グローバルでのECプラットフォーム統合を視野に入れたECシステムの刷新とビジネスの最適化。アメアスポーツジャパンの挑戦 | CX UPDATES Digest | ネットショップ担当者フォーラム

ネットショップ担当者フォーラム - 2021年5月26日(水) 08:00
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ECを中心に据えたグローバル共通のマーケティング基盤の構築を構想しているアメアスポーツ。その最初の対象となった日本法人の取り組みとは。

スポーツ用品・機器のブランドを傘下に持つアメアスポーツは、「ECを中心に据えたグローバル共通のマーケティング基盤」を構築する構想を立てています。最初に対象となった市場は日本。中でも、アメアスポーツが持つブランドの1つ「SALOMON ※」からプロジェクトが始まりました。本プロジェクトを主導したアメアスポーツジャパンの岡本真悟さまと、パートナーを務めた電通アイソバーの平博介に、一連の取り組みと成果について聞きました。

※ SALOMONは、スキー・スノーボードから夏のアウトドアまで、年間を通した山のアクティビティをサポートするスポーツブランドです。
 
グローバルでECプラットフォームを統合する構想

――今回はアメアスポーツジャパンさんに、ECを中心に据えたマーケティング基盤構築のプロジェクトについてお話を伺います。まず貴社のご紹介と、岡本さんの担当領域を教えてください。

アメアスポーツジャパン 岡本さま(以下、岡本):アメアスポーツは、「SALOMON」や「Wilson」をはじめとする7つのスポーツブランドを傘下に持ちます。当社はその日本法人として、国内での7ブランドの製造販売やお客様とのコミュニケーションを担っています。私はその中で、デジタルコマースのディレクター(統括部長)を担当しています。

――今回、ECプラットフォームである「Magento Commerce Cloud」を導入されていますが、それに至るプロジェクト全体の目的や構想の全体像をお聞かせください。

岡本グローバルのアメアスポーツ全体で使用する共通のECプラットフォームを構築し、それを中心としたマーケティング基盤を整えるという、4年がかりの構想「Unified Digital Platform」があります。別の言い方をすると、「コマースエコシステム」の実現です。その布石として、まず日本のSALOMONブランドにおいて、ECの刷新やそれを中心に据えたビジネス全体の最適化を図ることになりました。その後、要件定義の内容やノウハウなどをアジア、ヨーロッパ、およびアメリカへと広げ、グローバルへの橋渡しをしていくという流れです。

現在、各国で展開する7つのブランドが、それぞれ独自のデジタルマーケティング基盤を有しています。この状態だと、市場ごとの個別最適化はできても、ブランドや国を横断してオーダーや在庫、顧客情報、商品情報、ブランド素材などを管理することが困難です。また、日本では2016年から、SALOMON、ARC’TERYX、SUUNTOの3ブランドのECで「Magento1.9」を採用していましたが、我々の構想を実現するには機能的に不足が多く、それがペインポイントとなっていました。

今回、グローバルでECプラットフォームを統合することを見据えて、まずは「Magento Commerce Cloud」(以下、Magento Commerce)へのアップグレードに踏み切りました。本国のスイスでもMagentoを採用していましたし、今後必要になるシステム連携の柔軟性などを鑑みても、Magento Commerceへの移行は必要な流れでした。

――グローバルでの「コマースエコシステム」の構築という大きな計画が、ベースにあったわけですね。電通アイソバーをパートナーに選定されたポイントをお聞かせください。

岡本:売上向上だけを目的に、単発ブランドのEC基盤を構築するなら、他のパートナーさんでもできたかもしれません。今回はそうした“点”の動きではなく、Magento Commerce導入の先に、例えば顧客データと連携した魅力的な顧客体験(CX)の提供なども見据えた構築をしていきたいと考えていました。なので、CX向上に知見があり、運用も見通せるパートナーさんと組むのが理想でした。

また、今回のテーマはグローバルでのEC基盤統合ですので、SALOMON本社があるフランスと日本を連携しながらプロジェクト推進できるパートナーにお願いしたいと考えていました。そこで、海外にもネットワークを持つ電通アイソバーさんに依頼することになりました。

 
グローバル最適化とマーケット最適化の両立が肝

――電通アイソバーでは、今回のプロジェクトはどういった点がポイントだと捉えたのでしょうか?

電通アイソバー 平博介(以下、平):今日、多くの企業が、市場や顧客の変化に対してスピーディー且つ柔軟に対応することをますます重要視しています。そのため、マーケティング基盤を整える上でも、オールインワンのパッケージシステムを導入するのではなく、1つ1つ最適なツールを選定して、それらを連携させるという方法をとる企業が増えています。また、これを本当の意味で実現するためには、組織やベンダーの垣根を取り払い、エンドユーザーのCXに寄り添った中立的なプロジェクトの推進も必要不可欠です。そこが、まさに我々電通アイソバーがCXデザインファームとしての強みを発揮できるポイントだと感じました。

とくに今回のプロジェクトは規模が大きく、また広い視野が求められるプロジェクトでした。肝心なのは「グローバルでの最適化とマーケットでの最適化の両立」です。

グローバルの観点で重要だったのは、先ほど岡本さんが話されたように、ブランドや国を越えた各種の情報管理を実現することです。オーダーや在庫管理、商品情報、売上といったすべての項目を集約して把握し、次なるインサイトを見出すなど、付加価値のある運用基盤にすることが求められました。
一方、マーケットでの最適化とは、言い換えるとローカルの視点です。日本なら日本の市場や顧客ニーズに応じた商品・プロモーションを柔軟に行い、状況に応じてクイックな軌道修正ができることが重要だと考えました。

今回のプロジェクトで重要なのはこの2つを両立させること、つまりグローバルブランドの世界観やプレゼンスを保ちつつ、日本向けにローカライズされた企画を実現するということです。

――なるほど。なかなか難しい部分だと思いますが、これを実現するために重要なことはどのようなことでしょうか?

:まず、ECが持つべき機能の再定義が重要となります。本プロジェクトで目指していたECは、単にオンラインで商品を買うことができるシステムではありません。ECも顧客とのコミュニケーションの重要な接点と考えると、持たせる役割や考え方も変わってきます。それをふまえて、グローバルとローカルそれぞれで具体的にはどのような機能が必要なのかを1つずつ検討していきました。

もうひとつは、マーケットの早い変化に対応できる仕組みです。これは、顧客の目に触れる部分であるフロント機能と、企業のオペレーションを問題なくこなすための基幹システムの分離をするという構築方法をとることで対応しています。

――SALOMONでのMagento Commerce導入は、大きな動きの中での、いわば試金石となる重要なプロジェクトになりますよね。優先順位とスコープを決めるにあたって、注視された部分をお聞かせください。

岡本グローバルでの動きを見通す一方で、ローカルの視点も欠かせません。私は日本市場の売上最大化というミッションも担っているので、この先にグローバルに展開する共通仕様を考えながら、決済手段の最適化などローカルで必要となるポイントを織り交ぜていくことが必要でした。なので、そのバランスに配慮しましたね。

――グローバルを見据えたうえでのローカライズとは、具体的に何をどのように進めたのでしょうか。

:例えば、Magento Commerceには、図のように「ホームページ」「PLP(商品一覧ページ)」「PDP(商品詳細ページ)」「ショッピングカート」「チェックアウト」といった形でテンプレートページが用意されています。この内容を元に、グローバルと日本でそれぞれ使う機能を満たしているか、また不足部分がないかなどを参照し、フィット&ギャップを図っていくイメージです。他の要件も細かく優先順位を定め、必要なローカライズを行いました。

 
質の高いコンテンツをすばやく市場へ

――ではMagento Commerceの導入で、具体的にどういったことが可能になりましたか?

岡本:主に3点あります。1つ目は、グローバルで統一された質の高い商品情報を、すばやく届けられるようになったことです。Magento1.9の時代は、市場ごとの最適化にとどまっていたので、同じ商品の情報でも国によって内容や見せ方にばらつきがありました。

2つ目は、1つ目とも関連しますが、コンテンツ管理がしやすくなったことです。これまでは、各ブランドの本社で決定した情報を元に、日本向けの商品情報へと作り変えていました。今回を機に、本社からの情報を日本語訳するだけで、簡単にサイトに反映して顧客に届けられるようになりました。

3つ目は、Magento Commerce外のシステムとのつなぎ込みです。ECには必要不可欠なオーダーマネジメントシステムはもちろん、ECで得たデータをマーケティングに活かすためのBIツールも連携し、活用に向けた整備が完了しました。その他、アクセス解析ツールや受注情報管理システム、CRM(顧客関係管理)ツールなど、デジタルマーケティングに必要なツール連携も整いました。

――ローカライズの観点では、決済システムにも配慮が必要そうですね。

岡本:そうですね、ECの要になる部分だと思います。日本だとクレジットカード払いが6割ほどですが、コンビニ支払いや銀行ATM、ネットバンキングも使われています。日本ならではの手段として、カードに次いで代引きのニーズが高かったりするので、この要件を盛り込むのも不可欠でした。

今後も日本独自で伸びるペイメントがあると思います。目下、取り組んでいるのはAmazon Payですね。将来的には、QRコード支払いなどへの拡大も検討しています。

 
ブランド横断、さらにオン・オフ横断で生まれるシナジーに期待

――日本のSALOMONブランドへのMagento Commerce導入を経て、また今後のグローバルでのプラットフォーム統合を見据えて、ECビジネスとしての展望を伺えますか?

岡本:今回アップグレードした自社サイト以外に、我々はマーケットプレイスや取引先様のECプラットフォームでも、顧客とのオンラインの接点を持っています。こうした場所との連動や役割分担を明確にして、どのチャネルから入ってこられた顧客にも、より深いブランド体験を提供したいと考えています。

具体的には、外部チャネルから接触した方にも自社サイトに来ていただいて、今回のプロジェクトで充実させたコンテンツや、サイト限定のコレクションやイベント発信に触れていただけたらと思っています。自社サイトはショッピングの場であると同時に、我々のブランディングとオンラインマーケティングの場でもあるので、戦略的に付加価値を高めていきます。そのブランドのファン化を促進すると同時に、異なるブランドに接触していただくきっかけにもしたいですね。

:今回のアップグレードで、グローバル連携とコンバージョンに至る導線の整備の両立を図りました。ブランドの世界観がよく伝わるコンテンツの充実や、見やすく選びやすいサイト体験そのものはCRMの観点でもプラスになりますよね。そうした部分を、今後さらに強めていかれるのですか?

岡本:その通りですね。同時に、まだデジタル化が及んでいない領域もあるので、複数の観点で拡張を考えていきたいです。例えば、各地のスキー場に設置しているレンタル施設「サロモンステーション」の仕組みなどは、まだアナログです。こうした部分のCXも見直し、デジタル化を推進することで、よりオンラインとオフラインのシナジーが生まれると思っています。

――最後に、今回のプロジェクトの手応えなどをお聞かせください。

岡本:今後グローバルに橋渡ししていくためのノウハウを、良い形で築くことができたと思っています。その部分では日本がグローバル全体に大きく貢献できたと手応えを感じています。お客様には、今回の刷新を通してより深いブランドの世界に触れていただき、また他のブランドもぜひ知っていただいて、スポーツライフの充実に我々が貢献できたら幸いです。

:長期的な視点と広い視野が求められるプロジェクトに併走させていただき、我々の知見にもなりました。各ブランドの熱心なファンの方にも、ビギナーの方にも、新しい発見や楽しみをお届けできるサイトになっていくのではないかと思います。今後も、アメアスポーツさん全体の先進的な取り組みをご支援させていただけたら嬉しいです。

岡本 真悟 おかもと しんご
アメアスポーツジャパン デジタルコマースDirector
国内大手EC企業に10年勤務後、外資系アパレル企業を経て2019年アメアスポーツ入社。現在は自社EC(SALOMON, ARC’TERYX, SUUNTO)、デジタルマーケティング、E-tail組織を統括。

 

平 博介  Hiroyuki Taira
プラットフォームコンサルティング部  シニアプロジェクトマネジャ-
2014年に電通アイソバー(旧:電通レイザーフィッシュ)に参画後、アドビ社のCMS製品であるAdobe Experience Managerの導入や、コンテンツ制作の内製化支援を実施。現在は、Magentoを中心としたEコマース製品の導入や運用支援を担当。

 

○ライター : 高島 知子

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