生田昌弘の「Web担当者に喝!」

マーケティングオートメーションを機能だけで選ぶWeb担当者に喝! まずは成し得たいことを明確に

マーケティングオートメーションツールの導入とは、マーケティング戦略を明確化し、顧客指向の個別コミュニケーションを実践すること

マーケティングオートメーションツールを機能や性能だけで検討するWeb担当者、制作会社、ベンダーに喝!

まずは成し得たいことやユーザーのメリットが何かを明確にすべし。

確固としたデジタルマーケティング戦略がなければ、マーケティングオートメーションツールは無用の長物にしかならない。

「マーケティングオートメーションツール、どれがいいですか?」とWeb担当者は言うけれど

MAツールはいろいろありますが、どれがいいんでしょうか?
Web担当者A
同じMAツールでも、製品ごとにどうしてこんなに価格が違うんですかね?
Web担当者B
MAツールを導入して、最先端のマーケティングをしたいんですよ!
Web担当者C

マーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)の問い合わせが、ここ2~3年で急激に増えている。

しかし、問い合わせのほとんどは、前述のようなMAツールの機能や性能についての質問ばかり。残念ながら、そこにはユーザーの話がまったくない

また、質問からわかるのは「MAツールを使う」ということだけ。「マーケティング全体像のうち、この部分を実現したい」「ユーザー体験をこう改善したい」という目的が見えてこないところが、大きな問題だ。

実は、同じようなことが10年前にもあった。CMSツールが普及し始めた頃だ。

今のMAツールに対するWeb担当者の姿勢を見ていると、10年前のCMS周辺の状況が思い浮かんでくる(今ではCMSツールに対するWeb担当者の理解度は相当向上しているが)。

CMSが魔法の箱ではなかったように、MAツールもまた、魔法の箱ではない

CMSがコンテンツ一元管理の概念であったように、MAもまた、ユーザーニーズ最適化のための概念なのだ。

MAツールは、それを成し得るためのツールに過ぎない。

繰り返すが、MAの概念とは、ユーザーニーズへの最適化だ。もっと具体的に言うと、

  • 各ユーザーのシチュエーションに応じて
  • ユーザーにとって都合の良いさまざまなデバイスやチャネルを通じて一貫した形で
  • ユーザーのニーズに応えるコミュニケーションを行う

ことだ。

それによって成し遂げられるのは「ユーザーに対するサービスレベルを向上させる」ことであり、One to Oneでの対応まで視野に入る。

単に「MAツールを使いたい」というだけで時間とお金をかけることに、何の意味があると言うのか。

もちろんこれは、Web担当者だけの問題ではない。制作会社やMAツールベンダーにも問題がある。

ツールを入れれば、こんなに簡単にマーケティングできます!
MAツール ベンダーA
メールをユーザーごとに出し分けられるようになります!
MAツール ベンダーB
コンテンツ(情報)が自動でユーザーに最適化されます!
制作会社

こんな調子で専用コンテンツを使ったデモを披露し、あたかも既存コンテンツで実現できるかのように説明する。

Webサイトとはまったく別にMAツール専用サイトを用意して、「MAツール化完了!」と説明している制作会社が多すぎる。

有効に機能するMAツールの導入とは、既存のWebサイトそのものが、お客さまのニーズ最適化を成し得なければならない

さらに言えば、ユーザーニーズに最適化したコミュニケーションを実現するには、

  • 顧客理解のもとで
  • 適切なセグメンテーションの粒度や尺度を定め
  • 各セグメントに対してシナリオを想定し
  • 各シナリオに沿った最適なコンテンツを用意する

といったタスクが発生するのは明白だ。つまり、ツールだけでMAを実現できるものではない。

だから、MAツールを導入しているはずの会社が、いまだに一斉メールを配信しているような事態が起こるのだ。

MAツール導入の最初の一歩は、利用するコンテンツの制作とその一元管理である。

だから、自社の製品・サービスの強みやターゲットユーザーのニーズを踏まえ、

  • どのような顧客に
  • どのようなコンテンツ(情報)を
  • どのような施策で
  • コンバージョンするのか

という戦略を最初に作らなければならない。

MAツールの最初の一歩は、マーケティング戦略の構築なのだ。

そもそも「マーケティングオートメーションとは何か」を根本から考え直すべし

Webで語られるMAとは、マーケティング・営業活動の自動化だ。

MAツールは、それ自体がデジタルマーケティングを成し得てくれるツールではない。

あくまでも自動化のためのツールであり、何を自動化するかが一番の問題になるはずだ。

だからまずユーザーニーズ最適化を考えるべきだ。

「ユーザーのニーズに応えるWebサイトを構築しよう」という意志を持ってWebサイトが構築されれば、それにMAツールを利用して、コンテンツやメールなどの最適化をさらに行えば、ユーザーに喜ばれる、サービスレベルの高いWebサイトになるはずだ。

たとえば、次のような視点で考えてみてはどうだろう。

  • どんなユーザーにどんなコンテンツを提供しようか?
  • それをできるだけ少ないクリックで提供できないか?
  • アクセスしてきたデバイスごとに、提供するコンテンツを最適化できないか?
  • ユーザーの今のシチュエーションを想像して、コンテンツを提供できないか?
  • ユーザーの問題をすぐさま解決できないか?

これらは、(MAツールの導入に限らず)どんな企業にもぜひ考えてほしい課題だ。

これらの課題を解決するための手段として、MAツールを検討してほしい。

そうすれば、どんなMAツールを選択するにせよ、MAツールは有効に機能するはずだ。

この連載を長く読んでいただいている読者の方には、CMSツール導入の検討事項と同じだと理解していただけるはずだ。

そう、CMSとMAは非常に密接な関係がある

図1 CMSツールで行っていた上記のようなサービスをMAツールでより最適化、自動化を進めることが可能

MAツールの選定では、まずデジタルマーケティング戦略ありき

デジタルマーケティング戦略といわれると、難しく感じるかもしれないが、以下のことを明確にしてほしい。

  • どのような顧客に
  • どのようなコンテンツ(情報)を
  • どのような施策で
  • コンバージョンするのか

つまり「成果」を明確にするということだ。

ユーザーと企業のさまざまな接点における、それぞれのステージでの最適解を提供して、定量的な成果を図ることで、最適解自体も最適化される。

では、定量的な成果が明確になれば、いよいよMAツール選定となるのか?

できれば、その前にユーザーがニーズを満たすまでの行動の流れを可視化したもの、おなじみの「ユーザー体験シナリオ」を作成してほしい。

Webサイトであってもリアルな現場であっても、ユーザーとの接点すべてにおいて、ユーザーと企業がもっともハッピーになるシナリオを描き、企業として「Webサイトで何をすべきか」を明確にする。

ユーザーの行動
リアル
ウェブ
リアル
ユーザーの行動
広告で○○を見る
入口
○○商品を調べる
比較・検討する
資料請求をする
商品を購入する
出口
商品を受け取る
商品を使う
ユーザーニーズ
○○商品について知りたい
広告で見た、○○商品キャンペーンについて知りたい
○○商品の詳細が知りたい
他社商品よりもどこが優れているのか知りたい
似た機能をもつ他の商品と比べたい
○○商品の資料請求がしたい
他の商品も一緒に資料請求したい
営業に問い合わせしたい
納期が知りたい
納品場所を複数指定したい
設置日の指定をしたい
購入した○○商品のマニュアルをダウンロードしたい
○○商品の使い方について問い合わせたい
リアルですべき事柄
Webとマス広告の連動
キャンペーンとWebの連動
商品軸で探せる情報整理
商品情報管理の整備
比較できるよう、商品詳細情報の項目の統一(カタログなどと連動)
同じ種類の商品に対する紐付け
総合カタログではなく、商品別のカタログへ再構築
問い合わせ管理システムの採用
商品購入後のサポート体制の整備
サポート部隊との連携
Webですべき事柄
広告と連動するキャンペーンページの作成
商品の特長や機能、効果的な使い方など詳細な情報提供
機能や特長、用途などから選べ、商品の比較も容易にする
他社製品との優位性を具体的な数字を交えて提示
商品ページを紐付けた資料請求フォーム
同様の商品や、近い機能を持った商品をレコメンドする機能
営業への連絡方法提供
納期の告知
配送指定機能
配送確認
商品名や型番、用途などさまざまな選び方でマニュアルを選べる検索機能
問い合わせの前に、「使い方」ページを案内
Webサイトに 必要なコンテンツ
図2 ユーザー体験シナリオの例

ユーザー体験シナリオの作成が、真に機能するWebサイトを構築するための鍵となる。

つまりはCMSにおいてもMAにおいても、ユーザーニーズ最適化が目的であれば、有効に機能するということなのだ。

そして、このシナリオを実現するために、シナリオの流れに沿って、必要なコンテンツを洗い出す。何本かのシナリオを描くと、MA用に必要なコンテンツが明確になるはずだ。

CMS+MAで実現するデジタルマーケティングプラットフォーム構築

MAツールは、コンテンツ(情報)を管理する機能を持っていたり、ページを生成する機能を持っていたりする。しかし、Webサイトそのものを管理するには、荷が重い。

だから単にMAツールを導入しただけでは、MAツール側とWebサイト側でコンテンツの二元管理が必須となる。しかしこれでは、何のための自動化かわからない。

だからMAツールを有効に機能させるためには、何らかのCMSツールとの連動が不可欠になる。

連携することで、すべてのコンテンツが一元管理され、メールのコンテンツまでCMSツールで管理できるようになるのだ。

これによりWebサイトは、ユーザーニーズに対して「最適な情報」を「最適な表現」で提供するWebサイトに変わっていくはずだ。

MAツールを利用して顧客個別の課題に対して迅速に解決支援を行う。

たとえば、お客さまの属性や行動から、最適なコンテンツを編集して提供するOne to Oneマーケティングの実現がそれにあたる。

これまで
これまでのWebサイトは「カタログ」型サイト
ユーザーが必要な情報を探すのが普通
「探しやすいWebサイト」を目指していた
検索エンジン等から目的のページを探す
TOP
企業情報
製品情報
IR
採用
これから
今後向かうべきは「提案」型サイト
ユーザーが必要な情報でページが作られる
「探す必要がないWebサイト」を目指すべき
欲しい情報でページが作成される
企業情報
製品情報
IR
採用
図3 「探しやすいWebサイト」から「探す必要のないWebサイト」へ

お客さまに最適化された情報、お客さまのリテラシーに合わせた表現、これらが成し得られれば、お客さまに対するサービスレベルが高いと胸を張って言えるはずだ。

ただ忘れてほしくないのは、CMSツールも、MAツールもコンテンツを作ってくれるツールではないということだ。

CMSツール導入のときも、コンテンツの出し分けに対応するコンテンツの作成は、担当者にとって荷が重いものになった。

しかしMAツール導入は、その比ではない。

たとえば、お客さまの検討プロセスに応じて、お客さまのリテラシー分のコンテンツを出し分けられるのだ。

MAツール導入時には、コンテンツ制作にもコストとスケジュールを用意することが必要だと胸に刻んでおいてほしい。

MAツールとは、自社で練りこまれてデジタルマーケティング戦略を実現するために、自社で制作したコンテンツを、指定した仕様で「自動的に配信」してくれるツールなのだ。

だから自社の戦略に最適なツールを選ばなければならない。

MAツールがマーケティングオートメーションを成し得てくれるわけではなく、あなたのユーザーに対する愛だけがマーケティングオートメーションを成し得るキードライバーとなる。

もちろん、それを支えてくれるのはMAツールであるかもしれない。

MAツールは、コンテンツをユーザーニーズに最適化するためのツールであり、Webサイト構築の根底を担うツールに成長していくはずだ。

だからMAツールを導入する前に、お客さまのニーズに耳を傾けることから実践してみてほしい。

本日のまとめ

「ユーザーのニーズに最適化する」

これこそMAツールで成し得ることだ。

これが明確なら、MAツール選択も自ずと明確になる。

「お客さまのためのツール導入」でなければ、Webサイトで成果を出すことはできない。

すべては、お客さまの問題解決のために!

『生田昌弘の「Web担当者に喝!」』ライブセミナー開催!

【10月5日(木)開催】(参加締切 9/26(火) 17:00
リアル Web担当者に喝! Vol.3
マーケティングオートメーション 成功の法則
~マーケティングオートメーションを可能にする!Webサイト構築のポイント~

本セミナーは、キノトロープ 代表取締役 社長の生田昌弘氏によるWeb担当者Forumの連載「生田昌弘の『Web担当者に喝!』」のライブ版。Web業界の頑固オヤジこと生田氏が、連載のコンセプトそのままにライブで叱咤激励メッセージを届ける。

今回のメインテーマは、近年注目されている「マーケティングオートメーション」。生田氏による「マーケティングオートメーション成功の法則 ~MAツールを有効に機能させるためのWeb構築法~」という講演や、HubSpot Japanシニア マーケティング マネージャー戸栗頌平氏による「企業のマーケティングは自動化できるのか?MA導入の前に考えるべきマーケティング戦略とは」というゲスト講演が予定されている。

また、前回も好評だったパネルディスカッション「お悩み解決!本当のライブ喝!」では、生田氏とHubSpot Japanの戸栗氏が参加者から寄せられた質問に回答する。モデレーターはWeb担当者Forum編集長の安田が務める。

開催概要

  • 日時: 10月5日(木)14:30~17:30(受付開始 14:00)
  • 会場: ソラシティ カンファレンスセンター 2F Sola City Hall【WEST】(東京都千代田区神田駿河台4-6)
  • 対象: Webサイト運営にかかわる企業担当者、責任者
  • 定員: 150名
  • 参加費: 無料(※抽選制)
  • 応募締切: 2017年9月26日(火)17:00まで
  • 抽選結果発表: 2017年9月28日(木)18:00ごろから順次メールにて発表予定
  • 主催: 株式会社キノトロープ
  • 協力: HubSpot Japan株式会社、Web担当者Forum編集部(株式会社インプレス)
「リアル Web担当者に喝!Vol.3 マーケティングオートメーション 成功の法則~マーケティングオートメーションを可能にする!Webサイト構築のポイント~」セミナーに参加申し込みする(参加無料)
※主催のキノトロープのセミナー情報ページに移動します
この記事が役に立ったらシェア!
メルマガの登録はこちら Web担当者に役立つ情報をサクッとゲット!

人気記事トップ10(過去7日間)

今日の用語

B2C
Business to Consumerの略。B to Cとも。 企業から ...→用語集へ

インフォメーション

RSSフィード


Web担を応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]