる絵に描いたような「成功者」。その影で、「彼」は起業前の会社員時代に組んだ住宅ローンの返済ができなくなり手放しています(この情報源はネットではなくリアル)。
成功の基準は人それぞれですが、地味にホームページの手伝いをし、コツコツと原稿を書いている自分を誉めてあげたくなります。
今回のポイント
同業者から業界動向を確認する
SNSでは良い話が多くなるのは必然
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