リアル店舗に学ぶ客対応の心得。神対応と塩対応についての考察
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の339
土下座事件と神対応
衣料品販売の「しまむら」の店員を土下座させ、その写真をTwitterに投稿した女性が、名誉毀損罪で略式起訴され、罰金30万円の命令を受けました。ネット情報によれば、投稿した女性の日頃の素行に眉根を寄せ得るところも散見し、自業自得の声は少なくありません。購入した商品に不良があったからと、店員に土下座をさせることはやり過ぎで、しかもその姿を写真に納め公開した行為を弁護できるものではありません。しかし、店側の対応に瑕疵はなかったのでしょうか。
「神対応、塩対応」とはAKB48のファンの間で生まれた言葉です。主に握手会での対応を指し、前者が当意即妙なファンとの触れあいを指し、つれない(しょっぱい)態度をとるのが後者です。果たして「しまむら」の対応はどちらだったのか。
そこで今回は、私が知っている店頭での「神対応」を紹介します。リアルでの話ですが、ウェブにも通じます。ビジネスはネットだけでは完結しません。どんなにウェブのおもてなしが優れていても、リアルの対応で失敗することもあります。
クレーマー登場
あるテレビゲーム販売店を例に挙げます。CD-ROMなどで発売されているテレビゲームの定価は数千円し、高いものになれば1万円を越えることもあります。ゲームユーザーは大人から小学生まで幅広く、ゲーム販売店の店頭には老若男女が訪れます。
ある日、店頭で小学生が新品のゲームソフトを購入していきました。会計で小学生は1万円を出します。翌日、開店と同時に小学生の保護者が返品を求めて怒鳴り込んできました。昨日の小学生は親の財布から無断で1万円札を拝借していたのです。
保護者いわく「小学生が高額商品を買うのはおかしいと思わないのか!
」と。
正当な対応だとしても
機械的に販売した店に責任があると、すでに開封された商品を返品の上、返金を求めます。この店ではゲームソフトの中古買取も行っており、中古としての買取価格でなら返金、すなわち買い取ると回答します。買い取り価格は新品売価のおおよそ3割で、仮に6,000円の商品なら2,000円の買い取りです。たった一晩で4,000円も損をするのかと、保護者は怒りに震えます。
一般論として店の対応に落ち度はありません。むしろこの保護者は「クレーマー」に属するでしょう。我が子の家庭内の事情を棚に上げて、店に損失を補填しろというのですから。そこに毅然とした態度で対応するのは必要なことです。冒頭の「しまむら」のケースで欠けていたのはこれではないでしょうか。
クレーマー対策のコツ
以前、「謝罪」の回で客への「卑屈な対応」をいさめました。クレーマーは下げた頭を踏みつける習性があり、一方的に卑屈な態度をとることは致命傷になりかねません。
しかし、クレーマーと口うるさいだけのお客は紙一重です。土下座を強要するような真性クレーマーはともかく、不幸なタイミングが重なり、声が大きくなった「仮性クレーマー」もいます。原理原則を楯に、すべてのケースを突き放すのは「塩対応」ではないでしょうか。返金が無理だとしても、保護者の愚痴ぐらいは聞いてあげてほしいものです。
一方、私が「神対応」と唸った店では、同様のケースで保護者の求めに応じ、新品価格での全額を返金することもあります。
神対応とはなにか
子供を相手にしなければならない商売では、こうした事例はよくあることで、昭和時代には駄菓子屋でも見聞きした話です。神対応の店が返金に応じるのは「滅多にないこと」だからです。よくあることと矛盾はしません。なぜなら神対応の店は、
新品を売らない
からです。小さな子供が大金片手に、新品のゲームソフトをレジに持ってきたとき、在庫があれば中古商品を提示し「こちらの方がお得だよ」と中古商品へ誘導しているのです。
お年玉など子供所有のお金であっても、高額商品を無断で買ったことを咎め、あるいはゲームを買ったことそのものを叱り、返品を求める保護者は本当に多いそうです。開封済みの中古商品なら、中身が破損していなければ商品価値が減ることはありません。そこで返品に応じるとともに、新品を売らなかった事情を説明すると、機転の利いた対応に感謝し、頭を下げる親が多いと言います。
トラブルを未然に防ぐための先制攻撃。これを「神対応」と唸ったのです。
神対応の結論はでている
中古を買わされたと保護者からクレームの電話がはいることもあります。しかし、差額を支払えば新品と交換しますし、事情を話せば理解してくれる保護者が大半だと言います。新品は開封されてしまえば、中古扱いとなり商品価値は大きく損なわれます。
一方で、クレーマーが自らの損失を拡大解釈し、拡声器で叫ぶ者であることは、冒頭のしまむら土下座事件が雄弁に語ります。ましてやゲーム屋にとって保護者もお客の1人です。目の前の小さなお客だけではなく、その背後にいる保護者までみての対応が「売らない」なのです。さらにすばらしいことは、「売らない」という対応を、運営するすべての店舗でノウハウとして共有していることです。
塩対応と神対応。中長期でみてどちらの店がお客の支持を集めるのか……の答えはすでに出ています。返品を断っていた店はすでに閉店し、神対応の企業は店舗を増やしています。トラブルの先回りをし、背後にいるお客まで見越し、さらに社内でノウハウとして共有する「神対応」。
業種業態は違ったとしても、Web担当者にとっても得るものは多いのではないでしょうか。
今回のポイント
トラブルの先回りをする神対応
「売らない」という選択肢もある
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