問い合わせを増やすなら。任意売却で再確認したペルソナ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百弐十
利用率0%のTwitterを笑えない
一昨年からIT界でブレイクが噂され続けている「Twitter(ツイッター)」とは「つぶやき」を投稿し、そこにリアルタイムにコメントが寄せられるコミュニケーションツールですが、私の周辺にいた会社員、自営業、主婦、女子高生に訊ねても誰も知りませんでした。分母が少ないので統計とは呼べませんが「赤や青の場所に手や足を置くゲーム」と答えたのはアラフォーの主婦で、それは「ツイスター」です。これがIT業界人のブログを見ると話題沸騰。ネットに常駐している「IT系」にとってオンラインでのコミュニケーションは公私ともに重要で、そこでTwitterは活躍しているようです。しかし「非IT系」の人々にはリアルタイムのオンラインの必要性がよくわからないようでした。
IT業界とそれ以外の温度差について何度も指摘しました。それはホームページ屋という商売が「客の客」を意識しなければならず、多くの場合「客の客」とは非IT系だからです……と、自ら言っていたはずなのですが、桜の散る頃、深い反省をしました。
メールで問い合わせがこない
東京12チャンネル(現在のテレビ東京)「パソコンサンデー」の故、宮永好道さんの名言「習うより慣れろ」とはコンピュータは使うことで「慣れ」そして覚えていくということです。携帯メールを挙げるまでもなく「文字情報」だけのコミュニケーションが成立するのも、首相の誤読を笑い国家を嘆くブログを公開できるのも、Twitterに「腹減った」と投稿するのも「慣れ」です。しかし「慣れ」を客に強制するのは問題です。
埼玉県春日部市「だるま不動産」では「任意売却」の相談窓口を「メール」にしていました。窓口をメールにしたのは、私が手がける他のサイトでの「メール」は一定の成績を残していたからです。
任意売却と競売の違い
任意売却について述べておきます。住宅ローンなどの返済が滞った場合、債務者(物件の所有者)に対して債権者(銀行などの金融機関)は、その物件を「競売」にかける権利を持っています。「競売」は裁判所の管理下で行われ、一般的に市場価格より安いことから、購入希望者が集まりやすくスムーズに現金化できるメリットがあります。物件が「特売」されても債権者は損をしません。仮にローン残額が2,000万円で、1,500万円で落札された場合でも残りの500万円は借り主の債務として返済義務が残るからです。
任意売却にすると市場売買のため、競売と比較して高い価格で売却できる可能性がうまれます。ただし、競売する権利を保有している債権者の許可が必要です。この債権者との交渉や諸手続きの代行の受注が、だるま不動産の狙いだったのですが……メールはわずかしか届きませんでした。
客の気持ちになって見えてきたもの
任意売却コンテンツをこの春にリニューアルすると問い合わせが増えました。「マンガ的手法」も仕掛けの1つではありますが最大の理由は「電話」です。
リニューアルのために「任意売却」についてブレインストーミングをしました。想定している客、すなわちペルソナは住宅ローンの滞納者です。ペルソナの気持ちを理解するために、だるま不動産の代表に任意売却の実例を尋ねるとこういうケースがありました。
「不況による業績悪化から給料が減額されて支払いが数か月滞り競売を迫られている」
よく耳にする話ですが「私」には幾つかの疑問が浮かびました。不況への予兆はあったのに自己防衛していなかった。給料を減額されたとはいえ、突然支払いが滞るのは「返済計画」に問題があったからではないのか。そして「競売」となる前に「返済計画の見直し」という手段を講じなかったのか。疑問を挙げる中でペルソナの人間像が後光を浴びて浮かび上がります。
ペルソナは作文が苦手
浮かび上がったペルソナはこうです。
社会情勢に疎く、計画性も乏しく、ネットで「検索」して善後策を講じず「競売」と告げられてから右往左往する人。
そんな人たちをよく知っています。そう、これは私の周囲でよく見かける愛すべき隣人たちでした。日々の子育て、毎日の営業ノルマに追われ「Twitter」をツイスターと勘違いする人々です。すると「メール」より「電話」が向いているのではと仮説が立ちます。私のよく知る愛すべき隣人達は「文章」を書くことに慣れておらず、メールでの問い合わせを苦痛と感じます。
文章で状況を説明するには作文のスキルが必要で、任意売却や競売の仕組みを知っていれば、必要な事項を箇条書きで伝えることもできますが隣人達は素人です。しかし「電話」ならばなんとか伝えることができる……と、思うのではないか。そして狙いは当たりました。
金を貸したおまえが悪いという社会
ホームページに訪問したからといって、誰もがメールで気楽に問い合わせができるワケではありません。私用の携帯メールに絵文字を詰め込むことはできても、ローンの契約内容から返済額、延滞利息を順序立てて説明できる人はまれです。ならばプロが「聞き手」となり、クライアントの不安を紐解き疑問に答えなければならなかったのです。そしてその最適解のツールは「電話」だったのです。
IT業界人のIT業界人によるIT業界人のムーブメントに苦言を呈しながら、客のお客さんに「メールで問い合わせ」を強要していた自分を深く反省し、桜吹雪に決意を新たにしました。
最後に余談ですが「サブプライムローン」によりアメリカの金融機関が壊滅的な被害を受けたのは、日本の不動産貸し付けと仕組みが異なるためです。任意売却の説明で用いた500万円の損失は日本では借り主の責任ですが、アメリカでは担保物件以外の責任を追及しないローン(ノンリコースローン)だったので、物件でまかなえない分は銀行の損失となります。これは日本では「人」に貸し、アメリカは「物件」に貸すからです。つまりはこういうこと。
「1,500万円にしかならない物件に2,000万円貸したおまえ(銀行)が悪い」
そして「人」に貸す日本では、長期ローンでは「生命保険」に入ることが一般的で不幸が起きればその保険で残金が清算されます。まさしく「命がけ」です。
♪今回のポイント
つい疎かにしてしまう客の気持ち。
自分の周辺で考えると客(の客)を見失う。……深く反省。
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