昔のga.jsのままでも計測できる? Measurement Protocolの知られざる実態
前回は「Measurement Protocol」についての基本と、その仕組みを利用したメルマガの開封率の計測方法について解説した。その前提として、Measurement Protocolはユニバーサルアナリティクスの新しい仕組みということもお話した。
しかし、実はユニバーサルアナリティクスにアップグレードしていない従来のGoogleアナリティクスでも、問題なくMeasurement Protocolによるデータ送信が行えるようだ。つまりユニバーサルアナリティクスへの移行をしていないga.js版のトラッキングコードを利用しているプロパティにおいても、すでにメルマガの開封率などの計測ができるようになっていると考えてよい。
もし本当にやってみようと思うのであれば、次に書いてある仕組みを正しく理解したうえで取り組んでほしい。またこの仕組みを理解することは、次週の「リファラースパム急増の裏側とその対策(仮)」の記事でも重要な前提になるので、そちらに興味がある方もお付き合いいただきたい。
gs.jsはMeasurement Protocolを利用していないのか?
そもそも現在のGoogleアナリティクスのプラットフォームがどのような要素で構成されているかというと、公式情報(2015年12月4日最終更新)では図1のようになっている。Webページ上でどんな実装をしていても、すべてこの構成で処理されている。
- Googleアナリティクス | Google Developers
https://developers.google.com/analytics/devguides/platform/
図1の左側がデータ収集(Collection)、中央上部は設定(Configuration)部分だ。中央下部がデータ処理(Processing)、右側がレポート(Reporting)の部分に分かれる。そして「Measurement Protocol」(図1赤枠部分)は、おおもとのデータ収集(Collection)の部分に位置している重要な要素だ。
この構成図を見る限り、ユニバーサルアナリティクス版のトラッキングコードであるanalytics.jsやモバイル計測用のSDKを利用している場合(図1青枠部分)に、このMeasurement Protocolがデータ収集のために使われていることがわかる。
一方で、従来のGoogleアナリティクスのトラッキングコードであるga.js利用時(図1緑枠部分)は、このMeasurement Protocol(図1赤枠部分)が利用されていないように見える。つまり、一見ユニバーサルアナリティクス(analytics.js)を利用していないとMeasurement Protocolは使えないように見える。しかし、実際はga.jsのときもMeasurement Protocolが利用されているのだ。これからそれを検証していこう。
すべてのデータ収集がMeasurement Protocol経由になっている?
ここで、ユニバーサルアナリティクスにまだ移行していないプロパティを見てみよう。「アナリティクス設定」(図2赤枠部分)の「プロパティ」(図2青枠部分)の「トラッキング情報」(図2緑枠部分)を見ると、ユニバーサルアナリティクスで指定する項目が表示されている(図2緑枠部分)し、トラッキングコードもユニバーサルアナリティクスのanalytics.js版が表示されている(図2黒枠部分)ことがわかる。
ユニバーサルアナリティクスがリリースされた2014年4月からしばらくは、図3のようにアップグレード(ユニバーサルアナリティクスへの移行)を促すリンク(図3赤枠部分)が表示され、実際にアップグレードを行うこともできた。現在、この表示が残っているプロパティはないのではないだろうか。
アップグレードを促す表示がなくなっているということは、どういうことだろうか? おそらくすでにシステムの裏側で、ユニバーサルアナリティクスとその前提となっているMeasurement Protocolへの移行が完了しているということだろう。下記の公式Upgrade Centerのページ(2015年11月20日最終更新)からも、それが推測できる。
- Universal Analytics Upgrade Center(Google Developers)
https://developers.google.com/analytics/devguides/collection/upgrade/
このページの冒頭に書かれているのが下記の記述(図4)で、日本語に訳すと「Googleアナリティクスのすべてのプロパティはユニバーサルアナリティクスへ移行しました」、と書いてあるのだ。「だから、古いga.jsや古いバージョンのモバイル用SDKの利用からアップグレードしてね」とも書いてある。これは、昔手動でアップグレード処理を進めたときと同じ状態だと推察できる。利用者側にアップグレードの選択権を持たせておくと、いつ実施してくれるかわからないので、強制的にその処理を進めてしまっているのだろう。
技術的に細かい仕様は公開されていないので推測の域をでないが、トラッキングコードをanalytics.jsに移行していないプロパティでも支障のないように、データ収集する器はどちらも共存できるような状態、つまりga.js利用によるデータ収集もできるし、Measurement Protocol仕様によるデータ収集も受け付けるようになっている、いわば「アップグレード途上」の状態になっていると考えられる。
実験:従来のga.jsでもメルマガの開封率を計測できるのか?
そこで、まだユニバーサルアナリティクスへ移行していないプロパティで、実際に次のURLをブラウザのアドレスバーに直打ちして、グーグルへリクエストを飛ばしてみた(UA-xxxxxxx-1のxxxxxxxは実際のプロパティIDを利用した)。前回の記事で試したような画像リクエストをするよりも簡易な方法だが、動作確認はこれで十分だろう。
https://www.google-analytics.com/collect?
v=1&
t=event&
tid=UA-xxxxxxx-1&
cid=1111&
ec=email&
ea=open
その結果[リアルタイム]>[イベント]レポートでも、[行動]>[イベント]>[上位のイベント]レポート(図5)でもイベントの発生を確認できたので、データをきちんと受け取り、正しく集計していることがわかる。つまり、ユニバーサルアナリティクスに移行していなくても、実際はMeasurement Protocolによるデータ収集を受け付けるということが確認できた。
「2016年春から従来のGoogleアナリティクスが使えなくなる」という都市伝説
最後にもう1つのトピックとして、ことあるごとにくり返されてきた都市伝説をあらためて否定しておく。それは「2016年3月あるいは4月をもって従来のGoogleアナリティクスが利用できなくなる」といった説で、個人ブログ、Webメディアに掲載された記事、GACPによる告知などを含め、さまざまなところでくり返し言われ続けてきた。「早くユニバーサルアナリティクスへ移行しないと使えなくなるぞ」という脅し文句だ。筆者は気が付き次第、火消しに回ってきたつもりだが、残念ながらこうした情報はネットの各所でまだ散見される。はっきりと言うが、これらの話はデマだ。
なぜそのような都市伝説ができたかというと、2つの理由がある。下記の公式サイトで確認できるとおり、「2014年4月2日にユニバーサルアナリティクスが正式リリースされた」(ベータ版の記述が取れた)という事実が1点。また、「旧バージョンは最低でも2年は継続する」という別のアップグレード手順の文脈の中で語られていた話がもう1点あって、この2つが組み合わさり、「ユニバーサルアナリティクスが正式リリースされて2年を経た2016年3月あるいは4月以降は、非同期ga.js版以前のバージョンが使えなくなる」という話にすり替わっていったのだろう。
- Analytics Blog: Universal Analytics: Out of beta, into primetime
http://analytics.blogspot.jp/2014/04/universal-analytics-out-of-beta-into.html
ここでデマの根拠を憶測しても仕方ない。信じられる唯一の公式情報は、記事中でも紹介した公式Upgrade Centerのページ(2015年11月20日最終更新)に書かれているものだ。下記の公式情報以外は無視してかまわない(図6)。
英語なので該当の部分をかいつまんで訳すと、「現在ユニバーサルアナリティクスでないトラッキングライブラリのどれ1つをとっても、まだ正式には非推奨(deprecated)とはなっていない。非推奨になったら、このページでアナウンスする。また非推奨とされたライブラリから受け取ったデータについては、非推奨とアナウンスされてから最低でも2年間(minimum of two years)」は処理され続ける」とある。
すなわち筆者の英語が間違っていなければ、現時点(2016年4月)で非推奨のアナウンスはされていないので、少なくとも2018年4月ごろまでは、ユニバーサルアナリティクスより前のバージョンのGoogleアナリティクスが使えなくなることはないということだ。
もちろん筆者は、ユニバーサルアナリティクスへの移行をなるべく先送りしようなどということを言いたいわけではない。リニューアルなど何かのきっかけがあったら早急にユニバーサルアナリティクスへ移行すべきだと考えているし、リニューアルがなくてもなるべく早く移行は済ませてしまうことを強く推奨している。
さまざまな意図があれ、これからもまだまだこの手のデマを拡散しようとする個人や企業も出てくるだろう。そういうデマに振り回されないよう、公式情報だけを正しく注視するようにしてもらいたい。
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