Webサイトリニューアル特集

創刊68年の紙媒体を「音声・動画」へフルリニューアル。日本マーケティング協会が自ら実践した戦略の舞台裏

日本マーケティング協会のWebサイトが、2026年7月、大規模なリニューアルを敢行した。

荻野ケイ[執筆], 佐々木雅久[撮影]

7:05

日本マーケティング協会(JMA)は、2026年7月、紙媒体『MARKETING HORIZON』と「WEBマーケティングホライズン」をフルリニューアル。Podcast、YouTubeを主軸とした「音声・動画ファースト」の発信体制へと大幅シフトした。この大胆な変革の狙いと舞台裏について、実務を担当する専務理事補佐の鈴木裕之氏に話を聞いた。

1958年創刊の紙媒体『MARKETING HORIZON』を休刊

日本マーケティング協会は、1957年にマーケティングの普及・研究・教育を目的として設立された。2026年8月現在、大企業から新進系の企業まで約400社が加盟している。

同協会の機関誌『MARKETING HORIZON』は、1958年に創刊。長らく会員限定の紙媒体として情報を届けてきた(現在の誌名になったのは1980年)。

転機となったのは2022年5月。「WEBマーケティングホライズン」を開設し、一般読者へも記事を無料開放。閲覧層を大幅に広げた。

そして2026年1月、同誌は68年の歴史に一区切りをつけ、紙媒体を一時休刊(今後体裁を変えて復刊予定)。7月からは「音声・動画ファースト」の発信体制へと一気に舵を切った。

新生「MARKETING HORIZON」は7月からスタート。Podcastで配信するほか、同じ番組の動画版をYouTubeで配信している。

「MARKETING HORIZON」

リニューアルの背景・狙い

JMAは2026年度を組織変革の年「JMAメタモルフォーゼ2026」と位置づけている。今回の「MARKETING HORIZON」のフルリニューアルは、その象徴的な取り組みのひとつだ。

リニューアルプロジェクトは、2026年1月に発足。ゼロベースでの議論を経て、3月には「音声主軸・動画併用」の方針が固まった。特筆すべきは、その圧倒的なスピード感だ。

経験上、こうした初めての取り組みは期限を区切って進めるべきだと考えています。そのため、6月に開催される当協会の定時総会にて発表し、7月からスタートというスピード感を持ったスケジュールで動きました。

協会内からも不安や懸念の声は上がりましたが、「万全の準備期間を用意し1年後、といった進め方とするより、まずは始めて改善を重ねていく方が良い」とチーム内で議論を重ね、進めてきました(鈴木氏)

この「紙から音声・動画へ」という大胆な転換の背景には、2022年に実施したWeb無料公開での課題があったという。

コロナ禍での在宅勤務増加を受けてWeb化に踏み切りましたが、残念ながらあまりアクセスいただけない状態が続きました。不振の要因はいくるかあるのですが、あえてリベラルアーツ寄りのコンテンツとしていたことが、日本マーケティング協会がご提供する情報としてはあまり魅力的に映らなったことが最大の要因と分析しました。

その反省を踏まえ、会員社様をはじめとする読者ターゲットをあらためて見直した結果、現場で苦闘しながらもマーケティング業務によりより良い世の中づくりに思いをはせるマーケッターの方々にお届けし、結果的にその情報が上層部の方にも届く、という構造を実現すべく、特に若い世代のマーケッターみなさんに届けるには音声動画や動画媒体が最善だという結論に至ったのです(鈴木氏)

日本マーケティング協会 専務理事補佐 
鈴木裕之氏

担当者は2名。収録は「台本なし」で自然な流れを重視

新生「MARKETING HORIZON」の制作は、JMAスタッフだけでなく、会員企業であるWonderlabo(ワンダーラボ)社の全面的な撮影・編集協力のもと、6名の編集委員とも一丸となって進められている。

制作の流れはこうだ。

まず6名の編集委員との企画会議で出演者を選定し、JMAとWonderlabo社、あるいは編集委員により、出演交渉から撮影準備、当日の進行を担当。実際の撮影現場やその後の編集・映像制作においては、Wonderlabo社がプロフェッショナルなスキルを発揮して支え、細やかな試写と修正を繰り返して高品質な番組へと仕上げている。

監修には番組の解説者としても出演する鈴木智子氏(一橋ビジネススクール教授)が、全面的に関与している。

番組制作に際しては、「自然な流れ」を作ることにこだわっている。そのため、事前にかっちりと作り込んだ台本は作らず、大まかなストーリーラインだけを決めて臨む。

収録には、編集委員長の帆刈吾郎氏(博報堂生活総合研究所所長)、出演する鈴木智子氏をはじめとした編集委員、鈴木氏も同席し、収録中に気付いたことがあれば指摘し、その場で議論を展開。補足すべき情報があれば、その都度ライブ感を持って追加収録を行っていくスタイルだ。

リソース面に関しては、Wonderlabo様はじめ会員社様のご理解と手厚いサポート、そして編集委員や専門家の先生方のご協力があってこそ成り立っています。JMA職員の実務メンバーは2名のみですが、協力してくださるパートナーの皆さまとワンチームで泥臭く知恵を絞りながら進めています(鈴木氏)

新生「MARKETING HORIZON」の編集軸は「価値創造」

収録・撮影において最も強く意識しているのは、「ユーザーの日常へいかに溶け込ませるか」という点だ。

仕事にこだわりや理想を持ちつつも、思うようにいかない葛藤を抱えて働く若手のマーケターがターゲットです。PodcastやYouTubeは通勤電車での聴取、視聴を想定しており、現場の人たちに対するエールのような存在を目指しています。

たとえば、週明けで「あーあ、また仕事が始まるな……」と少し気が重い通勤時間であっても、聴いているだけで自然と会話がスッと頭に入り、肩肘を張らずに学びが得られる。そうして日常の中で無理なく継続して聴いていただける体験を作ること自体が、我々の目指すところです(鈴木氏)

JMAは2024年1月、マーケティングの定義を34年ぶりに刷新した。そこで中核となったキーワードが「価値創造」だ。

「マーケティングの定義」(2024年制定)
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

番組の編集軸に据えるのは、まさにこの新定義で掲げられた「価値創造」である。成功されている方々がどのように思考し、汗をかいて壁を乗り越えたのか。「人」に焦点を当てて対話形式で掘り下げることで、熱量とともに具体的なノウハウや知恵を立体的に伝えていく。

第1回の清水祥彦氏(神田明神 宮司)、第2回の石谷桂子氏(㈱MTG 上席執行役員)、第3回の槇亮次氏(㈱Mizkan代表取締役社長) をはじめ、今後もJMA独自のネットワークを活かしたナショナルブランドの経営者やトップマーケターの出演が予定されている。

公益社団法人という立場上、広告等の収益を追うのではなく「ターゲットへ確実に届けること」に主眼を置いています。幸いなことにリピート率が非常に高いので、この線で着実に伸ばしていきたい。PR活動を実施してチャンネル登録数やリスナー数、ビューワー数自体を追うのは、次の段階だと考えています(鈴木氏)

JMAのミッションと「MARKETING HORIZON」の役割

JMAには大きく3つの役割がある。

1つ目は「先進的なマーケティング情報の収集と発信」、2つ目は「マーケティング人材の育成」、3つ目は「マーケターのネットワークハブとなること」だ。

新生「MARKETING HORIZON」は1つ目の情報発信機能を主に、人材育成やネットワーキングにも一定の役割も担っていく予定だ。

近年、JMAは、自らの活動についての認知や理解の拡大に向け「アドテック東京」や「マーケティングWeek(MaS)」といった大型展示会にも出展。それら展示会においても変化を遂げるJMAの象徴として「MARKETING HORIZON」を前面に打ち出している。

企業活動の目的も、マーケティングの定義にある「価値創造」だと考えています。顧客、従業員、取引先、そして社会に対して価値創造を追求することは、企業活動そのもの。だからこそ、マーケティングという機能の重要性を世の中に正しく伝えていきたい。

「MARKETING HORIZON」で価値創造に成功している企業や団体を取り上げ、その重要性を発信することで、JMAという存在にも関心を持ってもらえればと考えています(鈴木氏)

「企業活動の目的は価値創造。マーケティングの重要性を世の中に正しく伝えていきたい」

徹底的な議論で、創造している価値を問い直せるか

今後の展望として鈴木氏は、「MARKETING HORIZON」を「マーケティングに携わる人なら誰しもが知る存在」へ育て上げたいと語る。

若手マーケターが現場で壁にぶつかったとき、「MARKETING HORIZONでなんて言っているかな?」と最初に思い浮かぶ存在を目指しています。特に「価値創造の要諦ならここに来ればわかる」という確固たるポジションを確立したいですね(鈴木氏)

伝統ある体制を変革し、若返りを果たした「MARKETING HORIZON」だが、その原動力となったのは「目的の徹底的な議論」だったという。歴史が長い施策ほど惰性で継続されがちだからこそ、「何のために存在するのか」を問い直す勇気が求められる。

古くからあるものをより良いものとして進化し続けていくためには、「それがどんな価値を創造しているのか」を自ら問い続けることが重要です。

JMAでは「Update! of Marketing, for Marketing, by Marketing」をブランドアイデンティティに掲げており、日本のマーケティングと社会のUpdateとその持続可能な発展に貢献することが使命です。そのためには我々自身もUpdateし続けなければなりません。

今回のフルリニューアルは、編集委員みなさま、ご支援ご協力いただいている会員社様みなさまと共にターゲット(Who)や提供価値(What)というマーケティングの原点に立ち返った結果であり、手法(How)としてPodcastやYouTubeを選んだプロセスそのものが、私たちJMA自身にとってのマーケティングの実践だったと感じています。

歴史あるメディアや既存の施策を進化し続けたいとお考えの企業の方々は、まずは「自分たちは、誰に、どんな価値を、届けているのか」という原点に立ち返ってみていただくと良いのではないでしょうか(鈴木氏)

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