企業ホームページ運営の心得

転職の前のひとり春闘。現場だからこそ積める実戦経験

転職はいつでもできますが、職場との交渉は在職中でしかできません
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の262

転職を考える

ゴールデンウィーク明けに「転職」を考える人が多くなると聞きます。まとまった休みにいろいろ考える時間ができるからだといわれていますが、それに加えてゴールデンウィーク以降、7月の海の日までの2か月以上、祝日がないことが勤労意欲を減退させるのではないかと見ています。ゴールデンウィーク明けからの2か月半(今年は10週間)は、1年間で最も永い「無祝日」なのです。

会社員なら一度ならず「転職」を考えたことがあるでしょう。人間関係、待遇、職務内容など、理由を挙げればキリがありませんが、イヤなら辞めればよいと考えます。会社の規模や知名度に固執しなければ、Web担当者の再就職はそれほど困難ではありません。別業界に転身する際も「ホームページを作れます」は「特技」として評価されますし、Web業界ではだれもが知っている知識が、一般社会では尊敬の対象になることが多いからです。

繰り返しになりますが、会社はいつ辞めてもよいのです。だからこそ、転職を上司に切り出す前に試してほしいことがあります。

「辞めぐせ」という病

そもそも「転職」にはデメリットがあります。まず「経歴」が汚れます。いまだに「新卒信仰」があるように、日本社会では「一途」な社員が好まれる傾向にあります。また、経営者は転職を繰り返すものを嫌います。

採用活動にはコストがかかります。求人サイトへの出稿にはじまり、採用面接にかける人件費、入社後の研修、それが簡単な説明であっても人手を割いて指導しなければなりません。「求人」しているということは、人手が不足している状態です。そこでさらに人手をかけるのが採用という業務です。それなのに、すぐに退社されれば大損です。

次に安易に転職を繰り返すと「辞めぐせ」がつきます。退職を申し出る心苦しさも感じなくなり、採用面接にも打ち合わせぐらいの気楽さで挑める心が身につきます。この「図太さ」は別の意味では財産となりますが、「辞めぐせ」がつくと「実戦経験」が減ってしまいます。

乏しくなる実戦経験

どんな会社でも入社したその日から重要な仕事を任されることはありません。経歴書に輝かしいキャリアが書いてあっても、しばらくは「様子見」で、退社が決まったあとも同様です。また、退社から再就職までの期間もあり、転職の前後は「実戦」から遠ざけられるのです。同僚が仕事に没頭している間に就職活動に追われるので、両者の経験値に開きがでるのは当然です。

さらに、いまだに日本では年齢による雇用制限が事実上存在します。25歳、30歳と5年刻みに門戸は狭くなり「40歳」以降は余程の技能や経験がなければ、「ガテン系」へのジョブチェンジも視野に入れなければなりません。つまり転職を繰り返し、年齢を重ねれば、就職そのものが難しくなるのです。

もちろんこれは「安易な転職」の話です。こうしたデメリットとメリットを天秤にかけ、さらに転職後の自分の立ち位置まで計算して、転職を決断……するまえにもう一考、というのが本日のテーマ。

中小企業の雇用実態

公務員の給料は各種法律による制限があり、簡単に変更することはできません。しかし、民間企業は簡単に変更できます。厳密には労使の話し合いが必要ですが、中小企業において良くも悪くもコンプライアンスは曖昧です。

営業マン時代の話です。この会社では業務上のミスはペナルティとして給料が減額されました。職務上のミスを個人弁済させるのは違法行為ですが、上積みして支給している形式の「手当」から減額するのはグレーゾーンで、納得して結んだ雇用契約なら違法性を問うことは困難です。有給休暇を取ると給料が減る会社も実在します。

減らすことができるのですから、増やすことも簡単にできます。そもそも「契約」とは両者の合意があれば、いつでも内容を変更できるもので「雇用契約」もこれにあたります。

ひとり春闘の醍醐味

つまり「条件交渉」が可能ということです。あなたは勤務先に、

給料を上げてくれ

と交渉したことがあるでしょうか。私はあります。新規事業立ち上げ前夜、多忙を極めました。会社の規定で「営業マン」の給料は営業成績による歩合で決まります。つまり、新しいことに取り組んでもそれを評価する仕組みがなかったのです。肉体的、精神的な限界を感じ「転職」を考えたころ、上司に「ひとり春闘」を挑みます。

請求は棄却されましたが、替わりに極秘情報を告げられます。「年功序列」を人事政策の柱としていた会社で、序列を飛び越して「主任」とする話が進んでいるというのです。出世には興味はないと告げると、「手当」が付くというのでしばらく様子を見ることに。序列が崩れることに難色を示す意見もあったそうですが、「ひとり春闘」は役員の知るところとなり昇進が確定したといいます。

係長の代わりに5,000円

これで味をしめた、というのは冗談ですが、築き上げた人間関係と信頼を捨て去り「転職」するよりも、よりよき職場環境のためと「条件交渉」する方が楽だと打算が働きます。

新規事業が立ち上がると、次には「営業部改革」や「IT化推進」と、さらに受け持ちが増やされます。結果を出すと仕事が増えるのは、会社員もフリーランスも同じです。「タダ」は無理ですと条件闘争にはいります。「主任」になった翌年に「係長」へ昇進させることはできないと見送られましたが、「プロジェクトリーダー」なる新たな役職が新設され、月額5,000円が手当としてつきました。

他にも自宅で作業をする代わりに、遅れて出社する「遅出」や、休日出勤で溜まった代休の「平日連続消化(これで年に2回沖縄旅行に行っていました)」など、交渉により勝ち取った条件は少なくありません。

大きな組織では難しいかもしれませんが、中小企業なら交渉次第で条件変更は可能です。特に給料以外の部分なら、社則を変更せずとも、上司による「現場の判断」で黙認されるものです。転職はいつでもできます。しかし、職場との交渉は在職中しかできません。また、その企業だからこそ積める経験というのはあるものです。

今回のポイント

転職の前に条件闘争

転職のデメリットは想像以上にでかい

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