三井不動産の「三井ショッピングパークアプリ」が大規模リニューアル、体験価値が向上する新機能とは?
「三井ショッピングパーク ららぽーと」「三井アウトレットパーク」「MIYASHITA PARK」などの商業施設を手掛ける三井不動産は2023年4月、三井ショッピングパークアプリ(以下、MSPアプリ)のUIを大幅に変更する大規模リニューアルを実施した。
2014年のリリース以降も決済機能やポイント機能の追加、三井ショッピングパーク公式通販サイト「Mitsui Shopping Park &mall(アンドモール)」との連携といったアップデートを経て、累計600万(2023年3月)ダウンロードに達している。
今回のリニューアル内容や、背景にあった商業施設の課題について、三井不動産の大塚麻紀子と岡村栄治が解説する。
リニューアルのきっかけは、商業施設を取り巻く外部環境の変化
三井不動産では、長期経営方針「VISION 2025」の中で「テクノロジーを活用して、不動産業そのものをイノベーションすること」をビジョンの1つとして掲げている。マーケットのデジタルシフトやコロナ禍などを機に、消費者の買い物の仕方や嗜好性が変化したり、ショッピングやエンタメなどあらゆるジャンルでオンライン化が進んだりしたことで、競合が商業施設だけではなくなってきたからだ。
こうした変化を受けて、売上のキープ・向上や、市場のニーズを満たすために何が必要かを考えたとき、お客様の体験に寄り添うことが課題解決につながるのではないかと考えました。
お客様からも『もっとこんなことができたらいいのに』という商業施設に対する声が多く挙がってきている中で、最もインタラクティブなチャネルであるアプリを通じて解決していこうと考え、MSPアプリのリニューアルを決定しました(大塚)
旧MSPアプリでは、クーポンやセール・イベントの「情報発信」と、ポイント機能や決済機能といった「経済的価値」をメインに提供しており、必ずしも商業施設というリアルの強みを活かしきれていなかった。
そこで、リニューアルコンセプトを「体験価値の向上」とし、単にお得にお買い物ができるだけではなく、商業施設でのお買い物をより快適で楽しいものにするといった体験重視のアプリを目指した。
「体験価値の向上」を実現する新機能
体験価値の向上として、次の4つの新機能をMSPアプリに導入した。
新機能1フロアマップをデジタル化
約60施設のフロアマップをデジタル化した。フロアマップは来館者から最も必要とされるものの1つだが、館内の数か所にしか設置されておらず、広い館内を探し求めて歩かなければならないという不便があったためだ。
館内はGPSの細かい位置情報が届かないため、現在地を示すようなアクティブなマップの作成が難しいのですが、川崎重工さんの技術を活用し、精緻な現在地の表示を実現しました。これにより、現在地の確認はもちろん、近くの店舗情報やクーポン情報をマップ上で確認できるようになりました。
旧アプリでは、店舗情報やクーポン情報はそれぞれリストにまとまっており、お客様がその中から欲しい情報を探す必要がありました。新アプリではマップ上で店舗情報とクーポン情報が表示されるようになったことで、直感的に情報にアクセスできるようになりました(岡村)
新機能2レストラン順番待ち予約
デジタルマップの追加に合わせて、「レストラン順番待ち予約」機能も追加した。この機能では、デジタルマップから店舗を選択すると「待ち時間」や「待ち組数」を確認しながら順番待ちができ、順番が近づいたらプッシュ通知やメールでお知らせされる。
これまで、特に小さなお子様連れから『家を出る準備に時間がかかり、11時~12時の混雑時のタイミングで来館になってしまうため、途中で休憩したりご飯を食べさせたりしたくても席の空いている飲食店を探すのが大変』といった声を多くいただいていました。レストラン順番待ち予約機能により、お食事も含めて、館内で快適に過ごしていただくことを目指しました(岡村)
また、それぞれの店舗に並ばなくてもスマホで複数店舗の注文ができるフードコートのモバイルオーダー機能「スマホ de 注文」をアップデートした。従来はリストから店舗を探す必要があったが、リニューアルしたアプリではマップ上から店舗選択ができるようになった。
新機能3駐車エリアの登録~駐車サービス
新アプリでは駐車場に関する悩みにも対応した。駐車エリアを登録できる機能を備えたほか、その日のお買い物実績や利用しているクレジットカードなどの会員種別に合わせて適用される無料サービスの適用情報がアプリ内で確認できるようになった。
これまで「車をどこに停めたかわからなくなってしまう」「駐車場が何時間まで無料で利用できるのかがわからない」といった声が多くあったためだ。
新機能4アプリのトップ画面を自動切り換え
来館中と来館前後で、アプリのトップ画面に表示されるコンテンツを自動切り換えする機能も追加した。これにより、来館前〜来館中〜来館後で、顧客がその時に欲しい情報にアクセスしやすい仕組みになっている。
「体験価値の向上」に向けたユーザー視点での開発
今回のリニューアルでは「体験価値の向上」のため、企画、案件定義などの開発の各フェーズで、実際のユーザーから機能やUXに対して意見をもらうポイントを設定した。
意見をもらうユーザーは『小さいお子様を連れたお母さん』や『ランチタイムに都心型の商業施設を利用するサラリーマン』といった粒度でペルソナを設定し、フォーカスグループインタビューや、1人を深堀りするデプスインタビューを実施しました。
三井不動産の商業施設を利用されるお客様は幅広いため、『こういうお客様にこういった解決を提示したい』という観点から深掘りしていかないと、ユーザーの方にとって有益なアプリにならないと考えたためです(岡村)
また、リニューアルの目玉であるデジタルマップについては、概念で説明しても理解するのが難しいので、企画や要件定義などの複数フェーズに分け、ユーザーに直接、MVP(Minimum Viable Product)を体験してもらい、新たな機能やUXに関して意見をもらうタイミングも設けた。こうした検証を通して、ユーザーの評価が良いものは本機能に採用し、評価の悪いものは実装を見送った。
リニューアルでの成果と今後
リニューアルから半年以上が経ち、成果が出てきている。1つは、ダウンロード数とMAU数が、リニューアル前からの成長トレンドを崩すことなく伸び続けていることだ。
フルリニューアルでUIを変更した場合、ユーザーが定着するまでに時間がかかるのが定説です。そうした中で、成長トレンドを崩していないということは、新アプリがお客様のお買い物体験をサポートできているということだと自信を持っています(岡村)
また、アプリから三井ショッピングパーク公式通販サイト「&mall」への流入はアプリリニューアル前と比べて約2倍になった。商業施設への来館中だけではなく、来館前後も含めたお買い物の体験価値を提供できていると言えるのではないだろうか。一方で、課題もある。
アプリリニューアル後に最も使われている機能は、従来からあったポイントや決済機能などです。今回新たに追加したデジタルマップや駐車場の機能などは、そうした習慣化されている既存機能に比べるとまだ利用率は高くありません。新しいUIに対し、『どう使えばいいのだろう』と迷ってしまい、慣れないお客様がいるのも事実です。
今後はチュートリアルや販促により新しい機能や使い方の認知拡大に取り組み、腰を据えてマーケットフィットを目指したいです(岡村)
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