コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八十壱
どちらに座るか?
同じ条件でも商談をまとめられる人とそうでない人がいます。また、トラブルを円満に治める人がいれば、取引中止にまで発展させる人もいます。両者の違いを才能や個性の違いと片付けることは簡単ですが、簡単な方法で「できる人」になれるとしたら。できる人になるために覚えておきたいのが「ビジネスマナー」。もちろん、Web担当者も使えます。
問題です。打ち合わせでお客を尋ねると、会議室に通され「しばらくお待ちください」と告げられます。会議用テーブルがあり、周囲を囲むようにイスが並べられています。次に訪問した会社で「こちらでお待ちください」と通された応接室には、2人掛けのソファーと、1人掛けのソファー2脚が対面に配置されています。さて、それぞれどこに座りますか?
「できる人」はこの問題を見てニヤリと笑うことでしょう。
尋ねれば答えは出る
「どこに座っても同じ」とはならないのがジャパニーズビジネスマナーです。入り口からもっとも遠い奥の席が「上座」で、立場が上の人が座ります。会議室の状況では、一番手前の「下座」に座るのが無難です。応接室の例では、2人掛けのソファーが来客用とされているので、2人掛けのソファーに座ります。
こうしたビジネスマナーを無視して座っていると「常識がない」と思われます。「たかが席順、いまどき気にしない」という反論もあるでしょう。しかし、決定権を持つ「オジサン」や、社会にもまれた「社長」は、こうしたマナーを身につけているもので、その方々は「たかが席順」も人物を量る材料にしています。
入り口が複数ある会議室や、すべてが1人掛けの肘付きのソファーといった「よくわからない」時は、案内した人に「こちらに座ってよろしいですか」と尋ねるといいでしょう。
ひっかけ問題の答え
実はこの問題は「ひっかけ」です。正しくは「こちらにお掛けになってお待ちください」と招き入れた方が、座る場所を示すのがマナーで、基本的には上座を案内します。また、あなたが下座に座っていたとき、部屋に入った担当者(あるいは社長)がそれに気がつき「どうぞ、奥へ」と勧めるかどうかも重要なポイントです。客はもちろん「下請け」であっても発注するメリットがあるから仕事を出しているわけで、企業にとっては「協力者」。その協力者がわざわざ足を運んでくれたのですから、上座に座っていただくのが日本的ビジネスマナーなのです。
ビジネスマナーは社会常識に準じています。つまり、ビジネスマナーをチェックすることで先方の「常識レベル」を量ることができるのです。
名刺とはカンニングペーパー
小学生に微分積分が理解できないように、ビジネスマナーを知らない人に「常識」はあまり通じません。「上座」を勧めるのは「もてなしの心」に通じるもので、これができない企業には「もてなしの心」の意味から説明しなければ理解してくれません。「たかが席順」から、簡単な「プロファイリング」をし、ビジネスに活かすのが「できる人」です。
ときおり「名刺交換」して、すぐに名刺入れにしまう人をみますが、もったいないなぁと心の中で呟きます。「ビジネスマナー」としても、すぐにしまわずにテーブルにおくものですが、それには「実戦的」な理由があるからです。会話の中で社名や名前を織り交ぜるのです。
お客のことを「御社」「貴社」と表現するのもいいのですが、「インプレスさん」のように「社名にさん付け」するほうが「親しみ」を演出できます。さらに「鈴木さん」「佐藤さん」と会話の中に相手のお名前を織りこむことでより距離を縮めることができます。「置いた名刺」とは、このための「カンニングペーパー」なのです。
15分前ルールの理由
ビジネスマナーとして、約束の時間の15分前に到着するように移動プランを立てます。電車の遅れや、オフィスビルなどでエレベーターがこないことも想定してのことです。私は本当に15分前に到着した時は5分ほど時間を潰して、10分前にドアをノックするようにしています。感覚的なものですが1時間の4分の1にあたる15分は「早すぎる」と考えるので。
15分でも10分前でも先ほどの問題のように会議室や応接室に通され「待たされる」のですがこれが重要です。心理学的に先に部屋にいる「先住民」のほうが心理的に優位に立てるからです。待ち合わせで約束の時間に到着しても、すでに相手が来ていた場合「待った?」と尋ねるあの心理と同じです。
また、待たされる時間もプロファイリングに使えます。早めに来る人は計画性があり前向き、時間通りは几帳面、遅い人はルーズ……とは大雑把な性格傾向ですが、この時間は「積極性」と連動します。私見ですが、本音で「ホームページに関わりたくない」と思っている担当者は約束の時間に遅れる傾向があるのです。
ボールペンは使わせない
敵を知ることは兵法の入り口です。ビジネスにおいても相手を知ることは重要で、ホームページに真剣でない企業に割く時間は「それなり」にして、反対に単価は安くとも「本気」の企業に肩入れして「成功例」を作る方が、商売を大きくする近道になります。今回「ビジネスマナー」を取り上げた真意はここにあります。
できる人は成功しやすい客を大切にし、反対は客に振り回される
もちろん、素人を成功に導くのもプロの仕事ですが、担当者の熱意も結果に表れるものです。
来客を上座に座らせる気遣いは、円滑に仕事を進める上で重要です。逆に常識をわきまえていない企業との取引ではドタキャン、アポ無し、計画変更が日常茶飯事です。神は細部に宿るというように、細かなビジネスマナーに取引先の「本質」が見えてきます。ビジネスマナーとは「お行儀」をまとめた能書きではなく、実戦の妙技が散りばめられた指南書なのです。亡父の墓の契約書にサインをする直前、墓石屋は胸元から万年筆を取り出し私に渡しこういいます。
多くの方にとって墓所を買うのは一生に一回、だからサインに使い捨てのボールペンは渡せない
ビジネスマナーも「上級編」になると「技」のレベルに達します。
今回のポイント
できる人には理由がある。
ビジネスマナーで敵を知る。
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