ファッション通販サイト「イーザッカマニアストアーズ」を運営するズーティーは今年2月、スタイリングの悩みを解決するラボを都内にオープンしたほか、広く着こなしのテクニックを教える書籍を出版するなど、矢継ぎ早に新しいチャレンジを始めている。同社を共同で起業し、新規事業も担当する浅野かおり取締役(写真)にオフラインの取り組みや、好調を維持しているネット販売事業の基本戦略について聞いた。
「ラボ」は従来の店舗とは異なる顧客とのつながりを持ちたい
――「ズーティースタイリングラボ」を開設した経緯は。
「『服を売る』というよりも『服を楽しんでもらう』ことを重視した取り組みで、楽しむ以前にうまく着こなせないという消費者の悩みに、服を扱う企業として一歩踏み込みたいと思って始めた」
――店との違いは。
「当社は神戸と京都、横浜に7店舗を展開しているが、店は売り上げ目標があり、売るという目的を意識して来店客に接しないといけないところに葛藤があるし、限界を感じる部分だ。それならば、マンツーマンで接しながら『これはやめた方がいい』とはっきり言える場所が欲しかった。ECは売ったら終わりの世界。購入したものの、着られなかった顧客のケアはできない。実店舗に来てもらえれば相談に乗れるが、ラボはもっと踏み込んで話が聞ける場所にしたいし、『売る』とか『買う』という行為を飛び越えた先に何があるかを知りたいうまく着こなせないという消費者の悩みに、服を扱う企業として一歩踏み込みたいと思って始めた」
――ラボはいつから計画していたのか。
「何年も前からあったが、計画書を出しても売り上げ目標は必要だし、そうなると実店舗と同じ葛藤と戦うことになる。ラボでは『イーザッカマニアストアーズ』本店の会員からは税込1620円、非会員からは2160円の利用料をもらうことで店との線引きをしているが、ひとつの事業と考えるとまったく採算はとれない。たまたま、昨年10月に東京に事務所をオープンすることになり、物件を探しながら今回のラボ併設計画を企てた(笑)。ラボで当社のファンを作り、お店とは違った顧客とのつながりを持ちたい」
――スタイリングの流れは。
「利用者の顔写真や全身の写真、体のデータや好きなテイスト、普段の服装などを事前に聞いている。サイト上には常時4000~5000アイテムを掲載しているが、その中から利用者に合った服や小物を神戸から取り寄せて『その人のためのお店』を作るイメージで利用者を待っている。カウンセリングは1人当たり1時間半くらいかけている」
――カウンセリングは誰が行うのか。
「店舗での販売経験が豊かなスタッフ3人が交代でアドバイスしている。モデル体型でもない、いろいろな悩みを持った顧客にリアルのコーディネートを完璧に完成させることを目指している」
――利用者層は。
「当社の中心顧客はヤングミセス層で、20代後半~30代が多いものの、商品自体がエージレスなものが多いこともあって、ラボ利用者も中学2年生の女子から50代半ばの方までと幅広い」
――トライアル時の買い上げの状況は。
「提案した商品を買わなくてもいいし、自分の服を持ち込んでもいいが、蓋を開けてみると、後日のEC利用も含めてすべての利用者が購入してくれている。提案した服がしっくりくれば購入につながる。これは接客の技術ではなく、スタイリングの技術だと思う。ECやお店は販売して仕事が完了するが、ラボは利用者の満足度が一番大事で、これは量りにくい」
――購買がゴールではない。
「利用者が『今日の私はちょっとかわいい』と自分に自信が持てたり、ウキウキしながら帰ってもらうことに執着したい。利用者ごとに違うテンションの“ツボ”を探ることが課題であり目標だ。毎回、スタイリストは答え合わせというか、撮影した写真を見ながら反省点や良かった点を共有している。利用者にもカルテのようなものを渡していて、いつでもスタイリングのコツやセオリーを見直せるようにしている。また、試着した服の商品詳細ページURLを付けたメールを送ることで、ECでも買えるようにしている」
――ラボの告知は。
「いまはくちコミがほとんど。もちろん、たくさんの方に利用してもらいたいが、数をこなしたいわけではないし、スタイリストの人数も限られている。実際に、ラボ利用後の相談も多い。『またお願いしたい』とか『シーズンごとに利用したい』という声をもらっているのはうれしい」
――今後は。
「通販サイトを運営しているとカスタマーサポートに着こなしの相談が入ることもあるが、顧客サポートのスタッフはスタイリングのプロではない。こうしたスタイリングの相談などはカスタマーサポートと切り離して、ラボが受ける体制を作っていきたい」
浅野かおり取締役
競合店を研究しても、ヒントは得るかもしれないが、新しいサービスは生まれない
――2月に「イーザッカマニアストアーズの究極着回しコーディネート図鑑」を出版した。
「服を売ることから離れ、『イーザッカ』のスタイルブックみたいなものを作りたいと思ったが、着こなしのセオリーを知りたい人が多いという出版社の提案があり、レクチャー本になった」
――レクチャー本のニーズがあると。
「当社にも『ボーダーは似合わないから絶対に着ない』と言うスタッフがいたが、着方が悪いだけ。例えば、ボーダーのワンピースをいきなり着ると突然すぎて拒否反応がでるが、ボーダーのカットソーの上にシャツを着るとボーダーの見える部分が少なく、違和感はない。赤い服が似合わないという人でも赤いバッグは持てる。面積とか使う場所を工夫することでさまざまなものに挑戦できる。そういうテクニックを本にすれば参考にしてもらえると思った。いまやボーダー嫌いのスタッフは毎日のようにボーダーを着ている(笑)」
――たくさんのコーディネートが載っている。
「紹介するスタイリングは約200体あるが、すべてECのスタイリング担当が手がけている。スタイリストが考えたコーデを撮影し、それが何で良いコーデなのかを私が技術的に分類したり、先に私が『デニムの細いパンツはエレガントに見え、太いパンツはカジュアルに見える』というテーマを出し、スタイリストがコーデに落とし込んだりしている」
――本からECへの訪問も期待している。
「期待はしているが、『イーザッカ』を知ならい消費者が読むことを意識して作ったのでスタイリングも普通の人が参考になるものが多く、そこまで『イーザッカ』らしさは出していない」
――元々、商品購入者に紙媒体を届けている。
「紙媒体『ジャーナル』は2~3カ月ごとに発刊している。元々は手書きで作った瓦版のような冊子を同梱していたが、購入者が見て『もう春か!』と思える季節感があるスタイルブックに替えた。発行頻度はズバリ、購入してもらいたい間隔で、号数をあえて記載することで女の子の収集欲をくすぐっている」
――紙媒体を同梱するサイトも増えている。
「もう珍しい取り組みではなくなった。ただ、『成功した企業はこうしているから』という理由で紙媒体を同梱するのはダメ。当社は毎号、顧客に読んでもらうために媒体を制作しているし、『イーザッカ』で買った目印でもある。取り組みのひとつひとつには意味が必要だ。当社ではコースターも同梱している。表がお礼状で、裏面は可愛くデザインしてコースターになる。お礼状は捨てられるものだが、その前に一度くらい利用してもらいたいと思いコースター型にした。図柄はたくさんあるので集めている顧客もいる。同じサービスでも意味を持って取り組んでいるかどうかに大きな差が生まれると信じている。競合店を研究しても、ヒントは得るかもしれないが、新しいサービスは生まれない」
――ファッションECは競争が激しい。
「レディース衣料のECでは競合が増えると一度淘汰され、また次の波が来るという繰り返し。競合が廃業したり、事業を縮小するのを見て、服は“生もの”だと感じる。売れ筋の服を消費者目線で作っているサイトが多いがそれだけではダメ。消費者が欲しい商品を望む価格で提供するのでは一歩遅く、企業側に『こういう流行を作りたい』という意識がないと、消費者に新鮮さを感じてもらえなくなる」
――ネットならではの難しさは。
「昔はネットの世界も階段を上るように少しずつ売り上げが増えたが、今は施策がハマるとドカンと売り上げが立つ。規模の拡大に経営者の思いが伴わないと、次も売らなければと焦ってしまう。一度、歯車が狂うとキャッシュを回すために安値で売らざるを得なくなり、結局は作れる商品の幅が狭まって価値を提供できなくなる」
――差別化が必要に。
「商品を差別化してもネット上ではすぐに真似されてしまう。真似されにくい部分での個性を持つ必要がある。当社が始めた『スタイリングラボ』も付加価値のあるサービスとして、個性のひとつになればいい」
※この記事は3月13日発売号、同20日発売号で掲載された記事を1本にまとめています。
※このコンテンツはWebサイト「ネットショップ担当者フォーラム」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:「イーザッカマニアストアーズ」のズーティーが競争激しいファッションECで躍進を続けるワケ | 通販新聞ダイジェスト | ネットショップ担当者フォーラム
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