コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の参十五
夏休みの終わりまであと10日
せめて3分の1は終わらせたはずと宿題のドリルを見つけてみると、配られた当時を色濃く残した姿に冷や汗が流れたものです。
夏休みの宿題と共に昭和の子供に「嫌な汗」を書かせたと言えば、怪奇特集「あなたの知らない世界」があります。
今回は夏休みカウントダウンスタートの特別編「ウェブ担当者の知らない……かもしれない世界」について。
公園作って落とし穴で1千万円
商売においてもっとも重要で、難しいのが「集客」です。「無料」も集客戦術で、ネットサービスや見積もりの無料も、集客力を期待してのものです。
20世紀後半、「ブラウザ」も「見積もり」も有料で、課金制のネットサービスは少なくありませんでした。
これにより「無料」は集客戦術となったのですが、一般化するにつれ「無料は常識」という誤解を生み出したのです。
ネットでの会員募集で苦戦していた企業が「ネットに詳しい人(コンサルタント)」を紹介されました。詳しい人は「公園を作りましょう」といいます。
詳しい人の難しい定義
「人が集まる楽しい公園を作り無料で利用させる。公園には落とし穴を仕掛けて、落ちたら入会をさせる」という戦略とのことです。予算は一千万円。ちょっとした企業なら出せない金額ではありません。
この企業のウェブ担当者が拙著「楽天市場がなくなる日」を読み、相談にやってきました。
歯に衣を着せる機能がない私は「御社は羽毛布団を売っているのですか?」担当者も同席した責任者も驚いています。「つまり、羽毛布団の悪質販売と同じだということです。悪評を生む確率が上がりますよ」
一千万円を覚悟していた矢先でした。
もちろん、搦め手として集客から成約にもっていく営業手法もありますが、そこまで高度なものではないというのが私の見立てです。
そこで「公園に人が集まる理由を聞いてみてください。同様の成功例があればそちらも」とアドバイスをしました。
土木建築業者のための公園作り
後日届いたメールをまとめたものです。
「先日はありがとうございました」
「公園とは、とにかく人が集まるような無料情報やサービスを充実させるというもので、それは何かとつっこんでみると結局は弊社で考えるというものでした」
「そして成功例はなく、『ネットとはそういうもの』という説明に終始するのをみて、一千万円をどぶに捨てるのを止めました(笑)」
結局、「システム構築」だけだったのです。
土木・建築業者のための公園作りに似ています。
子供(利用者)のことは考えない箱物作りで、実はネット業界ではよく耳にする話です。最近では「公園」ではなく「コミュニティ」や「SNS」という言葉になっております。
違和感を感じたらこの呪文を唱えてください「それでは集客は?」
メルマガ発行は常識か否か
「ネットに詳しい人」にはご注意を。
ウェブ担当者は社内に相談できる相手がおらず、盲目的に信じてしまうことがあります。技術的やトレンドは特にです。そして、枯れ尾花を幽霊だ先祖のたたりだと騒ぎ、印鑑やツボ(設備やツール)を購入させ、あとは信心次第という「詳しい人」も存在します。
こんな例もありました。
地元の交流会を通して知り合った漢方薬屋は、ネット通販を始めようと思いある業者に見積もりを依頼したが、その内訳が妥当かどうか知りたいといいます。
「商売仁義に反するので見積もりを見てからは弊社では受けません」と前置きした上で、見積もりをみると「電子メール同報配信ソフト」というメルマガを自社配信するソフトの項目がありました。
業者はホームページを始めたらメルマガを発行するのが常識なのでと説明します。
独自メルマガの成功確率は低い
薬屋にメルマガ発行の経験はなく、読者獲得のノウハウもなければ、メルマガを書いたことすらありません。
「それでは集客は?」と訪ねると、訪問者がメールアドレスを置いていってくれるという目論見です。
メルマガバブルの余韻さめやらぬ時代でしたが、それでも「メルマガはこちら」だけで集客できるほど甘いものではありません。
早速見積もりから外させ、メルマガを出すなら「まぐまぐ」などの無料スタンドで始めるように薦めました。これは無料というより、「メルマガスタンド自身が持つ集客力」が、デビューしたての無名サイトの力になってくれるからです。
失敗を語る人が少なくあまり知られていませんが、最初から自社配信のメルマガを立ち上げて成功した例は少ないのです。にもかかわらず「メルマガソフト」を常識としています。
「知識差」は商売の妙味の1つで、相手の無知を利用して儲けることを一様に責めることはできません。
しかし、ご存じでしょうか。
ウェブ担当者はネットという鉱脈から金を掘り出したいと願い、掘る道具であるツルハシやシャベル、または丈夫なジーパンを売りたいと考えるのがネット関係者(業者)だということを。公園作りもメルマガソフトも道具で、それを売りたいのです。
ウェブ担当者とは見えている世界が違うということです。
あなたの会社以外の「知らない世界」。次週に続きます。
♪今回のポイント
ウェブ担当者は「詳しい人」のビジネスモデルにも思いを馳せろ。
業者選びに悩んだら「で、集客は?」と呪文を唱える。
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