ウェブはひとつのマーケティング装置。SNSを嫌う客もいる
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の338
時代の主役は
飽きもせずmixiにログインしていますが、そこに集う「マイミク」は減少傾向です。SNSの時代の主役は、全世界でユーザーが3億人を突破したLINEを筆頭に、Facebook、Twitterなのでしょう。しかし、勝者の玉座を明け渡したとしても、それぞれが突然死を迎えるわけではなく、私のようにログインするものは実在します。
時代の移り変わりを、先日リアルでも体験しました。破綻する直前の「ダイエー」で購入した冷蔵庫の製氷機能が破綻した、と妻からの報告を受け、この夏、冷蔵庫を買い換えたのですが、家電量販店に足を運び、時の流れを感じます。扉をタッチすると開閉する「タッチオープンドア」機能付きの冷蔵庫がなくなっていたのです。
当時の店員の説明によれば、現存するのは東芝の数機種のみ(最新カタログによれば3機種)といい、ウェブにも通じる問題と直感します。
家電開発の陥穽
私はタッチオープンドア機能付きの冷蔵庫を探し、家電量販店を6件ほど回りました。ある店員は現場の体感値として、冷蔵庫の耐久性は15年以上あるといいます。ダイエーで買った冷蔵庫はこれを少し下回りましたが、つまりタッチオープンドア機能が流行したのはそれだけ前だということです。
今から10数年前、タッチオープンドア冷蔵庫を購入し、その機能に満足していたお客が、故障や買い換えのタイミングで冷蔵庫を探しはじめると、その機能が市場から消えているのです。今も東芝がわずかながらも発売し続けるのは、そこに需要があるからではないでしょうか。
家電製品が新製品のたびに改良と称して手を加えられるなかで、消えていく機能は少なくありません。これはOS、ソフトウェアはもちろん、ウェブ上でのマーケティング全般にも同じことが言えます。
15年続くネットマーケティング手法
従来の方法を「終わった」と切り捨て、新しいツールやネットサービスを礼賛するのがウェブ業界のならわしですが、果たしてそれにより取りこぼしているお客はどれだけいるのでしょうか。代表例が「メルマガ」です。本コラムでも何度か話題にしていますが、販促ツールにおいてメルマガの効果はいまも現役です。
時の流れに合わせ、TwitterやFacebook、そしてLINEの活用も叫ばれていますが、これらSNSを「生理的に無理」という人は実在します。その人にとってTwitterのフォロー/フォロワーの関係はストーカーにしか見えず、Facebookで可視化される人間関係をおぞましいと眉根を寄せます。
人間関係には大好きと好き、本当は嫌いだけど好きなふり、死ぬほど嫌いだけで取引があるなど、さまざまな感情と利害関係の上にあるもので、それを「友だち」と「いいね!」だけで表現する世界観を嫌うのです。その点「メルマガ」は、嫌ならゴミ箱に捨て、配信を解除すればいいので気楽だと、ある主婦は言います。
今もいるブログファン
ブログを読むのが好きという主婦もいます。フィードを購読することはありませんが、お気に入りに登録(ブックマーク)して、気が向いたときに訪問します。「メルマガ」は、通販サイトなどで登録すると、しつこいぐらいにセールスのメールが届くので敬遠しますが、ブックマークなら所有するパソコンのなかで完結し、押しつけられないところがいいというのです。そして彼女もSNSをやっていません。
私のように、mixiにログインする人もいます。理由は「日常」です。参加者が減り、盛り上がりはありませんが、ブログやツイートをmixiに反映させている人は多く、マイミク(と、いまは呼びませんが)たちの日常をぼんやりと知ることができるからです。
心の安まらない実名空間
FacebookとTwitterおよびmixiの決定的な違いは「匿名性」です。かつてmixiでも「実名」がうたわれましたが、普及期に入る前から事実上は、「匿名=ハンドルネーム」になっており、それが独特の居心地の良さを生み出しています。鈴木さん、田中さんと本名を知っていても「三毛猫にゃん」とのハンドルネームにより、現実と距離をとることができるのです。
一方、実名(こちらも怪しいとはいえ)のFacebookは、実名であるがゆえの虚飾性、いわゆる「話しを盛る」人も珍しくなく、職業柄「裏読み」を習性とする私にとって、心の安まる空間ではありません。また「写真」の連投で埋め尽くされるタイムラインに辟易し、「みたくねーよ」とリアルでつぶやくこともしばしば。
これらは好みの問題ではあります。しかし、ウェブを1つのマーケティング装置として見立てたときに、TwitterやFacebookという「新しい機能」に目を向けがちな姿勢が、タッチオープンドアのなくなった冷蔵庫と重なります。
SNSとお気に入り
過去にメルマガを発行していれば、一定の「メールアドレス(お客)」はそこに残されています。ブログにだってファンがいるでしょうし、先のブログ好きの主婦は、ブラウザのブックマークを利用しています。だとすると、TwitterやFacebookに誘導する「SNSボタン」の並びに、「お気に入りに登録」という古くからある「機能」を添えることは、ウェブのマーケティング利用において「微力」になるのではないでしょうか。
最後に余談となりますが、「大型家電」はリアル店舗での購入をオススメします。配送料に加え、設置費用、引き取り手数料、家電リサイクル料など「本体価格」以外が必要となり、これらを加えて比較するとネットの価格優位性が揺らぎます。
今回のポイント
意外と使われている「お気に入り」
新しいネットツールやサービスにアジャストすると取りこぼす客がいる
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