「PVやSEOがすべてではない」AI時代に読者の“行動”を変える良いコンテンツの作り方【MarkeZine×Web担 20周年対談】
時に競合とも言われるMarkeZineとWeb担の編集長対談!20周年の節目に、良い記事の定義やAI活用などメディア運営の裏側を本音で語ります。
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デジタルマーケティング領域を牽引し、2026年にそろって20周年を迎える『MarkeZine』と『Web担当者Forum』。これを記念した両メディアの編集長対談が実現しました。
生成AIの普及やWebメディアが変化する環境のなかで、2社はどのようにコンテンツを作っているのか? 独自の「良い記事」の定義から、制作の泥臭い裏側、AI活用術、そしてテキストメディアの未来まで、現場の本音を余すことなく語り尽くします。
お互いのメディアの印象は?
四谷:お互いのメディアの制作現場にフォーカスして対談していきたいと思います。MarkeZineさんでは、「マーケターに編集力、編集者にマーケ思考。20年で“仕事の輪郭”はどう変わり、AI時代にどう拡張するか」というコンテンツを公開していますので、ぜひそちらもご覧になってください。
安成:まず、四谷さんから見て『MarkeZine』の印象っていかがですか?
四谷:私は「MarkeZine:マーケジン」という媒体名そのものが素晴らしいなと思っています。「マーケの人(ジン)」なので、媒体名を聞いたら、「誰向けの媒体か」を説明しなくても伝わります。Web担は「何の媒体ですか?」と聞かれることも多くて…笑。
安成:え、そうなんですか? 翔泳社は〇〇Zineシリーズのメディアが多いのですが、実は「人」ではなく「Magazine」の略なんです。
四谷:なんと、長年Zineは人だと勘違いをしておりました…苦笑。これは大変、失礼しました汗。
「Webの担当者」という職種自体、昔に比べると少し言われ方が変わってきている部分もあります。我々もマーケティングジャンルは扱いますが、「マーケティング」といえば、やっぱりMarkeZineさんだなという印象があります。
安成:ありがとうございます! ポジショニングを褒めていただけるのは嬉しいですね。私から見た『Web担当者Forum(以下Web担)』さんは、やっぱり「テクニカル(技術)に強い」という尖った強みがある印象です。それと、サイトのデザインを含めて「ウェブパン」が可愛いことですね。ピンクのカラーもいいですよね。
上部がイベントなどで使うパターン。下部は記事や販促品などで使いやすいように都度デザインしている
安成:あと、読者とのコミュニティが本当にしっかりしているなと感じます。有料のミートアップや忘年会・飲み会を開催されていますよね。有料でそうしたイベントを企画・運営してファンを集めるのは非常に難しいことですが、いつも瞬殺で枠が埋まるイメージがあって、熱狂的なファンに愛されている媒体だなと羨ましく思っていました。
四谷:嬉しいです。昔はよく会社でピンクのサイトを見ていると「遊んでいるように見えるから、変えてくれ!」と読者に言われていました(笑)。ウェブパンは公式キャラになって8年を迎えました。ところで、安成さんは何代目の編集長なんですか?
安成:実は私は4代目です。2019年に私が就任して、MarkeZine20周年のタイミングで、5代目編集長を宮田華江に引き継ぎました。
四谷:私はまだ2代目です。引き継ぎ…ちょっとうらやましい(笑)!
ペルソナ設計と、企画の「圧倒的な解像度」
四谷:媒体でペルソナやカスタマージャーニーって定めていますか?
安成:MarkeZineでは、レイヤーごとのペルソナは定めています。コアな読者は事業会社のマーケターですが、この20年でマーケティングの裾野が広がり、今では「マーケティング思考を持って事業を推進したい」と考える経営層から営業をはじめとした他部門のビジネスパーソンまで広がっています。ただ、実際の企画を立てるときは、その大枠のペルソナに頼るだけでは「当たらない」と感じています。
慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、新規事業を創出。2019年4月~2026年3月、MarkeZine 4代目編集長。2025年4月よりBiz/Zine編集長を兼任。2026年4月より現職。編集業務と並行して、デジタル/AI時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。
四谷:ジャンルの広がりと組織の拡張は私も感じます。具体的にはどのように企画を立てているんですか?
安成:現場には「〇〇会社の〇〇部の〇〇さんが、最近こういうことに困っていると言っていた。この企画をつくることで課題解決の一助になるのでは」というレベルまで、徹底的に解像度を上げて企画を作ってほしいと伝えています。
ネットで調べた情報だけで企画を作っても、現場のリアルな課題感とはズレてしまうことがあります。だからこそ、直接マーケティングの業務をしている人に会いに行って、生の声を拾い、それを企画のきっかけにする。固定されたペルソナに縛られすぎず、編集部員がそれぞれ出会った人たちの課題感を反映させることで、コンテンツの多様性が生まれると思っています。
四谷:「読者に会う」ってホント大事ですよね。Web担でも「ペルソナ」という共通の読者イメージは編集部内で共有していますが、それをそのまま記事作りに当てはめているわけではありません。
Web担当者という職種は、いるようでない、兼務が多いという職種でもあります。だからこそ、特定の悩みにピンポイントで刺しにいくコンテンツを作ったり、深層心理を突くようなエッジの立った企画を考えたりと、悩みや対象の幅を大きくしたり小さくしたりしながら、内容に合わせて作り分けています。直接人に会って初めて気づく課題感こそが、すべてのコンテンツの出発点ですよね。
制作の裏側「取材記事」への投資
四谷:実際の記事の本数や、ジャンルのバランスについても聞いてみたいです。MarkeZineさんはどのくらい記事を作っていますか?
安成:3,000~4,000文字程度の「読み物」と呼ばれる編集記事が1日3~4本ペースです。ストレートニュースやタイアップ記事なども含めて月200本ほど公開しています。
四谷:私たちは、ストレートニュースが1日4〜5本、5,000文字クラスの長めの編集記事が1日2〜3本というペースです。月120~180本ほどです。
安成:メディアなので、記事本数の目標はあるものの、「枠を埋めること」自体を目的にしてほしくない、とメンバーには口酸っぱく言っていました。枠を埋めようと思えば何でも作れてしまいますが、それでは読者にとって意味がありませんから。
四谷:全く同感です。記事のバランスやジャンルの比率などで、意識しているルールはありますか?
安成:ジャンルごとの厳密な数値パーセンテージは決めていません。ただ、「自分たちで取材に行く記事を増やそう」という共通認識を持っています。
今は生成AIを使えば、それなりのテキストアウトプットが誰でも簡単に作れる時代になりましたよね。だからこそ、メディアとしての差別化やブランディングに直結するのは、「誰に取材できるか」「取材の現場で何を深く聞いてこれるか」という一次情報。そこに編集部の時間を投資しようと決めています。
四谷:Web担は、インタビュー記事よりもやっぱり、技術的な解説やテクニカルな手法を紹介する記事が比較的多いです。
たとえば、インハウスの担当者から「広告のダッシュボードとスプレッドシートを連動させて、こういうデータを自動で出したい」といった具体的なニーズがあれば、編集者が自ら広告管理画面にログインして、実際にそのシステムが動くかどうかを自分で試して記事を編集しています。
普段は広告出稿の実務をやらない編集部員が、権限をもらって必死に動作確認しています。そうやって「実際に私たちの環境でも動いた」という細かい泥臭い検証プロセスを記事に載せるからこそ、技術に強いWeb担としての信頼感や強みにつながっているのかなと思います。
大学卒業後、物流企業で営業兼Web担当者を経験。コーポレートサイトのリニューアルやデジタル広告の運用、倉庫の営業に携わる。2013年にインプレスに入社し、Web担当者Forumの編集者となり2018年から現職。歴史とサッカーと運動が好き。
企画が生まれてから公開されるまでのプロセス
四谷:1本の記事が企画されてから世に出るまでのプロセスも、メディアによって特色が出ますよね。安成さんが以前「スクランブル交差点にはたくさんの人がいるけど、そこにやみくもにボールを投げても誰にも当たらなくて、ターゲットを決めないとボールは当たらない。企画するとはそういうこと」と新人編集者時代に教えられたと言っていたのが、めちゃくちゃ印象的で。
安成:現社長に教わりました。
四谷:私も「企画とは」を初代編集長にたたき込まれて、「ターゲット」「ターゲットが抱えているペイン」「読了後の態度変容」この3つが設計されていないものは企画じゃない! と口酸っぱく言われていたので、すごく共感した記憶があります。MarkeZineさんではどんな風に記事を企画していますか?
安成:企画を作るにあたって、隔週の編集会議や、日々のオフィスでの雑談の中で気軽に相談しあっていますね。企画を出すためのフォーマットもあります。「どんなターゲットに向けて」「どんな課題を解決するのか」「読み終わった後に読者がどう変わるのか」を言語化して提出してもらいます。その上でメンバーからフィードバックをもらってブラッシュアップしていきます。また、業界で今熱いテーマがあれば、編集部全体で一斉に取材して「特集」を組むこともあります。
四谷:機動力があってうらやましいです。媒体の編集部は私含めて3人で、外部編集者さんたちにも協力してもらって運営しており、月1回のペースで彼らと企画会議を行います。Web担には、編集者が思いついたアイデアをひたすら放り込む「アイデアのガラクタ箱」のようなスプレッドシートがあるんです。企画会議ではそのシートをみんなでひっくり返して、「今このネタが世の中で話題だから、これとこれを組み合わせてこう見せたらおもしろいんじゃない?」と相談しながら企画を詰めて、「じゃあこれ誰がやる?」と担当を決めて進めます。
企画が立ち上がってから実際に記事が公開されるまでは、だいたい2〜3ヶ月先になることが多く、計画的なスケジュールで動いています。
安成:2〜3ヶ月前からの仕込みですか! 人数が少ないからこそ、徹底的に計画性を重視されているんですね。
四谷:ただタイムリーな時事ネタ、たとえばダークパターンの話題などがあった時に、他の業務で忙しすぎてすぐに取材に動けず、「くそぅ、タイミングを逃した!」と悔しい思いをすることも多々あります笑。
現場での生成AI活用術――「効率化」の先にあるもの
四谷:編集現場での「生成AI」の活用状況はいかがですか?
安成:Google Workspaceが導入されているので、メンバーはGeminiを使えます。管理職以上はClaudeも使える環境が用意されています。リサーチはもちろん、記事の構成案を作るときに「こういうターゲットにこういうテーマで届けたいんだけど、どういう切り口がある?」と、AIと壁打ちしながら進めることも。文字起こしに関しては、現時点では精度を優先して専門のAI文字起こしサービスを利用しています。
四谷:インプレスも全社的にGoogle Workspaceが導入されているので、基本的にはGeminiを使用しています。私個人の話で言うと、実は最近の記事作りはほとんど「NotebookLM」で完結させてしまうことが多いです。取材の音声データや一次資料をすべて放り込んで、自分でメモした構成案や話者のタイムラインを元に、一気に記事のベースを出力させます。
安成:NotebookLM派ですね! 具体的にどんなメリットを感じますか?
四谷:何よりも「誤字脱字がないこと」と「固有名詞のチェックコストが劇的に減ること」が挙げられます。自分でテキストを書くと、打ち間違いや表記のブレが発生し、校正に大きな時間を取られますが、AIを噛ませることでそこを完全にショートカットできます。昔は別の校正ツールを使っていましたが、今はAIだけで完結していますね。
安成:記事作りの工数削減はできても、「インタビューで何を聞き出せるか」という編集者のスキルは重要ですよね。どれだけAIが発達しても、インプットとなる「音源」や「一次情報」の質が低ければ、出てくるアウトプットも浅いものになってしまいます。
四谷:同感です。だからこそ、AI活用によって浮いた時間を「問いの質を高めるためのインプット」や、「現場でのインタビュー経験に充ててほしい」ですよね。
「良い記事」の基準とは? 短期的な指標では見えづらい「変化」と「琴線」
四谷:ここで、メディアを運営する上で避けて通れない「指標」と「良い記事の基準」についてもお話ししたいです。
安成:PVや滞在時間、記事経由での会員登録数などの基本的な指標はもちろん見ています。ただ、これはいつも編集部内でも話しているのですが、「記事の本数を増やしたり、PVが跳ねたからといって、それがビジネスグロースに直結するわけではない」ということです。メディアとしての一定のボリューム(存在感)を保つための目標ラインはありますが、PVの数字そのものを絶対的な評価指標にはしていません。
四谷:全く同意見です。「滞在時間が長い記事=良い記事」「PVが伸びた記事=良い記事」とも言い切れませんもんね。安成さんにとっての、「良いコンテンツ」の基準って何ですか?
安成:私の中で、この答えは完全に決まっています。それは、「それを読んだ読者や、イベントに来てくれた人に『変化』や『行動』を起こせたコンテンツ」です。具体的なエピソードなのですが、MarkeZineではイベントの登壇者を公募しています。それに応募してくれた方が、この登壇をきっかけに会社側から実績が高く評価された後、昇進につながったそうです。ご本人からも「あの時の登壇と記事がキャリアの転機になりました」と言っていただけたんです。
PVの多さももちろん編集者としてのやりがいになりますが、それ以上に、私たちの作ったコンテンツが誰かの人生や、会社の事業に対して「実際の変化や行動」を後押しできたか。そこに介在できることが、編集者やメディアとしての価値提供の一つのカタチだと思います。
四谷:素晴らしいお話ですね! 編集者冥利に尽きるというか。私はよく「琴線(きんせん)に触れる」という言葉を使うのですが、人の感情の機微が動くようなコンテンツこそが良い記事だと思っています。ただ、こういった価値って、残念ながらPVや会員数のような「わかりやすい数字」には現れづらいんですよね。
安成:本当にそうですね。数字のデータだけでは拾いきれない部分にも、本質的な価値があります。
四谷:ちなみに「SEO(検索流入目的)」の記事って作っていますか?
安成:サイトの技術的な構造はしっかりと整えていますが、SEOのためにキーワードを詰め込んだようなオリジナルのコンテンツを作ることはありません。おもしろいことに、ちゃんとした取材に基づいたオリジナルのコンテンツを出し続けていれば、検索エンジン側のアルゴリズムが変わっても、検索流入はそれほど影響を受けていません。むしろ、AI検索経由での表示や流入は、自然に増えています。
四谷:結局、プラットフォームのアルゴリズムに翻弄されるのではなく、「ここにしかない、本当に読者の役に立つ一次情報」を愚直に出し続けることが、長い目で見れば最強のSEOになるということですよね。
安成:Web担さんはどうですか?
四谷:媒体としてはSEO記事をめちゃくちゃ出しているのに、コンテンツSEOはやっていないです笑。ただ、数年前までは、検索順位があと一歩…みたいな2軍コンテンツの「タイトル」と検索結果に表示される「ディスクリプション(スニペット)」を検索向けに工夫してリライトすることはやってました。
本文の内容には一切手を加えませんでしたが、タイトルの見せ方を変えるだけで、検索からの流入が爆発的に増えた事例は多かったです。ただ、それも一通りやり終えたので、今は積極的にはやっていません。コンテンツ側でSEOを意識してやっていると言えば、「検索向けのタイトル」と「ニュース向けのタイトル」を付け分けることくらいですかね。
安成:なるほど。MarkeZineの場合は、ある意味で古いフィロソフィーかもしれませんが、「一度公開した記事は、ニュースも編集記事も、基本的には内容を変えない」というルールを今でも守っています。読者に対する一種の「約束」のようなものですね。
四谷:メディアのスタンスとして非常に素敵だと思います!
これからのメディア運営の悩みと、テキストメディアの未来
四谷:最後に、これからのメディアの未来についてお聞きしたいです。今、メディア運営で直面している一番の悩みって何ですか? 売上以外で……と言いたいところですが、売上はやっぱり一番重要ですよね笑。
安成:そうですね、やはり売上も含めて「事業として継続的に成立させ、次の10年を作っていくこと」自体が、非常に難しい時代になっていると感じます。
ただ、MarkeZineでは、今も若手のメンバーが中心となって新しい取り組みを始めています。たとえば、優れたマーケティング事例を称えるアワード「BEST OF MARKETING AWARD」だったり、書籍のアワード「実務者が選ぶマーケティング本大賞」を昨年立ち上げたのですが、MarkeZineのブランドを拡げていくアイデアが編集部のみんなから自発的に出てきています。
「記事を書くこと」以外にも、メディアの信頼性を活かしてできることはもっとたくさんあるんだ、と編集部のみんなの姿勢から私自身も刺激を受け、今は非常にポジティブな気持ちで未来に向き合っています。
四谷:素晴らしいですね。今後、Webにおける「テキストメディア」ってどうなっていくと思いますか?
安成:私は、「テキストは残り続ける」と思っています。今は動画全盛の時代ですが、忙しいビジネスパーソンにとって、知りたい情報を探すために数十分の動画を最初から最後まで見続けるのは、実は非常に効率が悪いですよね。特に、テキストの言語処理スキルが高いビジネスパーソンであればあるほど、「文字で読んだ方が圧倒的に情報収集のスピードが早い」という側面があります。
四谷:私も全く同感です。効率的に学習したい層にとって、テキストは最適で最速のフォーマットであり続けるはずです。
安成:一方で、私たちは「テキストという表現手段」にこだわってはいません。読者やユーザーにとって、そのメディアが「関わりたい」「自分もあそこに出てみたい」と思える、信頼できる「素晴らしい場所」であり続けられるか。その信頼の場を作るための手段の一つがテキストであり、イベントや動画、アワード、コミュニティなどを柔軟に組み合わせていく。そうやって、読者にとって価値のある場所を提供し続けることこそが、これからのメディアに求められる本質なのではないでしょうか。
四谷:メディアという「信頼の場」をどうデザインしていくか。編集者としての話ができてとても楽しかったです。安成さん、ありがとうございました!MarkeZineさんでは「マーケティング」を軸に安成さんと対談していますので、ぜひそちらも読みに行ってください!
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