企業ホームページ運営の心得

取り引きするなら大企業か零細か? 儲けか好みかという経営判断

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の九十八

大企業はやっぱりすばらしい

先日のWAISの懇親会にて読者より取引先を訪ねられ「中小企業専門」と答えると「そうなんですよね」と頷き、取引企業を絞り込むことでIT機器販売の効率が高まったと続けます。大企業と中小企業では商習慣や常識が異なることが理由です。つまり「BtoB」でも客は選ばなければならないのです。

勝手にシリーズ化している「客を選ぶ」ですが、今回は読者との会話から産まれた「大企業か零細企業か」について「IT関連業者」向けに書き下ろします。

昭和の経営者と話をしていると「大企業信仰」が健在だと気がつきます。これから述べる大企業の「旨味」がご本尊です。彼らには「なるほど」とオーバー気味に頷き「勉強になりました」と感心してあげます。信教の自由は尊重されるべきですし、「折伏」も「宗旨替え」も私の仕事ではありませんから。

スケールメリットという旨味

旨味は大企業に分があります。

定義や業種により異なりますが、最小で50人、最大では900人を超えると「大企業」と呼ばれます。この人数が「スケールメリット」を生み、「組織」により効率的な取引が行われるのも大企業の魅力です。「鉛筆」を納品する文房具業者を例に見れば、1本90円の鉛筆でも900人となれば81,000円とボリュームがでて、商品は「総務部」への一括納品、支払いは「経理部」と窓口は明らかです。一方、1本だけ納品しては赤字ですし、実質専業主婦の零細企業では「社長夫人」が支払いを忘れることもあり、個別販売するなら900回の「お会計」が必要です。

鉛筆は例えで、御社がSaaSを提供しているならユーザー数に、機器を販売しているなら端末やマウスを置き換えます。売上増加と同時に物流・会計コストを軽減できるのは、取引先が大企業ゆえのメリットです。

信用力と官僚化という旨味

大企業を選択する「旨味」は「金」だけではありません。ヤフーの検索エンジンに採用されたことがグーグルの知名度を高め、躍進から驀進(ばくしん)へと向かわせた事例も「旨味」です。大企業との「取引」を「信用」と誤変換してくれる人が多いのです。

組織が大きくなると「前例主義」が蔓延します。改革は「前例」をつくった上司や先輩を否定する行為と避けられます。俗に言う「官僚化」の一例ですが……旨味です。官僚化した組織では「前例主義」から過去のデータが重視され、取引業者にこれまでの取引データの提出を命じます。仕様が指示されないデータは、切り口により自在に演出できる便利な営業ツールです。かくして小手先の「修正」で取引が継続されます。

デメリットも深い

ここまでで首をひねった方は、大企業との取引現場をご存じの方でしょう。

旨味だけではありません。大企業との取引は厳しい価格と条件競争があります。理不尽な要求も珍しくなく、露骨に「リベート」を求める担当者もおり、業務上横領ではないかと申し出て「出入り禁止」となったケースを耳にしたことがあります。官僚化された社会では、和を乱す「いわく付きの業者」といったところでしょうか。

※編集注 支払いサイト

購入した商品・サービスの代金支払いの期間のこと。月末締め翌月末支払いであれば、購入した月の末に支払い請求をして、翌月末までに支払ってもらう。

さらに「支払いサイト」というデメリットも見逃せません。BtoBでは一般的に掛け払いで、これは約束の支払日に「後払い」する信用を前提とした方法です。月末で集計し翌月末日払いの場合、最長2か月間も現金が拝めず、「6か月手形」ならば今月11月の注文が翌年の5月以降にようやく「金」となります。その間の「現金不足」は大きなリスクです。

大企業は膨大な取引先をもち、個別企業毎に取引ルールを設定するのは容易ではありません。取引前に絶対に確認すべき条件です。

そして大企業と取引するリスクにも注意が必要です。

デメリットだらけの零細企業

大企業との取引が増えると一定規模の売上に安心し、自らの力で販売する、または販売先を探す能力が退化するリスクがあります。語弊を怖れずに言えば、飼い慣らされた野生動物が餌場を忘れ、狩りができなくなるようなものです。大手メーカーに依存していた中小製造業の苦悩はここにあります。

それでは中小零細を選んだとすると……儲けは薄く知名度向上に使えるケースは希で、単純な取引で大企業と比較すればデメリットばかりです。組織として機能しておらず、社長のご機嫌が決定を左右します。しかし、短所と長所は裏表、大企業に唯一圧勝できるメリットです。組織が未成熟な分だけ風通しも良く、社長の胸先三寸で決済できることから「決断」が最速で下されます。いわゆる「旨味」は少なくても、自由度とスピード感、そして「成長」を体感できるのは中小零細の「魅力」です。

企業文化の違い

広告を手伝っていた携帯電話販売店で、回線会社の営業マン数人と意見交換したときのことです。「販売現場のノウハウ」について質問があるかと構えていると「○×部長がゴルフに行って」と社内の給湯室レベルのネタに花が咲きます。そこで「学割がシェア拡大に貢献した実例」で水を向けると、「へぇ~」と魂のない返事をして「先週のイベントガールは可愛かった」とヤニ下げます。彼らが帰った後、携帯販売店の社長は言いました。彼らにとっては販売店に卸すまでが仕事で売ることについては「マーケティング」や「企画」の仕事なのだと。

仕事単位で割り切るのなら大企業が良いでしょう。隣の芝生が根腐れしていても指摘することは好まれず、「見て見ぬふり」が最適解で取引先にも適用される公式です。腐りきれば切り捨てるだけという割り切りが組織の強さでもあるのです。これを好まないのなら中小零細がオススメです。芝刈りまで手伝わされますが。

大企業か中小零細かは「得手不得手」により分かれます。この見極めが難しければ「好き嫌い」という幼稚な判断でまずは始めてください。恋愛と商売は似ており、第一印象は意外なほど当たります。

儲けなければ商売じゃありません。しかし、おもしろさを楽しめるのも商売の「メリット」です。私はそう考え中小零細を中心とし、奥さんに叱られています。

♪今回のポイント

メリットが高ければデメリットは深い。

客の規模も重要な取引チェックポイント。

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