コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の370
商談の成功確率を高めるには
お金持ちはお金の話が大好きです。これはWebとビジネスに通じます。ただし金持ち相手の商売をしろという話ではなく、単価や価格を掲載したほうが、実際のビジネスにつながりやすいという現場のノウハウ。これを証明する方法はシンプルです。
通販サイトで商品が売れるのは「価格」が明記されているから
もちろん、その他の理由もありますが、価格の明記されていないサイトで「購入」ボタンはクリックされません。
ところが物流業、製造業、卸業といった「BtoB」サイトに「価格未掲載」を散見します。その理由は大きく分けて3つありますが、どれもビジネスの阻害要因で、コンテンツの最適化を妨げています。
今回は「価格未掲載」のサイトが生まれる理由と問題点を指摘し、解決の提案と実例を紹介します。
ライバルというナンセンス
ライバル企業に価格がバレる
「価格未掲載」の最たる理由といってもいいでしょう。
BtoBの世界では、取引量、支払い期間などの条件によって価格を変えることは常識。公表することで、ライバルがより有利な条件を顧客に提示することを怖れる、というのが1つ目の理由です。
一見、正論に思えますがナンセンス。実際のビジネスシーンには「相場」が形成されており、ライバルの価格はだいたい推測できているものです。そしてその「推計値」をもとに、営業用語における「アタック」をかけます。
また、取引上の「仁義」を脇に置いた取引先が、より有利な条件を求めて価格をライバルに伝えることもあります。つまり、価格は事実上公開されており、その公開が致命傷になることはあり得ないのです。
サボタージュというホンネ
2つ目の理由は「価格が決まっていない」というもの。
決まった形のないコンサルティングサービスやオーダーメイドなど、条件設定によって価格が変わるケースです。これももっともらしく見える理由ですが、目安となる価格すら決めていないのであれば実に非効率です。ホームページ以前の事業戦略から見直した方がよいでしょう。
そして3つ目の理由が、
何も考えていない
ことです。思考停止、つまりはサボタージュです。担当者の「ホンネ」としては、これが最も多いでしょう。
見積もり作業は厄介で面倒。「価格」を積算するには、条件から考えなければならず、「論理的思考」が必要となります。さらに業界相場より安くしてプライスリーダーを目指すのか、高級化路線で差別化するのか、といった戦略的意義も考えなければならず、こうした「思考作業」を嫌って「放置」しているのです。
だれのためのホームページか
それでは解決策を考えていきます。
確かにホームページにはライバルも訪問します。しかし、ホームページを公開する目的は「お客」への情報提供です。ならば価格の掲載が必須であることは、冒頭で示した通販における「当たり前の話」からも自明です。むしろ、ライバルの動向を気にして、お客をないがしろにすることを「本末転倒」と言います。しかし、この正論が通じることは残念ながら多くありません。
Web担当者というより、その上位に立つ管理者の保身が邪魔をします。価格を公開したタイミングとライバルの攻勢が重なれば、実際には偶然であっても、責任問題になると怖れる心が価格掲載を遠ざけます。これはWebだけの問題ではなく、社内政治の話でもあるため同意を得るのは困難。「現場の心得」としては「価格掲載の提案」を「議事録」に記録させ、アリバイ作りだけはしておき、風向きが変わるのを待つことです。私がクライアントにするのも「提案」までです。
残り2つの問題、「価格が決まっていない」「何も考えていない」の解決策は同じです。シチュエーションは異なっても、結論的にはどちらも同じ「考えない」だから。つまり解決策は「価格を考える」です。
価格とは重要な情報
価格を掲載するには、まず「標準価格」を用意します。標準化が難しいなら「参考価格」とします。さらには「○○モデル」「2014限定版」などでも可。つまり第2の理由で指摘した価格の「目安」です。同じく定価がある商品でも、公開することで問題が生じるなら「Web参考価格」といった「別名」を用意します。既存取引とは違うというアピールです。
そもそも、バカ正直にすべての価格を公開しろと言っているのではありません。最低限、お客にとって「目安」となる「情報=価格」を提供しなければ「商談」にたどり着きにくいということです。次はその一例です。
ある機械製造メーカーが、ロール紙の心棒となる紙管を切断する「紙管切断機」の販売を始めました。「価格未掲載」だった当初、反響はゼロですが、アクセスログから「紙管切断機」キーワードでの訪問者は確認できています。
そこで価格を掲載すると、問い合わせが入るようになりました。しかし、成約には至りません。「安すぎる」と不安がられていたのです。増えた電話も、まるで「あら探し」だったといいます。
だれのためにあるか
前述の例では、競合他社との差別化とお客の説得がポイントになります。
競合が販売する紙管切断機は、コンピュータ制御による切断位置の調整が可能で、高い汎用性を誇り一台1千万円を超えます。しかし、「紙管を切る」という機能に特化すれば、位置合わせは手作業でも裁断精度の誤差は生まれず、大幅なコストダウンが実現できます。価格の妥当性とは、顧客のメリットに尽きます。この「特化」をコンテンツにして公開すると、前向きな問い合わせが増え、今では着実に注文を重ねています。
コンテンツの目的は、お客への適切な情報提供です。紙管切断機の例では、まず価格の掲載によってお客に「目安」を提示し、次にユーザーの不安解消(価格の根拠の説明)を目指しました。価格を曖昧にしたままでは説得力が不足しますし、お客は価格だけではメリットを理解できません。そして両者が揃った状態、それがつまり「コンテンツの最適化」です。
お金持ちがお金の話を好きなのは、それだけお金に真剣に向き合っているからです。利益を追求するビジネスにおいても「お金」の話は不可分。だから「価格未掲載」は論外なのです。ちなみに説明に用いた「紙管切断機」は「試作品」で、いわゆる「売価」が存在せず、すべて「参考価格」です。
今回のポイント
価格は商談を検討するための材料
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