マーケティング組織を強靭化して顧客ごとの経験価値を最大化する

デジタルマーケティングはITツールありきではなく、その本質は「マーケティングのデジタル化」にある。アビームコンサルティングの本間充氏が解説する。
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デジタルマーケティングは従来のマーケティングと異なる概念ではなく、「マーケティングのデジタル化」にこそ、その本質がある。したがって、ITツールありきではなく、まずは自社のバックグラウンドと強み、そして顧客をしっかりと理解することが重要だ。その上で戦略的なデータ収集・活用をベースに、マーケティング組織における機能と業務プロセスの強靭化を図っていくのである。アビームコンサルティングの本間充が解説する。

この記事は、アビームコンサルティングが公開している広報誌「ABeam」2016年度版の一部を転載したものです。

デジタルマーケティングはマーケティングの普遍的な概念に基づく

本間 充 氏
アビームコンサルティング
デジタルトランスフォーメーション ビジネスユニット デジタルマーケティングセクター ディレクター
本間 充 氏

昨今、従来のマーケティングに対するアンチテーゼとして、デジタルマーケティングをとらえる風潮があります。最新のアドテクノロジーを駆使し、Webやモバイルなどさまざまなデジタルのタッチポイントを通じてアプローチしなければ、新規顧客を獲得することも、既存顧客を維持することもできなくなるというものです。

確かにSEO(Search Engine Optimization)に始まり、DMP(Data Management Platform)やMA(Marketing Automation)など、新しいマーケティング手法を支援する多様なITツールが登場し、しかも安価に導入できるようになりました。結果、マーケティングを取り巻く環境が大きく変化してきたのも事実です。

しかし、これらのITツールはあくまでも手段に過ぎません。そもそもマーケティングとデジタルマーケティングは対比させて考えるべきものではなく、「マーケティングのデジタル化」にこそ、デジタルマーケティングの本質があります。

実際、Webやモバイルに限らず、あらゆるチャネルのデジタル化が進んでいます。例えばリアル店舗における販売は、従来どおり対面で行われており、大きな変化はありませんが、接客の履歴はPOS端末や販売員のタブレットなどから入力され、データとしてシステムに蓄積されています。コンタクトセンターにおける電話対応の履歴も同様です。

肝心なことは、これらのデータを自社のビジネスにとって、いかに価値ある情報に変え、意思決定に活かし、俊敏なアクションにつなげられるかどうかです。デジタル化に対応し、マーケティング組織の機能や業務プロセスも強靭化されなければならないのです。

デジタルマーケティングはマーケティングの普遍的な概念の中にあります。その意味では、デジタルマーケティングという呼び方そのものが過渡的なものであり、中長期的には「デジタル」という修飾語をわざわざ付ける必要はなくなると考えています。

顧客ごとの経験価値を最大化していくことが重要

デジタルに対応したマーケティング組織の機能や業務プロセスの強靭化、すなわちマーケティング変革のために必要なことは何でしょうか。

仮に、かつての高度経済成長期のような大量生産/大量消費型のビジネスをこの先も続けるのであれば、デジタルマーケティングへの移行は不要です。それほど多くのデータを必要とせず、精度の高い分析も求められません。

しかし周知のとおり、少子高齢化の進展によって日本国内の市場は成熟・縮小傾向にあるため、従来のようなマス・マーケティングはもはや通用しなくなっています。

これまで日本企業で行われてきたマス・マーケティングの問題点は、1セグメント/1ターゲットで行われてきたことにあります。「男性(M)・女性(F)」と「年齢層」をマトリクスにしたターゲティングはその最たるものです。例えば「育児関連の商品やサービスであれば、まずF1層(20~34歳の女性)を狙うべき」とされてきました。

マーケッター自身の経験に基づく旧態依然とした価値観や先入観、ある種の願望がそこに押し付けられているわけです。人生設計も収入も嗜好も人それぞれであり、ライフスタイルが多様化した現代において、このような思考停止に近い安直なターゲティングが当てはまらなくなっていることは言うまでもありません。

重要なのは顧客の多様性への対応であり、性別や年齢層とは違った属性を複合的にとらえた、もっと的確な顧客のクラスタリング方法があるはずです。さらに言えば、顧客ごとの経験価値を最大化していく必要があります。

顧客との最初の出会いからしっかりした“つながり”を持つ

顧客のことをより深く知ることが、昔も今も変わらないマーケティングの基本であり、マーケティングのROI(投資対効果)を高める条件となります。ただし先述したように、多様化した顧客ごとのライフスタイルや価値観、嗜好、潜在ニーズなどを、マーケッターの属人的な勘や経験で読み解くことはできません。

そこで客観的なデータを広く多く集め、数理統計やアナリティクスなどの科学的な手法を活用します。その前提として「どのような目的で、誰から、どこから、どのようなデータを収集するのか」といったタッチポイントも含めたデータ収集・活用の設計が、今後はマーケティング戦略そのものとなることを、しっかり認識していかなければなりません。

以前であれば、データはある程度“後追い”で収集することができました。特定の商品やサービスに対して、なぜそれを購入したのかを知るために、顧客にヒアリングやアンケート調査を行うといったものです。しかしそれでは間に合わない、そもそも後追い調査は市場の流動化などにより難しい状況になりつつあります。

日本の市場はいま、急速な勢いで流動化が進んでいます。現在、観光を中心とする訪日外国人数は大きく伸びており、2015年の時点で1973万人となりました。安倍晋三首相を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」はこれをさらに伸ばすべく、「2020年に4000万人、8兆円消費」という新たな目標値を示しています。こうしたインバウンド需要が、多くの企業の売上のかなりの比率を占めるようになりました。

当然、企業としてはこれを一過性の特需とするのではなく、「再び来日した際にもまた自社の商品やサービスを購入してもらいたい」、さらには「顧客のそれぞれの国でも、自社ブランドの商品やサービスを購入してほしい」と考えます。そのためには、顧客との継続的なエンゲージメントを高めていく必要があります。

しかし自社の商品やサービスを購入し、そのまま帰国してしまった顧客にはコンタクトする術がありません。“一期一会”の言葉もあるように、顧客との最初の出会いの時点から、しっかりした“つながり”を持つことが重要なのです。データ収集のセンサーとなるタッチポイントをあらかじめ配置しておかなければ、それは不可能です。

デジタルマーケティングの推進にはまず自社の得意分野を理解する

デジタルマーケティング(マーケティングのデジタル化)において最も重要なのが、自社の強みを活かすためのデータ活用です。裏を返せば、データ活用の方向性を見誤ると、自社がこれまで培ってきたブランド力や信頼さえも失うことになりかねません。

一例として、顧客の移動先やWeb閲覧などの行動をリアルタイムに察知し、需要の確度が高いと思われる商品やサービスをリコメンデーション(推奨)するデータドリブン・マーケティングと呼ばれる手法が注目されています。

確かにアパレルや雑貨などを主事業としている企業にとっては、有益な打ち手となるかもしれません。しかし高級ファニチャーやインテリアなどの耐久消費財を扱っている企業にとっては、むしろ逆効果となってしまう恐れがあります。顧客がその企業に期待しているのは、もっと長期的で広い視点に立った生活提案だからです。その時々の顧客の行動に反応した近視眼的なリコメンデーションではなく、数年先のトレンドの変化を読み解くためのデータ収集ならびにライフイベントを見据えたコンテンツの提供こそが、エンゲージメントを高めることにつながります。

ツールありきでデジタルマーケティングに臨んではならない理由が、こんなところにもあるのです。デジタルマーケティングを推進する上では「自社のバックグラウンドをきちんと理解する」「自社の得意分野を理解する」「その施策が顧客の望んでいることなのかを確認する」という3つのポイントを常に念頭に置いてほしいと思います。

もっとも、そうした自社の強みは自分たちにはあまりにも“常識”過ぎて、かえって見えなくなる面もあります。そこにアビームコンサルティングのようなコンサルティングファームが、客観的な視点から戦略策定をサポートしていく意義があるのです。

この記事は、アビームコンサルティングが公開している広報誌「ABeam」2016年度版の一部を転載したものです。
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