企業ホームページ運営の心得

お客の本音を引き出す呼び水。Web担当者の“聞く力”

関係各所との調整が欠かせないWeb担当者の仕事において聞く力は重要スキル
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の417

すべては経験から

AndreyPopov/iStock/Thinkstock

つまらないとコメント欄にお叱りを頂戴した前々回。感想は真摯に受け止めつつも「色んな本からの寄せ集めだよね」との指摘は聞き捨てなりません。他人の言葉と明示して紹介することはあっても、それを自らの経験だと偽ったことはありません。

特に「聞き上手」とは、Web担当者のだれもが頷く「現場の心得」。ちなみに阿川佐和子氏のベストセラー「聞く力」のタイトルは拝借しても、本文からは1行たりとも引用していないと断言できるのは、いまだ同書を読んでいないからです。

今回はその「聞く力」について。今までもこれからも、当事者として目にしたもの、経験したものだけを中心に紹介していく所存です。

トークに酔いしれる

自分のセールストークに酔いしれているセールスマンを目にすることがあります。電話で訪問約束を取り付ける、いわゆる「テレアポ商法」によくいるタイプです。

「話術」がうまいと勘違いしているのでしょうが、マニュアルを丸暗記しているか、先輩の話芸をコピペしているに過ぎず、実のところ、訪問して契約を取るセールスマン(クローザー)の能力による契約件数の差はほとんどありません。それは、(すべてとはいいませんが)多くの契約は電話をかけた件数を分母とする、一定の確率に収束するからです。平たく言えば「数撃てば当たる」です。

逆を考えればわかることです。わずか十数分程度の「トークショー」で、すべてのお客が内容を理解することはまれです。反対に、わずかな説明で「契約をしてくれ!」と飛びつくのなら、優れた商品やサービスであるか、あるいはすでに「欲しい!」と思っていたお客であった「タイミング」の勝利だからです。

セールスの現場における「話し上手」とは、必ずしも結果に直結する能力ではありません。

目立ちたがりでした

「聞き上手」はその反対です。前々回に触れた通り、対人関係において好印象を与えるだけでなく、だれもがビジネスシーンで実践できる「技術」です。すでに述べたように「自分語り」は「聞く力」に反しますが、「体験」と明示するために少し紙幅を頂戴します。

私は、物心ついたころから、親戚が集まると「ヒデキ(西城秀樹)」のフリマネをするお調子者で、高校では目立ちたいという理由だけで生徒会長に立候補して当選し、同じ理由でバンド活動を始めます。

楽器の演奏どころか、コンサート会場で手拍子が1人だけずれるリズム感で、音程も歌詞もろくに覚える気がないくせに「ボーカル」をやるほど自己顕示欲の強い少年でした。その厚顔さから緊張に縁がなく、生徒会長としてのスピーチは常にアドリブで、「話し上手」を自負していました。

打ち砕かれるプライド

紆余曲折を経て営業マンになったのも、「話し上手」が活かせるという慢心からです。ところが、まったく伸びない成約件数がプライドを粉々にします。そこで至った結論が「聞く」こと。どれだけ言葉を費やしても成約に至らず、「心が折れていた」という指摘を否定はしません。

「聞く」に徹してから歯車が「ガチッ」と噛みあいます。相づちのタイミング1つで、お客の心が動くことを知ります。また、トラブルが発生したとき、ただひたすらに話を聞き続けるだけで解決したこともあれば、ひと段落してから解決策を尋ねることもありました。これも「聞く」です。

「聞く力」が身についてくると、かなりの確率でお客の側から解決策という名の妥協案を引き出すことができるようになります。どうしてもダメなときは会社に戻り、上司に方針を「聞く」。組織とはそういうものです。

ある日、会社の方針が変わりました。納得できずに身の振り方を役員に「聞く」と、「ヤメロ」といわれ、その通りにします。そして独立し、「中小企業のWeb担当者」になれたのは「聞く力」のおかげです。Web担当者の業務は「聞く」ことにあるからです。

そもそもWeb屋の仕事とは

広報目的の企業サイトを運営するWeb担当者は、関係各所の希望をくみ取り、Webに反映させなければなりません。つまり「聞く」ことが仕事です。お客のサイトを構築する「Web屋」ならば、「聞く力」はもっと重要になります。社員に任せたといいながら、口を挟みたい社長や上司は少なくありません。

ただし、だれもが気軽にペラペラ話ができるわけでもなく、そこで私はこんな台詞を「呼び水」にしています。

私はWebのプロですが、こちらの商売は、社長、あなたがプロです。どうか素人の私にご教授ください

プロ意識を持っている人ほど、教えを請う者に優しく、丁寧に説明してくれるとは経験則。これによって踏み込んだコンテンツを仕上げることができるようになります。

「聞く力」とはWeb担当者の仕事を助け、コンテンツを充実させてくれるとともに、幅広いネタを仕入れることで、私のように長期連載を誇る……と、ほとばしる自己顕示欲は相手の話す時間を奪ってしまう「聞く力」の大敵です。

お局さまを籠絡

じっくりと話を聞くことによって、ボトルネックが見えてくることもあります。組織には肩書き以外のヒエラルキーも存在します。俗に「お局様」と呼ばれる古参女性社員の話に耳を傾け、彼女の意見を尊重したことにより、円滑にプロジェクトが始動したケースもあります。彼女が内勤者のとりまとめ役で、Webへの取り組みが進まないように根回ししていたのです。

最後に自分語りをもう1つ。ミスをしているからこそ語れることもあります。

「聞く力」に目覚めていたはずの独立後、コンサルティングの依頼が地元の名士から入りました。しかし、数か月の準備期間の後、「白紙撤回」されてしまいます。「自分のやり方」を通すあまり、「聞く」ことを疎かにしていたのです。独立後の予想以上の順調さが、生来の自己顕示欲を増長させたのが理由です。そこで、打ち合わせや面談の前には必ず「聞く」ことを自分に言い聞かせているのは、本稿に散見するように自己顕示欲がまだ健在だからです。

今回のポイント

Web担当者の仕事の半分は「聞く」こと

自己顕示欲は極力抑える

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