マルケトとサイトコアが語る、顧客体験を高めるコミュニケーションとは
スマホの普及、SNS利用者の拡大などで、消費者向けビジネスではデジタルマーケティングの活用が特に重要なテーマになっている。ただし、ツールの種類や数が多く、簡単にはいかないのが現状だ。
富士通株式会社が2月26日に開催した「BtoCデジタルマーケティングセミナー」では、協業しているツールベンダーとして、株式会社マルケトの小関氏とサイトコア株式会社の原水氏が登壇した。
「顧客の文脈に合ったコミュニケーションでエンゲージメントを高める」以外に、自社の商品やサービスを好きになってもらう方法はない。マルケトは「エンゲージメントマーケティング」、サイトコアは「コンテクストマーケティング」という言葉を使ってその勘所を解説した。
本記事では、富士通が2月に開催した「BtoCデジタルマーケティングセミナー」の様子をレポート形式でお届けしている。
- デジタルマーケティング成功の鍵はツール導入の前段階にある
- 「プライベートDMP」改め「CDP」――顧客文脈のコミュニケーションを進めるデータ基盤の仕組みと活用法
- マルケトとサイトコアが語る、顧客体験を高めるコミュニケーションとは(この記事)
デジタルマーケティングのポイントはデータ設計
デジタルマーケティングの課題には、大きく分けて3つのパターンがあると、セミナーを主催した富士通の田中氏は語る。
- デジタルマーケティングをどこから進めていいかわからない
- ツールを導入したがうまくデータが見られない
- ツールを導入したが使いこなせる人がいない
いずれのパターンにおいても、重要となるのはデータ設計である。
デジタルマーケティングはデータ間の連携が特に重要な分野だ。基幹システムの設計・構築などを得意とする富士通は、企業におけるさまざまなデータを統合して可視化する事業に長年携わってきた。データの扱いに関する経験とノウハウを蓄積している富士通には、デジタルマーケティングについての相談が数多く寄せられている。
そこで2016年、富士通はデジタルマーケティングに関するコンサルティングから施策実行までのサービスと、それを支える製品・ソリューションを「FUJITSU Digital Marketing Platform CX360(シーエックス360)」として体系化した。
それぞれの分野には複数のプロダクトが用意されているが、今回のセミナーでは富士通自身も活用しているマルケトとサイトコアが登壇した。
顧客中心から顧客文脈へ、情報は量より価値が重要
マルケトの小関氏は、「ブランド価値を高めるために」をテーマに、まず海外のさまざまな調査結果を紹介した。
- 79%の人は、「自分のことを理解してくれるブランドにしか惹かれない」(ワンダーマン)
- 64%の人は、「購買意思決定において価格よりも顧客体験がより重要である」(フォレスター)
これらはBtoB企業のアンケートなので、BtoCであればさらに比率は高いだろう。
- 購買体験の70%は自分がどう扱われているかで決まる(マッキンゼー)
つまり、ブランド価値は、どのような顧客体験を提供できるかにかかっている。そして顧客体験を考えるには、環境と消費者の変化を理解しておかなければならない。
そうした変化として大きなものに「情報」がある。一人の人間に接する情報量が爆発的に増大しているのだ。次のことを考えれば、このことは簡単にイメージできるだろう。
- インターネット上でつながっている人数
- 毎日送信されるメールの数
- 一日に目にする広告の数
それにもかかわらず、人が受け取り、理解できて関心を持てる情報の量には限界がある。つまり、企業が発信する情報量が増えるほど、消費者の関心は落ちていくという関係にある。
とはいえ、情報をまったく発信しなければ自社のブランド価値が上がるというものではない。「ちょうどいいスポット」を見つけることが重要だ。鍵は、次の不等式だ。
価値 > 量
マルケトが毎年出しているその年のトレンドを示すレポートでも、2018年は「THE YEAR OF VALUE OVER VOLUME」であるとされている。多くの情報を発信するより、情報の価値のほうが、はるかに重要だということだ。
エンゲージメントマーケティングで顧客と長期的な関係を築く
消費者はオンライン・オフラインを問わず多様なチャネルを通して企業と接するが、一貫性のあるコミュニケーションを求めている。そして、企業がどれほど情報を送ろうと、自分自身で意思決定を行う。選ばれるためには、ブランド価値が必要になる。
ブランド価値を高めるためには、単にマーケティングを顧客中心にするだけでなく、顧客の文脈に沿うマーケティングが必要だ。顧客の属性だけでなく、どのような動きをしてそこに至ったかなどの背景がわかればわかるほど、顧客の文脈に適したマーケティングを実施できる。
ブランド価値を上げるために企業に求められるのは、顧客とエンゲージメント(自社製品やサービスに対する親しみの気持ち)を作るという考え方だ。エンゲージメントマーケティングとは、顧客をセグメントではなく個人とみなし、場所・チャネルを選ばず、一時的ではなく長期的な関係を顧客と築いていくマーケティングだ。それを実現するには、顧客の一人ひとりに対し、「自分だけに届く質の高い情報」を「継続的に」届けることで、エンゲージメントを高める必要がある。
具体的に、ある銀行と、その銀行に口座を持つAさんの例を見てみよう。
Aさんが最近興味を持っている「確定拠出年金」について通勤時にスマホで検索したところ、その銀行の広告が表示された。広告からウェブサイトを訪問すると、「確定拠出年金」についてキャンペーンがあるというポップアップが出る
昼休みになってFacebookを見ると、その銀行の広告が表示される。資料請求ボタンがあるのでタップすると、資料請求受付のメールが届き、その後は関心のあるメールが定期的に届くようになる
十分に関係が築かれたタイミングで(銀行側のシステム内部でスコアリングしている)再度ウェブサイトを訪問すると、ウェブチャットで話しかけられる
これがエンゲージメントマーケティングのイメージで、そのポイントは次の2つをOne to Oneで行うことだ。
- 検索、Facebook、メール、ウェブサイトなど異なる複数のチャネルを通して顧客と接することになるが、どのチャネルでもコミュニケーションの内容は一貫したものにする
- 人の購買意欲は時間とともに薄れてしまうので、必要な情報を必要なタイミングで届ける
顧客に適したシナリオでコミュニケーションを実施する
マルケトが提供しているようなMA(マーケティングオートメーション)のツールは、エンゲージメントマーケティングを実施するためのプラットフォームである。
マルケトの製品でエンゲージメントマーケティングを行う際にはまず、顧客の属性や行動履歴、サイトの訪問頻度などといったデータを収集する。そして、アナリティクスやAI、オートメーションの機能でそれぞれの顧客に適した顧客体験のシナリオを策定し、それに従ってメールやウェブ、ソーシャル、広告など多様なチャネルでコミュニケーションを行う。
データ収集では、CRM、SFA、ERPなどさまざまなシステムと連携し、顧客データベースを補強できる。また、Facebookとは連携済みのため、マルケト製品に登録されたマーケティングデータベースから広告を配信する顧客リストの情報などをカスタムオーディエンス(外部の顧客リストとFacebookの利用者をひも付ける機能)に取り込むことができる。
デジタルマーケティングで用いられるシナリオは、それぞれの企業形態によって異なり、主に「新規顧客獲得」、「サブスクリプションビジネス」、「ロイヤルティプログラム」といった3タイプに分けられる。それぞれのシナリオにおける顧客ステージと、ステージに応じた施策目的、それを達成するためのチャネル・施策をまとめたのが以下のイメージだ。
企業形態によっては、どれか1つだけではなく、複数タイプのシナリオを用いる場合もある。マルケトの製品では、それぞれのタイプのシナリオに柔軟に対応できる。
マルケトのサイトには、業種や企業規模を問わず、幅広い事例や完全ガイドが公開されているので、興味があれば見てほしい。
個客の期待を理解して、寄り添うエクスペリエンスを演出
サイトコアの原水氏は、最適な顧客体験をどのように提供し、顧客獲得につなげるかを、「コンテクストマーケティング」というキーワードを用いて解説した。
コンテクストマーケティングは「優秀な店員」
コンテクストマーケティングとは、「過去の行動履歴や現在のニーズを総合的に把握・理解しながら、適切な瞬間に、適切な場所で、適切な人へ、適切なコンテンツを提供することで、体験(エクスペリエンスそのもの)を演出すること」と定義されている。
コンテクストマーケティングは、優秀な店員をイメージするとわかりやすい。たとえばジャケットを買いに行って「ストライプが好きだ」と言ったとしよう。店員は、その場にあるストライプのジャケットを出してくれるだけでなく、別の売り場でもストライプを出してくれるはずだ。
しかしウェブサイトでは一般的に、売り場を移動するとまた「どのような柄をお好みですか」と聞かれる。毎回赤を買っているのに、サイトに行くとスタンダードの白が表示されていて、その都度赤のプレビューに変えるために何クリックかするといったことを誰しも経験しているのではないだろうか。
サイト運営でコンテクストマーケティングを実践するには、こういった顧客体験の非効率性を改善し、「優秀な店員」を目指す必要がある。
オーストラリアのホームセンターの事例
たとえば、オーストラリアのあるホームセンターのサイトは、商品カタログ的な作りではなく、利用シーンで商品をカテゴライズして欲しいものを探しやすくしている。キッチンの水回りの修理をしたいと思っても、どのような商品が必要かわからないというとき、キッチンのカテゴリから水回りのサブカテゴリへと進んでいけば必要なものがわかるという仕組みだ。
さらに、道具の使い方を店員が説明している動画を載せるなど、ウェブサイトでリアル店舗と同様の体験ができるように工夫している。
また、アクセスしてきたIPアドレスをもとに、最寄りの店舗の営業時間と電話番号をトップページ上部に表示するようになっている。この仕組みは、たとえば出張先でケーブルを忘れたことに気付いたといった顧客には重宝されるものだ。わざわざ付近の店舗を検索しなくても、いつもアクセスしているトップページに現在地の最寄りの店舗が表示されるからだ。「夜9時までやっているので、夕食後に買ってきて翌日の会議に間に合わせることができた」という体験をすれば、顧客は次もまたこの店で買おうという気持ちになるだろう。
これがCX(顧客体験)の改善であり、これによって顧客により親近感や愛着を感じてもらい、これがロイヤルティ向上につながるのである。
ツールは簡単に使えるものを全社で活用する
ウェブサイトでコンテクストマーケティングを実施するには、次のような機能を持つツールが必要だ。
- コンテンツ管理
- コンテンツ分析
- パーソナライズ
- A/Bテスト
- キャンペーンでのトラッキング
- プロファイルの作成
サイトコアのツールは上記の機能を網羅しており、ユーザーの行動をコンテクストで理解しながら、ユーザーに適したコンテンツを適切なチャネルとタイミングで表示することができ、これがカスタマーエクスペリエンスの演出や向上につながるのだ。
個々のユーザーを理解して最適なコンテンツを出すために欠かせないのが、顧客プロファイルだ。サイトコアでは、ユーザーがウェブにアクセスしてきたときに、匿名の状態からそのユーザーの行動を把握、ユーザー登録をすれば、登録ユーザーとして一連の行動をひも付け、嗜好などに関するデータを顧客プロファイルに登録する。その後はそれらのデータをコンテクストとして、そのユーザーのエクスペリエンスを演出するために活用していく。スマホやPCなど複数のデバイスを使っていても、ログインすると特定のユーザーとして認識されるので、継続したエクスペリエンスを提供できる。
さらに精度を上げるために、CRMや、ERP、POSデータ、サードパーティデータなどとも連携できる。最近ではIoTデータと連携した事例もある。IoTとの連携では、商品を買った人に部品の交換時期を知らせたり、消耗品の追加購入を促したりするメールを送るなどといったさまざまな使い方が可能だ。
カスタマーエクスペリエンス向上は、継続することに意義がある。しかし、ツールが複雑で、選択するのも構築するのも大変で運用も難しいとなると、PDCAを速くまわせない。また、複数の部署がバラバラにツールを入れると、バックエンドのDMP(顧客データなどを蓄積するデータベース)に正しくデータを蓄積することができないこともある。全社で簡単に使えるツール活用が、データ蓄積においてもPDCAを回す意味でもお勧めだ。
サイトコアの製品はコンテンツ管理システムとしてスタートしたが、最近はマーケティングオートメーションなどのデジタルマーケティング機能の拡充も行われている。自社が使っているクラウドやオンプレミスの環境にインストールして利用するパッケージソフトウェアなので、データを外部に出すことに抵抗がある場合にも適している。
コンテンツ管理としても、ページの制作やコンテンツの編集をブラウザベースで簡単に行える。HTMLの知識も必要ないので、デザイナー、コンテンツ管理者、開発者が一体となってデジタルマーケティングに取り組むのにも向いている。
マルケトは「エンゲージメントマーケティング」、サイトコアは「コンテクストマーケティング」と別の言葉を使っているが、顧客(個客)の文脈(コンテクスト)に合わせた体験を提供することでエンゲージメントを高め、ビジネスに貢献するという点では共通している。そのためのツールはいろいろあるので、自社の目的に合ったものを探してほしい。
- デジタルマーケティング成功の鍵はツール導入の前段階にある
- 「プライベートDMP」改め「CDP」――顧客文脈のコミュニケーションを進めるデータ基盤の仕組みと活用法
- マルケトとサイトコアが語る、顧客体験を高めるコミュニケーションとは(この記事)
ソーシャルもやってます!