セマンティックウェブが語りかける真のウェブの姿――SwapSkills for the HWWイベントレポート

2008年6月15日、淡路町ビジョンセンターにおいて、イベント「SwapSkills for The happy Web Weekend」が開催されました。

SwapSkills for the happy web weekend
SwapSkills for The happy Web Weekendサイト
http://www.actlink.co.jp/ja/

会場では、ウェブブラウザや制作ツールの標準化への活動や世界各地でウェブサイト制作者に向けたセミナーを多数行っている ジョン・アルソップ氏をオーストラリアから迎え、技術寄りの視点からこれからウェブがどのように変貌していくのか、そして仕事にどう影響するのか論議されました。

ジョン・アルソップ(John Allsop)氏
ジョン・アルソップ(John Allsop)氏

会場には、アルソップ氏の他にも、ウェブで利用される技術の標準化をすすめている団体 W3C(ワールドワイドウェブコンソーシアム)からマイケル・スミス氏も参加。また、日本のセマンティックウェブ技術研究者である神崎正英氏も講師として参加していました。アルソップ氏はフロントエンドの技術やテクニックに熟知している方ですが、スミス氏と神崎氏が加わることにより、セマンティックウェブや情報の公開や共有という未来を見据えたサイト構築がテーマになったセミナーでした。

※Web担編注

「セマンティックウェブ」とは、各ウェブページが、コンテンツの「意味」を、コンピュータが処理できる形で記述する仕組みをもつことで、よりウェブを便利にしようという考え方。

現在のウェブページはHTMLタグで「ここは見出し」「ここは本文」といったことは示されているが、コンテンツがレビュー記事なのかニュース記事なのか、地下鉄を話題にしているのか野球を話題にしているのかなどは、人間が読んで理解するしかなく、コンピュータで処理しようとすると高度な意味解析を行う必要がある。

セマンティックウェブでは、人間が読むためのページに、コンピュータが処理できる形で分類や関係などの情報を追加するなどして、この問題を解決しようとしている。

神崎正英氏によるセマンティックウェブの解説
http://www.kanzaki.com/docs/sw/

マイケル・スミス(Michael Smith)氏
マイケル・スミス(Michael Smith)氏

近年、さまざまなソーシャルネットワークサービスやウェブアプリケーションが利用されるようになり、利用者が自由にデータをコントロールしたり気軽に利用するための枠組みを作るニーズが高まってきています。こうした課題の解決に利用できそうなのが、RDF(Resource Description Framework)や、マイクロフォーマット(Microformats)といった、メタデータを表記することで、サービスやサイトを超えてデータを共有する枠組みです。これらは数年前から注目を集めてはいるものの、実用レベルにまではいっておらず、一部のサイト制作者が実験的に取り組んでいるという程度に留まっていました。しかし、ここ1年ほどで急激に変化してきています。

たとえば、ウェブブラウザが徐々にセマンティック情報に対応し初めて来ています。Firefox や Safari ではプラグインを利用することで、ウェブページに記載されている情報を抜き出して自分が利用しているサービスに組み込むといったことがワンクリックで行えます。

また、今年英語版がリリースされる IE 8 では、WebSlices と呼ばれる機能が導入されています。こちらも Microformats のようにウェブページにセマンティック情報を記載していくことで、手軽にデータの再利用ができるというもの。Firefox や Safari のようにプラグインではなく標準実装されているだけでなく、IE8 は 最もシェアが多い Internet Explorer シリーズの最新版であることから他ブラウザに比べて利用者数が多くなると考えられるので、そのインパクトは大きいと考えられています。

現在この時点では、特殊なことをしない限り RDF や Microformats といった情報が組み込まれていることを見た目で確認することはできません。しかし、ブラウザのサポートが急激に増してきているのも事実なのです。

そして、今後こうしたセマンティック情報が、ブラウザの使い方だけでなく、検索結果の姿を変えて行くと言われています。

セマンティック情報を利用するためのサービスやプラットフォームの開発に積極的なのが、米/英のYahoo! です。ローカル情報やレビューサービスにはすでに Microformats による情報が記述されています。代表的な例が Yahoo! が実験的に公開している SearchMonkey という検索プラットフォームです。たとえば、レストランを検索をすると、通常は検索結果にはレストラン名が表示されるだけですが、レストランのページに Microformats で住所が記述されている場合、サイトに訪れなくても検索結果に住所が表示されるようになります。Microformats の情報を追加しても、ページランクが上がったり検索結果の上位になるといった意味での SEO 効果はありませんが、セマンティックな情報を記述しておくことで、可視性は増すだけでなく、検索をしている方にとっても有益かつ便利なサービスを提供できるのです。

長年言われてきたセマンティックウェブの可能性がようやく現実味を帯びてきたわけですが、サービスやプラグインを利用しているユーザーはまだまだ少なく、多くが海外に集中しています。普及するかどうか懸念を抱いている方もいると思いますが、RSS や Atom のようなセマンティックデータもブラウザが認識できるようになり、関連サービスやソフトウェアも多数登場することで利用者数を増やしてきました。

今では、自分が RSS を利用していると気づかないまま、自分の欲しい情報を RSS の機能を使って入手している方も少なくないでしょう。たとえば、iGoogle や My Yahoo! でニュースサイトの更新をチェックしたり、ブログのサイドバーに他のサイトの見出しを表示したり、また、ウェブに関係なくても、デスクトップウィジェットで天気予報の情報を表示させたりするのにも RSS が利用されていることが多いのです。つまり。利用者にとってわかりやすいメリットとソフトウェアやサービスを提供することができれば「まだ先の未来」と感じるセマンティックウェブも現実なものへと姿を変える可能性は十分あるわけです。

RSS や Atom が支持されている理由の1つに、オープンな規格であるという点があります。特定の企業や団体が仕様を決めているわけでもなく、権利を保有しているわけではないので、特許権使用料なども発生しません。特定のソフトウェアやサービスを使わなければ利用できないというわけでもなければ、RSS や Atom を認識するサービスであれば特別なことをしなくても相互性を保つこともできます。セミナーで紹介された RDF や Microformats も同様にオープンなデータ形式であることを考えると、将来的に日本でも普及する可能性は十分にあります。技術的な観点でいえば障害になることはあまりなく、現実的な意味で実装が可能になってきたと言っていいでしょう。

それでは、実際何が障害になる可能性があるのかというと、今までの ウェブサイトやサービスの構築方法や ウェブ上でのキャンペーンの取り組み方では限界や矛盾が生じる点です。RSS や Atom はニュースなど主に最新情報を取得する際に利用されているデータ形式ですが、RDF や Microformats はイベント情報や所在地をはじめ、さまざまな情報をユーザーが自由に利用できるようになります。つまり情報がさらにオープンになっていくだけでなく、利用者が主体で情報を利用できるわけです。非常にウェブ的な考え方だといえると同時に、紙媒体やテレビ作りにはなかった考え方だともいえます。

従来のメディアの考え方では、不特定多数の視聴者が特定のデバイス(もしくはソフトウェア)からアクセスしてコンテンツを見るという形になっています。そのコンテンツは期間限定でその後は観覧することができなかったりしますし、コンテンツの扱い方はコンテンツプロバイダーが厳密に精査している場合もあります。こうした考え方や作り方は、ウェブになると根底から覆されます。ある程度の精査はコンテンツプロバイダー側で行えますが、基本的にウェブ上にあるコンテンツは視聴者/利用者に委ねられているといっても過言ではありません。

今まで出版社やTV局など企業のみがコンテンツプロバイダーと呼ばれていたものが、ウェブを利用する人すべてがコンテンツプロバイダーになったところも見逃せない点です。CGM的なアプローチを使って利用者からコンテンツを集めるという手法をとっているサイトを見かけます。ウェブであれば効率的にリッチなコンテンツを集めることができるわけですが、期間が終われば利用者がせっかく作ったコンテンツ共々消えてしまうといったこともあります。サイトを運営している側と同等のコントロールをウェブ上では利用者も求めているのですが、そのバランスは今も従来のメディアのものが継承されているケースは少なくありません。

神崎氏が公演中「コンテンツを自分のものにする」と語っていましたが、自分が欲しい情報を自分が欲しいタイミングで自分が使いたい形で再利用できることが、セマンティックウェブのもつ1つの側面です。そしてウェブという媒体がそういったことができるようにデザインされています。1つのウェブサイトを立ち上げるという考え方ではなく、ウェブという世界中に繋がる公共スペースに1つのウェブサイトを作るという広い視野をもつ意識は、サイトを構築している人だけでなく、企画を作る人、そしてサイト管理者にもこれからますます必要になっていきます。

神崎 正英氏
神崎 正英氏

ウェブを利用したサービスや企画は多く立ち上がっては消えていきました。ここ5年の間にウェブサイトの数も質も比較にならないほど良いものになってきています。しかし、本当のウェブのポテンシャルを引き出すのはこれからですし、そのポテンシャルの1つがこのセミナーで紹介されていたようなセマンティックウェブの考え方です。

これはウェブ独自のポテンシャルであると同時にウェブ以外では成し得られないものです。書籍やテレビ番組もその媒体の特性を活かさないと良いものが生まれないのと同じように、ウェブのポンシャルを十分に引き出すには、紙やテレビやCD-ROM時代のアプローチではなく、ウェブという媒体を理解したうえで構築する必要があります。ビジネスや生活に大きな影響を及ぼす技術はすぐそこにあります。あとは、その技術のもつ効果を十分に引き出すための環境を整えるだけです。

SwapSkills for the happy web weekend
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