【全5回配信】デジタル戦略によって実現される、顧客経験価値の創造【5】エクスペリエンスデザイン実現のための方法論 - ペルソナの活用事例
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ペルソナとは
ペルソナに関する代表的書籍である『ペルソナ戦略』(ジョンS.プルーイット、タマラ・アドリン著)において、ペルソナは以下のように定義されています。(同書は日本におけるペルソナブームのきっかけの一つとなった書籍です。)
- "「ペルソナ」は、実在する人々についての明確で具体的なデータをもとに作り上げられた架空の人物であり、ユーザーが本当に使いたいと感じる製品の実現をサポートするためのツールであり、手法である。
- 製品の使い勝手、実用性、魅力を高める。
- 製品開発のプロセスを合理化し、プロダクト・チームの協調性を高める。
- 企業が自社と顧客の両方にメリットのある判断を下せるようにする。
- 企業の純利益を高める。"
データをもとにペルソナを作成し、製品開発の全プロセスにおいてペルソナを使用することにより、次のことが達成できる。
Wikipediaによるとペルソナ手法は、1990年代後半にAlan Cooperを中心に技術的に確立され、普及してきました。(日本においては、2006年頃からメディアで取り上げられ始めました。)
Alan Cooperは、『About Face3 The Essential of Interaction Design』(日本語訳版『About Face3インタラクションデザインの極意』)でインタラクションデザインのためのゴールダイレクテッドプロセスにおけるユーザーモデリングの手法としてペルソナを位置づけています。Alan Cooperが、ゴールダイレクテッドデザインの一手法として、デザインプロセスの中に位置づけているように、ペルソナ策定を単独のタスクとして捉えるのではなく、その目的を明確にした上で、一連のデザインプロセスの中で捉えていくことが重要です。
エクスペリエンスデザインのプロセス
先に紹介した『ペルソナ戦略』では、ペルソナは、製品開発において活用するツールと定義されています。一方で、ペルソナは、Webサイトの企画・構築等において活用されたケースが多く紹介されています。
本コラム第1回で、エクスペリエンスデザインを以下のように定義しました。
「快適なカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を実現するためのサービスの“機能”と“コミュニケーション”のデザイン」
ここでの“サービス”は、リアルでの人的サービスからデジタルでのWebサイトやアプリケーションに及ぶ幅広い“サービス”を意味しています。ペルソナは、エクスペリエンスデザインの対象となる幅広いサービス全般において活用可能な手法と捉えることができます。ペルソナを活用したエクスペリエンスデザインのプロセスは、以下となります。
フェーズⅠ:調査、分析
1.環境分析
2.顧客/ユーザー分析
フェーズⅡ:モデリング
1.ゴールの整理と優先順位づけ
2.ペルソナ作成
3.シナリオ策定
フェーズⅢ:デザイン
1.顧客接点の評価
2.顧客接点ミックスの再設計
3.顧客インターフェースと顧客接点システムの再設計
4.KPIの設定
フェーズⅣ:運用、実施とモニタリング
1.運用、実施
2.実施結果のモニタリング
3.改善策の立案、実施
ペルソナは、上記のようにエクスペリエンスデザインプロセスのフェーズⅡ:モデリングの一環として、位置づけられます。以下、フェーズⅡ:モデリングについて、詳しく説明します。
1.ゴールの整理と優先順位づけ
まず、各ステークホルダーのゴールをリストアップし、整理します。ユーザーゴールは、以下の3つにより構成されますが、前回までのコラムでも強調してきたように、エクスペリエンスデザインにおいては、エモーショナルなカスタマーエクスペリエンスの提供がポイントとなります。エモーショナルなカスタマーエクスペリエンスを提供するためには、まず、ユーザーの「エンドゴール」を充足した上で、「エクスペリエンスゴール」を達成していくことが求められます。
a. エクスペリエンスゴール
- サービスを利用しているときに、どのように感じていたいか(ex.楽しい、安心感を得られる)
b. エンドゴール
- サービスにおけるタスクを実行することについてのユーザーのモチベーション(ex.最適の取引を成就する、好きな音楽を見つける)
c. ライフゴール
- ユーザー個人の願望で、ユーザーの深層にあるモチベーション(ex.~という願望を成就する)
(注)上記のゴール体系は、『About Face3』を参考に作成。
2.ペルソナ作成
エクスペリエンスデザインのプロセスにおいて、改めてペルソナを次のように定義します。「ペルソナとは、ユーザー調査によって明らかになったユーザーのニーズや行動パターンを説明的に表したもの。主要なユーザーセグメントを代表する実際の人物を表現する。」ペルソナは、以下のメリットを持っています。
a. ユーザーについてのインサイトを提供する
- ユーザーのゴールとニーズは何か、それらをいかに充足するか
- 実現されていないニーズや願望は何か
b. ユーザーに対する感情移入を創造する
- ステレオタイプのターゲットユーザーではなく、実際のユーザーのニーズ、ゴールとゴール達成のための行動を生々しく表現し、ペルソナを通じてユーザーに対する感情移入を創造する
c. サービスのデザインのための情報を提供する
- ユーザーのゴール、態度、行動、嗜好等、カスタマーエクスペリエンス提供のためのサービスのデザイン決定を有効に行うための情報を提供する
3.シナリオ策定
シナリオは、次のように定義されます。「シナリオとは、ユーザー調査の結果とペルソナを活用し、ユーザーの観点からサービスがどうあるべきかを詳細に記述したもの。」シナリオの目的は、以下を明確にすることです。
a. ターゲットユーザーは誰か
- ユーザーの行動特性によるセグメントを行う
- ペルソナを活用する
b. ターゲットユーザーの主要なゴールは何か
- 企業のゴールではなく、ユーザーのゴールを設定する
- ゴールの優先順位を明確にする
c. ターゲットユーザーは、どうやってゴールを達成するのか
- ユーザーのゴール達成のためのダイレクトなストーリーを描く
上記のように、エクスペリエンスデザインプロセスにおいてペルソナを有効活用することが、快適なカスタマーエクスペリエンスの実現につながります。
富士通のペルソナ活用事例
富士通は、子ども向けサイト「富士通キッズ:夢をかたちに」の開設にあたりペルソナ手法を活用しています。このケースは、多くのメディアで取り上げられ、例えば、ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会のWebサイト等で詳細が紹介されています。
富士通は、この事例を「富士通キッズコンテンツ作成ハンドブック」の「ペルソナマーケティング編」として公開しています。
ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会のWebサイトでの事例紹介によると、2007年3月、富士通は、小学校高学年向けの情報発信ポータルサイト「富士通キッズ:夢をかたちに」を開設しました。しかし、サイト公開後、以下の2つの課題が認識されました。
- ユーザー像、ユーザーニーズの把握
チームメンバー間での認識のズレ・ブレの解消
そこで、以下の2点の特色をもつペルソナを活用して、上記の課題を解決しようとしました。
- ユーザー像の明確化が可能
ユーザー像の共有が可能
以下、ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会のWebサイトからの引用です。
- “ペルソナは、年齢、性別、家族構成などのプロフィールに加え、好みや価値観、製品・サービスの利用シーンを記述しています。それを読むことにより、あたかも実在する人物のように具体的にユーザー像を思い描くことができます。こうしてユーザー像が明確化され、サイトの作り手の描くユーザー像と実際のユーザーとのギャップを埋めることが可能となります。ユーザーを把握することにより、ユーザーが求めるコンテンツ、ユーザーの利用シーンに合ったコンテンツを提供することができます。「富士通キッズ」のように特殊なユーザーを対象にする場合には特にペルソナが最適です。
また、共通のペルソナの存在により、複数の関係者でユーザー像を共有することができます。プロジェクトメンバーが共通のユーザーのニーズや利用シーンを思い描くため、コンテンツの形式やゴールに統一感が生まれます。メンバーそれぞれが「私たちのペルソナを満足させるサイトにしていこう」という強い意志を持ち、それにより、プロジェクト全体の一体感をより強めることができます。”
この事例では、「小学生のペルソナ」、「先生のペルソナ」、「保護者のペルソナ」の3種類ペルソナが設定され、以下のWebサイト構築・運用プロセスにおいて、活用されました。
(ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会のWebサイトより)
優れたカスタマーエクスペリエンス実現のために
Bain&Companyの調査によると、調査対象企業の80%は「自社は優れたカスタマーエクスペリエンスを提供している」と回答しています。一方、それらの企業の顧客で「優れたカスタマーエクスペリエンスを提供されている」と回答したのは、わずか8%に過ぎませんでした。このように、カスタマーエクスペリエンスについて、提供する側と提供される側の認識ギャップが非常に大きいのが現実です。しかし、今回の一連のコラムで紹介してきたように、的確なエクスペリエンスデザイン戦略とそれに基づくエクスペリエンスデザインの実践により、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供に成功し、高い顧客ロイヤルティを獲得している企業があるのも事実です。我々は、それらの企業の事例から学びながら、自社の特徴を生かしたエクスペリエンスデザインを実践し、カスタマーエクスペリエンスの向上につながる新たな価値を創造して行きたいものです。
■本コラムの元記事はこちら
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