広告代理店のパフォーマンスは広告主の器で決まる。成果を最大化させる4つのポイントとは?
広告主担当者の器の範囲でしか、広告代理店はパフォーマンスを発揮できない(藤堂氏)
こう語ったのは、広告代理店側・広告出稿側双方の事情に詳しい、AZ(エージー)の藤堂高義氏だ。藤堂氏は「デジタルマーケターズサミット 2019 Summer」の特別講演に登壇。広告主と広告代理店の理想的な関係性と、トラブルを避けるための4つのポイントについて解説した。
広告主と代理店は見ている風景が違う
藤堂氏は2002年の大学卒業を機に、AZを創業。2004年頃からは総合広告代理店の下請けで制作・企画系のディレクターとして活動。多くの業務をこなす中で、「広告代理店」側の知見を得た。
2016年には広告運用の業務に本格的に乗り出し、サイト解析など、今度は「広告主」側に寄り添う立場となった。そして2017年からはコンサルティング業務も手がけている。
広告代理店側・広告主側という異なる立場を経験して、「見えている風景がそれぞれまったく違う。相手のことが見えているようで見えていないのだなとも感じた」と藤堂氏は振り返る。
実際に、日々のコンサルティング業務の中では、広告代理店と広告主が対立する“炎上”の現場へ助っ人的に呼ばれるケースも多い。実際に、炎上している現場に入ったとき、「ファイヤーファイティング(消防・火消し)」という項目で、請求書を発行してほしいと言われたこともある。
炎上とはいかないまでも、広告主と広告代理店のコミュニケーションが上手くとれずに業務パフォーマンスが上がらないケースは、そこそこある。広告主側のマーケターは、そうした場合にどう対処すべきなのかをお伝えしたいと、藤堂氏は述べる。
広告主と広告代理店は対等であるべきだ
藤堂氏は「業務のパフォーマンスが良い広告主と広告代理店との関係は、対等であることだ」と述べる。
著名マーケターの足立光氏も、その著作の中で「広告代理店を出入り業者扱いするな」と訴えている。
足立氏が主催するサロンを通じて交流のある藤堂氏は、この考えには学ぶべきところが多いと言及した。具体的には、会議の開催場所は半々(広告主側に来させることを固定化しない)、広告主が持っている情報を広告代理店にも渡す、といった具合だ。
また、経費を代理店側に奢らせないことも重要だと言う。
奢られることに慣れると、広告主側がチヤホヤされ、調子にのってしまう。一方で広告代理店側が奢ると言うことは、相手(広告主側)を“上”だと見なしているということ。お互いが対等なパートナーとして振る舞うべき(藤堂氏)
広告代理店の収益モデル
広告代理店のビジネスモデルを改めておさらいする。以下の図が広告代理店のビジネスモデルだ。
クライアント側からの依頼で広告の一切を手がけ、広告費のうち媒体への支払い分を除いた20%前後の手数料を代理店が得る。しかし実際には、媒体側からのインセンティブ報酬が、広告代理店の主要な収益源となっていることが少なくない。
多くの場合、インセンティブは広告の販売量に連動して増える。このため、「広告費を増やさずに作業負担を効率化して利益を増やす」といった発想がしにくいと言う。
また、広告がコモディティ化しつつあるため、広告主が広告代理店に支払う手数料の値引き合戦が行われることもある。しかし、藤堂氏の指摘によれば、手数料が下がった分だけ、広告代理店はその分の労力を減らすと言う。
広告代理店ビジネスはそもそも原資ありきなので、手数料を値引きした分の労力を減らす。この状況を批判したいのではなく、こうした理屈・現状があると理解した上で、広告主側も上手く動くべき(藤堂氏)
信頼関係の無さが、ミスの多発に繋がる
代理店と広告主のコミュニケーション不全は、ときに第三者からは理解不能な事態を引き起こす。
「代理店の大きさ」と「小回り」に関係性はない
とある企業から「大手代理店に頼んだら失敗したので、小回りが利く中小代理店に頼みたい。どこか紹介してほしい」という依頼を受けた藤堂氏。
「小さい会社の方が小回りが利く」論は、まことしやかに囁かれている。だがそれは真実なのだろうか? と疑問を呈する。
藤堂氏は広告主へヒアリングをする中で、広告主が期待する小回りとは要するに「暗黙の“頑張れ”。(料金が安いわりには)仕事の範囲と密度が広い。サービスでなんとかしろ」であったと言う。
しかし前述のように、広告代理店は原価管理が厳しく、基本的には払った分だけしか仕事はしない(手数料を値引きさせても、その分仕事量は減る)。もし運よく中堅広告代理店のエース級社員が担当になった場合、高パフォーマンスを出すのは事実と藤堂氏も認ている。しかし、それをもって大手代理店が否定するのもおかしな話という訳だ。
代理店をお得に使いたい欲が強い
また、とある企業(広告主側)では、担当者が複数いたが、社内の担当者同士でまったく協調が取れておらず、代理店側にとんでもない量の仕事が舞い込んでいた。広告主側の担当者が、社内の別の担当者に黙って、自分の仕事を代理店に押し付けていたからそのような状況になっていたという。
舞い込み続ける依頼を処理しきれない代理店側では、結果的にミスが多発するようになってしまった。
広告主側に、『代理店をできるだけお得に使ってやろう』という発想が蔓延していた(藤堂氏)
トラブル防止の4カ条
こうした広告主と広告代理店間でのトラブルを防ぐための処方箋として、まずは仕組み作りが重要で、ポイントは4つあると藤堂氏は言う。
- SOWをしっかり考えて同意して決める
- 相互の情報共有をしっかり行う
- KPIをしっかり握る
- SLAを作成してしっかり守る
ポイントを順に見ていこう。
1. SOWをしっかり考えて同意して決める
「Statement of work(SOW:作業明細書)」とは、プロジェクトマネジメントにおける作業規程書のことだ。具体的な作業項目を列記し、それぞれの実施主体が広告主なのか、広告代理店なのか、制作会社なのか、コンサルタントなのかを決めていく。
項目は大まかでよいが、広告主側の習熟度によっては、最も基本的なKPI設計すらも広告代理店に任せてしまい、結果として社内実情を知らないまま数値が最終策定され、何となく目標達成に向けて動き出してしまう例もあったと、藤堂氏は言う。
他にも、Googleアナリティクスの初期設定、広告のタグマネジメント、ミーティングの設定などを誰がやるかを決めておいたほうがいいという。そのため、SOWはプロジェクト開始時にしっかりと考え、関係者同士で同意の上決定しておくことが重要だ。
2. 相互の情報共有をしっかり行う
広告主側が詳細な情報を出したがらないというケースは多いが、現状分析のためには広告代理店にもしっかり共有すべきだ。また、広告代理店側が、広告主側の業界慣行を知らない場合もあるので、必要に応じて情報交換も行う。
また、メールを使うか、ビジネスチャットを使うのかなど、コミュニケーション手段を決めておくことも重要だ。さらに、時間帯なども決めておかないと、行き過ぎて24時間対応、担当者が過労・うつ病になってしまう事態もあり得る。
広告代理店がミスをしてしまった場合、正直に広告主へ報告させることも徹底したい。そのためには、感情的な対処は厳禁だ。
3. KPIをしっかり握る
会社全体の目標・ビジョンがKGIだが、それを具体的にROAS(広告費回収率)、CPA(顧客獲得単価)などの数値へ落とし込んだものがKPIだ。KPIは、代理店と広告主の間でしっかりと決めておく。
4. SLAを作成してしっかり守る
Service Level Agreement(SLA:サービス水準合意)、つまり提供サービスの範囲・対応速度などの基準をあらかじめ合意しておく。SLAは一般的にサーバー運用などの品質水準で説明するためにもちいられるが、これを広告にも適用する。
広告の世界では、このサービス提供範囲の設計がメチャクチャ甘い。『無限に働きます』系の文化がある(藤堂氏)
決定すべき項目は、対応時間・頻度・量・猶予など。新製品発売時の特別対応の例外についても、考慮しておくべきだ。
広告主と広告代理店の理想的な関係とは
ここまで広告主と、広告代理店が良いパートナーを築くためのポイントを見てきたが、藤堂氏は「広告主担当者の器の範囲でしか、広告代理店はパフォーマンスを発揮できません」と断じる。
その理由は、1つのプロジェクトに複数の行程が内在して同時進行しているとき、最も時間のかかる行程(クリティカルパス)に合わせて作業スピードが決まるからである。
クリティカルパスとは、たとえば、白米を炊いて納豆かけご飯を食べたいとする。納豆をかき混ぜるのは1分で終わっても、ご飯が炊けるのには50分かかる。この場合のクリティカルパスは「炊飯」という訳だ。
つまり、広告主と広告代理店の関係を考える上では、広告主がクリティカルパスになりうる。藤堂氏は、だからこそ広告主は、広告代理店側の作業量なども勘案して仕事を行うべきだと説明する。また、広告代理店が仕事をしやすい環境作りもまた重要だとした。
もちろん広告主は広告主で、社内からのプレッシャーが非常に重く、やれることに限界はある。しかし、予算の範囲内もある中で効果を最大限に発揮するためには、ぜひこうした考え方をおすすめしたい(藤堂氏)
ただ、こうした施策を行ってもなお、事態が好転しないときは、コンペによる広告代理店の選出が最良だとした。
コンペでは、広告主が求める要件が明文化され、評点方法も厳密に規定される。複雑化してしまった仕事環境を整え直す意味において、非常に効果的な方策だと藤堂氏はアドバイスし、講演を締めくくった。
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