これからの優れた顧客体験とは? 米国最新事例でカスタマーエクスペリエンス設計を稲富滋氏が解説
10年後、デジタルネイティブ世代が顧客の75%を超えると予測されています。そのとき、企業は顧客とどのようにコミュニケーションを取っていくべきか? さまざまなチャネルを横断的に使って、顧客のエンゲージメントを向上するポイントを紹介します。
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「顧客エンゲージメントがビックデータによってどのように変革していくのか」をテーマとした「HP Engage 2015」をHP社がカリフォルニア州のサンディエゴで2015年11月9日から2日間で開催しました。
国内外のHPユーザーを中心にスポンサーやパートナー企業23社はじめ、HP製品関連各事業部のエグゼクティブなど総勢725名が集まる一大カンファレンスです。
また、今回のカンファレンスは、エンタープライズ事業が中心の「Hewlett Packard Enterprise」と、PCやプリンティング事業が中心の「HP Inc.」に分社化された最初の月で、参加者にも主催者側にとっても注目が集まるものでした。
本記事では、初日の基調講演を中心に、顧客とのコミュニケーションで大きく変化するだろう情報をピックアップして3セッション紹介します。
ミレニアル世代(18~34歳)にはタイムリーなコミュニケーションが求められる
登壇したHP社のマーケティングソリューション事業部門 バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるアンドリュー・ジョイナー氏(Andrew Joiner, VP and GM HP Marketing Optimization)は、企業と顧客とのかかわり方について、次のように言及しました。
企業が一方的に顧客にメッセージを提供しているだけでいい時代は終わった。これからの時代は、顧客と双方向コミュニケーションをしていかなければならない。
特に「デジタルネイティブ」と呼ばれる18~34歳のミレニアル世代の顧客とは、タイムリーなコミュニケーションが求められていくだろう。
ネットが身近にある環境で育った彼らにとって、個人であろうが、企業であろうが関係なく、自分たちが必要なときに、必要な手段でコミュニケーションをするだけだ。
つまり、メッセージを送って一定時間内に返信がなければ、企業に対してマイナスの印象を与えるだろう。一方、友人並みに短時間で企業から返事があれば、プラスの印象を与えるだろう。
顧客との双方向コミュニケーションを考える場合、以下3つのコンテンツをうまく利用するといいだろうと紹介しました。
企業コンテンツ
確かで正確な情報を伝えるために利用する外部企業が持つコンテンツ
顧客の心を効果的に揺さぶるために利用する(Getty Images,Google,iStockphoto,Shutterstockなど)ソーシャルメディアにアップされたコンテンツ
企業コンテンツとして、適切で関連性のあるコンテンツで顧客にアプローチする
また、ミレニアル世代に人気があり、画像や動画といったリッチコンテンツを多用して、クラウドベースでスマホにも対応し、成功した例として次のサイトを紹介しました。
また、ジョイナー氏は「個人向けと企業向けのコンテンツの作り方に以前は違いがあった」と述べ、最近ではその差はほとんどなくなってきていると指摘し、米国3,408社の中堅(従業員数250人以上)のBtoB企業への調査結果を提示しました。
毎年コンテンツ制作に増やす金額は52億ドル
この金額をアンケートに答えた企業で平均すると、各社の年間のマーケティング費用の55%に相当する非効果的なコンテンツマーケティングによる損害額は年間958億ドル
コンテンツが重要だとはいえ、不十分なコンテンツを管理する費用の増大や非効率なコンテンツ制作による費用の増大が問題となってきている
「顧客となった後」も継続的にコミュニケーションをとる
次に紹介したいセッションは、カスタマーコミュニケーションマネジメントの「HP Exstream」を担当するパトリック・キーホー氏(Patrick Kehoe Worldwide Diretor of Product Marketing HP Exstream)です。
「顧客となった後」も含めて顧客と継続的にコミュニケーションしていく必要がある。これらを行うには、チャネル横断的にコミュニケーションを一元管理するべきで、現状、一元管理できている企業は全体の4%程度に過ぎない。
と指摘し、さまざまなチャネルを使って顧客をフォローしていくことが「顧客の満足度」「企業の売り上げ」につながることを次のデータを用いて説明しました。
スマホアプリを備えた商品の顧客獲得率は、未対応の商品より63%高い
商品購入者に対し、リアルタイムでお礼メール出すことで、アクセス数やEmailあたりの売り上げが一律のメールを送るよりも10倍となる
ソーシャルメディアを介した顧客サービスの要求に応答した場合、顧客の購入金額は20%~40%増加する※
※2015年事業計画に使える10のカスタマーエクスペリエンスの統計より
このようにチャネルを横断して顧客と接点を持つとき、外してはいけないポイントとして次の4つを挙げています。
- デジタルを通じてお客様に「気持ち」が伝わること
- デジタル・スマホ対応をすることはもちろん、それらは美しく、自然でよどみなく感覚的に違和感がないこと
- すべてのチャネルを通して一貫したアプローチをすること
- 顧客の体験をデザインするのは事業部やマーケティング部門であり、IT部門はその足を引っ張るべきではない
デザインにフルレスポンシブを採用し、パーソナライズされたメッセージを送ることで、ビジネスに貢献している成功例として、「Blue Cross Blue Shield社」が紹介されました。
講演を通じて、キーホー氏は何度も「Experience Economy」と発言をしていました。
この「Experience Economy」とは、「顧客が企業との接点で受けるさまざまな経験がビジネスに直結する(経済を動かす)時代になった」ということを指しています。
これは言い換えると、部門ごとで顧客との接点を持つだけでなく、企業全体として顧客との接点を管理して、「顧客が思う適切な対応」を「継続的に」提供できる体制を構築することが重要になってくるということでしょう。
デジタルにおける顧客体験は土台作りも重要
HP TeamSite、HP MediaBinそしてHP Optimostを担当するスニル・メノン氏(Sunil Menon, Head of Product Management HP TeamSite, HP MediaBin and HP Optimost)は、「企業がどのくらいデジタル変革と向き合っているか」について、次のような調査結果を示しました。
89%の企業がデジタルによる変革(Digital Transformation)が重要と回答し、なかでもスマホ、Web、など複数チャネルの整備が最重要と理解している
77%の企業の回答ではスマホ対応が重要課題だと認識しているが、実際にスマホ対応が完了したページ数は平均で38%に過ぎない
平均的な企業1社当たり268種類もの顧客のためのウェブやスマホ画面があると言われているが、これを一元的に管理している企業は非常に少ない
このことを踏まえて、メノン氏は昨今の消費者の特徴を次のように捉えて、次のように指摘します。
消費者は、動画やカラフルな写真を好み、しかもスムーズに動くことを好む。消費者の好みに合わせたこれらリッチメディア駆使して、消費者とコミュニケーションを取り、更にそれらを一元的に管理して、消費者に提供することが重要。
デジタルにおける顧客体験は、単に表面的なことだけではなく、これを支える土台作りも忘れてはいけない。
メノン氏は、「HP TeamSiteとHP MediaBinで土台を作れば、一度制作したコンテンツはどこにでも使える。企業側の工数も減り、消費者のエンゲージメントも向上する」と強調しました。
おまけ:カンファレンスも参加者(顧客)一体型に変化する?
カンファレンスそのものは11月9日、10日の両日ですが、参加申し込みと同時に、スマホアプリ「HP Engage」をインストールすると、カンファレンスに必要な情報、講師の写真、経歴を含めた紹介、興味あるセッションを自由に組み合わせてつくる「My Agenda」などが作成できます。また、関心はあるが決めかねているタイトルだけを取り出して別枠にしておく「My Interests」、各セッションの資料などもダウンロードできるので、なかなか使い勝手の良いアプリでした。
会場に集まった300人強を対象にして投票機能がありますが、これは有用であるばかりでなく、会の進行プログラムの一部として活用できる機能です。スクリーンに現れるリアルタイムの投票結果を見ながら聴衆と舞台との自然なインタラクションを行い会場を盛り上げる効果がありますね。
実際に各セッションが始まる前に、このアプリを使ったリアルタイム投票が行われました。そこで、会場で出された質問の一部とその結果を紹介します。
質問:会場の皆さんの経験を伺います。テクノロジーに携わるようになって何年ですか?
結果:投票総数280。一番多かったのが10~20年の「ベテラン」で、ついで20年以上の「マスター」。比較的経験者が多く集まるカンファレンスでした。
質問:皆さんは今後10年の間で全労働人口に占める「デジタル時代に生まれた(Born digital)」世代の割合は%になると思いますか?
結果:投票総数301。最も多かった回答が75%、100%が2番目でした。正解は75%です。
ちなみに冒頭でも説明しましたが、このデジタル時代に生まれた世代とは18~34歳を指し、「ミレニアル世代」と呼ばれています。このミレニアル世代の人口が昨年初めて、ベビーブーマーの世代を上回り、あと10年もすると「Generation X(35~50歳)」を含む世代が全人口の75%を超える予測です。
質問:これからの5年間、あなたの会社でカスタマーエンゲージメントのために最も重要だと思う課題を選んでください(5択)。
結果:投票総数259。
- 1位 ターゲティングとパーソナライゼーションの推進
- 2位 自動化によるコスト削減
- 3位 個別のシステムやアプリケーションの統合
- 4位 よりレスポンシブによりビジュアルに
- 5位 SNSやスマホをもっと活用したエンゲージメントの増加
※ただ、1位以下の選択肢にそれほどの差はありません。
質問:皆さんの会社はクラウドを採用しますか?
結果:用意された選択肢のなかで一番多かったのが「様子を見ながら進める」でした。それ以外の選択肢はほぼ差がありませんでした。
- 1位 様子を見ながら進める
- 2位 「当然だ」それ以外の話なんて聴きたくない
- 3位 クラウドなんて「うんざり」だ
- 4位 経営陣は進めたがるが、IT部門が毛嫌いしている
ちなみに、クラウドについての選択肢のなかに見慣れない記号がありました。
“If it's not cloud, #TTTH.”
意味がわからず悩んでいると、HP社のラジブ・セングプタ氏(日本とアジアパシフィックのVP)が#TTTHとは「Talk To The Hand」の略で、砕けて言うと「クラウド以外の話を聞く耳を持っていない。話したいならこの手のひらに向かって話せ」だと教えてくれました。
ミレニアル世代の特徴を理解して、この世代が中心となる時代に、「どんな社会になるのか」、「世代交代の抗えない大きな流れが足早に近づいているなかで企業はどう準備対処しなければならないのか」を参加者の共通認識とすることからこのカンファレンスは始まったと言ってもいいでしょう。それがHP社のソフトウェア・プラットフォームに込められているのです。
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