おもてなし日本が向かっているデジタルマーケティングの世界観と日産自動車のグローバル展開事例
2014年6月12日に六本木グランドハイアット会場にて「Adobe Digital Marketing Symposium 2014」が開催された。Adobe Summitの日本版として開催されており、今年5回目を迎える大規模カンファレンスは、過去最大級の1,500名の参加者が集まった。
今後のデジタルマーケティングに関して考える場となった基調講演についてレポートする。
デジタルマーケティングの進化を支援するAdobe Marketing Cloud
基調講演では、まずアドビ システムズのブラッド・レンチャー氏が登壇し、いま起きているデジタルマーケティングの進化について語った。
この2年ほどの間にデジタルの世界では大きなイノベーションが起きており、企業はそれに追いついていかなければいけないというプレッシャーを感じているのだという。顧客は一度でも高度なデジタル体験をすると、その状態を当たり前のように受けられるものであると期待するものであり、企業はその期待に応える必要があるからだ。
しかし、その期待に応えるためには、マーケティングチームだけでは力不足で、企業全体で取り組まなければいけないという状況もでてくる。
そうした状況で企業が前進するためには、デジタルデータを活用して最適な情報提供とコミュニケーションを行っていく必要がある。
アドビとしては、そのために同社では「Adobe Marketing Cloud」としてアナリティクスやターゲットなど6つのソリューションを提供しているが、さらにそれらのソリューション全体で利用できる「コアサービス」で企業を支援すると宣言した。
- プロファイル管理
- アセット共有
- マーケティング・ミックス&プランニング
- タグ管理
- コンテクスチュアル・アクティベーション
- ユーザー管理&セキュリティ
- インテグレーション
- コラボレーション
これらのコアサービスは3月に米国で開催されたイベント「Adobe Summit 2014」で発表されたもので、Web担でもすでにレポート記事で解説しているためここでは詳しくは解説しないが、ブラッド・レンチャー氏によると、コアサービスの目玉はプロファイル管理機能だとのことだ。
より詳細な「個」の認識ができるようになるというこのサービスについて、基調講演では続いて具体的な紹介がされた。
高度なデジタル体験を顧客へ提供する仕組みづくり
Adobe Marketing Cloudのコアサービスのなかでも特に価値があるという「プロファイル管理」のサービスについて、続いて登壇したアドビ システムズ株式会社の上原氏は、次の4つの価値提供ができる旨を解説した。
- アクティベーション
- コンテキスト
- プロファイル・マッチング
- マスター・マーケティング・プロファイル
これらの価値提供について、デジタルマーケティング活動を、ストーリー仕立てにしながら、ケーススタディとしてのデモンストレーションが行われた。
ある人が電車の駅にいる。出社中のようだ。駅には、オーガニックの化粧品会社のブランドイメージを伝える看板広告が映し出されている。これはAdobe Creative Cloudを用いて作られたものだ。
その人がスマートフォンでその化粧品会社のWebサイトを訪問してみると、その看板と一貫したクリエイティブ素材がWebサイトでも使われている。これは、Adobe Experience Managerで作成されたものである。
この時点では、企業からみてこの顧客は「この地域でスマートフォンからアクセスしているだれか」でしかない。
しかし、その人がスマートフォンで商品を閲覧して購入しようと商品をカートへ入れてサイトにログインした瞬間に、この人は以前にもその会社のPC向けサイトで買い物をしたことがあるアリソン・パーカーさんという女性顧客だということが判明する。
しかし、パーカーさんは電車に乗り込んだために、そのときはサイトから離脱してしまった。
製品をカート投入まで到達したのだから、企業側としてはパーカーさんにさらにアプローチしたい。ここで、Adobe Analyticsにあらかじめ設定した「カート放棄者」というユーザーセグメントのフラグが、パーカーさんに付けられる。
そして、「購入し忘れていませんか?」というリマインドメールが、パーカーさんに自動的に送られる。
その後パーカーさんは、お昼休みにオフィスのPCを開いていると、リマインドメールが届いていることに気づき、改めて化粧品会社のサイトを訪問し、カートに入れていた商品を購入した。
マスター・マーケティング・プロファイルがあることで、デバイスをまたいで顧客の行動を把握し、適切な訴求ができるという仕組みだ。
さまざまなタッチポイントで一貫したブランドイメージを提供するための「クリエイティビティの発揮」
次に、Webサイトだけでなくモバイルアプリなども管理できるAdobe Experience Manager(AEM)に搭載されている「PhoneGap機能」を用いたデモンストレーションを、デビッド・ニューシュラー氏(アドビ システムズ社 エンタープライズ テクノロジー担当バイスプレジデント)が披露した。
会場ではまず、日産自動車のスポーツカー「GT-R」がスクリーンに映し出された。スマートフォンやタブレットなど十数種類のデバイスでアプリが起動しており、アプリには白のGT-Rが表示されている状態だ(このアプリはAEMで管理されている)。
担当者が、アプリに表示されるクリエイティブを、白のGT-Rから赤のGT-Rに変えたいと考えたとする。
従来ならば、1つひとつを手作業で切り替えるため手間が掛かっていたが、PhoneGap機能を用いると、ドラッグ&ドロップの操作のみで一瞬のうちに切り替えができてしまうというのだ。
実際に壇上でニューシュラー氏がAEMの管理画面を操作すると、GT-Rが白から赤に切り替わり、会場からも歓声が上がっていた。
日産自動車におけるデジタルマーケティングのグローバル展開プロジェクト
続いて日産自動車のデル・ジャクソン氏が登壇し、デビッド・ニューシュラー氏と対談した。
ジャクソン氏によると、グローバル展開でのデジタルマーケティングの取り組みについて、「ヘリオス」と名付けられたプロジェクトが展開されているのだという。日産自動車には従業員が24万人いて、製品は80種類にものぼる。となると、社内にはさまざまな利害関係が発生してくる。
そのような状態にありながらも、デジタルを当たり前のように活用しているいまの顧客に対して、一貫したブランド戦略に基づき適切な情報提供を行っていく必要がある。
そこで日産自動車では、デジタルマーケティングを有機的に実現するために、組織内のあらゆる担当者をつなげていく活動がされているという。
そうした働き方は従来とは異なる新しいスタイルであり、仕事にはスピード性が問われる。さらに顧客を理解するためのデータをうまく扱う必要があるし、ブランドイメージを保つためにはアセットを一元管理しなければいけない。そしてスタッフに負担がかかりすぎないように社内で使うツールを統合し、持続的な活動とすることが求められる。
そのために日産自動車ではAdobe Marketing Cloudを活用し、5つの自動車ブランドについて、共通のプラットフォームを構築し、スピーディなPDCAサイクルの実現を行っているのだという。
このプロジェクトを推進するにあたっては、関係者が年に一度ロンドンに集まり意見交換をしているのだが、そこに参加するのは、ITに詳しい技術者やデジタルマーケティングの担当者だけではない。従来型の店舗展開のための人材も集まるのだという。
ジャクソン氏によると、こうした人たちは、組織に変革をもたらすための触媒(カタリスト)の役割を果たす立場なのだという。「なぜ変わるべきなのか」を理解すること、そして、それを組織に浸透させていく人たちが、旧来の環境や古いマーケティングの考え方をベースにしている組織を変革していくには重要なのだという。
基調講演の最後には、ブラッド・レンチャー氏が次のように述べた。
これからのマーケティング活動は、ロードレースにでる自転車競技選手のように、「適切な姿勢で」「前に向かって駆動していく」必要がある。
自転車と同じで、軸がぶれてしまってはいけない。
一貫した戦略に基づいて、関係者をまとめあげていく必要がある。
日本発の「おもてなし」を軸とするサービス展開をしよう
現在、米国では、IoT(Internet on Things/モノのインターネット)という概念がトレンドとなってきている。一時期、ユビキタスネットワークと呼ばれていた考え方でもあるが、すでに、あらゆるモノがインターネットにつながる時代が遂に実現すると騒がれているのだ。
テレビや自動車やメガネのようなウェアラブル機器など、あらゆるものが「スマート機器」となっている。アップルのスティーブ・ジョブズが、スマートフォンのiPhoneを市場へ投入したときに構想された「ポストパソコン時代宣言」が到来している。
ブラッド・レンチャー氏は、3月のAdobe Summitと同様に「マーケティングの再創造が必要だ」と述べていたが、そのためには「古い知識を捨て去る(unlearn)」ことが必要だと述べていた。
IoTがさらに進んでいくと、単なるセンサーネットワークのようなものに限らず、人の日常にインターネットがさらに入り込んでくることだろう。そうなれば、古い考えに基づいたマーケティングが、今よりもさらに現実に合わなくなってくるだろう。
つまり、古い知識や過去の経験にこだわらずに、必要に応じてそれをいったん捨て去り、考え方を、そして組織のあり方を、状況にあわせて変えていかなければいけなくなるはずだ。
この新たな産業革命時代に、データを活用し、顧客に最適な価値提供を行うマーケティング活動のためのサービスをどのように生み出していくのか。日本従来の「おもてなし」を、いまのデジタル時代のユーザーに合った形に翻訳し、組織的に取り組んでいくことが求められている。
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