[特別インタビュー]世界最大級のCGM「ウィキペディア」の仕掛け人ジミー・ウェールズ

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広告モデルの導入は熟考を要する問題

●瀧口 ウィキペディアに広告を掲載する計画はないのですか。

●ウェールズ 広告はコミュニティでよく出てくる議論です。しかも議論は沸騰します。広告を載せないという選択には、それなりの理由があります。一般のユーザーに対する信頼度を犠牲にするかもしれないということです。テクノロジに詳しくウィキがどう機能するのかを知っていれば、広告があっても気にならないでしょう。広告が解説文の内容を左右することはあり得ないからです。その一方で、われわれはウィキペディアを慈善事業として行っていて、地球上のすべての人々に百科事典を配布するという非常に高い理想があります。ウィキペディアが大きくなればなるほど、われわれが暗黙のうちに却下している資金(=広告からの収益)の使い道は世の中のために役立つものになります。ですから、「広告は嫌いだから、ここには載せない」と単純に却下する以上に熟考を要する問題だと思います。

●瀧口 ウィキペディアが拡大するにつれて、その運営に関して限界に達しそうな部分は何ですか。テクノロジですか、あるいは人手ですか。

●ウェールズ 英語のウィキペディアのサイズがこれまでとは比べものにならないところまで来ていて、最初の頃には想像のつかなかった社会的問題が出てきました。人々がランダムに接触するようになったのです。解説文の編集をしようとすると、まったく知らない人とやりとりすることになります。その際の社会的慣習や規範は、コミュニティが10数人だった頃のものとはまったく異なるのです。ウィキペディアの価値観や質をどう伝えるのかという問題が出てきます。もちろんこれは、コアのコミュニティがいつも心配してきたことですので、私自身はあまり心配していませんが。新しい人々は、そのうちここでのやり方を学んで、さらに1つの専門分野に特化していくようになります。専門分野と言っても用語だけではなくて、荒らし行為のパトロールをするといったような活動の専門分野です。

●瀧口 ウィキペディアのようなオープンな参加型コミュニティのあり方は、現実の世界ではどんなことに有効に応用できると思いますか。

●ウェールズ 共同作業のテクノロジーが、無料でおもしろいことをやるのを可能にし、さらにそれが無料でライセンスされる。それを応用するとすれば、たとえば教育者たちが集まって一般のための教材をつくるようなこともできます。それを無料で使えるようにすれば、単純労働に従事している人々に教育手段を与えることが可能になります。掃除夫になるしかスキルのない人が、そういった教材で学習してプログラマになることもあるかもしれません。

自由度の高いウィキの活用には明確な目標設定が必要

※ウィキ(Wiki)とは、ウェブブラウザからサーバー上にある文書の書き換えができるシステム。文書をネットワーク上で共有できるため、共同作業に適したツールといえる。ウィキペディアもこのシステムを使って作られている。

●瀧口 ウィキについて伺います。ミッチ・ケイパー(ロータス社創業者)は「ウィキペディアの新しさは、プロダクトとプロセスが一体化していることだ」と言っていました。しかし考えてみれば、ある時点である程度の目的が達成できるウィキペディアと異なり、ウィキのプロセスは永遠に続いてはっきりした終点がなく、中途半端に終わってしまいがちです。ウィキをうまく使うコツはありますか。

●ウェールズ 自分の経験から言うと、ウィキに参加する人々が共有する目的が明確なものならうまくいきます。たとえば、「世界の貧困問題を解決するためにウィキを使いましょう」と言われても、一体何をすればいいのかわかりません。一方「このウィキは貧困問題解決技術の百科事典です」と言えば、関連した機関のリストをつくるなど、何をすればいいのかが明解になります。空論を述べるのではなくて、最終的な形がどうなればいいのかがはっきりしているかどうかなのです。ウィキペディアはそこがラッキーでした。誰でも百科事典がどんなものか知っていますからね。

●瀧口 ところで、以前は株のトレーダーの仕事をされていました。最大の利益を追求する世界とウィキペディアとでは価値観にずいぶん大きな開きがありますが、こういった集団的知性活動に関わっていくという意識はありましたか。

●ウェールズ 実際にほとんどの時間を費やしているのは係争の調停ですが、これは新しい体験でした。意見の不一致が出てきて、それを解決しながらうまく進めなくてはならないというところまではわかっていましたが、これほど日々の仕事として争いに関わるとは想像がつきませんでした。しかもその争いが、ごくマイナーなディテールに関することなのです。けれども、以前とそれほど違ったことをやっているという意識はありません。いつもおもしろくてエキサイティングなことに関わっていたいと思っている点では、ずっと同じです。

百科事典をつくることが当初からの目的

●瀧口 そもそも関心があったのはウィキですか、それとも百科事典をつくることですか。

●ウェールズ それはもう、百科事典です。設立以来少しずつつくってきたコミュニティのルールも、すべては百科事典をつくるという目的の周りに集約されます。むやみに実験をして、さあ百科事典ができるかどうかやってみようといったアプローチではないのです。

●瀧口 最近、ウィキペディアのコンセプトをさまざまなコミュニティに提供するウィキア社を設立されました。これは、大小さまざまなフォーラムのようなものですか。

●ウェールズ 何でもあり得ます。ただ、先ほども言いましたが、成功しているサイトではコミュニティの中ではっきりとした目的が共有されています。ですから、明解な目的のある政治的サイト、環境問題のディレクトリーといったようなものになるでしょう。スター・トレックに関しては、すでに3万6000ものエントリがあります。スター・トレックに関するあらゆるディテールをカバーし尽くしているのです。収入源は広告です。

●瀧口 ありがとうございました。

ジミー・ドナル・ウェールズ(Jimmy Donal Wales)

Jimmy Wales

1966年8月7日生まれ、米国フロリダ州在住。Bomisの筆頭株主であり、ウィキペディアの創始者、プロジェクトリーダー。現ウィキメディア財団、理事長および理事会議長。Wikia, Inc.共同創業者。

大学卒業後、シカゴの企業に勤務。退社後に、ティム・シェルとBomis社を設立。事業の傍ら、インターネットを介して編纂する百科事典プロジェクト「ヌーペディア」を開始。その後、ウィキによる自由な執筆を可能にした百科事典プロジェクト「ウィキペディア」を創始した。ウィキペディアの発展にともない、2003年に非営利法人ウィキメディア財団をフロリダ州タンパに設立。自らは財団創始者、終身理事として財団に参加している。

※この内容はウィキペディアの「ジミー・ウェールズ」の項に掲載されたものに基づいています。

※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。

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