企業ホームページ運営の心得

最小コストで客や上司がなっとくする提案を作る方法

提案パターンを増やす方法の1つに色使いがあります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の281

魔法使いになんかなれない

デザインやレイアウト、販促企画などで複数パターンの提出を要求されるシーンは少なくありません。制作者からすれば、1つの案件で複数回の仕事をすることと同義です。大手の場合は「プレゼン費」などが支給されるケースもありますが、中小の現場にそんな気の利いた概念はなく、残業代のでない会社においては事実上のただ働きです。

会社員時代のこと。複数パターンを安請け合いしてきた営業マンはとっとと帰宅し、マウスのクリック音とパソコンの冷却ファンのうねりが響く職場で、うつ病気質のデザイナーがつぶやきます。

俺たちは魔法使いじゃない。

20世紀の終わりごろ、パソコンが扱える人間は「なんでもできる」という空気があり、無理難題を押しつけられていたからです。直後にデザイナーのうつ病が悪化し、制作実務ができる人間は私ひとりになります。そこで私が身に付けたのは「魔法使い」ならぬ「色使い」でした。最小コストで客がなっとくする提案を用意する方法です。

敵は社内にあり

デザイナーが引きこもってからは、朝の9時から夕方5時までは営業マンとして働き、帰社してから夜の10時頃まで社内でデザイン業務にあたります。それから帰宅し、夕食を食べてから就寝しますが、朝の4時から7時頃まで「在宅デザイナー」として作業してから出社します。ピーク時は日曜祝日もなく働き続けました。

さすがに多忙を理由に複数パターンの提案は断っていました。ところが敵は社内に現れます。会社のパンフレットを作る案件があり、複数デザインを社長が要求するのです。速やかに、そして明確に拒否します。社長といえど身内の仕事は後回しだと。すると、社長は直属の上司に圧力を掛け作業へと追い込みます。残業はもちろん、深夜早朝、休日出勤の手当も支払われないままにです。

交渉する時間も、抵抗する気力もなくします。そしてクリエイティブな心も失い掛けていたので、「色使い」を変えただけで数パターンを提出しました。平たく言えばやっつけ仕事です。

優劣よりプロセス

やっつけ仕事のなかでも、社長が高い評価を下したのは「色」でした。「素材集」にあった、海中写真をぼかして引き延ばしたその「青」を絶賛したのです。この経験をきっかけに、デザインの良し悪しがわかる素人は少ないことに気がつきます。

彼らに区別がつくのは「色」だけです。ワンマン社長に多く見られるケースですが、好みに左右され、不採用の根拠が不明慮なのはよくあること。こうした素人ほど複数パターンの提出を求めるのは、「比較検討により結論を下した」というプロセスを求めているからです。つまり「色使い」という労力の少ない方法、すなわち最小コストで「複数パターン」を作りだせるのです。

同じく素人でもセンスのある人、センスに自信を持っている人は、はじめから具体的なイメージを伝え、細かなリクエストをだしてくれます。こちらでも「複数パターン」を求められることがありますが、指示が具体的なのでさほどの手間はなく、逆に制約のない素人視点に勉強させられることは少なくありません。もし、論理的に指摘してくれる上司がいるとすれば、あなたは恵まれています。

センスのない人向け

ここからは「センスのない素人」への最小コスト提案作成法です。

まず「本命」を作ります。これは通常の業務で制作するものです。次にその「色違い」を作ります。キャッチコピーや配置、写真などは本命をほぼそのまま利用して、カラーを赤青白の三色にまとめた「トリコロール」や、地味目の色でコーディネートした「アースカラー」、あるいは「きゃりー・ぱみゅぱみゅ」を彷彿とさせるPOPな色調で「キャンディー」などと名付けます。

これで本命と色違いの2パターンの完成です。次に作るのは超手抜きのシンプル版です。

必要最小限のコンテンツや図表のみを掲載し、色使いもシンプルにします。これに「シンプル」「スタンダード」「ベーシック」といった「名前」をつければ3パターンの完成です。「色違い」だけで3パターンとしないのは、切り口の違う提案として比較できるようにするためです。

さらに楽をするなら、アドビ システムズの「Adobe Kuler(クーラー)」を利用すると「収まりの良い配色」を簡単に探すことができます。

名前のありがたさ

本命にも「名前」をつけます。低コストに抑える「キモ」がこのネーミングです。仮に本命を「コミュニケーション」と名付ければ、「コミュニケーション」「トリコロール」「シンプル」から選択させます。すると実際には「色」で選択しているのに、ネーミングから膨らむイマジネーションが「選考理由」だと錯覚するのです。

少し制作コストは上昇しますが、より説得力を高めるなら、それぞれに一言程度の説明をつけるといいでしょう。先に社長が納得した「青」は「オーシャン」と名付け、「はるか海原へと羽ばたくイメージ」と説明を加えていました。激務に疲れていたのでしょう。海中写真は「海原」ではなく、羽ばたけるのは水上に出てからなのですが……。もっとも、彼はこの間違いに気がつく言葉のセンスも持っていませんでした。

3パターンである理由

複数パターンの基本は「3」です。これは「選んだ感」を満足させるためと、実務においての負担の最小化のためです。「2」では客が選ぶ楽しみを味わえません。また、「甲乙つけがたい」と言わせるほどのクオリティの作品を2つ用意しなければ、片方を「手抜き」と評価され不信の種となりかねません。つまり2つの案件を作業するようなもので負担が重くなります。

「4」以上の提案は客を混乱させ決断を鈍らせることになり非効率です。また「色違い」を使えば簡単に「量産」できますが、ありがたみが減少します。これは色違いの2パターンと「シンプル」を組み合わせて「3」とする理由と同じです。

時間が許すなら、あえて「趣味」を盛り込んだ4つ目を出してもいいでしょう。アニメのキャラを配したものや、技術偏重の自己満足でOKです。目的は「自己アピール」と「リフレッシュ」。能力をアピールしておけば、仕事が広がることもありますし、なによりクリエーターという人種にとって、「趣味」に没頭する時間こそが最大の「癒し」になるからです。社風によっては難しいかもしれませんが、就労時間中に趣味に走る快感はストレスを軽減する働きもあります。

そもそもの話をすれば、機能訴求型やライフスタイル提案型など、複数パターンのクリエイティブが客から要求されるのであれば、打ち合わせの段階で決めておかなければいけません。リソースは有限です。安請け合いしていては、お互いが不幸になってしまいます。

今回のポイント

魔法使いにはなるな。「色使い」になれ

さらに言葉を加えることで説得力が高まる

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