「IAサミット2009」参加レポート―IAの世界的イベントが米国で開催
これまでIA視点のWebプロジェクトとして、Webサイト設計やプロジェクトマネジメントに関するいくつかの観点を述べてきました。今回はちょっと趣向を変えて、3月に米国で開催されたIAの国際会議である「IAサミット2009」の模様を紹介したいと思います。
IAサミットとは、年に一度北米で開催されているInformation Architecture Summit(情報アーキテクチャサミット)の略称で、今年で10回目を迎えました。IA(情報アーキテクチャ)に関する世界会議と呼んでもいいイベントで、インフォメーションアーキテクトやユーザーエクスペリエンスデザイナーなど、全世界からIAに関心を持つ人々が集まってきます。過去開催された10回のサミットのうち、筆者はこれまで約半分に参加しました。
サミットは、ASIS&T(全米情報科学技術学会)が主催し、内容の企画や運営は、世界的なIAに関する団体であるIA Institute(IAI: IA研究所)が行っています。IA Instituteでは、IAについての教育や活動支援などを行っています。
サミットは例年ワークショップ2日+セッション(プレゼンテーション/報告会)3日の計5日間の日程で行われます。一般的なカンファレンスに相当するのが後半3日間のセッション部分で、ここでは45分のプレゼンテーションが3部屋で同時に行われます(パラレルセッション)。セッションの内容は、IAやUX(ユーザーエクスペリエンス)に関する事例の紹介や新しい概念の紹介、手法・方法論の提示など多岐にわたります。また、50を超えるプレゼンテーションや報告会の最初と最後には、キーノート(開会時の基調講演)、クロージングプレナリー(閉会時の全体向け講演)と呼ばれる、参加者全員が一堂に会する全体を統括する講演が行われます。
- IAサミット2008(米国・フロリダ州マイアミ)
約700人が参加し、大規模な開催となった。IAだけでなく、UX(ユーザーエクスペリエンス)という名称も肩書きに多く見られるようになってきた。筆者らは、サイトストラクチャ構築ツール「Site-it!」についてのプレゼンテーションを行った。
参考URL: 「IA Summit 08 報告会 発表資料」(リンク先はPDF)
- IAサミット2007(米国・ネバダ州ラスベガス)
オープニングプレナリーはシアトル中央図書館を設計/プロジェクトマネジメントした建築家レム・コールハース氏率いるOMAプロジェクトのジョシュア・プリンス・ラムス氏。大規模建築プロジェクトを例に出しながら、プロジェクトアーキテクト(プロジェクトの組み立て、リスク評価などを行う設計とプロジェクトマネジメントの両方の専門性を持った役割)の重要性を説いた。また、データ駆動型のサイト設計についてもトピックが多かった。
- IAサミット2006(カナダ・バンクーバー)
約500人が参加、半数は初参加で米国内でのIAという言葉の普及が一般的になったことを感じさせた。この年は、ちょうどタグやタグクラウドインターフェイスが盛んになったタイミングであったため、Folksonomy(Folks:民族+Taxonomy:分類学の造語)という言葉で、このタグによる分類について盛んに議論が行われた。筆者は、ウェブサイトでの7つのナビゲーションについてのプレゼンテーションを行った。
参考URL: 「7つのナビゲーション」
- IAサミット2005(カナダ・ケベック州モントリオール)
エンタープライズIA、企業におけるタクソノミー管理、CMS設計におけるIAなど、大企業でのIAトピックが目立った。また、国際化におけるIA課題、IA教育などのトピックもみられた。
- IAサミット2002(米国・メリーランド州バルチモア)
3回目の開催ということもあり、IAについての定義やナビゲーションについての研究的な議論が行われた。Jesse James Garrett氏による「日常生活でのIA」、IBMのKeith Instone氏の「パンくずナビゲーションの3つの形態について」などの講演はいまでも色あせない興味深いトピックであった。
記念すべき10回目のIAサミット
今年は10回という節目の開催ながら、不況の影響もあり参加者は昨年の700人超から400人弱へと減少し、一回り小さな開催になりました。ただし、セッションの内容は、従来のIAに特化したものからより横断的な内容(広告に対するIA、IAの費用対効果など)が増え、広範囲のテーマを扱うようになっています。また、全体を通してこれまでよりパネル形式での議論が多くなり、数人で議論を行うようなセッションもいくつか開かれていました。
通常の(概念的な)セッションとしては、メディアの変革に伴う利用者の変容、優れたユーザー体験の提供のためのポイント、段階的なサイトリニューアルのための戦略といったテーマ。一方では、ファセット分類検討のケース事例や優れた納品物のためのテンプレートといった、より実践的な内容も見られました。
そして、それらと同時に多く見られたのが、IAは今後どのように進化すべきか、IAコミュニティの現状の課題の分析といった「IAはどうなるのか」というテーマでした。IAサミットの1か月前にIA Instituteも共催して開催されたIxDA(Interaction Design Association)との棲み分けや、ユーザーエクスペリエンス分野と混在することによるIAコミュニティへの求心力の低下といったものが議論されていたのが象徴的でした。
それでは、今年のセッションの中からいくつか具体的に例を挙げてみましょう。また内容はすべて英語ですが、当日のプログラムに加え、ポッドキャストやスライドショーなどの資料もあがってきているので参考にしてください。
キーノート(基調講演)
Michael Wesch/カンザス州立大学(プログラム|ポッドキャスト)
基調講演は、ソーシャルウェブ(Web2.0)の特徴を端的に表現した映像「The Machine is Us/ing Us」の作者として知られている、カンザス州立大学の文化人類学助教授Michael Wesch氏。Webをはじめとする「メディア」が、単にコミュニケーションを媒介するだけでなく、人々の考え方やふるまいを変えていっていることを具体的な実例を交えながら解説しました。
パラレルセッション
参加したものの中から特徴的なセッションを抜粋
- Amazonのデザインから見つかる「宝」
原題: Revealing Design Treasures from The Amazon - Jared Spool(プログラム)
Webサイトの効果を担保しながらリニューアルする手法や、ビジネス上の制約をうまく活用した運用の最適化など、実際に米Amazonのサイトでとられている方法論の紹介。
- IA/UXの専門家組織―成功するローカルグループや支部の始め方と運営方法
原題: Professional IA/UX Organizations - How to start and run a successful local group or chapter - Kyle Soucy and Nasir Barday(プログラム|ポッドキャスト)
ワシントンD.C.にて、IxD(インタラクションデザイン)のローカルグループを運営している2名によるグループ運営のテクニックや、考え方など。
- サイトリデザイン
原題: Site Redesign: When hell freezes over use a blowtorch - Melissa Matross(プログラム|ポッドキャスト|スライド)
米国の旅行情報サービス「Hotwire」における段階的なサイト改善アプローチの紹介。サイト全体を修正する「リニューアル」に変わる概念として、常にサイト変更によるリスクを念頭に置いた部分的な修正である「リフレッシュ」を提唱。
- みんなのためのアジャイル
原題: Agile for the rest of us - Anders Ramsay(プログラム|スライド)
アジャイル開発手法の特徴と、アジャイル開発手法を取り入れるためのステップの解説。
- (ほぼ)ここにいます:デジタル空間とそこでの文脈の問題
原題: You are (Mostly) Here: Digital Space and The Context Problem - Andrew Hinton(プログラム|ポッドキャスト)
もともと領土を示すという「意味」から生まれた「地図」であったが、現在、ネット上などでは、「地図」を見てそこから「意味」をくみ取るような行為が見られていることに着目した分析と論考。
- ファセット手法におけるファセット:モデル、意味、表現
原題: The Facets of Faceting: Models, Semantics and Representation - Kristoffer Dyrkorn and Helle Hoem(プログラム)
ファセット分類(ツリー構造ではなく、タグのようにいろいろな検索軸で情報を探せるようにする分類)を適用させた事例紹介。
クロージングプレナリー
Jesse James Garrett/Adaptive Path(プログラム|ポッドキャスト)
閉幕を飾ったのは、日本でもたびたび講演を行っている、Adaptive Path社のJesse James Garrett氏。AJAXという言葉の生みの親としてもよく知られた人物で、多くの著作やセミナーによって、IA業界を牽引しています。
この講演では、IAに関わる人の今後について触れ、IAという限定された枠組みを作らず、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」というより大きな視点から活動を行う必要があるという指摘を行いました。これは、よりこのコラムでも触れているように、IAという役割がよりプロジェクト全体に求められるようになってきたことに伴っている主張です。
いかがでしょうか。ここで取り上げているのはほんの一部ですが、いわゆる「デザイン会社」や「コンサルティング会社」側の話ではなく、企業側の話題が多いことがわかると思います。
サミットの参加者の半数ぐらいは、企業側のインフォメーションアーキテクト、あるいは情報アーキテクチャ担当、ユーザーエクスペリエンススペシャリストといった肩書きの人たちです。米国では、「情報アーキテクチャ」というキーワードはWeb業界の間では一般的な用語として普及しています。IAサミットが始まった2000年頃には、まだ情報アーキテクチャはそこまで普及しておらず、一部のデザイン会社や開発会社側に存在する役職でした。それが、2005年頃から特に企業側で情報アーキテクチャの重要性の認知が高まり、現在は企業側とデザイン会社側の双方にインフォメーションアーキテクトが存在する状況になっています。
その流れを受けて、IAサミットでのプレゼンテーションもより実践的な内容へと変化していきました。実践的といえば、セッションの前に2日にわたって開催されるワークショップもかなり実用的な内容になっています。ワークショップは、半日もしくは終日で合計14セッション用意されています。IAの基礎からプロトタイピング、次世代のIAに関する話題など、すぐに役立つ内容となっており、第一線のインフォメーションアーキテクトやコンサルタントなど少人数を対象として実施します。
こういったセッションとワークショップを組み合わせた形式の会議は米国では数多く開催されています。日本からも若干の参加者はいますが、講演や議論はすべて英語なのでそのあたりが障壁になってしまっている人もいるでしょう。筆者らが主宰するIAAJ(情報アーキテクチャアソシエーションジャパン)では、こういった国際会議の報告会を適宜開催していますので、興味がある方はぜひ参加してください。
- コンセント主催で開催されたIAサミット報告会の発表資料
- カンファレンスプログラム一覧
- ポッドキャスト(一部)(2段落目「Keynote」~「Closing Plenary」の各ページを参照)
- 講演のスライド(一部)
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