ビジネスモデルから理解する! 初心者のためのマーケティング

「TELハラ」で議論を呼び、120超の媒体に取り上げられた「fondesk」新聞広告出稿の裏側

Web広告施策が頭打ちになってきたときは、どうすればいい? 認知向上のためには「商品やサービスを覚えてもらう」ことが重要です。今回は、新聞広告を使った認知施策の例を見てみましょう。

新人マーケター:Web広告でリードはとれるようになってきました。でも、最近効果が頭打ちで……次はどうすればよいのでしょうか?

黒須:FacebookやGoogleなど、Web広告のターゲティング精度が上がってきているので、リードはとりやすくなっていますよね。ただ、そこから先にどんな施策を行うべきかが、難しいところです。

新人マーケター:そうなんです。これ以上Web広告施策を続けても、効率は上がりません。

黒須: Web広告はリード獲得には適していますが、「商品やサービスを覚えてもらう=認知施策」には向いていないんですよね。今回は、認知施策の例として、電話代行サービスfondeskの新聞広告を深掘りしていきましょう。

fondeskの脇村氏に取材し、新聞広告やメッセージの背景、注意すべき点などを聞きました。

新人マーケター:ありがとうございます。よろしくお願いします!

fondeskのビジネスモデル

電話によって「集中力が途切れる」「本来の業務が進まない」「取り次ぎに手間がかかる」。fondesk(フォンデスク)は、そんな職場の電話課題を解決するITサービスです。

具体的には、オフィスや事務所にかかってくる電話にfondeskのオペレーターが応答し、用件をチャットやメールでお知らせ。誰から、どのような用件の電話があったのか、Slack、Chatwork、Teams、LINE、Google Chat、LINE WORKS、Emailなど7つのツールから選んで通知を受信できます。PCやスマートフォンで確認できるため、相手や用件に応じて適切な対応が可能になります。一般的な電話代行と違う点は、以下のような利用の手軽さです。

  • 支払いや設定変更などはすべてがネットで完結し、申し込みから5分でサービスを利用できる
  • VOD(Netflixなどの動画配信サービス)のように2週間無料体験をしてから、有料契約をするか判断できる
  • 利用料金は100件の受電まで月額1万円と低コスト(101件目以降は、1件あたり200円追加費用がかかる)

また、指定の電話番号を登録すれば、セールスなどの不要な受電をブロックできる機能も好評だといいます。コロナ禍によるリモートワークの影響で需要は増加し、2020年3月からの1年で有料の契約社数は約7倍に増加しました。

(出典)うるるプレスリリース (https://www.uluru.biz/archives/9552

オンラインで完結する契約・セットアップのフローを準備しているので、明日から『緊急事態宣言です。出社は控えてください』と急にいわれたとしても、利用までにかかる時間は5分で済みます。急に電話代行を使いたい場合にも、出社せずにしなくても契約・利用開始ができるという特長もあるので、コロナ禍で需要が増加しました(脇村氏)

株式会社うるる 執行役員 fondesk事業管掌 脇村瞬太氏

fondeskはなぜ、新聞へ意見広告を出したのか

fondeskは2021年3月、朝日新聞へ「今こそ、職場から『TELハラ』をなくすとき。」という意見広告を掲載しました。「TELハラ」という言葉には、大きな反響があったそうです。この広告はどのように生まれ、どんな効果があったのでしょうか。

これまでのマーケティング施策:サービスの内容とコンセプト訴求が中心

新聞への意見広告の出稿の背景には、これまでfondeskが行ってきたマーケティング活動があります。

fondeskはサービス開始当初から、Webマーケティングを中心に行ってきました。事例記事をキラーコンテンツにして広告を打ち、新規リードを獲得するのが定石の施策。媒体はFacebook、Yahoo(YDN)、Google(GDN)を中心に出稿していました。また、fondeskや電話代行自体を知らない、利用したことがない方に向けては、利用メリットを伝えるために、イベント登壇や記事広告などを積極的に行いました。

指名検索をしてくださる方をターゲットの軸に置いて活動してきたので、お客様の約6割は『他社と比較検討をせずにfondeskを使い始めた』とおっしゃっています。ただ、他社との違いや強みを伝えることに、こだわってきたわけではないんです。『fondeskがどのようなコンセプトを持った、どんなサービスなのか』を、とにかく多くの人に伝える機会を作ることを意識してきました(脇村氏)

順調に契約数を伸ばしていたfondeskですが、課題もあったそうです。fondeskの顧客の多くは、首都圏のITベンチャー企業。ベンチャーのネットワークの中で、事例や口コミを通じて利用者数を広げてきました。

しかし、もっと多くの方にサービスを利用してもらうためには、デジタル一辺倒の施策だけでは届かない。そこで、大手や地方の企業などにも、ターゲットを広げられるデジタル広告以外の施策を行う必要がありました。

また、「コロナ禍の急激な成長は、特殊な状況だった」と脇村氏は振り返ります。来年以降、同じスピードの成長を維持するのは難しくなるのではないか。何か手を打っておくべきだと感じていたそうです。

Googleの月間検索数だと「電話代行」の検索ボリュームは2,900しかありません。電話代行のマーケットで戦っても、すぐに限界がきてしまいます。脇村氏は、非ITの企業や地方の企業などを巻き込み、より大きなマーケットを作って行く必要があると考えたのでしょう。そこで打ち出したのが、新聞への意見広告でした。

「TELハラ」広告に込めた思いとは

では、実際に「TELハラ」広告のアイディアを形にするまでには、どのようなプロセスがあったのでしょうか。脇村氏に聞きました。

パートナー企業と議論をしている中で、『新卒の社員、営業事務や総務の女性が電話に出るのが当たり前、という空気がオフィスにはまだあるんじゃないか』という話が出ました。そんな空気が、まだ根強く残っているのかもしれないと。

加えて、電話は業務の生産性を下げていて、不要だと思っている人も多くなっています。変えたいと思っているのに変えられない人がいるならば、われわれが背中を押したいと思いました(脇村氏)

そこで仮説を検証するために、fondeskはインターネットで400名にアンケートを実施しました。

アンケートの結果、社会人の66.3%が「会社宛ての電話を受けることに対し、業務の中断や時間消費にストレスを感じている」と回答。続いて、62.8%が「会社宛ての電話を不要と感じたことがある」と回答しました。また、ストレスを抱えながらも「会社への電話は自分が出なければならない」と義務感を抱えている方は63.3%にのぼりました。

(出典)うるるプレスリリース (https://www.uluru.biz/archives/9231

調査結果は、脇村氏らが事前に立てていた仮説と一致しており、想定していた方向性で広告を進めることになったそうです。脇村氏は、「電話が不要」と考える人が増えた背景には、チャットツールの普及があるとしています。

少し前までは、新人にお客様の名前を覚えさせるなど、『教育目的』で受電をさせている会社も多かったですよね。でも、現在ではチャットが働く人のハブになり、すべての情報が集まってくる。逆に、電話では重要な情報がやりとりされる機会が減りました。

現在では受電の教育的な意味は薄れているのではないでしょうか。それにもかかわらず、『若手や事務職が電話に出るべき』という職場慣習だけが残ってしまい、若い世代の方がストレスを感じている。

特に、地方や大手企業など、チャットの導入が進んでいない会社は、過渡期にあるのだと思います。習慣を変えるのは、大変なことです。だからこそ、強いメッセージが必要だと思いました(脇村氏)

「TELハラ」という言葉は、そうした議論の中で生まれたのです。

TELハラとは
「会社宛ての電話は新人が取るべき」という古くからの慣習や、「総務部門社員が電話に出るのは当たり前」という職場の空気感は未だ多くの企業に存在します。こうした、“年齢や肩書によって電話対応を押しつけられる状態“を、fondeskは新しい職場ハラスメントとして捉え、「TELハラ」と命名しました。

(出典)うるるプレスリリース

テレビやWebメディアなど120以上の媒体で紹介、大きな反響を実感

同社では、インターネット調査の結果が出る前から、仮説をもとに広告出稿の準備を進めていました。メディアをリストアップし、PR TIMESへの投稿を含め、調査結果とプレスリリースを100社以上に送付したそうです。

新聞広告を掲載したのは2020年3月31日、朝日新聞全国版朝刊でした。2日後からメディアの連絡が入りはじめ、テレビ6番組を含め、最終的に120以上の媒体で取りあげられました。SNSでも拡散し、「TELハラ」はTwitterの国内トレンド2位に入るほど反響がありました。そのほか、次のような効果があったそうです。

  • 検索エンジンで「fondesk」と検索される回数は過去最高
  • 「fondesk」のキーワードでWebサイトに来訪した方のCVR上昇
  • CPAは25%低減

これまでの施策と単純に比較するのは難しいですが、指名検索数が増えたのは間違いありません。今まで問い合わせが少なかったNPO法人などからも引き合いが増え、メッセージに共感してくださった方が多かったのだと感じました。

一方で、『なんでもハラスメントと言うな』など、SNS上ではネガティブな反応もありました。社内でも事前に想定はしていましたが、実際にネガティブな声を目の当たりにすると、『やはり心が痛む』という社員もいましたね。

賛否両方の反応を受けて、もとからある商慣習を変えるのはそれだけハードルが高いことなんだと感じました。多くのメディアに取り上げられ、たくさんの議論が生まれたことは大きな収穫だったと思います。

Twitterで、さまざまな職種の方が書いているご意見をひとつひとつ見ました。われわれがやるべきことについて、あらためて考える機会にもなりました(脇村氏)

新聞による意見広告の注意点とは

今回の新聞を使った意見広告は、「指名検索数を増やす」「ターゲットを広げる」という当初の目的をみれば、成功事例といえます。しかしネガティブな意見を想定して発信をするのは、リスクだと考える方もいるでしょう。同様の施策を行い、成功に導くためにはどのようなことを意識すれば良いのでしょうか。脇村氏によると、ポイントは以下の2つです。

  • エッジの効いたクリエイティブ
  • インナーコミュニケーション

まず、エッジの効いたクリエイティブという点で「意見広告」を出しましたが、誰もがすでに知っていることや、納得していることでは誰からも注目してもらえません。賛否が巻き起こる広告には、エッジが効いた誰かに深く刺さる言葉が必要で、今回はそれが「TELハラ」でした。

真正面から意見を伝えるのは、勇気がいることです。でも、仮説を持って社会にメッセージを届けるためには、勇気を持って発信する必要があると思います(脇村氏)

次に、インナーコミュニケーションです。これは広告を出した後、反応を振り返るために必要なポイントです。これについて、脇村氏は以下のように語っています。

広告を出稿して、批判が出たときに『失敗だった』と短絡的な振り返りで終わらせないためには、インナーコミュニケーションも重要です。さまざまな意見に向き合い、一緒に前に進む気持ちを社内メンバーと共有しておくと良いと思います。

私は、社内向けに自分の言葉で、思いを伝える文章を出したり、Slackで気持ちを共有したりしました。もちろん、私自身も事業へのネガティブ影響を心配する気持ちはありましたが、必要な方にメッセージを届けるために反発を受け止める覚悟をしてプロジェクトを進めました(脇村氏)

また、多くのメディアに取り上げられたことで、学んだことも多かったといいます。

多くのメディアに取り上げていただけることは嬉しいことですが、気をつけたほうがいいこともあるとわかりました。

特にテレビは、情報を番組やニュースバリューに合わせて、時間を区切って放送しています。われわれは新卒だけではなく、電話対応をせざるを得ない人全般に向けたメッセージを出したいと思っていたのですが、テレビではどうしても『新卒』という言葉が強調されがちでした。

コントロールできない部分もあるので、取り上げていただく場合は覚悟が必要だと思いましたね。だからこそ、メディアで取り上げられた後には、しっかりと意図を伝えるために自ら発信を続ける努力が必要だと思います(脇村氏)

大きな反響を得ることは嬉しいことではありますが、反響が大きければ大きいほど、批判の声や意図しない報道がされることもあるでしょう。そのときのために、事前に社内で対処や受け止め方を共有しておくことは、必要な準備だといえそうです。

まとめ

fondeskが発信したメッセージは「電話代行を使いませんか?」ではなく、「電話を取る習慣を、見直しませんか?」でした。

一見すると売り上げに直接結びつかないメッセージに見えますが、多くの方の共感を得られて、さまざまな媒体に取り上げられました。広告費に換算すると大きな成果だったといえます。

BtoBの商材やサービスは、どうしても機能や特長を訴求しがちです。しかし、今回のfondeskのように、社会課題そのものに着目した広告を出すことで、結果的に自社製品の認知を高められる場合もあります。

自社製品の市場カテゴリーが大きくない、製品カテゴリー名ではなく自社製品名で検討してもらいたいと考えている会社の方は、参考にしてください。

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