『ウェブ進化論』で語られなかった大切なこと

「与えれば得る」の原則に基づき何をどう与えるかを考える

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「与えれば得る」の原則に基づき何をどう与えるかを考える

コンテンツを作る際に陥る罠が「出し惜しみ」だ。広告の世界では真似されて一人前といわれるように、同業者が真似をするということはそれだけ魅力的なコンテンツができた証といえる。ところが「出し惜しみ」をすると、真似をされるリスクは減るが、お客へのメッセージまで届かなくなる可能性がある。どれだけ言葉を費やし、図表を提示したとしても、すべての人に100パーセント伝えることなど不可能なのだ。ましてや「出し惜しみ」などすれば、伝達の度合いは急降下してしまう。
これは「与えれば得る」という重要なビジネス原則だ。つまり、まずは「与えよ」から始めるということだ。抹香臭いお説教ではなく、新商品が出ると街頭では試供品、デパ地下では試食品が配られるように、物理的商品と同様に「情報」も先に与えることが大切なのだ。

「試食ばかりして買わない人もいる」という反論があるかもしれないが、デパ地下で観察していると、試食した人の多くが購入し、その試食している人の反応を見て購入する人も多い。試食をケチっている店と、大盤振る舞いしている店の賑わいの違いなどを知ることは、ビジネスウェブサイトを運営するうえでも大変参考になる。

そして重要なのが、「試食品」でよいということ。社外秘の重要機密までさらす必要などなく、お客様の興味をひく一口サイズの情報を提供すればよいのだ。

周囲の情報に振り回されずに自分たちの商売が何かを考える

そして一番気をつけなければならいのは、自社にとっての「主戦場はどこか?」ということだ。主戦場とは、実際に金銭授受が行われるビジネスの最前線のこと。

情報誌やウェブサイトを開くと専門知識や新しい情報を入手することができるが、その多くは「ネットを主戦場にしている企業の意見や感想、経験談」である。コンサルタント、ウェブ制作業者、レンタルサーバー業者といった専門家たちの話も、主戦場がネットを使わない市場だった場合、ビジネスに直結するかどうかは疑問だ。ネットはあくまでも広報と集客であり、そこからリアルの世界に落とし込まなければならないビジネスの場合、もっとも難しい部分が語られていないことが少なくないのだ。ビジネスにおいては、換金作業が一番神経を使う。今取りざたされているWeb 2.0的企業の大半は、「広告収入モデル」や「マーケティング情報販売業」で、これを主戦場としているリアルビジネス企業はあまりにも少ない。

ネットデビューに失敗は付きもの
「やらない」のも1つの選択肢

どんなWeb 2.0的技術を駆使しようが、カリスマコンサルタントを配置しようが、細木数子並みに断言できるのは、「ネットデビューは必ず失敗する」ということだ。そして、その失敗が次のチャレンジの基礎体力となる。メールのやり取りにしても、コンテンツ更新の連携にしても、必ず失敗するものだ。そこから伸びる会社は失敗を繰り返さず、その逆は反省しないか、再チャレンジをしないかに分かれる。これは避けようがない真理なのだ。

しかし、会社組織の場合「必ず失敗します」というのは、Web担当者にとって現実的な話ではないだろう。そこで、いつまで失敗してもよいかを確認しておくとよい。ゴーサインを出すトップの人間は、ウェブサイトさえ作れば成功するものだと、あきれるほど楽観的に見ている。したがって、一度も失敗が許されなかったり、早急に成果を出さなければならない「社運をかけたプロジェクト」の場合は、辞退する勇気も大切だ。「社運をかけたプロジェクト」を一社員に丸投げしているのなら、さらに別の覚悟も必要となるだろう。沈む船につきあうことはない。

辞退する際の理由として「専門家の声」を活用するのはとても有効だ。専門誌やサイトで集めた専門家の意見は、言い訳に活用しやすいのでコレクションしておくと便利だ。しかし、必ず失敗するといっても必要以上に恐れることはない。なぜなら、誰もが通る道であり、ネットの向こう側にいるのも人なのだから。

過剰に信頼を寄せるのではなく、同じく恐がるのでもなく、「人」としてイメージすることがネットをビジネスで活用する一番の鍵となる。これは『ウェブ進化論』のいう「ネットのあちら側、信頼アリ」と似て非なるもので、「ネットのあちら側のさらに向こう側にいる人を相手にするのがリアルなビジネス」ということだ。

★ ★ ★

最後に、中小企業にこそもっとネットを活用してほしいと願う身として、くだけた表現でメッセージを捧げたい。

「パソコンの向こうであなたを待っているお客がいますよ。必ず」

語られない企業ブログに必要なこと

企業ブログの盛り上がりは、「渋谷で働く~」や「社長日記」が注目され、日産TIIDAプロモーションの成功例が取りざたされて一気に火がついた。

確かに広報ツールとしてのブログの有効性は認めるが、日産のようにプロジェクトチームを組んで管理できる企業がどれだけあるのだろうか? また、無名に近い中小企業の「社長日記」なんてものは、下請け会社の人間が接待ゴルフの前に読むぐらいだろう。

ブログを更新し続けることは難しく、間隔が空くたびに更新頻度が下がっていくのは夏休みのラジオ体操へ行かなくなるプロセスに似ている。スタンプの押されていないマス目のほうが多くなるにつれて、更新しない理由のほうを正当化してしまうからだ。

「ブログの寿命」だ。最後のエントリーから半年経過したブログの「廃墟感」は虚しく「営業しているのか?」と疑ってしまう。

エントリーの中身についても注意が必要だ。ある工務店の「社長日記」は、「勉強会に行った」「上棟式では」と仕事絡みのエントリーから「子供が熱を出した」「子供と公園に行った」と子育て日記に変わっていった。工務店のホームページの訪問者が知りたいのは子育てではない。遊びに行った公園周辺の建築規制に触れ、うんちくの1つも語れないようでは「社長日記」は自己満足に過ぎない。

企業ブログには「広報の視点での情報管理」が必要なのだが、正直者の中小企業は苦手な分野だ。『風説の流布にならない程度の針小棒大』を理解できないのなら、企業ブログは再考するほうが無難であろう。

※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。

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