各種のアドサーバーと何が違うのか
各種のアドサーバーと何が違うのか
一口に「アドサーバー」といってもいろいろなものがある。媒体社の持つアドサーバー、アドネットワークの持つアドサーバー、そして第三者配信アドサーバー。それぞれどう違うのか、持つ強みは何かを整理していこう。
まず、アドサーバーが持つ主な機能は次の通りだ。
- 入稿:広告主から送付されたバナー画像または配信タグを入稿する
- 枠管理:受発注管理、進行管理、売上管理を行う
- 配信:バナークリエイティブをローテーション配信したり、フリークエンシー数(1ユーザーあたりの広告表示回数)をコントロールしたり、効果の出るページにバナーの配信量を高めたりするなどの配信調整を行う。動画広告やエクスパンド広告(マウスをバナー上に移動させると通常よりも大きなバナーが飛び出して見える効果を持つバナー)など、リッチメディア広告の配信もここに入る。
- 効果測定:インプレッション数やクリック数はもちろんのこと、広告主サイトでの直接コンバージョン数や、間接コンバージョン数を管理する。ここで得られたデータは、次回の配信にフィードバックされる。
- 販売:アドネットワーク事業者のアドサーバーの場合、広告の販売代理機能もある。
- データマネジメント:広告主サイトでのデータ、媒体データおよびオーディエンスデータの管理を行う。
次に、それぞれのアドサーバーの強みを説明していこう。
媒体社アドサーバー
媒体社アドサーバーは、枠管理に最も強みを持つ。枠管理とは、受発注管理、進行管理と売上管理である。どこの広告主または代理店の案件か、どの広告枠なのか、開始日、終了日はいつか、売上はいくらなのかなどだ。ソフトウェアの種類としては、SAPなどの大規模業務管理システムに近い。媒体社独自で開発したアドサーバーは、請求業務システムと連結している場合も多い。アドネットワークアドサーバー
アドネットワークアドサーバーは、配信と販売に強みを持つ。アドネットワークの場合は多数の媒体の売上拡大を最大化することを主なミッションとしている。したがって、eCPM(1インプレッションあたりの収益性)を勘案しながら、バナークリエイティブもしくは広告主のキャンペーンを入れ替えたり、配信を特定の案件や媒体に集中したりできる。媒体個別に最適化するよりも、どちらかといえば全体最適に強みを持ったソフトウェアだ。販売に強みを持つと書いているのは、これはシステムの強みというよりも、アドネットワーク自体が持つ営業力に依存する。第三者配信アドサーバー
第三者配信アドサーバーは、配信と効果測定、およびデータマネジメントに強い。配信コントロール設定や、間接コンバージョンまで含めた効果測定、見込み顧客データを活用した広告配信などのデータマネジメントを行うことに特化している。逆に媒体社の業務である枠管理や、放っておいてもある程度売上を得られるようなアドネットワークの販売能力のような機能はついていない。
このように、アドサーバーといってもかなり役割と強みが異なる。それぞれの特徴を整理すると次の図のようになる。
入稿 | 枠管理 | 配信 | 効果測定 | 販売 | データ | |
---|---|---|---|---|---|---|
媒体社アドサーバー | ○ | ◎ | △ | × | × | × |
アドネットワークアドサーバー | ○ | △ | ○ | × | ◎ | × |
第三者配信アドサーバー | ○ | × | ◎ | ◎ | × | ○ |
10年以上前から続く第三者配信アドサーバーの歴史
日本ではまだ一般的ではないが、第三者配信アドサーバーはインターネット広告産業の黎明期から存在している。広告業界の重鎮によるブログ「業界人間ベム」によると、アドナレッジ社が最初に第三者配信アドサーバーを開発したと言われている。米国で最もシェアを持っているDoubleClickが登場したのは今から15年前の1996年のことだ(当時はアドネットワークの配信ソフトウェアを作っていた会社だったと記憶している)。だから新興ベンチャーがおいそれと簡単に開発できるものではない。特に1995年~2000年まで生まれた第三者配信アドサーバー事業者は、ネットバブル期に資金調達しているので、配信や効果測定以外の媒体購買ツールやリッチメディア対応など、かなりリッチな機能がてんこ盛りである。
第三者配信の延長としてアドネットワークが生まれた、という説もあるし、アドネットワーク(1995年ころは新聞社サイトをまとめたメディアネットワークと言われたものもあった)は結構前からあって、第三者配信エンジンはそこから生まれた、という説もある。
しかし、1995年~2000年に登場した第三者配信アドサーバーの役割は広告主利用にかたよったものだった。どのような広告主で使われていたかというと、複数の媒体社、および全世界に同時に広告出稿するような大手ブランド広告主やIBMのようなテクノロジー企業だ。そこでは、各媒体社バラバラのアドサーバーに入稿して配信するのではなく、一括管理、つまり広告主が管理するアドサーバーから配信コントロール/効果測定したいというニーズが発生した。これは考えてみれば当然のニーズで、かつてはYahoo! JAPANでも、IBMのような広告主の場合には、米国製の第三者配信アドサーバーの利用が認められていた。
第一世代の第三者配信アドサーバーが登場してから3年後、1999年になって新たに登場してきたタイプがある。ブロードバンドの普及によって可能となった、いわゆる「リッチメディア」に特化したアドサーバーだ。代表格はMediamind(旧アイブラスター)で、媒体社アドサーバーではまだ実現できなかった動画広告やマウスオーバーすると大きく飛び出すような広告表現を、第三者配信アドサーバーが担うということが出てきた。「広告主側に立ちながら、媒体社アドサーバーではできないことができる」というアドサーバーだ。どういった広告が掲載されていたのか、詳細はMediamind社のリッチアドのギャラリー「Creative Zone」があるのでそちらでご覧いただきたい。
過去無数の第三者配信アドサーバー事業者が立ち上がったが、それから10数年経過した後、大きなシェアを獲得した事業者は以下の6社である。
- DoubleClick(1996年創業、Googleが2007年に買収合意)
- Atlas(Microsoftが2007年に買収)
- Mediaplex(1996年創業。Value Clickが2001年に買収)
- ADTECH(1998年創業。AOLが2007年に買収、元々ドイツの企業)
- MediaMind(1999年創業。旧アイブラスター、元々はリッチメディア配信が強い)
- Eyewonder(1999年創業。こちらもリッチメディア配信が強い)
米国の老舗かつ大手の第三者配信アドサーバーはすべて「媒体社」が買収している。DoubleClickはGoogleに、Atlasはマイクロソフトに、Mediaplexはバリュークリック(アドネットワークという媒体社)に、ADTECHはAOLに買収された。冷静に考えるとこれはかなり不思議なことだ。広告主向けのサービスであるのに、なぜ広告代理店が買収せず、媒体社が買収したのだろうか。別に広告代理店に資金がないわけではなかろう。株式交換の場合には確かにネットメディアの方が有利には働いただろうが。媒体社にはどのようなメリットがあったのだろうか。
「第三者配信アドサーバーは広告主のみが利用するものである」という認識は異なるのではないかと先ほど書いたが、そのように考えるに至った理由の1つは、こうした媒体社の動きからである。
新興勢力、クリエイティブオプティマイズの登場
2007年前後から、新たな第三者配信アドサーバーが誕生してきた。これらが出てきた背景にはいろいろある。まず、オーディエンスデータの活用による新たなターゲティング機会が登場したこと。アドエクスチェンジ(広告取引市場)の普及によって、1つのアドネットワークよりもはるかにボリュームの大きい配信ができるようになってきたこと。シェア上位の第三者アドサーバーが媒体社に買収されたので、進化が若干止まったこと。そして、ベンチャーキャピタルがアドテクノロジー分野に大規模投資を行ったことによって、特定分野に特化したニッチプレイヤーが生まれやすい土壌となったことが考えられる。
もちろん、ハードウェアやネットワークコスト自体の価格低下、web 2.0時代に先人が創り上げた負荷分散技術の進化などによって、大規模アドサーバーの開発コスト自体が激減した、ということもあげられるだろう。市場環境がここで大きく変わったのだ。新興第三者配信アドサーバーのなかでの新しい試みは、クリエイティブオプティマイズ事業者だ。
クリエイティブオプティマイズとは、広告クリエイティブの最適化によって広告効果を最大化しようという試みだ。何百種類ものバナーを自動生成し、多変量解析などのアルゴリズムを駆使しながらバナーを最適化する。事業者としては、Dapper、Teracent、Tumriなどが有力だ。私が所属するFringe81の「iogous」もこの分野にあたり、バナー自体の色やサイズ、形などの新たなデータを広告主側に提供することが可能となった。今までの第三者配信アドサーバーでは、クリエイティブに手がつけられていなかったし、かつてリッチメディアが強いアドサーバーが立ち上がったのと同様、媒体社アドサーバーではできないことができる、ということを目指して創業された。
DSP(デマンドサイドプラットホーム)もまた、新手の第三者配信事業者といってもいい。DSPは、オーディエンスデータをもとに、媒体の枠ではなくデータに基づいて入札を行う、リアルタイムビッティングに特化した購買ツールだ。もちろん、配信も可能ではある。ただし既存の第三者配信アドサーバーとは共存している場合も多い。リアルタイムビッティングはDSPにまかせ、配信は第三者配信アドサーバー、といった具合だ。他にはリターゲティングに特化したアドサーバーも出現している。
時代は繰り返し、クライアント向けのサービスであったクリエイティブオプティマイズに振り切った新興第三者配信アドサーバーも、媒体社が買収している。Dapperは2010年にYahoo!に、Teracentは2009年にGoogleに買収されている。また、DSPも最大手のInviteMediaはGoogleに買収されている。どうもシリコンバレーのアドテクノロジー企業の買収は広告代理店よりも媒体社が先行しているようだ。媒体社にとってみれば、広告主側のデータや、単価を上げるためのソリューションは自社にどんどん取り入れていきたい、という現れなのであろう。これも私が主張する、第三者配信アドサーバーは媒体社も利用すべき、日本ではうまく活用されていない、という理由の1つだ。
第三者配信アドサーバーが媒体社を救う
日本で第三者配信アドサーバーは現状ほとんど普及していない。そんななか、弊社はこの事業分野にチャレンジしている。どうしてかというと、第三者配信アドサーバーは、媒体社の広告パフォーマンスの向上や、単価アップに必ず結びつくと信じているからだ。
日本で初めて第三者配信エンジンを普及させようとした試みが行われたのは2000年、つまり今から11年前のできごとだ。第三者配信が普及しなかった要因はいろいろと言われているが、当時はやっとウィンドウズメディアサーバーの英語版が出たという時代で、今のようにFlash環境もないし、ブロードバンド環境もない。私はそのころ、ヤフーで動画インフラ開発をしており、車の動画広告なども作ったが、「こんな重いものだれが見るんだろう」と言われたものだ。
そんな11年前、その時のアドサーバーは、はっきり言うと高いし、高度なリッチメディア機能もなかった。そして媒体社利用というより、広告主利用メインの段階だった。GoogleやMicrosoft、AOLが第三者配信アドサーバーを買収するのは、2000年から7年も経った2007年のことである。日本でも第三者配信を普及させるため、2000年にアドソリューションエックス社(現ビデオリサーチインタラクティブ)が設立されているが、残念ながら普及にはいたっていない。
2000年当時、第三者配信が普及しなかった理由としては、次のようなことが言われている。
- 米国で開発されたものだったので日本の商習慣にあわなかった。
- 媒体費ではなく、配信料というモデルがそぐわなかった。
- 配信料が高かった。
- 日本ではインプレッション課金モデルではなく、クリック課金やCPA課金での課金形態が早々に中心となった。
- クリエイティブの差し替えを広告主が行うことを媒体社が嫌がった(これが一番の理由と言われているが、これは事前確認する、という取り決めをするなどでカバーできるように思う。
- 媒体社がデータを活用して改善するような仕組みではあまりなかった(市場がどんどん拡大していく途上であったので、そのような取り組みをしなくても売れた)。
今回は、第三者配信アドサーバーがどういったものかについて説明した。次回は、より具体的なメリットについて紹介する。
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