GoogleがサードパーティCookieの提供を段階的に廃止するなか、小売事業者はリテールメディアネットワークへの広告出稿、代替ID(ブラウザからユーザーごとに振り分けられる、Cookieを模倣したユーザーID)の利用、データクリーンルーム(Googleなどのプラットフォーマーが提供する、個人のプライバシーに配慮する形で顧客や消費者のデータ分析が進められるクラウド環境)の活用など、Cookieに代わるデータマーケティングの模索に乗り出しています。
広告主はCookieの代替手段を模索
米Googleは消費者のプライバシー保護を強化する観点から、サードパーティCookieの段階的な廃止を予定しています。これを受けて、小売事業者の多くはサードパーティCookie廃止の影響で生じる不利益を補う方法を模索しています。
GoogleのCookieは長い間、オンラインでの広告出稿にあたって不可欠な要素となっていました。Cookieは主にインターネット上での消費者の行動を追跡し、広告主が関連性の高い広告を配信できるようにする役割を担っているからです。
Cookieは消費者が小売事業者のWebサイトにログインした状態を維持し、消費者を識別して広告を配信するために使用されます。たとえば、Cookieを利用すると、小売事業者のWebサイトは消費者がWebサイトをいったん閉じて、その後再び開いた場合でも、消費者のショッピングカートの履歴を維持。広告主は、消費者がWebサイトを閉じる前に閲覧していた製品に関連する広告を表示できます。
Googleによる「Cookieの廃止」は、これらのキュレーション広告を配信するために使用される、いくつかのサードパーティCookieのことを指しています。
米国の市場調査会社eMarketeは、2023年にはオンライン広告業界の年間規模が6000億ドルの規模になると予測していますが、その成長予測はCookieがあってこそです。
廃止は2025年に延期
GoogleによるCookieの廃止は、これまでに何度も延期されてきました。直近では2024年1月、GoogleのWebブラウザ「Chrome」の全ユーザーの1%に対してCookieを制限した後、2024年末までに段階的に全て廃止する予定だった計画を延期し、廃止のタイミングを2025年初頭に持ち越しました。
2024年1月4日からGoogleはトラッキング保護機能のテストを全世界の「Chrome」ユーザーの 1% に展開(動画はGoogleの公式ブログから)
GoogleはCookieの廃止に向けて4月、「業界、規制当局、および開発者からの相反する多様な主張のバランスをとるのは困難なことですが、引き続き、エコシステム全体と協調しながら廃止を進めていきます」と発表しています。
この延期により、小売事業者はCookie廃止の影響に対応するための時間をもう少し確保することができます。
75%が依然としてCookieに依存
サードパーティCookieは段階的な廃止とされており、全廃止までには長いリードタイム期間があるにもかかわらず、広告主は依然としてCookieに依存しています。Adobeが2023年、企業のマーケティングとカスタマーエクスペリエンスのリーダー2667人を対象に行った調査では、回答者のうち75%がCookieに大きく依存していることがわかりました。また、45%は少なくとも広告予算の半分をCookieから得られたデータをベースとした潜在顧客のターゲティングに費やしています。
とはいえ、回答者のうち51%がCookieを「必要悪」と見ており、調査結果は企業の担当者がCookieに代わるより良い方法を探していることを示唆しています。それでも49%は、Cookieのない市場で広告戦略を再度設計するのに十分なリソースを割けないと回答しているのです。
4つの代替手段
代替手段① リテールメディアネットワーク
リテールメディアネットワークは、一部の小売事業者に、広告枠の提供手段として定着しつつあります。リテールメディアネットワークは、小売事業者が自社のデジタルチャネル上の広告スペースを第三者に販売できるという広告形態です。広告主は、小売事業者の顧客に関するファーストパーティデータを使用して、広告ターゲットを設定できます。
小売事業者のファーストパーティーデータとは、たとえば、小売事業者のECサイト、モバイルアプリ、店舗内のスクリーン、会員プログラムの情報などです。こうしたデータを用いて広告のターゲティングを行うことが可能です。広告のターゲティング方法としても、小売事業者にとっての新たな収入源としても有用な方法と言えます。
多くのリテールメディアネットワークは、Cookie廃止による広告主の不利益をあげながら、リテールメディアネットワークへの出稿に誘致しています。
Walmart Connect Mexicoの商品責任者であるジョナサン・ファサノ氏は4月、「Walmartのリテールメディアネットワーク『Walmart Connect』が提供する、広告配信プラットフォーム『Walmart DSP』は、Cookie廃止のプロセスで広告主のブランドや代理店が直面する課題を解決するソリューションになります」と説明しています。
Cookie廃止の流れに準じて、広告主は膨大な消費者購買データを持つメディアを求めるようになるでしょうが、「Walmart Connect」はそれをすでに所有しています。膨大な購買データをもとに、さまざまなカテゴリーのファンや、潜在顧客を見つけ出すことができるのです。(ジョナサン氏)
「Walmart Connect」がWalmartの販売事業者に提供する広告プラン(動画は「Walmart Connect」のYouTubeアカウントから編集部が追加)
米スーパーマーケットチェーンTargetのリテールメディアネットワーク「Roundel」にも、Walmartと同様の情報が掲載されています。
Cookieが廃止されるとき、業界がCookieに依存してビジネスを構築してきた従来の方法も、パフォーマンスの測定手段も失われます。自社に合う潜在顧客をターゲティングし、広告のパフォーマンスを測定するためのデータベースと、個人を分析するID解決ツールを準備していなければ、突然、デジタル以前のプロキシや精度の低い測定方法に頼らざるを得なくなるでしょう(TargetのWebサイトより)
Targetは「Roundel」を通じて、Targetの顧客に広告を出すというソリューションを広告主に提供しています。WalmartやTargetだけでなく、米スーパーマーケットチェーンのAlbertson´s、米老舗百貨店のMacy´s、米家電量販店のBest Buy、米ホームセンターのHome Depotなど、他の多くの大手小売事業者もリテールメディアネットワークを持っています。
代替手段② 代替IDの活用
広告代理店は、Cookieが完全に廃止された後の広告ターゲティングに関して他の解決策を提案しています。
たとえば、広告代理店のCriteoはサードパーティCookieの代わりとして、代替IDを使用して、消費者を追跡することを提案しています。代替IDによる追跡について、Criteoは「プライバシー保護の観点で安全な方法かつ、サードパーティCookieの機能に類似するブラウザベースの技術」だと説明しています。
代替IDは2つの方法で機能します。1つ目の方法「決定論的ID」は、消費者の同意を得たファーストパーティのデータに基づきます。2つ目の方法「確率的ID」は、IPアドレス、デバイスの種類、オペレーティングシステムなどの信号を使用して、ファーストパーティデータなしで消費者を特定します。
代替手段③ 生成AI
生成的人工知能(AI)もサードパーティCookieに代わる役割を果たす可能性があります。顧客がアンケートに答えたり、自身のプロフィールを入力したりすることで提供されるゼロデータや、ファーストパーティデータを使用して、顧客ごとにパーソナライズしたマーケティングを展開することは、規模を拡大するのが困難で、コストがかかる可能性があります。
サプリメントを扱う米ウェルネス事業者のGNCは、「生成型AIは、そのデータを『超パーソナライズされた』レコメンデーションに変えるために使用している」と、元最高情報責任者のスコット・セイガー氏はWebメディア「Retail Touchpoints」で説明しました。
代替手段④ データクリーンルーム
「データクリーンルーム」は、AmazonとWalmartが推奨しているもう一つのアプローチです。
これにより、Walmartと広告主など、2つの企業がファーストパーティデータを共有することで、より詳細な分析情報と正確な広告ターゲティングが可能になります。データクリーンルームは、収集したデータ元のプライバシーを保持できる利点もあります。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム - 通販・ECの業界最新ニュースと実務に役立つ実践的な解説」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:脱Cookie時代のECマーケティング、小売事業者が注目するのは「リテールメディア」「代替ID」「生成AI」「データクリーンルーム」 | 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
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