ある日、消えた客。楽して儲けるための客層メンテナンス
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の501
マーケティングとはなにか
連載500回の大台も乗ってみれば1回は1回。新連載のつもりではじめる今回は、Webに直結する中小企業のマーケティングの基本について。
マーケティングとは販売促進策であり、その費用対効果の最適化は、ザックリといえば「楽して儲けるための方法論」です。実際の方法はさまざま。それぞれ一冊の本が書けるほどのノウハウがありますが、その原理は「誰に(何を)売るか」ということ。Webから注文がこない、反響すらないという場合、この基本原理に問題がある可能性があります。
この「誰に(何を)売るか」を定期的にチェックすることを、本稿では「客層のメンテナンス」と名づけます。
経営者は欲張り
はじめてWebに取り組むという相談に対して、必ず質問することがあります。
どんなお客に売りたいですか?
残念ながら明確に答えることができた経営者はいません。最多回答は「誰でも」。気持ちはわかりますが不正解。
大企業のように、あれもこれもと手広く展開できない中小企業のマーケティングには、選択と集中が不可欠。人材や資本といった経営資源には限りがあるからです。的を絞らずに大企業と体力勝負をしても勝ち目はありません。
お客の人物像を詳細に描き出し、その仮想人物である「ペルソナ(仮面)」を対象に購買意欲を刺激する方法を考える手法があります。とても有効な方法ですが、本気でやろうとすると手間がかるものです。
今回の例はもっと手前の基本の話。「若者に売るか、老人に勧めるか」というアバウトな人物像でOKなのですが、このレベルで「穴」があいていることがあります。
イメージアップデイト
お客を「若者」と定義します。このとき、経営者やWeb担当者が果たして「現代の若者」を正しく理解できているのか。つまり、若者に売ろうとしているのに、イメージする若者像が実際とずれていることがあるのです。
ある企業の社長は、若者を対象とした販促でオリジナルの「ストラップ」を千個用意しました。社員の描いた中途半端な萌えキャラストラップを手にする社長、その視線の先にあったのは「ガラケー」でした。
「いまどきストラップ?」という疑問はごもっとも。社長は、正若者がスマホを使うことは知っていましたが、ガラケー時代の若者が、じゃらじゃらとストラップをつけていたイメージを更新できずにいたのです。若者イコール萌えキャラという設定にも首をかしげますが、あまりにも不人気だったオリジナルストラップを、すぐに倉庫送りにしたことだけは「英断」だといえるでしょう。
ガンプラと中年
物心つく前から「ポケモン」が存在し、「PASMO」「Suica」が当たり前の都会育ちで「切符」を買ったことがない。景気が良い時代を知らず「バブル経済」を教科書で習う。それが「現代の若者」です。私自身がオジサンなので、間違っているかもしれません。
高齢者も同じ。シルバー世代がパソコンやスマホを操るのは驚くことではありませんし、戦後日本の中心にいた「団塊の世代」がすでに70歳を目の前にしています。
昭和時代の「中年」といえば、冴えないイメージがつきまといましたが、これも昔の話。メジャーリーガー「イチロー」やレジェンド「カズ」は別次元としても、スポーツジムに通い、フルマラソンに挑戦するアクティブな人は多く、いまだに「ガンプラ」作りに熱中し、漫画『ワンピース』に涙する中年を何人も知っています。
こうしたイメージ(想定)と実態のすりあわせが「客層のメンテナンス」です。若者や老人といった世代の変化はもちろん、お客そのものが変わっていたり、居なくなっていたりすることがあるのです。
街角レベルの成功事例
次は客層のメンテナンスによる成功例です。
国内独占販売契約を結ぶ、海外製の特殊工作機械を扱っている小さな商社。商品の性質上、修理工場や金属加工など、業務目的のお客を想定していました。そこから「代理店制度」を敷いて、工具販売業者に販売させます。商品は自社サイトにも掲載していましたが、エンドユーザーからの問い合わせ対応では近くの代理店を紹介していました。
数年後のある日、工作機本体はもちろん、関連パーツが売れなくなっていることに気がつきます。もともと年に何十台も売れる商品でもなかったのですが、過去の台帳と比較すると落ち込みは明らかです。
そこで「客」である「代理店」を調べてみると、これが正解。大型量販店やネット通販の台頭で、代理店に名を連ねていた街角の工具屋が閉店や廃業、事業縮小していたのです。工作機を売るどころではなく、つまり客が消えていたのです。
そこで、代理店制度を廃止してネットでの直販を開始します。今はエンドユーザーへのオプション部品の販売が堅調です。
楽観論のゆでガエル
実際の商売の現場では、こうした「お客の変化」には気がつきにくいものです。多くの人は、昨日と今日を比較するのがせいぜい。突然お客がゼロになれば、否が応でも変化に気がつきますが、先の工作機の事例ではわずかには売れていたので、「そのうち、動く(売れる)だろう」と、漠然とした楽観論で慰めていたのです。
水を張った鍋にカエルを入れ、ゆっくりと温めていくと、カエルは水温が上がったことに気づかずに、ゆであがり死んでしまうという寓話があります。楽観論はゆでガエルの発想です。もちろん、実際のカエルはある程度の温度で逃げ出しますし、商社の社長は客の変化に気がつき対応しました。しかし、気づきの「早い」「遅い」は経営を直撃します。
変化に気づかず、居ない客に売ろうとするマーケティングは、「楽して儲ける」考え方からは遠いもの。定期的に、メインターゲットとする客層の変化をチェックしなければならないということです。
Webからの注文がこない、反響がない場合は、まず「客層のメンテナンス」をしてみてください。現場感覚ではこの間違いが結構多いのです。そして繰り返しになりますが、経営資源に限りのある中小企業の場合、「誰でも」という強欲は控えなければなりません。
今回のポイント
お客は変化する
新しい「層」を開拓する意識を
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